講演
「受賞者は——」
司会者が名前を読み上げた瞬間、会場全体が拍手に包まれた。
「パチパチパチ……!」
熱気を帯びた音が響き渡る中、受賞者たちが舞台へと駆け上がる。
歓喜に満ちた表情、緊張でぎこちない動き、こらえきれず飛び跳ねる者——
彼らの顔には、すべての感情が鮮明に刻まれていた。
彼らは、才能、努力、運——
すべてを手にした者たち。
——だからこそ、先生の胸には不快感と嫉妬が渦巻いていた。
「ほら、あの人。それから、右端の奴。みんな私が嫌いな天才たちだ。」
隣に座る編集者と同じく拍手を送りながらも、先生のそれは純粋な祝福ではなかった。
むしろ、冷ややかな視線を送るだけの機械的な動作に近い。
その目は、特に舞台中央のある男に向けられていた。
「……あの真ん中の奴、何なんだ?」
低く呟く先生の視線の先——
そこには、静かに、しかし堂々と立つ一人の若い作家がいた。
「……この年でまだ別のジャンルの小説に挑戦してるのか?
ここ数年、ずっと私の後ろに張り付いて、まるで来年には私を追い越す気満々みたいだな。」
「先生、その選手に対しては高い評価をしていましたよね?」
編集者が淡々と返す。
「高い評価?」
先生は鼻で笑い、腕を組んだ。
「誤解しないでくれ。私はあいつが私を追い越す機会なんて絶対に与えない。」
編集者はちらりと先生の机の上を見た。
そこには、スピーチ原稿——いや、ほんの数行しか書かれていない紙切れが置かれている。
「……だから講演原稿の内容を大幅に削って、ほんの数行しか残さなかったんですね?」
「私らしいだろ?」
先生は微笑むが、それは決して爽やかなものではなかった。
編集者は深々とため息をつく。
「先生、それだとちょっと子供っぽい感じがしますけど?」
「でも、私のあだ名にはぴったりだろう?」
先生は肩をすくめながら、舞台を見つめる。
勝者たちが、眩しい光を浴びている——
「まあ、全然名誉なあだ名じゃないけどね。」
「先生、何かいいことでもありましたか?」
編集者がふと尋ねた。
「なんだか突然、低迷期を抜け出したように見えるんですけど。」
先生は、いつもの感情の読めない笑顔を浮かべながら答えた。
「低迷期? 少し違うな。今も私は私だよ。」
「……?」
「違いがあるとすれば、覚悟を決めたってことくらいかな。」
「その覚悟って、どんな覚悟ですか?」
「運が悪ければ地位を奪われる覚悟さ。」
「え?」
編集者が驚きの表情を浮かべる間もなく、先生はすっと立ち上がり、舞台を見つめた。
拍手が次第に収まり、受賞者たちが整列する。
「さて、表彰が終わったみたいだな。」
「ちょっと舞台に上がって、この忌々しい天才たちに一言言わせてもらうよ。」
「……先生、ちゃんと彼らを鼓舞してくれるんですよね?」
「もちろんさ。」
「安心してくれ、みんなの『先生』だからな。」
——一歩。
拍手が徐々に静まり、単調で規則的な足音が会場中に響き渡る。
舞台へと向かうたび、無数の視線が一人の男へと吸い寄せられた。
スポットライトが彼を照らす。
静寂が訪れ、期待と緊張が満ちる。
「それではお願いします。」
司会者がマイクを差し出し、先生は自然にそれを受け取った。
そのままステージの中央ではなく、わずかに右側、受賞者たちの端に立つ。
だが——すべての視線は彼に注がれていた。
観客。
舞台上の天才たち。
編集者、スポンサー、関係者——
彼ら全員が、まるで「次に発せられる言葉」が運命を左右するかのように息を呑んでいた。
「受賞者の皆さん、おめでとうございます。」
拍手が再び起こる。
「この賞を受賞するということは、皆さんの努力と才能の証です。
そして、ここには古い友人もいらっしゃいます。
ジャンルを超えてもなお受賞できるなんて、本当に感心しますよ。」
言葉の端に微かな棘を込めながら、視線を客席へと移す。
「もちろん、今回受賞できなかった参加者が努力不足だというわけではありません。」
先生の視線が、未だ観客席のどこかにいるかもしれない「ある人物」を探して彷徨う。
「それどころか、皆さんにも同じようにチャンスがあると思います。
諦めずに続けていれば、未来の舞台の座はきっと皆さんのために用意されています。」
予定された通りの内容。
編集者が安堵したように大きく息をつくのが視界の端に入る。
——本当に私を信用していないんだな。
苦笑しながら、先生は会場全体をもう一度見渡した。
もしかしたら、見落としているのかもしれない。
もしかしたら、奇跡のように——そこにいるかもしれない。
しかし——結局、その姿を見つけることはできなかった。
それも当然だ。
彼はエントリーさえしていない。
今さら、こんな場所に来るはずがない。
「未来は皆さんのものです。」
スピーチの締めくくりと共に、会場全体が拍手に包まれる。
しかし——
先生自身には、虚しい響きしか持たなかった。
本当に一生を捧げれば成功するのか?
本当に未来を自分の手で掴めるのか?
——まるで、子供を騙すような空っぽの言葉だ。
観客の歓声を背に、先生はステージを降りようとする。
だが——
「嫌だ。」
その思考が脳内に落ちた瞬間、先生の手は再びマイクを握りしめていた。
司会者が舞台に戻ってくるのを横目に見ながら、
先生は、静かに、だが確かな決意を込めてもう一度マイクを持ち上げた。
——こんな馬鹿げた世界だとしても、死んでも食らいついてやる。
「だから!!」
その声は、会場全体に突き刺さった。
「凡人だろうが、天才だろうが、」
「環境に押しつぶされそうだろうが、」
「自分を憐れんでいようが、」
ひとつ、またひとつと言葉を紡ぐたびに、
観客の視線が先生に引き寄せられる。
「それでも——」
「何かを創りたいと思うのなら!!」
「もっと多くの観客を得たいと思うのなら!!」
「人々に注目されたいと思うのなら!!」
鋭い眼光が受賞者たちを貫く。
観客席の端に座る者まで、その熱気に飲み込まれた。
「家にいながら、金を稼ぎたいだろう?!」
「電話代を払いたいだろう?!」
「それでいい!!!」
先生の声は、まるで戦場で戦士たちを奮い立たせる叫びだった。
観客の心臓が震え上がる。
「ならば——筆を取れ!!!」
「キーボードを叩け!!!!」
叫びが響く。
もはや、ここは表彰式の舞台ではない。
「この狭き門に飛び込んで来い!!!」
「さあ、かかって来い!!!!!!」
「私はここで——」
先生は深く息を吸い、勝者の笑みを浮かべた。
「君たちを阻む壁であり続ける!!!」