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剣より魔法より強きもの  作者: 星狼


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2/2

消せるかどうかはわからない

霧がさらに濃くなり、魔の谷の空気が重く淀んでいた。

シャドウハードの影が地面を這う音が、間近で聞こえ始める。

レックスは契約終了届を広げたまま、淡々と次の項目を指差した。


「え〜っと、じゃあ次ですね……?そこの解約理由欄の所に『今回は道中の護衛の為の目的。実際の戦闘になると危険と判断した為』と、一筆お願い出来ますか? ここです。」


彼の指先が、羊皮紙の小さな空欄を正確に示す。


ネヴィルが苛立った声を上げた。


「ジェプティ、さっさと終わらせろ! もう、俺はコイツの顔は見たくない!」


ジェプティはため息を漏らし、ペンを握り直した。


「あぁ、俺も同じ思いだ。面倒臭ぇ……」


彼は苛立ちを込めて、指定された欄に文字を走らせ、サインを入れた。


その瞬間、霧の奥から黒い影が一気に飛び出してきた。

シャドウハードの一匹が、鋭い爪を振り上げてレックスに向かって襲いかかる。


レックスは書類から目を離さず、ぽつりと呟いた。


「あ〜、もう邪魔。今、契約終了届書いてもらってるのよ。」


だが、その瞬間――

レックスの指先から小さな火球が放たれ、シャドウハードを一瞬で包み込んだ。

黒い影は悲鳴のような音を上げて燃え尽き、灰となって霧に溶けた。


ネヴィルが驚いて振り返る。

剣を構えたまま、唖然とした表情で。


「な、なんだ!?いきなり燃えたぞ……!?お前、戦えるのか……!」


レックスは表情一つ変えず、書類に視線を戻した。


「え〜っと、それで、これでラストですね。金銭支払いについての項目の所です。そこ、現地支払い済の所にチェック入れて下さい。これはもうチェックだけでいいです。あっ、ジェプティさん。ここです。ここ。チェックだけでいいですので。」


ジェプティはまだ呆然としながら、慌ててペンを動かした。


「お、おう……」


彼は震える手でチェックを入れ、最後のサインを終えた。


レックスは羊皮紙を丁寧に畳み、控えをジェプティに手渡す。


「そしたらね? こちらが、契約終了届の控えになりますので、受け取って下さい。それでは、僕は上がらせて頂きます。本日はありがとうございました。また、機会があったら、よろしくお願いします。」


彼は軽く一礼し、霧の向こうへ歩き出そうとした。


ネヴィルが慌てて叫ぶ。


「待て……!おい、待て……!お前、待て……!?」


レックスは足を止め、振り返った。


「はい。どうかなされましたか?」


ネヴィルは剣を握りしめ、興奮気味にまくし立てる。


「それだけの力があるなら、別だろ!?お前、戦えるんだったら、戦えよ!?」


レックスは驚いた表情をして首を傾げた。


「……えっ!?僕、今、上がっていいって言われましたよね!?話が違いますよ!?」


ジェプティも慌てて口を挟む。


「それはそうだ。俺たちはお前にそんな力があるとは知らなかった。戦えるのなら、話は別だ。それだけの力があるんだったら、協力しろ。」


レックスは小さくため息をついた。


「いやいやいや……協力しろって言われましても……」


ネヴィルが声を荒げる。


「何をそんなに嫌がるんだよ!?金さえ貰えば、それで満足なのか!?」


レックスは静かに答える。


「いや……今、契約終了届、書いてしまいましたよね……?」


ジェプティが顔をしかめた。


「……あぁ?」


レックスは変わらぬ調子で続ける。


「今、僕と契約終了の手続きをしてしまったじゃないですか?これ、取り消せるかどうか、僕、ちょっとわからないです。これ、契約取り消しになるのか、再契約の形になるのかは、僕わからないです。」


ネヴィルが目を丸くした。


「なんだなんだ? 今、俺達がサインしたヤツって……そんなにややこしいのか!?」


レックスは淡々と頷く。


「はい。書類ってのは、ややこしいです。ちょっとごめんなさい……これ、僕、どう判断していいか、本当にわかりません……これ、本当に申し訳ありませんけど、僕、ここで仕事終わっておいた方が、後々丸く収まると思うんですけどねぇ……?」


ネヴィルがジェプティに詰め寄る。


「なんで、サインなんかしちゃったんだよ!? ジェプティ! バカ野郎!」


ジェプティが反論する。


「お前だってわかってなかっただろ、ネヴィル!」


レックスは二人の喧嘩を静かに見つめ、ぽつりと。


「あ〜あ〜、二人共、喧嘩は良くないです!来てます来てます!シャドウハード、来てますよ!」


霧の奥から、さらに複数の黒い影が這い上がってくる。


ネヴィルが剣を構え直した。


「見えてるんだったら、お前も戦え!」


レックスは首を横に振る。


「だから、僕は契約終了してるんですって! 戦えないんですって!」


ジェプティも、ネヴィルも強い。

彼らは共にBランク冒険者だ。

剣の才もあり、魔法の才もある。


だが、この世界には、他にも必要な力がある。

――それは書類の才。


その力を得た時、彼らはAランク冒険者になれるだろう。

頑張れ、ジェプティ。

頑張れ、ネヴィル。

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