言わなきゃよかった
「私のことどう思ってる?」
あれは夏の終わりだった。
ちょっと涼しくなり始めた頃で、セミすらも泣くことに飽きているように感じた。
そんな日にあんなことを聞いたのは、本当に間違いだったと思う。
そもそも聞かなくたってよかった。
あの人はいつも通りで、たまに話しかけてくれて、たまにノートを貸してくれて、たまにこっちを見てる気がしただけ。
それでもう十分だったのに。
でも、次に進まなきゃいけない気がした。
理由もなく勝手にそう思い込んで。
それで言ってしまった。
聞いたら多分何かが変わると思って。
「わかんない」って言われた。
その顔がすごく普通だった。
怒ってもいないし、照れてもいないし、何かを期待してた様子もなくて。
ただ、そんなこと考えたこともないみたいな空白の返事だった。
その瞬間、私の中のいろんなピースが、音も立てずに崩れた。
それから何があったわけでもない。
でも話す回数は減ったし、ノートも貸してくれなくなったし、目が合うたび、気まずそうな空気だけが間に挟まるようになった。
「私のことどう思ってる?」
たった一言だった。
でも、その一言はなんでもなかった日々を過去に変えるには十分すぎた。
今でもたまに思う。
言わなければ、あのままずっと曖昧でいられたのにって。
でも、あの日の私には曖昧でいるっていう選択肢の重さがまだ分かってなかった。
好きだったんだと思う。
でも、確認しようとした時点でもうそれは恋じゃなくなった。