009 胸を見せつける罪と罰|晴れの国の清音姉妹
推しの配信を見て幸せだった私。
なんでこんなに不愉快になったのだろう。
推しの配信を見終わった午後10時。
明日は月曜日だしそろそろ寝よっかと僕は少しだらけていた。
コンコン
「ふえ?」
扉から小さな音がして変な声でちゃった。
そっちを見ると、勉強の時だけするメガネをかけた夕夏がいた。
「ちょっといい?我が家で偏差値が一番低い花夜」
「どうかした?妹をそんな呼び方をするバカ姉」
まあ確かに真昼お姉ちゃんは国立大卒業してるし、夕夏は進学校で成績良いけど。
僕だって高校は良いとこいくもん。
あと耳に残ってた推しの声が夕夏の声で押し出されるのがなんかあれだよ。
「それでどしたの夕夏?」
「あのね。聞きにくいことだけど」
妙に神妙そうな姉。
こういう時はだいたい――。
「胸が小さいのってそんなの辛いの?」
しょうもないか腹立つことだ。
「知らん!出てって!」
自慢らしいお胸様をぎゅうぎゅう押して部屋から押し出そうとした。
「違うって!だいぶ真面目!」
「僕はまだ未来があるの!」
「無いからそんな未来!」
「やっぱりケンカ売ってる!!」
騒いでいると真昼お姉ちゃんに夜に煩いと怒られた。
もー、このあと一緒にお風呂入ろって誘うつもりだったのに。
「さっきまで友達と2人でリモートで勉強しててさ」
夕夏を仕方なく部屋にいれると、少しだけバツが悪そうに床に座った。
「友達が急に不機嫌になったの」
少ししょんぼりしてる姉。
ビデオ通話で勉強会をしてたらしい。
「なんでそれが胸?」
「ちょっと前かがみになってみて」
よくわからないけど言われた通りしてみた。
「それ!」
夕夏がびしっと指さしてきた。
それは前かがみになったことで、だらんと垂れた服の胸元。
胸どころかお腹の方までがっつり見えてた。
バッと手で押さえた。
「友達も同じになってさ、ちゃんと気をつけなきゃって言ったのよ」
まあたしかに外で同じことになったら嫌過ぎる。
直接聞いてないから言い方悪かったとかあるかもだけど、なにか怒るとこある?
「お礼言われながらもなんか不機嫌になってさ」
夕夏が僕の部屋のローテーブルに片肘付いて悩んでいる。
勉強机に座った僕は少し高いところから見下ろしていた。
……イラっ。
「明日謝りたいんだけど、何が悪かったかハッキリわかんなくて」
夕夏は理由がわからなくて1時間くらい悩んでたみたい。
勉強よりそっちで疲れたみたいで何度もため息をついてる。
ああ、なるほど。
僕は理解したよ、答えは簡単だ。
「怒った理由。それを聞きたかったと」
小さく頷く姉。
「勉強が出来てもこういうところは苦手だね」
ふっと鼻で笑ってびしっと指を指した。
謝る理由は明白だけど夕夏の目には映らない。
「見せつけてごめんなさい。そんな気はなかった」
そう謝れば良い。
いらいらした理由は今の僕と同じはず。
何時間勉強していたかはわからないけど、きっとその友人はずっと見せられてたんだ。
机に乗る大きな2つを。
重くて肩がこる。
夕夏はそんな意味わからないこと言っては、たまに胸を机に乗せていた。
それを!ずっと!見せつけられていた!
肩こりだって?そんなもの僕は知らないね。
持たざるものからした無言の罵倒を受けていたに等しい。
僕はその友人に共感する。
翌日
「なんか謝ってあんたの事話したら、『一緒に頑張りましょ』だって」
「ふくざつ」
お礼のドーナッツは少ししょっぱかった。