どうしよっかなぁ~?
「……もう無理だ」
ふ、と息を吐いてリーダーのブラウが告げる。
「無駄だったわね」
そう言って睨むのは、ヒーラーのアマリ。
「ああ、本当にな」
苦々しく吐き捨てたのは、魔法使いのアルブス。
それを受けて、ブラウが口を開いた。
「リューイ、お前にはパーティを抜けてもらう」
「少し、いいだろうか?」
食事中にそう声をかけられた3人は、手を止めて不思議そうに顔を上げた。声をかけた男は困ったように微笑んで、言葉を続ける。
「驚かせてすまない、私の名はジョルト」
その名を聞いた瞬間、緊張が走った。ジョルトは冒険者の中でもかなりの有名人として名を馳せており、所属するパーティもまた高ランクに位置している。
顔は知らなかったけどこんな人なのか、そんな人が何故駆け出しもいいところの自分たちに? と3人は目線を交わす。
「何でしょうか?」
とりあえずリーダーとしてブラウが尋ねれば、ジョルトは口を開く。
「リューイ殿のことなんだが」
その名を聞いた瞬間、ブラウ達の顔が少々強張った。
「ああ、彼女のことですか」
聞きたいことの想像は付くがそう繰り返せば、ジョルトは軽く頷く。
「そうだ。元々私の所属しているパーティは増員を考えていてな。ギルドに尋ねたところ、彼女を紹介されたんだ」
「そうなんですね」
「彼女の持つ『スキル』は非常に貴重なものだ。一度面談したが、人柄も申し分ない」
すると『人柄も申し分ない』のところで3人が顔を見合わせた。それを見逃すジョルトではない。
「ふむ、君たちの反応を見るに、彼女の『人柄』に問題が? ……それが彼女を『追放』した理由に繋がるというのかね?」
やっぱりその理由を聞きたかったんだな、と3人は頷いた。まずブラウが口を開く。
「質問を質問で返すのは失礼ですが、リューイは追放された理由をどう言っていましたか?」
「答えたくない、と言っていたよ」
「やっぱり! アイツならそう言うと思ってたわ!」
「まあ理由が理由だしな。けど、卑怯だよな」
アマリが眉を寄せ、アルブスも、うんうんと頷く。
そんな2人をまあまあと宥め、ブラウは口を開いた。
「リューイがそう言うなら答えない方がいいかもしれませんが、ジョルトさんが後々嫌な思いをするのが分かっているのも見過ごせませんね」
「それは、どういうことかね?」
話してくれ、ここの食事代は奢るから、とジョルトが促せば、そういうことなら、とブラウは答えた。
「まず、リューイの『スキル』……『無限収納』には凄く助けられました。それは嘘じゃありません」
『無限収納』はどのような大きさのものでも、亜空間に収納して持ち運びできるスキルだ。しかも数もまたどれだけ多くても収納でき、亜空間内は時間が止まっている状態のため、新鮮さも保たれる。
まさに冒険者にとっては非常に便利かつ重要なスキル、なのだが。
「ですが、そのスキルを出し惜しみするんです」
「え?」
ジョルトが聞き返せば、今度はアマリが肩を竦めながら答えた。
「ちらちらこっちを見て、ニタニタ笑いながら言うのよ」
『どうしよっかなぁ~?』
「……ってね」
一瞬沈黙が落ちる。
「それはまた……」
嫌な気分になるのは間違いないだろうな、とジョルトは苦笑いをした。
「いや、さすがに戦闘中とか、重要な局面ではやらないですよ」
一応フォローのつもりかブラウが付け加えるが、アルブスが苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てる。
「けどよ、それが毎日毎日繰り返されてみろよ。うんざりするだろうが」
「毎日……」
ジョルトは絶句した。たまにかと思っていたのに、それが毎日とは。
「俺たち、所謂昔馴染みって仲なんです。最初はリューイもそんなこと言うヤツじゃなかったんですけど」
「スキルに目覚めて頼りにされて、調子に乗ったんでしょ。あの言葉に集約されてるわよ」
『私をもっと大事にしなさい。お姫様扱いしなさい。そうしないと困るでしょ?』
「っていう考えがね」
アマリが果実水を口にしながら、素っ気なく言った。
「俺たちも注意したんですよ。『そういう事言うのはやめろ』って、何度も何度も。その場では『分かった、ごめんね』って言うんですけど、次もう忘れてまた言うんですよ」
『どうしよっかなぁ~?』
アルブスは、がしがしと頭を掻きながらチキンステーキを荒々しく食いちぎった。
「それでもう最終通告をしたのよね。『次にそれ言ったら、パーティを抜けてもらう』って」
「あの時アイツ泣いてたよな、『もう二度と言わないから』って。……けどさ」
結果はもうご存知の通りである。
「リューイが持っていた装備品を奪うようなことはしていませんし、預けた戦利品を退職金代わりにしたので、不当な追放という訳ではない筈ですよ」
「私たちが受けた精神的苦痛に比べたら、トントンじゃないの?」
「いや、多い方じゃないのか?」
「……なるほど、よく分かったよ。君たちはそれで、後悔してないのかね?」
ジョルトが尋ねると、3人は「はい」と頷いた。
「後悔していません。今の俺たちの稼ぎなら、結構質の良いアイテムボックス買えますので」
「自分の荷物は自分のアイテムボックスで管理。戦利品は共通のもう一ランク上のアイテムボックスで管理するようにしているわ」
「で、そのアイテムボックスに入る限界の仕事しか受けないようにしているんで、大丈夫です」
なるほど、ある意味リューイの存在がこのパーティの教訓になったという訳か。
「ありがとう、参考になったよ」
「いえ、リューイをパーティに入れるのなら、よく考えてくださいね」
「よく考えるまでもないと思うわ。私、あれ聞かなくて清々してるもの」
「あー、俺も。本人可愛いって思ってるっぽかったけど、マジ気持ち悪かったよな。ってか醜いよな」
元仲間からこんなことを口々に言われるとは相当だ。
ジョルトはもう一度「ありがとう」と礼を言って少し多めのお金を机に置いて立ち上がった。
その後、ジョルトはブラウ達から聞いたことを包み隠さずメンバーに話し、その上で話し合いをした結果、リューイの加入を断ることにした。
そしてリューイはそのスキルを見込まれて別のパーティに加入したものの、しばらくした後に追放され、そしてまた別のパーティに……ということを何回も繰り返され、結果例の悪癖が街中に広まることになりどのパーティも雇うことは無くなった。
その後の行方は知れないが、故郷に帰ったのだろう、と結論付けられ、気にする者は誰一人いなかった。
(終)




