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日常

今日はその日だ!

ついにこの日が来た!!

「うおおおお!」

狭いツインルームの一角で、左側の大学生は興奮気味に独り言を繰り返しながら、血走った目でパソコンの画面を凝視していた。

選ばれてるかな!?

新人賞とか……いや、三位以内……いやいや、もしかして優勝もあり得るか!?

時折、「選ばれたよな!? あるだろう!?」と叫びながら、指をカタカタと机に叩きつける。その様子はまるで臨戦態勢の兵士のようだった。

一方、その隣——右側の学生は、そんな騒がしさにまるで興味を示さず、オンラインのシューティングゲームに没頭していた。

ランキング発表? そんなものより、もう一戦プレイするほうがよっぽど価値がある。

ヘッドセットをつけた彼の指は素早くキーボードを叩き、画面内のキャラクターは銃を構えながら敵陣へと突撃していく。

「シュエイ! 聞いてるのかよ! 今日は結果発表の日だぞ!」

「聞いてるって……ちっ、このチームメイト何やってんだよ、また無駄死にかよ。」

「お前、わかってるか? 俺がこの日をどれだけ待ってたか! 先週からずっとカウントダウンして、ようやく今日なんだぞ!」

「あー! また間抜けが突っ込んでいきやがった……はい、負けた。ほんとどうしようもない連中だ。」

怒りに任せてゲームを強制終了すると、右側のシュエイはマウスとキーボードを乱暴に置き、苛立たしげに頭をひねって騒がしいルームメイトを見た。

「それで? お前の作品は賞を取ったのか? 大先生さんよ。」

「へへ、まだその称号は早いけど、いつか有名になったらサインくらいしてやるよ。」

「そりゃありがたいね。」

シュエイは呆れたように肩をすくめ、それからわざと皮肉っぽく続けた。

「で、結果はもう見たのか? 頼むから早く終わらせてくれよ、この耳を破壊する地獄を。」

とは言え、発表時間にはまだ少し余裕があった。いくら急かしたところで、結果が早く出るわけではない。

パソコン画面には、相変わらず大きな 「未開放」 の文字が表示されたままだ。時間になれば勝手に更新されるのに、この男は早朝から待機している。まるで遠足を楽しみにしている小学生みたいなテンションだった。

シュエイはわざと急かした。最近の騒がしさへのちょっとした報復だった。

発表の瞬間が近づく——

最初は期待に胸を膨らませ、テンション高く騒いでいたリーピンだったが、時間が進むにつれ、次第に黙り込んでいった。

今では、サイトを凝視し、指先ひとつ動かさないほど静かになっている。

「おい、魂はまだここにあるか?」

顎を支えながら、シュエイが軽くからかう。

だが、リーピンは一切反応しなかった。

きっと聞こえてはいるのだろう。でも、それ以上に、いま彼の全神経は発表の瞬間に集中している。

──リーピンって、こんなに真剣に考えてたんだな。

シュエイは、ふとゲーム中のリーピンの姿を思い出した。

自分がプレイしているとき、リーピンはいつもパソコン画面を凝視し、真剣な表情で何かを書いていた。

友人たちとゲームをする時も、リーピンは決して参加せず、黙々と創作に没頭していた。

みんなで外食したり、楽しく話している時も、突然何かを思いついたようにスマホのメモ帳を開き、すぐに内容を書き留めていた——。

数か月間、そんな光景が何十回も繰り返されていた。

──あいつ、本気だったんだな。

シュエイは、リーピンの背中を見つめながら、ふとそう思った。

「……俺も、お前らと一緒に遊びたいよ。」

残り数秒のところで、リーピンがぽつりとつぶやく。

「毎日、何も考えずにダラダラするのって、絶対楽しいだろうな。」

「このタイミングで受賞スピーチか?」

シュエイが軽口を叩くが、リーピンは小さく笑うだけだった。

「でもな、俺はそんな風に時間を無駄にしたくないんだ。」

そう言う彼の声は、いつになく静かだった。

「残りの人生を、無駄にしたくない。死んだ後、墓石に何も書かれないのは嫌なんだよ……平凡に終わりたくない。」

その気持ちはわかる。

だが、感情的には受け入れ難かった。

「俺たちはまだ大学生だろ? 人生はこれからだし、通ってる大学と学科も悪くないじゃん。成績がそこそこでも、卒業さえすれば、大企業に潜り込めるだろ?」

「俺が言ってる『平凡』ってのは、そういうことじゃないんだ。」

「じゃあ、何?」

問いかけても、リーピンは一度も振り返らず、画面を見つめたままだった。

「小学校では『いい中学に入るために勉強しろ』って言われ、中学では『いい高校のために』って。高校に入れば『いい大学のために』って……今度は『いい仕事のために』だ。」

静かな声だった。

「一生、他人が敷いた道を歩くだけなんて、俺は嫌なんだ。」

シュエイは、思わず鼻を鳴らす。

「お前、いつからそんな憂鬱な文系男子になったんだよ?」

リーピンは、ほんの一瞬だけ口角を上げた。

だが、その微かな笑みも、次の瞬間には消えた。

「……時間だ。」

その言葉と同時に、彼はすぐにページを更新する。

数秒の違いしかないはずなのに、リーピンの焦燥感は、その行動を無意識に促していた。

シュエイは静かに見守り、何も言わなかった。

結果は一目瞭然。

名前があるかどうか、それだけの話だ。

沈黙が十秒ほど続く。

やがて、リーピンの画面がちらりと光った。

彼はすぐにページをスクロールし、数秒後にはブラウザを閉じ、何事もなかったかのように大きく伸びをした。

「はぁ……そういや、昼飯まだだったな。」

「結果待ちに固執したおかげだな。」

「ハハハ、もういいって。」

リーピンは笑いながら立ち上がり、上着と財布を手に取る。

「イタリアンでも食いに行こうぜ。今日はセットメニューにするか、腹減ったし。」

そう言って、部屋を出て行った。

シュエイは何も聞かなかった。

いつものように、ただ軽口を叩くだけだった。

──どうせ、これが初めてじゃないからな。

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