第3章-1
気がつくと、私は最初の白い空間にいた。
どれくらい泣いていたのだろう。いつのまにか、眠ってしまったらしい。
「気がつかれましたか?」
そばに座っていたシリルが、にっこりと微笑む。
「落ち着きました?」
私はこくりと頷く。
たくさん泣いて、眠って、心の中の陰欝としたものが少し軽くなった気がした。もやもやが取れて、頭がすっきりしている。
そう、私は死んだんだ……。
「これから、私はどうなるの?」
事実を受け入れると、当然のように疑問がうかんだ。誰も死後の世界なんて知らない。
世間で流れる話しは想像でしかない。
「えーっと…」
シリルは困ったように口ごもる。
なんとなく、嫌な予感がした。
「ひょっとして、地獄みたいなところに連れて行かれるの?」
「いえいえ、とんでもない!亜沙子さんは、天国にいけますよ」
「じゃあ、なに?どうして言いにくそうなの?」
「え、いやぁ…」
シリルは私の勢いにおされ、強張った笑顔で後ずさる。
「何?死にましたって以上にショックな発言なんてないよ」
「そ、そうですよね…」
じっとシリルを見つめて待つと、シリルは小さく溜息をついて口を開く。
「とりあえず、亜沙子さんが元気になってよかったです。その勢いでやっていただけると嬉しいんですが…」
「やるって、何を?」
シリルはちょっと上目づかいで、おずおずと私を見る。
「先ほど、天国に行けると申し上げましたが、条件があります」
「条件?」
「はい。死の覚悟のないまま亡くなられた方には、それぞれやって頂く事があります。安らかに天に召されるために」
「……」
「難しい事ではないんですけど」
シリルはいったん口を閉ざす。
それが、なんだか嫌な感じだ。
「何?シリル君」
「ある方を幸福にしていただきます」
瞬間的に、両親や秋人、仲の良い友人達の顔が浮かぶ。
でも、彼等ならシリルが言い淀む必要もないだろう。
「誰?私の知ってる人?」
「はい」
シリルは一度大きく深呼吸をし、後を続けた。
「亜沙子さんを天国へ導くための条件は、原島恵さんを幸福にする事です」
その言葉に、私の思考回路はいったん停止した。