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夢から覚めるまで

ジャブジャブ…

水位が足元まである水路を歩いている

白いタイルで埋め尽くされたトンネルに走った水路には足場らしい足場もなく、疲れるのを承知で水を蹴散らし進むことを余儀なくされる


「ハァ…!ハァ…!嫌だ…嫌だぁぁ…!!」


情けない悲鳴をどこか遠くに感じているがこの無様な懇願の声は紛れもなく僕が発している

何がそんなに嫌なのか、それは今も後ろに迫る闇の中から僕を睨みつける何かしらの存在だ


みつけた…みつけた…

み つけた…みつ けた…

みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた


ゴウゴウとトンネル内に反響する悍ましい声、聞き覚えがあるような気も無いような気もするそんな声が逃げ惑うこちらを見て楽しんでいる事だけはよくわかった

ただ淡々とみつけたと繰り返す声に追われるのはこれで2回目だ



僕はいわゆる憑かれやすい体質とかいうものらしい、霊的な存在を信じていない人からすれば馬鹿馬鹿しい話だろうが定期的にお祓いを受けて効果を実感出来る程度には僕はそういう存在に好かれやすい


「ハーッ…!ハーッ…!ッヒュゥ…ヒュゥ…!ゲホッ…ゥェ…」


数日前から嫌な記憶の夢や不気味な化け物に襲われる様な悪夢を立て続けに見ていて…決まって飛び起きては過呼吸になって、何も入っていない胃の中身を外へぶちまけようとみっともなくえづく

正直泣きたくなる、ただ泣いた程度でどうにかなるなら僕は高い金を支払ってお祓いは受けにいかないしお札も買わない


「寝たくないな…」


過呼吸になるほどの悪夢を見てたったの2日、僕はすっかりと気分が萎えて食欲すら湧かないほどに追い詰められていた

部屋の隅に貼られたお札は半年ごとに買い替えているというのに変形したり泥水でも吸ったかのようなシミが浮かんでいた、これが危険な合図だというのはわかっているが僕にも普段の生活というものがある


「…部屋、出たくないな…大学サボっちゃお……」


こんな事を言っては失礼だとは思うが大学というのは割と淡白だ、授業をサボったところで受講している学生が自分を含めて3人もいない…とかじゃない限りはサボっても怒られたりはしない、ただ出席にバッテンを付けられて後々困るかもしれないが。

眠るのも怖くてスマホを開いてできるだけ賑やかなものを探す、欲張って下取りに出さなかった2個目のスマホも使ってお気に入りの音楽を大きな音量で垂れ流し…すぐに僕の部屋は賑やかになった


バン!!


びくりと体が震える、これは何度されても慣れない…これはうるさくしたから隣の部屋から壁を叩かれた、というものではないのだ


バン!!


再び窓を叩かれる、いつかガラスを叩き割って中に入ってくるかもなんて思う時期もあったが今のところ破られたことはない

過去に何度も叩かれてきた部屋の磨りガラス、その向こうにぼんやりと人影が見えた事が何度もあって最近ではもう意図的に窓は見ないようにしている


それからもイタズラは続いた、まるでこちらを疲労で眠らせたいかのように


ジジジ…ボボッ…パン!


ある日は部屋の電球がショートして破裂した、カバーの中に散乱したガラスを片付けないとと外してみれば明らかに強い焼けこげた臭い…慌ててカバーの中を見れば中にあったホコリやらゴミに引火したのか小さな種火がぼんやりと赤く主張していた

慌てて部屋に置いていたペットボトルのお茶をかけて鎮火させ、念の為天井裏も確認するとそこでも小さな種火が光っていた…楽観視してカバーや天井裏を確認してなかったらと想像してゾッとした


ボヤになりかけたというのもあって僕のストレスは一気に溜まった、結論を言えば一瞬だが寝落ちしてしまった…もちろん悪夢を見て最悪な気分のままトイレへと駆け込んで嘔吐した

嫌な気分のまま部屋に戻る、時間を確認すればまだ午前5時…どうせ寝ないが起きるにも早い時間だった


カチャ…ギィィィィ……


ドアが唸った

おかしい確かにしっかりと閉めた、それでも僕の目の前でドアは緩やかに開いていったのだ

直後ぞわりと背筋が凍る、何かが見えた訳じゃない…ただ何かが居る、そんな気配がするのだ。

真横、真後ろ、ぞわりとした感覚は僕の体を撫ぜる様に位置が変わって痺れる様な鳥肌が立ち同時に心臓がピリピリと怯える

静かに立ち上がって僕は部屋のドアを閉めるとそこそこに中身が溜まって重くなっていたゴミ箱をドアの前に置いた…こんな物で侵入を防げるとは思えない、それでもドアが開く事くらいは阻止してくれると嬉しい

その日も結局恐怖でトイレと食事以外は部屋を満足に出られず大学を休んだ


頭が熱い、眠気に意識がふわふわとする、恐怖で自分が時折何を考えてるのか分からないくらい脳が痺れる

気を紛らわすために見ていた動画サイトや配信サイト、そのすべてで所々記憶がない

その日も結局意識を保てず気絶したようだ、寝てしまったと気づいて飛び起きたがその起きた場所がおかしい


「なんで、廊下…」


部屋から出て数歩、そんな位置で僕は目を覚ましたのだ

何かがおかしいと思いながら食事を持ってきてくれた親に聞いてみれば僕は普通に起きて会話をしていたらしい、当たり前だが記憶にない


次の日…といっても深夜と言えるくらいの朝早く、ガクガクと揺らされて目が覚める。また寝落ちてしまったのかと自分の堪え性の無さに呆れてしまうが、そんな僕の目の前にいる母親は本気で僕を心配している顔だった

どうしたのかと聞くと夜中に僕は叫んでいたらしい、といっても映画やテレビ番組でよくあるような誰か別人の様な声デーとかじゃなく僕自身の声で金切り声をあげていたんだとか…通りで喉がなんだかガラガラする


次の日、部屋に貼ってあったお札の一つが破けていてそのお札の近くにある棚に飾ってあった趣味のプラモデルが何個か落ちていた

床に落下して破損したプラモデルがどこかお前もこうしてやるというメッセージに見えてゾッとしたが、放置するのも可哀想だから拾い上げて気晴らしにその日は一日中プラモデルを直していた


その次の日の夜だった…僕は学校の中にいた。ひんやりとした床の感覚、ぼんやりとはしているが体に触れると触った感触もある…


みつけた


僕は弾かれた様に走った、あぁきっと起きたら汗だくだ、そもそも起きれるんだろうか?追いかけてきてる何かに捕まったらこのまま心臓発作になったりして

不安と恐怖を感じながら目が覚めるのを必死に願う、隠れても無駄だとなんとなく理解していてただがむしゃらに不気味な夜の学校に怯え、そして追いかけてくる何かの声に怯え…ずっと逃げ回った


どん!と落下する様な感覚と共に目が覚める、すぐに過呼吸が始まって嘔吐も止められない…だが帰ってきた

涙が止まらない、汗も止まらない、何もかもが怖い、今は起きてるのか寝ているのかわからない

部屋から出るのも怖くて親に電話をかける…同じ家の中、すぐ近くの部屋にいるのに電話をかけるなんて変だなとどこか他人事の様に冷静な部分があった


「どうしたん?」

「おき、おきてる…おきてる…?」


すぐに親が部屋に来てくれた、水を飲んではベッドに吐き戻したが親は怒らずに背をさすってくれた

恐怖から無意識に父親へ抱きつき、その背を触ったり自分の髪を強く引っ張ってここは今起きている方だと確認した

寝たくない、もう次は死んじゃうかもしれないと不気味な恐怖が襲ってきて嗚咽が止まらない

親には迷惑をかけてる、きっと


2度と寝ない、2度と寝たくない

その日の夜は眠気が来るたびにボールペンで肌を突いたり、声が漏れるほど強くカッターナイフの刃とは反対側を足にゴリゴリと突き立て眠気を覚まし続けた

それでもだんだん痛みも曖昧になってきてとうとうカッターナイフで浅くふとももに傷をつける、じわりと滲んだ血と熱い痛みに僅かに目が覚める

三本目の傷をつけたところまでは意識があった、なのに今僕は白いタイル張りのトンネルにいる

膝あたりまである水、それをジャブジャブと蹴散らし後ろから迫る声から逃げる


みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた


水が驚くほど重たい、ぐにゃりとうねった水流に足を取られて転びそうだ

声がどんどん迫ってくる、お前は水なんか物ともしないなんてずるい


つかまえた


腕と足が何かに触れられる感覚

耳元で聞こえる声

そこでまた落下したような錯覚と共に目が覚めた

過呼吸を無理やり抑え込み足を確認すると血の滲んだ傷跡が5本、そこを爪で抉って痛みで起きてるかを確認する

血まみれになった指と過呼吸とは違う痛みでフゥフゥと荒くなった息に自分が今起きている事を確認して安堵した

しかしそこで手足の異変に気づいた、真っ赤なミミズ腫れが出来ていたのだ。寝ている間に引っ掻いたのか、それともその前か…はたまた捕まったからなのか


またまた結論から言おう、僕は堪えられなくなった

いつも行く周期と比べれば1ヶ月も早いがお祓いへと行くことにした、親に相談したら何も聞かずに仕事を休んで準備をしようと言ってくれた

引いた波が戻ってきたように恐怖心が湧いて、部屋の中で泣きながら準備をした


車でも1時間以上かかる道を父親の運転で駆け抜け神社に着くと、先に親が連絡しておいてくれたのかいつも僕のお祓いをしてくれる祈祷師?の人が出迎えてくれてすぐにお祓いは始まった

神社の中は不思議と落ち着いた、ずっと感じていた気配が少しだけ落ち着いて、大学生にもなって恥ずかしいとは思うが祈祷師の人が手を取ってお祓いの部屋へと連れて行ってくれた時には安心感からため息が出た


お経なのかなんなのか分からない言葉を聞いているうちになんだか突然背中や肩が熱くなってガリガリと引っ掻いた、服がぐしゃぐしゃになるくらい引っ掻いているうちにすごくイライラしてきた

その時だった、急に視界の端の方で人が立ち上がった…ぼんやりとしていたので何か得体の知れないものが見えたのかとびっくりしたがどうやら祈祷師のひとりだった

彼はそのまま静かに退室し、しばらくすると何と言えばいいのだろう…バカみたいな言い方になるが強そうな雰囲気の人、としか言えないおじさんが入ってきた

その人がお経に参加すると感じていたイライラが比じゃないくらいに膨れ上がった、ここは叫ぶ様な場じゃないと分かっているのに唸り声が漏れた…今になって思えば憑いてる何かに影響されてたのかもしれない


そこからは記憶が飛んだ、でも後から聞いたらその場に突っ伏して唸り続けていたらしい

お祓いが終わって目が覚めてからはここに来るまでの恐怖心はかなり収まり、ずっと感じていた気配の様なものも感じなくなっていた

どうやら途中から入ってきた強そうなおじさんはこの神社で一番偉い人だったらしい、いつもより高くお祓いの料金を払うことになって自分の財布を開けようとしたが親は何も言わずに払ってくれた


「大きな悪霊が憑いていた、それに引き寄せられたんやろう、何か分からんくらいたくさんの霊が巻き込まれていた

守護霊もすっかり弱っとる、でも動物霊がたくさん寄り集まって守ってくれとる、良かったねえ」


そんな感じのことを言われた、正直ハッキリとは覚えてない

いつもとは違うお札をもらって家に帰った、お札を貼り直すと気がすごく晴れて心なしか視界も明るくなった気がする

その日はとても眠かったが悪夢を思い出してギリギリまで恐怖から寝付けなかった…しかし気晴らしに見ていた配信サイトでなんとなくそんな恐怖心も収まり、僕は素直にとは言えないが大きめの音量でネットの動画を流しながら目を閉じた


悪夢は見なかった、視界は明確に明るくなったと言い切れるくらい明るかった

久しぶりに窓に視線を向けた、何も見えない

久しぶりに周りに嫌な気配がしない、この部屋は僕1人しかいない

大学に行けという名前で登録したアラームが鳴った、今日はドアの向こうに目を向けてもゾワリとする嫌な感覚がしなかった


久しぶりの大学、久しぶりの他人、久しぶりの友達に何度も涙が出そうになった

久しぶりと言ってもせいぜい2、3日だがそれでも晴々とした気分だった

霊の類を気のせいや妄想だと思う人もいるかもしれないが、僕は確かにこの数日間…ずっと何かに襲われていたのだ


みつけた

つかまえた


早めにお祓いを受けていなかったらこの2つの続きがあった…僕は今でもそんな気がしている

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