陰と陽 ②
「ねこさまー! 起きてくださいませー! 遅刻しますよーっ!」
夢が、鳥の声で叩き割られた。
音子の布団は今日も戦場で、本人は畳の上に転がっていた。
枕は行方不明で、寝巻は半分だけ捻れている。
起こしているのは式神トトだった。
(式神って、もっと恐ろしいものだと思ってた)
(祟る、憑く、夜に増える。そういうやつ)
それなのに、うちの式神は丸っこい一頭身の鳥だ。
丁寧口調だけがやたら本格的で、怖さの所在が行方不明だった。
「ねこさま、起床。起床でございます」
「……むり……」
「むり、ではございません。授業でございます」
「むりはむり……」
トトが布団をぐい、と引っ張った。
勢いで音子の寝姿が露わになり、時間が一拍止まる。
「……」
「……」
「……ねこさま。本日は寝巻きの布が薄く、心もとない状態です」
「うわぁぁ!? 背中向けて! 今すぐ!」
「御意。ですが時間がありません」
「御意じゃない! 丁寧に急かさないで!」
ばたばた。どたどた。
音子は着替えを掴み、黒髪のツインテールを乱暴にまとめる。
最後に、小型の水晶を握った。
ひやりとするはずの結晶が、今日は妙にぬるい。
昨夜の夢の熱が、指先に残っているみたいだった。
音子は団子を一本ひったくり、串をくわえたまま草履を引っかける。
「よしっ。行く!」
「ねこさまー! 走る時は足元を! そして戸締まりを!」
「分かってるってばー!」
言いながら角で滑りかけて、ぎりぎり踏ん張った。
(危ない。朝から危ない)
(でも遅刻は、もっと危ない)




