002 花夜の学校の日常
1話読み切りのショートストーリーです。
どの話からでも、姉妹の何気ない毎日を楽しめます。
朝8時過ぎ。
僕は朝からたくさん走ってちょっと疲れたけど、楽しくて上機嫌だった。
3分前までは。
「……プリントがなぃ」
みんなが宿題のプリントを黒板前の教卓へ次々置いていくのを呆然と見ていた。
僕も昨日頑張ってやったよ。
夜に真昼お姉ちゃんに手伝ってもらって終わらせて。
嬉しくてヨーグルト食べたあとお風呂に入って。
ストレッチをしてから寝たよね。
……リビングの机だ。
うん、しまった覚えないもん。
ああもう!
ヨーグルトにバナナ入れるか悩む前にしまえよ、僕。
「花夜どしたの?」
後ろの席からつんつんと突かれる。
「梨里いぃぃ(りり)」
自分でも情けない表情をしていると思いながら振り返った。
僕より少しだけ長い髪と人懐っこそうなエクボ。
小学校からの友人が宿題のプリントを手に立ち上がろうとしてる。
「それやったけど家に忘れちゃって」
その一言でわかってくれた梨里がとことこと黒板目の教卓に走り、中を漁りだした。
「これ余り。前に残ってたよ!」
手には見覚えのあるプリント。
昨日がんばったプリント!
「僕は君みたいな友達いて嬉しいよ!」
両手を握ってぶんぶんと振る。
「いいから早くやりね。10分くらいあるからさ」
それと合わせて梨里は自分のプリントも渡してきた。
「昨日やったんだし間に合わないとこは写してもいいと思うよ」
もう一度手を取って上下に沢山振った。
時間は過ぎて、放課後。
朝は梨里のお陰で無事宿題をだせた。
……無事?
「お前ら間違い多すぎ。追加でこれやって帰りなさい」
それだけ言って英語の先生が教室を出ていった。
「……」
「……」
「梨里さんや」
「なんだい花夜さん」
振り返ると梨里は視線を外して脂汗をかいていた。
忘れていた。
梨里の小学校時代のあだ名は『元気なバカ』だ。
「怒る立場じゃないと知ってるけど」
僕が悪いのはわかってるんだ。
でも。
「なんであんなに自信満々だったの?」
錆びた歯車が軋みながら回転するように、友達がこっちを向いた。
「いやあ中学の勉強って難しいね!」
うん、梨里は今日元気だね。
僕はさっさとプリントを解いて部活へ走った。
友人を一人教室に残して。