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陰と陽 ①
ーーあの時。キミと出会った時ーーーー
夜の校庭は冷えていた。
月明かりは薄い。石畳の輪郭だけがやけに鋭い。
御饌音子の掌の小さな水晶が、脈みたいに熱を返す。
吸うたび胸の奥がきしみ、吐くたび視界の端が揺れた。
目の前の司馬巻は、片手で丸い鳥を掴んでいる。
トトだ。羽が震え、喉からかすれた声が漏れた。
「ねこさ――」
「トト!」
音子が一歩踏み出した、その瞬間。
司馬巻の数珠が淡く光った。
風が、校庭の中心へ集まる。
空気が形を持ち、肺が押し潰される。
息が吸えない。
数珠の珠が途切れず光る。
司馬巻の回転に合わせて、呼吸の拍まで揃えられていく。
結界の内側だけ、音子の喉が狭くなった。
見上げた夜空に、巨大な輪郭が立ち上がりかけた。
圧だけが先に来て、喉が鳴らなくなる。
(来る)
頭の奥に、知らない警告が落ちた。
月明かりの端、結界柱の影に誰かが立っていた。
刀を持っているのに殺気は薄い。静けさだけが濃い。
その瞳と、ほんの一瞬だけ目が合った。
鎖骨の少し下が、じわりと熱を帯びた。




