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西の魔女グレイシヴ7

エピローグ

「ユキヒロが敬語使っているの、いつ聞いても気持ち悪いわね」


「うるせえな! お相手は侯爵様だぞ! 平民の俺が相手の許可なしにため口が使えるかっての」


「許可を取ればいいじゃない。あの人は拒否できる立場じゃないのだから」


「恩に着せて、隙に付け入るとか今後が怖いからイヤだよ」


 ウルルガ侯爵一行が帰宅した後、俺はグレイがいつまでも手を付けていたクッキーを取り上げ、空のコーヒーカップを洗った。


 時間も遅くなってしまい、パッと作れるものが何かあったか冷蔵庫を漁ると、そういやミートソースを作ったことを思い出し、スパゲティを茹でた。


 適当に野菜を切ったサラダにドレッシングをかけ、目を離した隙に違うお菓子に手を出そうとするグレイの前に置いておく。


 俺もサラダを食べながらスパゲティが茹で上がるのを待ち、出来上がり次第ミートソースと絡めて食卓へ運んだ。


「私、トマトが嫌いなの」


「嘘つけ、一時は朝食にトマト丸かじりしていただろ」


「栄養は認めるわ。でも、もう飽きたのよ」


「じゃあ嫌いとは言わないな。文句言わずに食え」


 フォークにスパゲティをくるくると巻いてグレイの口の前に持っていく。適当な文句を言う時は、こうして一口目を食べさせてやらないとずっと食べない時がある。好きな物ならキッチンに顔を出してつまみ食いするくらいさっさと食べるのに。


 渋々といった様子で俺が差し出したスパゲティを口にしたグレイは、予想外とばかりに目を見開いた。


「……あら、意外と美味しいのね」


「ミートソースならこれまで何度も口にしただろ。初めて食べたみたいな驚き方はおかしいんだよ」


「冗談よ。自分で食べる気力が薄れていただけ」


 適当な言い訳を聞き流す。食べてくれるならそれでいい。グレイはやっと自分のフォークを持ってスパゲティを食べ始めた。


「そういえばさ、転生者症候群って罹りやすい原因とかあるのか?」


「はっきりとした原因は不明よ。北の大魔女様が調べているけど、精神的に弱っているか、寝込むような病気になると乗っ取られやすいのではないか、という説はあるわね」


「でも、ケイン君は別に精神的に追い詰められていなさそうだったし、寝込むような病気に罹っているようにも見えなかったな」


 むしろ健康というか、風俗店で遊び惚けることが出来るほどに元気だった。それに魔法だってバンバン使っていたから、どこか病気と言うのは考えづらい。


「転生者は、この世界にはない魔力を保有している可能性が高いわ。その魔力が転生者を健康状態へ引き上げているのかもしれないわね」


「魔力に種類があるのか?」


「魔力についても分かっていないことが多いわ。でも、転生者は、転生した際に何かしらのギフトが与えられる。それを行使するために必要なのが別の魔力なのではないかしら。ねえ? “転生者のユキヒロ”?」


「いや、まあ……、俺も転生者だけどさ、魔力とかよく分かんねえよ。俺が貰ったギフトって、『転生者が授かったギフトを打ち消して魔力を逆流させる』っていう、ピンポイントでしか使えないんだし、これに魔力を消費しているかどうかも分かってないんだよ」


 俺は普通の人と違って魔法を使えず、転生者にのみ有効な対魔法のギフトしかない。これを魔法と分類してもいいのか分からないが、不届き物の転生者を無力化するにはなかなかに便利ではある。


「だから不明なのよ。転生者症候群という病気自体、まだ分かっていないもの。どうして乗り移ると魔法が苦手な人でも魔法を使えるようになるのか、ギフトとはなんなのか、まあ、いつか北の大魔女様が解明してくれるわよ」


「グレイが発見しようとは思わないのか?」


「私は薬の研究が出来たらそれでいいわ。その結果他のことも分かるかもしれないわね」


「薬が第一か、グレイらしいな。……ごちそうさま」


 先に食べ終わった俺は、食器を片付けるために席を立つ。粉チーズをスパゲティにかけていたグレイが「そういえば」と声に出した。


「関節キスだったわね」


「何が?」


「……なんでもないわ」


 なんかよく分からんが、グレイは残り少しのスパゲティをフォークにくるくると巻き始めた。


すぐに食事に戻ったあたり、今の言葉に大した意味はなかったのかもしれない。


「歯磨き粉に一日中歯が緑に光る薬でも練り込んでおこうかしら」


 背後で何か不穏な声が聞こえた気がしたが、フォークが皿の上から落ちかけたのを防ぐのに注意していた俺の耳に、その呪いの言葉は届かなかった。


――翌日、俺は一日中マスクをして過ごした。


ここまでが一章

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