第2章-2
呆然として、私はうなだれていた。
どれくらいの間そうしていたのだろう。
ふと、少年の声が耳に入ってきた。
「…ここはやっぱり静かに見守るべきか。いや、でもやはり現実を見ていただいた方がいいのか?亜沙子さんはどちらのタイプなんだ!?あぁっ、のんびり迷っている暇は無い!もうすぐお通夜の時間。お連れするなら今が…」
お通夜…。脳裏に両親や秋人の顔が浮かぶ。
「みんなに会えるの?」
私は思わず声を掛けていた。
身悶えしながら悩んでいた少年は突然声をかけられ、びくりと動きを止める。
そして、何度か瞬きし、我に返って説明し始めた。
「あの、もちろんお声を掛けることは出来ませんが、えと、お連れして、皆様の御様子を窺うことならできます」
「行くわ」
即答する。ただみんなに会いたかった。秋人の顔が見たかった。
「分かりました」
こくりとうなずくと、少年はゆっくりと立ち上がる。そして、真剣な面持ちになると僅かに目を伏せ、すっと右手を伸ばした。するとその掌の中に、まばゆい光と共に彼と同じくらいの背丈の木の杖が現れる。先のほうには彼の瞳と同じ色の宝石らしきものがついていた。
「それでは、参ります。よろしいですか?」
「うん」
私の意志を確認すると、少年はその杖で、とん、と白い空間の床を叩いた。と、その空間は消え、辺りは見覚えがある景色へと変わっていた。
「ここ…うちの近く?」
私は細い道路に座り込んでいる形になっていた。きょろきょろと辺りを見回すと、どうやら家のある町内にいるらしい。
「はい」
少年は穏やかな笑顔で答える。
「お通夜は近くの葬儀場で行われているようです。歩いていきましょう」
座り込んだままの私に差し伸べた彼の手をとりながら、私はふと疑問に思ったことを口にする。
「葬儀場の前にはでられなかったの?歩くのに何か意味が…」
言い終える前に彼ががっくりと肩をおとしたのを見て、私は言葉を飲み込んだ。
深い溜息をついて、少年は情けない声を出す。
「予定では葬儀場の前に出るはずだったんです。でも、未熟なもので…。すみません」
「ううん。別にいいよ」
答えながら、一瞬、一抹の不安が横切る。
私、成仏できるんだろうか…。