007 おねだり上手な妹の嘘と焼き肉
日曜日のお昼。
お昼ごはんを賭けた小さな戦いが始まる。
駄菓子屋の店先のベンチ。
私は聞いたことのないメーカーのジュースを飲んでた。
「夕夏さんや」
「なんだい花夜さんや」
隣で聞いたことのないメーカーのアイスを齧る妹。
「僕達っていわゆる青春のど真ん中だよね」
「ええそうね」
「なんで開店と同時に駄菓子屋で駄弁ってるの?」
珍しくワンピースを着た妹。
見える腕も足も部活のお蔭か、少し心配になるくらい細く引き締まってる。
身長は低いけど手足は長くて、なんでも服を器用に着こなす。
「花夜が日曜暇だからどっか連れてけって言ったんじゃん」
「楽しいとこっていったんだよ」
不満なのかガリガリと前歯でアイスをけずっている。
「真昼ねえは休日出勤してんだから」
棒だけになった妹アイスを奪って空き缶と一緒にゴミ箱に捨てた。
「私達で遊びに行くのも気が引けるでしょ」
「そーだけどさー」
さっき駄菓子屋で買ったお菓子を漁っている。
花夜が3つの内ひとつだけが酸っぱい飴をひとつ頬張った。
「お昼も奢ってあげるから」
ぱあっと明るくなる妹の表情。
ほんとわかりやすいなこいつ。
「どこいくどこいく!?」
近くにある好きなお店を端から上げていた。
おしゃれや恋愛よりも、走ることと食べることが楽しいお子ちゃまだ。
「僕的には加藤商店の焼肉定食なんかがオススメなんだけど!」
「……ラーメン」
「え?」
「ラーメン」
妹が隣でフリーズしてる。
しばらくして再起動。
「夕夏のバイト先だ―――!」
「社割で6割オフなんだからいいじゃない」
トッピングなんて2つまで無料なんだよ。
「ヤダ!ちっちゃい夕夏だってからかわれるからヤダ!」
確かにたまに行くたび、他のアルバイトが妹を見にテーブルに来てたな。
まあまあな顔してるんだから見せとけば良いのに。
「美人姉をもった宿命ね」
「性格も美人になってよ!」
いつものようなじゃれ合い。
外だからちょっと弱めの。
「ならさ!ならさ!」
ずいと花夜が飴を出してきた。
「ひとつが外れの飴。負けたほうが言う事聞く」
まったく。
こういうとこは中学生だなと少し笑っちゃう。
「いいよ。花夜が勝ったら加藤商店連れてってあげる」
先に選びなと促すと、すごい笑顔でちょっと悩んでから飴を頬張った。
「んふふふふ、セーフ」
すごく余裕の笑みを浮かべている。
「僕の勝ちだね」
さっと飴をナイロン袋にしまった。
……ん?
「加藤商店混むから開店と同時にいかないとね―」
妙に饒舌な妹。
さては。
「私にも飴ちょうだいよ」
「え?酸っぱいの苦手じゃなかった?」
「そうだけど、こういうのは罰ゲームちゃんとするから面白いの」
花夜が持つ袋に手を伸ばしたけど、あろうことか服の中に隠した。
……遠慮なく手を突っ込む。
「ぎゃあああ!どこさわってんの!」
「あんたのつまんない体なんかさわるか」
「つまるもん!すごいつまるもん!!」
くねくね逃げる妹から袋を取り上げ、飴を食べる。
「花夜さんや」
「……な、なんだい夕夏さんや」
遠くを見て視線を合わせない妹。
「この飴がね。……私がなに言いたいかわかる?」
「んーーー?」
左を向いたり右を向いたり、落ち着きがない。
「甘いんだけど?」
駄菓子屋のベンチは日陰で涼しいのに汗だくな妹。
「ふ、不良品だったのかなー」
ちょい前から軽く涙目だった妹が遠くを見ていた。
「ただいま」
「おかえり真昼お姉ちゃん」
「あれ?花夜なにか美味しそうな匂いするね」
「んふふー。お昼にね……」
ヘルシー目な晩ごはんを作る私の後ろから声が聞こえた。