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反抗

次の日も朝からヒロちんと2時間半歩いて学校へ向かう。


その日は二人とも家を出る時から、カバンを背負って準備万端。

ヒロちんは初日と同じく、弁当は風呂敷に包んでいる。

初日と違うのは、弁当の風呂敷を「腰に」ぶら下げている事。


手ぶらになった事で、二人は快調に歩く事が出来た。途中で一つ目の弁当食べて。


道中、ヒロちんが「15さぁー下宿ば探してもらいよっけんさ」と言う。

治は「だっにや?ヒロちんげえん、かーちゃんにや?」

「うん、15が分も探すち言うちょったよ、良かとやろ?」

「うん良かよ、二人で下宿すっか」


等と下宿の話などをして歩いた。

ヒロちんも治も毎朝二時間半も歩くのは無理だと思っていた。


下宿の話が終わると、ヒロちんが


「15宿題したとや?」と入学式の日にもらったプリントの中にあった「勉強課題」の事を聞いてくるから治は

「したよ、ヒロちんや?」

「やったばってん、、分からんやったけん、適当たい、15や分かったんな?」

治は英語以外殆どわかっていたが、、


「うんにゃ、おっも分からんやったよ」と答えて見せた。


「15ちょこっと、ノートば見せてくれんね」

「ノートにや、なんも書いちょらんよ」

「そっで?良かとやろか?」

「良かっちゃなかと?」


その後クラスの事や、担任の事などいろいろ話てる内にバス停に着いた。


満員のバスに乗り始業時間より40分ほど早く学校に到着。


二人はそれぞれのクラスに別れた。


1組のクラスに入るともう既に10名ぐらいの生徒が来ていた「学級委員長のひろ子」も来ていて。


「伊藤君おはよう、早かとね」と話しかけてきた。「うん」とだけ答えると治は自分の机に座って、外を眺めた。

沢山の学生が歩いているのが見えた。


チャイムが鳴り、ベルが鳴って「新井先生」が教室に入って来て。朝のHRホームルームが始まった。


「今日から授業が始まります。中学と違ってスピードが速いはずだからしっかりと授業を聞くように!」

「時間割は昨日配ったから、各自分かっているよね?今日の一時間目は英語になっているから、吉野先生と言う男性のとても優秀な先生ですよ」

と話してくれた。


治は「英語かー」と苦々しく感じた。


それから20分後高校生初めての授業が始まった。


担当の吉野先生は神経質そうに左の眼の下を「ピクピク」させて話す年齢は32歳だと自己紹介で言っていた。

出身は同じ長崎県だけど「本土」の方だとも言っていた。

この高校は2年目の先生であった。


一番後ろの治の所からでも、顔がピクピクしてるのが分かる。


吉野先生は、その後全員の名前を呼んで起立させて一人一人の顔をゆっくり見て行った。


治の時は「伊藤君は少し英語が苦手そうだから、ビシビシ鍛えてあげるから、覚悟しなさい」と笑顔で言った。

治は無表情だった。


全員の名前を呼ぶのが終わって。吉野先生が「全員課題を提出して下さい」と言ったのでクラスの皆は

ノートを後ろから集め出した。

治はノートになんかやって来てなかったので、前の席の男子生徒に「ノート持ってきちょらんけん」と小声で言って。

その男子生徒から集めだしてもらった。


全部の列のノートが先生のもとに届けられて、それを見た先生が


「伊藤君、ノートは?」と聞くから「持って来てません」と答えると

「忘れたのか?明日持って来て」と言うから治が「いや忘れたわけじゃないです、ノートにやってません」と答えると。

先生の顔色が変わった。


「どういう意味なんですか?」と先生は聞いた。

治は黙っていた。


すると突然大声で「前に出てこい!」と言う。

クラスの全員がたぶんびっくりしたと思うが、治は内心「舌打ちして」言われたままに前に出て行った。


先生の前に立つと。先生が、


「伊藤、宿題しなかったのか?」

「やりました」

「だったら、ノートあるだろう」

「ノートにはしませんでした」と言うと、急に。


「言い訳するな!」と怒鳴り手に持ってた分厚い辞書で治の頭を殴った。


治はそれほど痛くはなかったが、顔が熱くなるのが分かった。


その後も、吉野は顔面を引きつらせながら、何か怒鳴っていたが、治の耳には届いていなかった。

治は熱くなる自分を抑えていた。

すると、もう一度辞書で殴られた。


その瞬間、治の中で何かが切れた。


「先生、なんばすっとね?どがんして叩かれんばね?」と聞いた。


「宿題をしてないからだろう!!」と怒鳴った。


「宿題ばしてこんやったら、叩かれんばね?」

「してこないお前が悪い!!」

「悪ければ、叩かるっとね?」

「当たり前だ!!」と治に詰め寄る


「なんで宿題ばしてこんば、悪かとね?」

「して来いと、入学案内に書いてあっただろう!!」

「したよ」

「ノートは?」

「頭でした」


「それが言い訳だと言うんだ!!」と一向に収まる気配のない大きな声でどなり散らしている。


「何のための宿題ね?」

「皆の学力を上げるための宿題だ!!」


「ここにいる全員が同じ宿題で学力が上がるとね?」と治が言うと。


「・・・」


「先生どがんね、おっが質問に答えてくれんね」「全員同じ宿題で学力の上がるとね」


吉野は赤い顔をして顔面を引きつらせながら、


「もう良い、席に戻れ」とまた怒鳴る。


治はいよいよ、腹立たしくなって。


「先生が答えるまで戻らんばい」と言った。


先生は治の胸ぐらを掴んで「何だとー」と凄んで来た。


治は「先生と喧嘩する気持ちなんか無かけん」と顔色一つ変えずに言う。


治はその後も続ける、、


「宿題はどがんでん良かばってん、どがんしておっが頭ば二回も叩くとね」

「がっこの先生ちゃそがん偉かとね?」

「怪我でんしたらどがんすっとね?うんが(お前が)責任取れるとね?」

「高校ち言う所や、そがん所ね?」

「はよ、おっが質問に答えてくれんね」


先生は青ざめた顔になって、、黙ってしまった。


しかし、治はまだ収まらない、


「うんが(お前)価値観ば押しつくんな!おっや学校の先生ごちゃっとに、成っ気や無かとやけん」

「うんや、黙って英語ば教えれば良かとやろ!!おっが、頭に入ってくんなー」


先生は全くの無言、、


治は「謝れよ」と求めた。


先生無言、、


今度は治が怒鳴り出した。


「謝れち、言うとっじゃろがーー」


・・とその時、ひろ子が「伊藤君、、もう良かたい、、授業にならんけん」と声をかけた。


治も委員長の声で我に返った。


クラスの皆に対して「かんべんね」と言って。自分の席に戻った。

その授業中、治は外を見ていた。


授業が終わって吉野が教室を出て行くと。


皆ざわざわと話し出す、、、もちろんさっきの「事件」の事を。

しかし、誰も治には話しかけて来なかった。


休憩時間は10分。残り5分ぐらいになった所で、昨日治を呼びに来た若い女の人が、教室に入って来て

「伊藤君新井先生が呼んでますから、職員室まで来て下さい」と教室に向かって声をかけた。


治はどうして呼ばれるのか分からなかったが、昨日と同じように女の人に付いて

「秘密基地」の渡り廊下を歩いて職員室に行った。

途中で、女の人が笑いながら「伊藤君、なんばしたとね?」と治の方を見て話しかけた。


しかし治は何も答えない。



職員室に行くと、新井先生が「治、吉野先生に食って掛かったんだって?」と険しい顔をして聞く。


「うんにゃ、少し話しただけばい」と治は事もなげに言った。


新井先生は「分かった、授業始まるから戻りなさい、昼休みに弁当食べたらすぐに私の所に来なさい」


「はい」と答えて治は教室に戻った。


教室に戻ると授業が始まっていた。次の授業は「数学」であった。


白髪頭の先生が「伊藤君早く席に着きなさい」と言うから、治は席に着いた。


神経質そうな、白髪頭の数学の先生の名前は「水野」と言うらしい。


水野先生も「宿題を集めた」もちろん治は出せない。


しかし、水野先生はそのことに対して何も言わなかった。


とその時「先生!!」と一人の生徒が声を出した。  治である。


「宿題出しとらんとばってん、良かとね?」と少し挑戦的に治は聞いた。


水野は「あぁー吉野先生から聞いたよ、まぁー君の数学の実力は分かっているから良いよ」と言う。


治はまた熱くなって行く自分が分かった。


「先生、実力が有れば良かとですか?」と聞いた。


その質問を聞いて水野が熱くなって大声で、、「宿題提出しても無いのに偉そうに言うな!!」と怒鳴る。


治は、、内心「これがこいつの本性か」と思いその後は黙ってしまった。

数学の授業中は治は一度も前を見なかった。



高校一日目、、、治は中学時代に心に溜めてた大人への反感を初めて言葉にした。


確かに中学時代も先生に対する疑問は沢山あった。しかし何も言わなかった。

何故なら、中学は進学する生徒もいれば、しない生徒もいるだから言わなかった。


でも、高校は違うと思っていたから。


高校は「皆来たくて来ている、だから皆やって当たり前だと思っていたのである」


それが、、先生達は、「させようと」する。


これが治には理解できなかった。


治の中に「反抗」が芽吹いた瞬間でもあった。

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