表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

海岸

数学の時間が終わり、休み時間。

治は学級委員長のひろ子の所に行き。

「早退すっけん、また昼の授業から出るけんね」と伝えた。

ひろ子はびっくりして。

「どがんしたと?具合でも悪かと?」と言う。


「うん、頭の痛かとさ」と言って、弁当の入ったカバンを持って教室を出て行った。

向かった先は、校門の外に見える海の傍の海岸、


治は海岸の道路からは見えないような場所を探して学生服のままそこに寝転んだ。

季節は4月まだ少し肌寒いが海からの風が心地良い。


高校の前の海は、大きな入り江になっていて、今は引き潮で、海岸が広くなっていて

高校側から流れ出てる川と言うか、、「どぶ川」が海に向かって流れて行っている。

その周りは汚らしい、、「どぶ」になっていた。


その頃の治の島は下水の普及は限りなくゼロだったので、生活排水はどこの村でも海に流れている。

生活排水の流れ出ている近くは、とても汚く、嫌な臭いもした。

勿論その近くでは泳げなかった。


高校の前の海も同じであった。

治の村と違うのは、住んでいる人が多いために、生活排水も多い。

だから、海もかなり汚れていた。

入り江全体が、汚れているように治は感じた。


生活排水が流れている所から離れて治は横になったので、その辺りはかろうじて綺麗であったが、

治の村の海とは比べ物にならなかった。


それでも、海は治の好きな場所でもあった。


しばらく横になっていると、朝早くに家を出て来たので、治は眠くなってきた。

ウトウトしていると学校の方からチャイムが聞こえた。3時間目の授業開始のチャイムである。

3時間目は確か、社会だったと思ったが、治は気にもせずに、、寝てしまった。


3時間目が終わるチャイムで治は目が覚めた。

相変わらず海からの風が心地良い。


治は枕にしていたカバンから弁当を取り出して食べる事にした。

その前に喉が渇いていたので、周りをキョロキョロと見渡すと。

校門の前に道路を挟んで、車の整備工場みたいな建物の裏側が見えた。そこまで歩いて行って。

水道を見つけると蛇口に口を付けて栓をひねって水を飲み、学生服の袖で口を拭きながら、

さっきの所に戻り、弁当を食べた。

食べ終わった頃にまたチャイムが鳴った。4時間目の始まりのチャイムだなぁーと治は思っが、


今度は、何の授業かさえも気にならなかった。


弁当を食べ終わると治はまた寝転んで空を見た。

雲一つない綺麗な空が見えた、、空を見ながら、中学の頃の同級生の事を思い出していた。

船に乗っている奴もいれば、都会に出て行った奴もいる、皆何してるのかなぁ、、

治は見たことも無い、友人たちの今いるであろう環境を想像しようとしたが、全く想像すら出来ない、


想像できない自分がとても、小さいものに感じて仕方がなかった。


しばらくして、治は「そろそろ4時目終わるな」と思い学校の方に向いて歩き出す。

海岸から道に上がって行くと近所のおばさんが、じっと治を見ている。

治は気にもせずに校門に入って行き、誰も歩いていない並木を抜けて、職員室に向かった、

横の広いグラウンドでは、何年生か分からないが、体育の授業をやっていた。


まだ4時間目の授業中であった。


そんな事は全く気にもせずに、治は職員室のドアを開け新井先生を探して、見つけると。

そちらに歩いてき、新井先生の前に立った。


カバンを手にした治を見て、

「治どこに行ってたんだ?具合悪かったのか?」新井先生が聞く。


「はい、海の傍で寝ちょったよ」と治は言う。


授業中は校外に出たらだめだと教えてくれた。


「まぁー良い」と言って。新井先生は立ち上がって「ついておいで」と言って歩き出した。

職員室を出て、別の部屋に入って行った。


「生徒指導室」と書いてあった。


中に入ると、細長い部屋に机と椅子が置いてあり。

新井先生は奥に座り、治は机を挟んで正面に座るように言われた。


「治、どうして吉野先生と水野先生にあがんな事ば言うたとや」と切り出した。


治は答えなかった、答えなかったと言うよりも何と答えて良いのか分からなかった。


新井先生は黙ってタバコに火を点けて、黙ってタバコを吸いだした。


静かな「生徒指導室」に4時間目終了のチャイムが壁につるしてあるスピーカーから流れた。


治が口を開いた


「先生、話の無かとなら、戻って良かね」


新井先生は少しビックリした顔でタバコを消して「待て、まだなんも話してなかろ」と立ちかけていた治を制した。


「治、小さいころのお前はもっと素直だっただろう、どがんしたとや?」

「別に変わちょらんばい・・」

「治、高校嫌いか?」

「別に、何とも思っちょらんばい」と治は言った。


新井先生は困った顔になって。


「治、学校の先生も皆お前に期待しちょっとぞ。頑張らんば」

「水野先生も吉野先生も校長先生も皆やぞ!」と言うから。


「どがんして、そがんに期待すっと」と聞いた。


「それはこの学校から初めての東大生が出るかも知れんと思ちょっとさ」


「東大にや、行かんよ」


勿論今の治は東大の事など全くと言っていいほど知らなかった。

ただ、「東大にだけは行かない」と言う気持ちは中学の最後の方から確かに有った。


新井先生が「どうして」と聞いたが、それには治は答えなかった。


話は全くと言っていい程会話にならなかった。


新井先生が「とにかく治、良かか授業だけは真面目に受けろ、分かったか」と言うから

治は「分かった」とだけ答えた。


新井先生は「もう良かよ、教室に戻らんね」と言う、治は黙って生徒指導室を出た。


進路指導室を出ると、大勢の学生が廊下にいた、、多分2年生とか3年生であろう、、

大人びた学生たちばかりであった。


職員室と進路指導室の間に良く見ると「購買部」と言う看板が有って、

腰の高さぐらいの窓の向こうにパンやら、ノートやら売っていた。

横にはガラスケースに入った牛乳とか、ジュースも売っていた。

窓の向こうの、狭い所には母親ぐらいの人がっ立っていて、忙しそうにしていた。

購買部の周りには大勢の生徒がいた。


治は珍しくて、少し見ていた。

しかし手にカバンを持って「生徒指導室」からこんな時間に出て来た治を

他の生徒も見ていた。


一番グラウンド側の職員室のあるこの校舎から1年生の校舎のある一番奥まで秘密基地のような通路を歩いて約5分ぐらい。


一年生の教室のある校舎に戻ると、大勢の生徒が廊下で話していた。

治は気にもせずに1組の教室に向かってると、


後ろから「15」と呼ばれた。   ヒロちんの声だ。

振り向くと知らない男子生徒と、ヒロちんが走って来た。


ヒロちんは「どがんしたと?」とカバンを持った治を不思議そうに見て言った。


「どがんもせんばい」と言うと。


笑顔でヒロちんは「こっや、木下ち言うとよ」と横にいる男子生徒を紹介してくれた。

木下は、ぺこりと頭を下げた。治も笑って「よろしく」とだけ言って。自分の教室に向かった。


1組の教室の前にも1組の生徒が大勢いて廊下のあちら、こちらで話していたが、

治の姿を見ると皆、治の顔を見た。


教室に入り自分の机に座ると。


例のバレー部の「大男」が近づいて来て「伊藤君どがんしたと?」と聞いてくるから

「どがんもせんよ」と治は言った。

大男は横の椅子に座って、自分の名前を言って自己紹介した。

この男、名前は山崎勝也と言い、高校に入って初めての友達であった。


数日後、治は勝也の事を「ジィ」と呼ぶことにした。

それは「大男」=「ジャンボ」=「j」=「ジィ」である。

勿論クラスの皆も「ジィ」と呼ぶようになる。


ジィは体が大きくて、頭はたいして良くないが、、運動神経は抜群で、走って良し、球技良し、力も有るし、柔道も強かったある時などは体育の時間の段取りで柔道部の黒帯の生徒にも勝つほどであった。


見た感じは真っ黒に日焼けして坊主頭だったせいもあり。とても怖い男にも見えた。

事実1組の女子生徒からは、、かなり敬遠されていた。

男子生徒に対しても、かなり横暴な所が有ったために敬遠されることが多かった。


女子生徒からの敬遠はこれから、、3年間変わらないものになる。いつも彼女を欲しがる

「暗い?高校生活」を送る事を今のジィは知る由も無かった。


でも、なぜか治とは気が合った。3年間偶然にも同じクラスになり。

お互いの家に泊まりに行く関係になる。


治はその後ヒロちんが1組に大声で「15!!」と叫びながら入って来たのをきっかけに


クラス全員が「15」と呼び出したり。


クラス委員長のひろ子が治の事を好きだと『発表して』ひろ子との仲を噂されたり。


最初は皆「秀才」とか「天才」とか、、の先入観を持っていたのが、

2週間もすると普通に治と話すようになっていた。


治も少しは高校生活が楽しくなってきていた。


しかし、、殆どの授業時間は外を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ