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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
三章 放浪前記
45/46

四十四話 親心

1週間すみません。

引越しの手続きが思ったより立て込み、やっと投稿出来ました。


まだ引越しあるので、落ち着くまではゆっくり投稿します。

数日は同じくだりのように過ごした。

正直、なんか味気ない感じがして退屈してきた。

悟美と九華が意外と仲良くなる展開なんか信じられるかって話だぜ。


お陰で、俺と分華が意気投合しちまった。

「おい幸助、アイツら凄え買い物してるよな」

「そんな事言うなよな。あんたの方が凄かったぜ?菓子買うし飯買ってくるし、妖都を支配しようとした時に楽しまなかったのか?」

「いや…てかアイツ、凄えクズだった。俺をこき使ってくるわ、命令を聞かなかったら魂を握り潰されるわ、術を真似するわ。俺があんなヤツを仲間とは一度たりとも思わなかった」

交流とは素晴らしい企画だな。俺が分華とこんな簡単に親密になっちまうほどに。

來嘛羅が言ってくれなきゃ、俺はこんな事しようとは思わなかっただろうし。來嘛羅の配慮に感謝するしかねえ。

「秋水の野郎はあんたらに何をご褒美にしようとしてたんだ?」

「くだらねえよそんなもん。アイツは俺達に土地をくれるって言ってたが、俺はそんなデケエもん貰っても欲しくねえんだわ」

「土地って……妖界舐めてるだろ絶対」

「だろ?俺が秋水の立場だったら町の食いもんをタダにして貰った方が嬉しいな」

やっぱこいつ馬鹿だ。でも嫌いじゃないな。

「あはは!それはそれで怖えよ。俺が妖都に来た時にその話聞いていれば斬りつけることもなかったかもな?」

「そりゃあどうかな?テメェは俺の分身を斬りやがって!意外とトラウマもんだったぞ⁉︎」

「あー悪い。あの時はあーすればどいてくれるかと思ったからな。つい、な」

「巫山戯んな!足斬られた経験なんか初めてだったんだよ!秋水のクズでもあんな外道はかまさなかった!」

それは心外だな。俺にとってはそんな言われる筋合いはない。

「外道じゃねえよ。そもそも、妖怪を支配しようとする組織の人間に言われたくもないぜ」

「っ!この野郎!」

「俺に怒っても仕方がねえだろ。恨むなら、秋水の野郎を恨みやがれよな?」

俺は正論を言ってやった。

普通そうだろ?俺はぶっ飛ばそうとした正統派で、分華は俺を拉致しようとした悪党派。別に終わったことだけど、俺が間違ってるわけがない。


「二人とも、そんな過去話で盛り上がらなくて良いから!」

九華は焦りながら話を止めようとする。

「なんだよ九華⁉︎ちょっとぐらい喧嘩売っても文句ないだろ!」

「それを馬鹿って言うの!いい加減、嫌な話題を堂々と話さないでよ!周りの人に聞こえてるのよ⁉︎」

分華は周りを気にしていなかったみたいだが、妖都の支配の話をした辺りから、周りの妖怪の空気に重圧を感じていた。


俺は知っていたが、間違ってはない気がして、わざと話を逸さなかった。


まあ、俺も同罪な気がするから言い逃れはできねえけどな。


妖怪の視線がキツい。でも、一向に襲ってくる気配はないし、俺が見渡すと誰もが俺から目を逸らす。

「そっか…こいつら、俺の加護を見てビビってるんだな」

「えっ?加護ってそう言うものなの⁉︎」

九華が拍子抜けた声で俺を見る。

「あんたが驚いてどうするんだ。多分だが、俺は雪姫と來嘛羅からの加護があるから恐れてるんだよ」

妖怪から授かる秘術の加護は、加護を与える妖怪と与えられた人間に深い念がないと成立しない。太古の妖怪となると話は別だが、基本的に普通の妖怪が成せる秘術ではない。

その代わり、人間と妖怪の間で一度成立すれば確固たるものになる。


善なる心で加護を与えれば人間を保護し、妖怪の庇護を受けた人間は妖術に耐性が付き、肉体及び精神面の潜在能力を開花させる。稀にだが、加護がもたらす恩恵は他にもあるだとか。


悪なる心で加護を与える。これは殺意や敵意、恨みなどの負の感情による加護の事をいう。とてもではないが、強制しない限り自ずと加護を与える妖怪はいない。

ただ、この加護がかなり厄介なもので、異能自体に脅威的な力を与えてしまう効力がある。俺が秋水に勝ったのは実は奇跡だったらしく、《王》という異能を秋水が使い熟せていなかったことが原因だと來嘛羅が俺に言った。


異能を使い熟すのなら100年は普通に要するみたいで、秋水の野郎の異能はかなり特殊で複雑だったらしい。人を支配するにも条件があって、触れれば勝ちというわけではなかったという。

加護を受けた人間には効かない異能で、俺が秋水に支配されなかったのも來嘛羅と雪姫の加護のお陰みたい。

まあ、人間界あっちでは『雪女ユキオンナ』と『九尾狐キュウビキツネ』は現代でも日本じゃ有名過ぎるからな。伝承があまりにも強過ぎたからなんだろう。

俺は運で救われたっていう事だ。釈然としないが、妖怪との恋仲を実現できるのなら俺は受け入れられる。

それでも、閻魔大王の加護や他の妖怪の加護を受けた秋水は化け物だったらしく、俺が一人で挑んだ事は自殺行為だと指摘された。


俺の異能、というか能力は《名》って……あんまりピンとこねえ能力名なまえだな。

呼び方を変えたい。ま、今じゃなくても問題ねえよな。




話題も盛り上がり、全員が何かと自分を曝け出すようになった。

特に、悟美は自分を誇示したいのか、妙なテンションだった。

「あー早く遊びたいな〜!」

「テメェはもう遊んでるだろーが!」

「だって〜この都市まちに強い人がいないもん!この前襲ってくれる人が居たのに、誰かさんが始末しちゃったせいで飽きてきたわ!」

「たくよー。テメェーだよ幸助!軍服女とテメェーの妖怪の仕業で、敵が来ねえじゃねえかよ‼︎」

退屈な悟美と苛々する分華。

この二人は退屈を嫌う点では似てるな。性格は折り合わないが。

「文句言わないでくれよな?雪姫は何も関わってねえし、誰も襲って来ねえじゃねえかよ。別に襲われるのが好きならあんただけ襲われれば良いだろ?」

「あぁ⁉︎テメェーふざけてんのか⁉︎俺だけじゃ死ぬだろうが!」

勝手だろそんなもん。と俺は言える立場だが、取り敢えず分華に聞いてみる。

「妖怪に勝てないのかよ?てか、秋水の時は強かったのに、今は弱えよな?」

『サーラメーヤ』の加護を受けていた双子の縛りは來嘛羅によって破棄され、新たに來嘛羅の庇護下へ入った。

だが、俺と双子での加護には大きな違いがあった。

俺に対しては紛れもない寵愛によってその身は加護され、太古の妖怪と呼ばれる妖怪を除いた者からの妖術を跳ね除ける。そして、俺の身体能力と知覚は大幅に向上している。


しかし、双子は妖怪からの妖術は跳ね除けるものの、肉体能力は大幅に下がったそうだ。

加護は自由自在に、來嘛羅なら容易く弄れると言う。

その為、今のこいつらは俺よりも圧倒的に弱くなってるわけだ。




だから、物理的に殺されることなどなれば……。




俺達が話しながら歩いていると、五人組の男一人が紗夜にぶつかってきた。


「ってえなぁ‼︎俺にぶつかんなよクソ女‼︎」


紗夜が持っていた飲み物が派手に溢れる。

「あっ…あぁ…‼︎私の…お茶が……」

余程ショックだったのか、泣き始める紗夜。

男はわざとぶつかってきた。誰からも分かるような酷いぶつかり方だった。

そして、運悪くぶつかってきた男の服を汚してしまった。


「おいクソ女!お前が前見ねえせいで、俺の服が台無しになっちまったぜ?弁償、しろよな?」


如何にもヤンキーっぽい服装の五人なこと。そして態度もウザい。

「あ……私…ちゃ、ちゃんと避けました…」

「あっ⁉︎聞こえねーんだよ‼︎」

紗夜の胸ぐらを掴み、男は激しく揺らす。

分華が止めに入る。

「やめろよテメェら!コイツに手を出しやがって!タダで済むと思うなよ⁉︎」

「なんだお前はよー?あー?罪人がふざけてんのか?口を開くんじゃねえぞ?死にてえのか?」

「テメェらこそ、ソイツを離しやがれ。怖がってるんじゃねえかよ⁉︎」

堂々と止めに入ったはいいものの、分華は凄く震えていた。

すると、他の男は隠し持っていた拳銃を見せつけてきた。

「大人しくしろよ?こいつがどうなってもいいなら構わないがな?」

捕まえた紗夜に銃を突き付ける。

紗夜は震え、凄く怖がっていた。

「さ…悟美ちゃん…」

もがけば撃たれる。紗夜は理解しているのか、声だけ発して動こうとしない。

紗夜が動けない事をいい事に、男達は周りに威嚇し始める。

「この女に近付くなよ?この銃は特殊でな?『魔弾の射手』様によって作られた殺戮兵器なんだぜ?撃たれたものは確実に死ぬ代物だ」

マジかよ……。

伝承は薄いが、ある程度有名な銃の妖怪の名をがいるとは知らないぞ。

そして、こいつらには加護がある。

実力は俺の方が上だが、紗夜が巻き込まれたとなれば話は別だ。

紗夜は俺的には弱いと思っている。撃たれたら殺されるに違いない。




俺が動けないでいると、悟美が臆する事なく男達の方へ歩いて行く。

「っ?動くな!こいつがどうなっても良いのか⁉︎」

男は警告する。

しかし、悟美は歩むのを止めない。

「シシシッ!銃がなんだっていうの?ただのコケ脅しにしか思えない武器だわ。ねえ?その武器で妹みたいに可愛がっている紗夜をどうするつもりかしら?」

笑いを見せている悟美だが、異常なまでに男を睨んでいた。

怒っているのか、ただウザいのか。なんでその目をしているのかは分からない。

ただ、悟美から感じる不穏オーラはいつもの狂気とは違う。

「そんなもん。こいつには服を汚した罪を償わせて貰う。なんせ、前あった服屋は潰れちまって、同じ服がないものだからな」

「じゃあ洗濯しちゃえば?そうすれば問題ないでしょ?」

悟美は正論を言う。

しかし、ヤンキー達が大人しく頷くわけがない。

「洗って済むなら警察いらねえんだよ!此処は俺達人間の町だ。俺達に逆らうなら殺すぞ?」

「へぇ〜殺すね〜?その言葉の意味、貴方は知ってるの?」

「ああ知ってるとも!死ねば何もかもなくなるって事だよ‼︎」

パァン!と乾いた音がする。

悟美がよろっと足元がふらつく。

街中で撃った音は人々に響き、多くの者が逃げて行く。


「馬鹿め、こいつ避けずに受けたぜ⁉︎」

弾は直撃。悟美でも『魔弾の射手』の妖術の籠った威力を受けたら一溜まりもない。


「シシシシッ‼︎これが銃の感覚……ね?シシシッ!ふにゃっとして気持ち悪いかしら?」

よろけていた筈の悟美は体勢を戻し、笑いながら弾の感触を言った。

「なぁっ⁉︎死ななかったのか…⁉︎」

ヤンキー達は全員してたじろぐ。

面白い光景だが、悟美の恐ろしさが勝り、それどころではなかった。

「だって、こんな程度の武器が貴方達の武器なんでしょ?飛び道具がお好きだなんて、随分面白くない遊びしか知らないのね?」

悟美は再びヤンキー達の方へ歩む。

「く…来るなぁ!来たらこの女を殺す‼︎」

「殺す?何言ってるのかしら?貴方達ゴミでは紗夜は倒せないわ。私一人で十分だわ〜」

悟美は口に含んだ何かを鉄砲のように噴いた。

音もなく、一瞬何が起きたのか理解出来なかった。

しかし、男が叫び出し、その事態を瞬時に理解する。

「がぁ…あああああっっーーー‼︎腕が…腕がああっーーー‼︎」

銃を突き付けていた男の左腕は吹き飛び、銃と一緒に腕が落ちた。

悟美は弾丸を口で受け止め、口に含んだ弾丸を肺活量だけで吹き飛ばしたのだ。


まるで暗殺者みたいな神業だな。


他のヤンキー達は悟美に怒号をぶつける。

「何してくれたんだ‼︎大怪我させやがって‼︎」

「貴様っ‼︎タダで済むと思うなよゴミ女が!」

「まずは腕を斬り落とし、足ももいでやる。それから荒野に捨てて妖怪にでも食わせてやろうか⁉︎んあぁっ⁉︎舐めてると殺すぞ‼︎」

他の四人も拳銃を取り出す。躊躇いもなく、俺達へ数十発の弾丸を発砲する。

俺は刀剣を握り、攻撃に備える。

だが、俺は『未来視』で視た。

必要ないと分かり、構えるだけにした。

悟美が三節棍で弾丸を全て弾き、誰も被弾しなかった。

「弱いわ。でも、銃の腕だけはあるのね?こんな武器に怯む私に見えたかしら?」

悟美の身体能力は正直に言って、かなりぶっ飛んでいる。

俺が雪姫と來嘛羅から加護を受けていた時ですら勝てなかった。

逆に聞きたい事といえば、秋水の奴が現れた時に悟美が暴れていたら、間違いなく悟美が全員終わらせていたかという事を聞きたい。




「な、なぁ…提案があるんだ。俺らを見逃してくれねえか?服の事は無かった事に、だな⁉︎」

悟美の恐ろしさを理解したヤンキー達の態度が一変。謝る姿勢を見せ、その場から立ち去ろうとする。

しかし、奴らは触れちゃいけない禁忌を犯したんだ。

悟美からは逃げられねえよ。

悟美は落ちた腕を拾い、それを見せびらかすように狂気に笑みをする。

「ねえねえ〜?腕取れて痛みはあるかしら〜?この世界なら簡単にくっつくし、治療すれば後遺症なく使えるよね?この腕、返して欲しいかしら〜?」

「か、返してくれよ!こいつの腕だからさ?」

「じゃあさ……なんで紗夜を返そうとしなかったのかしら?」

「っ‼︎」

ヤンキー達は悟美を見て、人間ではないと悟った。

悟美の声のトーンが反転したように、邪険で冷酷な態度を見せた。

普段のテンションとは違い、見ているこっちまでが萎縮してしまう。

「だって、ゴミ共は私の妹にいちゃもん付けて銃を突き付けたでしょ?そしたらこっちにもその権利はあるわ。この腕がなければ、再生の異能を持たない人間は治療しても腕がないままだもの」

倫理観が崩壊してる。

だが、俺達全員が口を出せる雰囲気ではなく、悟美はただヤンキー達に邪険を向ける。

「何言ってんだよ⁉︎もう返しただろうが‼︎」

男一人はいつの間に戻った紗夜を指差す。震え、自分達はもうやったないと一点張り。

「返した?へぇー返したのね〜?貴方達は紗夜を返してくれたの〜?それだったらそっちは用はないのね?」

怪しく笑う。

ヤンキー達はホッとしたのか、悟美に近付いて腕を返して貰おうとする。


しかし腕は返して貰えない。紗夜は不敵に笑う。

「じゃあさ〜後は私が好きにやって良いのね!」

「えっ…がぁっ‼︎あああああ‼︎」

近付いた男の顔面を鷲掴みし、ミシミシと音を鳴らす。

ヤンキー達は必死に叫ぶが、悟美には一切聞こえない。それどころか、悟美の顔が紅潮し始め、美味しそうな食べ物を見るような嬉々とした表情を見せる。

「もう遊ばないのでしょ?紗夜と遊ぶの飽きたならさ、私が思いっきり遊んであげるから!シシシッ、あんなもの私の前でされちゃうと興奮しちゃうじゃ〜ん⁉︎ゴミ共が悪いのよ?私が誰かも知らないで揶揄って、そんな危険な武器まで見せつけられちゃって……えへへ、退屈してたから遊んであげるわ!気が済むまで、ね?」

「あああああっっーーー‼︎」

町に悲鳴が響く。誰も止める者はおらず、悟美の独壇場となる。

「頭って意外と脆いらしいわよ?まだ一割も力入れてないけど、私が本気出したら卵みたいに割れるかも知れないわ。でも……やっぱりこの悲鳴が心地良いわ‼︎ねえ?もっと叫んで欲しいわ〜⁉︎男なんだし、叫ぶだけは男前でいいわね⁉︎逃げられないのに逃げようと踠く姿は見ていて愉快だわ!」

「離じてくだヒャぃ…離じぇ……」

「え〜?男が泣いてる姿も惨めで心が踊るわ!でも、叫んでいる姿の方が興奮するから、少し力入れるね?」

そう言うと、悟美は掴んでいる男の頭蓋骨が割れるんじゃないかの勢いで力を入れた。

男は今までにない断末魔のように叫び、痛みに絶叫する。

「ギャァァァァァァァッッーーー!!」

数秒でそれは終わるが、悟美は満足したように邪悪に笑う。

「えへへ!ゾクゾクしたわ〜‼︎気を失っちゃったみたいだから……シシシッ!次は四人が遊んでくれるかしら〜⁉︎」

敵のような無慈悲で狂人。

ヤンキー達は、悟美の異常性に震え上がり、脱兎の如く逃亡を図る。


「シシシッ‼︎逃げられないわよ〜?」


ハンターに狙われた獲物は逃げられない。

悟美に目を付けられた存在は、悟美から逃げる事は出来ない。


信じられるか?こいつ、これから俺と旅する奴だぞ?

信じたくないが、こんな危険な奴を隣で歩かなきゃならない。


人選……変えて貰いたい。


俺はそう心の中で強く願った。




翌日、雪姫から再度小遣いを貰い、宿屋を出て行く。

「幸助。もう少し使うお金を考えなさい。このままだと、持ち手がなくなる」

毎日一円渡してくれる。それに文句は言わないが、今日は少し嫌な表情をしていた。

どうやら、毎日渡していると旅への備えがなくなるらしい。

ちなみに、俺に妖界について教えてくれた無名からは、かなりの金銭を貰っていた。


この世界の値段に換算すると約一万円。


で、これを俺がいた世界に変えると、約二億だった……。




……可笑しいだろ?

つまり、異世界ボーナスは刀剣だけじゃなく、この重いお金だったのだ。

無名が俺に躊躇いなく金銭を渡した事実を改めて理解すると怖くなってくる。

使って大丈夫だろうか……?


その為、俺は僅かだけ使って、次会った時に返すつもりだ。

会える日が楽しみで仕方がない。


「大丈夫だって!雪姫の懐だけでやりくりしなくて良いからさ、俺の財布から出しても」

「それは駄目。そうやって、自分で稼いだ金銭じゃないのは当たり前に使わないこと。幸助も自重しているから気には留めてなかったけど、無名という妖怪から貰ったものに溺れないで欲しい。金がすべて…そんな馬鹿な考えを持たないで欲しい」

「いや、俺そんなに金持ってても使えるかよ。大体、死ぬのがいつなのかも知れねえんだし。永遠に死なないなら、その金はその時に使えば良いだろ?」

会えなければ使ってしまおう。これは俺にくれた物だから、大事には使わせては貰うけど。

ただ、持ち主が現れたらキチンと返す。それが俺のルールだしな。

「そうね……幸助がちゃんと金銭にしっかりしているなら咎めない。今日も話…聞かせてね?」

氷のような笑み。

だが、それは俺の話を楽しみにしてくれている笑み。

思い勝手だが、雪姫は俺の話を真剣に聞き、明日へのアドバイスなんかもしてくれた。

その教えは立派なもので、俺は見習いたかった。

残念ながら、20日間で教えを実践出来る機会などないがな……。




烏天狗と女天狗も毎回話を聞き、頭を悩まされていた。

「やってしまったか……悟美よ」

大きく溜息を吐き、烏天狗は頭を抱えた。

それに対し、悟美は嬉しそうに照れて答える。

「えっへへ!襲ってきたんだから仕方がなかったわ。でも、殺してないから大丈夫よ?」

「そういう問題ではないだろ……全く、貴様の常識は年々増して、本当に狂っているな」

「ありがとう!」

「褒めてないぞ!」

笑う悟美に怒鳴る烏天狗。

悟美の行動に口をするが、止まることがない。

止める術がなく、自分達ではどうしようもできない。

「紗夜ちゃん、貴女は止めようとしなかったの?」

女天狗は悟美にしがみつく紗夜に聞いた。

実力は他の者には大きな差があると誤認し、悟美が恐ろしいと呟く。

だが、身体能力が悟美の方が優れていても、肝心な異能は紗夜の方が驚異的なのだ。その力の鱗片を知る烏天狗達は紗夜を頼りにしている。

だが紗夜は、悟美を抑えられる力があるのだが、殆ど使おうとしない。

悟美が脱走した時のみ、紗夜は動く。

「楽しそうな悟美ちゃん…見てると楽しくてぇ……」

「アレが楽しい……?どう見ても私刑でしょ?」

「ち、違うんです‼︎私を助けてくれた姿がか、カッコよくて…。私が悟美ちゃんに守られているのが……その温もりを味わえて楽しかったんです…」

声が上がったり下がったり繰り返すが、女天狗は紗夜が嬉しそうに話していると理解する。


注意しなければと、母親らしく叱る事を覚悟する。

「楽しかったのはワタクシも良かっと思う。紗夜ちゃんと悟美ちゃんの幸せに口は挟みたくはない。ですが……アレはやり過ぎです。悟美ちゃんが襲った男達には昨日お詫びの品を贈りに行ってきました。そしたら、貴女が襲った人は人間ではなかったのですよ?『ならず者』でした。どうしてくれるのですか……また仕返ししに行くと激怒されてました」


『ならず者』は妖怪名としては薄い。しかし、悪党と意味合いが強く、人間が密かにその名称を恐れた事で生まれた妖怪である。

言葉の概念から生まれる妖怪はこの世界には多く、大抵は低級の強さしかない。

だが、稀に恐ろしい妖怪が生まれてしまうことがある。

この世界で恐ろしいのは、人間界の噂や伝承だけが妖怪を生み出すのではなく、妖界で噂になった事も反映されてしまう。


ほんの些細な一言や妄想で妖怪は生まれてしまう。


現代において、それが容易く生まれてしまい、多くの妖怪が生まれてしまった。

一度生まれてしまえば、その存在が忘れ去られるまで転生を繰り返す。

そして、言葉の概念から生まれた妖怪などは純妖であるが故、死んでも記憶を保持し続ける。

恨みを持てば、その恨みを晴らすまで地の果てまで追う事があるという。

「大丈夫だわ。その時は吹き飛ばせば。理由が有れば何したって文句はないでしょ〜?」

「……もう良いです。悟美ちゃんに話しても聞いてくれないよね…」

諦め、紗夜に頼ろうとするが、同種であると思い出し、口にするのが可笑しくなってきた。

それに、愛情を込めて育てた二人に怒る気が起きないのが本音だった。

好きであるが故に、烏天狗達は彼女達を叱りつける事に躊躇してしまう。

「はぁ……俺の教育方針が悪かったか…」

「そんな事……ええそうですね。烏天狗とワタクシが幼少期に見せてしまった粗暴が原因なのですから。人間の変化とは遅いものですが、一度染まれば……それも悪い方向にいかなければ良いんですが。仕方がありませんよ」

「…だな。二人とも、自分から人様に迷惑をかけるなよ?それだけは守ってくれ」

止めても仕方がない。烏天狗達は彼女達が間違った感性を持たないようにと、無駄だと承知して念を押す。

「シシシッ、それなら心配要らないわ!襲って来なければ手は出さないから〜。でも、どうしても我慢出来なくなった時は物にぶつかるけど」

「やめなさい悟美。そんな危なっかしい行動は慎め。良いか?あの小僧に恋心でも抱いてみろ?即刻、奴の首を刎ねてやる!」

「何言ってるのかしら〜?そんなのないない。私に恋愛なんか要らないわ。別に楽しければそれで良いからね!」

100年の年月があるというのに、悟美は恋心を抱くきっかけがない。

そもそも、覚醒者となってからそんな情欲を抱く事など一切なくなっている。

ただ赴くままに感情と身を委ね、悟美は不規則に行動する。




烏天狗達は心配になり、雪姫と共に毎度様子を窺う。

「雪女よ、貴様の小僧は大丈夫なのか?」

「なに?小僧ではなく、幸助と呼んで。で…幸助がどうしたの?」

「貴様のところはその…逢瀬おうせに詳しいのか?」

気不味そうに聞く。

烏天狗は口では文句を言うが、内心は悟美達が心配で堪らない。

「そうね……幸助はこの世界で初めての事みたい。でも、幸助自身は交流会を逢瀬おうせとは思っていない。多分、友人と遊び歩くような感覚ね」

「っ…そ、そうか。聞いた俺が悪かった」

内心は複雑だった。

男遊びを覚えた彼女達を見たいとは思えず、男との付き合いを知った彼女達が良い方向へ変わるのではという淡い期待があった。

かと言って、幸助という人物に唆されているのではという警戒心がある。

身内に甘いが、他人である幸助を強く警戒するのは当然。

「烏天狗、あなたの二人…恐ろしく異常ね。幸助の方が振り回されている」

「失礼なっ!俺の娘達を異常と罵るなよ雪女!貴様に比べれば悟美達の方が断然優れておるわ!異常と次言えばその首を刎ねてやるぞ‼︎」

雪姫の失言に強い怒りを露わにする烏天狗。

失言をしたとは思わない雪姫は睨む。

「刎ねる?自分の子供を甘やかし、その異常さを普通と見るあなたの私観こそが可笑しい。その価値観は彼女達を苦しめてしまう」

「なんだと⁉︎」

言い合いは止まらない。

この二人は自分が加護を与えた人間になると感情が感化される。

逆に言えば、それほど幸助達を想う気持ちがあるとも捉えられる。

その傍で幸助達の動向を観察する女天狗はやるせない思いだった。

(大丈夫でしょうか……。このまま、悟美ちゃん達の観察だけで)

自分達は陰で観察だけで良いのか?

もしも、幸助達に火の粉が降り注ぐ事が起きたりすれば大変な事になるのでは?

心配が止まず、ただ心配が募るばかり。

黙って見届ける20日間は、彼らには苦痛でしかなかった。




そして、彼らの心配は的中してしまうのであった。

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