第7章-1
翌日は少し寝坊をして、原島さんの元へ行ったのは学校が終わろうとする頃だった。
「秋人…来てないね」
隣の教室の秋人の席は、やはり空席だった。
「今は外出されるようになっただけよしとしましょう」
隣で励ますような笑顔のシリル。
「そうだね」
少しずつでも変わり始めている。
それは確かだった。
「おや?今日はまっすぐ帰られないのですね?」
学校を出ると、原島さんはいつもと違う道を曲がる。
そして、珍しくコンビニに入っていった。
「あ……」
買ったものを見て私は思わず声をあげる。
「亜沙子さんのお好きな物ですよね?」
そう。彼女が買ったのは、秋人が供えてくれたものと同じお菓子と飲み物だった。
彼女はそれを持って、事故現場へ向かう。供えられた沢山の花や物の中に、彼女はそっと買ってきた物を置き、静かに手を合わせ、目を閉じた。
「………」
私は彼女に触れようとし、そして寸前で思いとどまる。
祈りを聞くのは卑怯な気がした。
それに、心を読まなくてもその背でわかる気がした。
やがて、彼女はゆっくりと瞳を開く。
その目には、何かを決意したような凛とした輝きがあった。
「いい瞳をされるようになりましたね」
そんな彼女を見てシリルが微笑む。
「うん」
変わり始める彼女。
私は少し複雑な気持ちで見つめていた。
次に彼女が向かったのは秋人の家だった。
バイト以外で彼女が秋人の家に行くのはめずらしいに違いない。
インターフォン越しに、秋人のお母さんが戸惑い気味に返事をしていた。
秋人の不在がわかると、彼女はその場で思案する。秋人の所在を考えているのだろう。
「亜沙子さん、お心当たりは?」
「…たぶん、あそこ」
私が秋人の立場なら、きっとそこにいる。
「こっちだよ。原島さん」
私は彼女を導くように、彼女からぎりぎり離れられる場所で彼女を呼ぶ。
原島さんははっとしたように顔を上げ、不思議そうな顔をしてこちらを見る。
見えているはずはない。聞こえているはずもない。
でも、彼女が私の心を感じているのは確かだった。
「秋人に会いに行こう」
彼女は迷いながらも私のほうに歩みだす。
そして、私はまた先に進み彼女を呼ぶ。
秋人に会いたい。
二人のその気持ちが、秋人のもとへと導いてくれたに違いない。
私が思った場所に秋人はいた。
秋人が私を家までおくってくれた、その道の途中にある公園。
時間を忘れるくらい二人でよく話をしていた、そのベンチに秋人は座っていた。
虚ろな瞳に悲しげな影を纏い、大きな体がとても小さく見えるほど肩を落として、たった一人で彼はそこにいた。