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0点(白紙の入学試験)

新井先生に付いて向かった校長室は、

職員室の横にあった、大きな窓が有って、そこからはグラウンドが良く見えた。

グラウンドの横の大きな木の並木道にはたぶん一年生であろう生徒たちが並木道の終点に有る、校門に向かって大勢歩いていた。

グラウンドでは運動クラブの練習してる姿が見える。

野球、サッカー、陸上、テニス、ハンドボール、柔道着姿の一団がランニングしていたりもする。


窓のすぐ横を女子生徒が話しながら歩いている姿も見えた。


今日は学校自体はまだ春休みで、2年生3年生の授業は始まっていなかったので、

クラブ活動をしに来ている生徒だけであった。


さっきの職員室とは違って、とても明るい部屋だった。


赤いソファーが有って、窓際に大きな机がありそこに、頭が禿げ痩せた人の良さそうな「校長先生が座っていた」


新井先生が「伊藤治、連れてきました」と言うと。


「伊藤君だね、まぁ座りなさい」とソファーの方に目で案内した。


新井先生が、「座りなさい」と言う。


治は長いソファーの右端に座り、治の向かいの「一人掛けのソファー」に新井先生と校長先生が並んで座った。


校長先生が


「伊藤君、どうだね高校は?」と訊ねたが、治は何も答えなかった。


何も答えない治を校長先生は全く気にしてない感じで笑顔で、黙って立ち上がると、

自分の机に歩いて行き、手に何やらプリントを数枚持って、もう一度ソファーに座った。


その数枚のプリントをソファーの前のテーブルの上に置くと。


「これ、伊藤君の入試の解答用紙だよね」と治に聞いてきた。


その数枚のプリントには、受験番号と名前が「伊藤治」と見慣れた汚い字で書いてあった。


「はい、そうです」と治は答えた。


校長先生はしばらく、タバコに火を点けて黙っていたが、すぐに火を消して。




「伊藤君、君の解答用紙全部の教科、受験番号と名前しか書いてないのはどうしてかね?」と聞いた。



治は、やっぱりこの事か、、と内心思い、黙って少し横を向いた。

それと同時に受験当日の窓の外の雪を思い出していた。


新井先生が、「おさむー校長先生にちゃんと訳ば、話さんね」と言う。

それでも、治は黙っていた。



校長先生が黙っている治に向かって、


「まぁー良い。君の中学時代の実力からこの高校に合格することは間違いないのだから」

「今回は、教育委員会やほかの先生とも相談した結果、君は合格になっているから、心配しなくて良いよ」

と言った。


続けて校長先生が「担任は伊藤君の親戚にもなる新井先生にお願いしたから、何でも相談するように」


と言い、新井先生に向かって「今日はこれで良いですよ、よろしくお願いしますね」と言うと。

新井先生が「分かりました、ありがとうございました」と頭を下げた。


二人して校長室を出ると、「治、これから頑張らんばぞ」と新井先生が治に言った。

それと「今日は帰っていいぞ」とも言った。


治は「はい」とだけ返事して、古いカバンを手に持って校門に向かって歩き出した。


何を考える訳でもなく、ただ心の中が真っ暗な感じになる事が有るのを、治は初めて知った。




「なんで、、0点で合格したんだろう、、不合格で良かったのに」




そう思いながら歩いていた。



校門の前まで来たら、カバンと風呂敷包みを両手に持ったヒロちんが立っていて。


「15どこに行ちょったと?ずーっと待ちょったとよ」と泣きそうな顔で治に言う


治はそのヒロちんの泣きそうな顔が可笑しくて、思わず笑ってしまった。

ヒロちんは何が可笑しいのかわからない様で。




「バスや何時かな?弁当やバスん中で食ぶっか!」とヒロちんが言うから。



「そうやなぁー」と治が答える。




笑顔で話しながら、バス停に向かって二人は歩いた。

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