四十二話 交流会開始
投稿はなるべく空けないように頑張ります!ただ、やっぱり気分もあるのでなるべく努力します。
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4日間は雪姫と來嘛羅に特訓を受けさせて貰った。
特に進展があるわけではないが、俺にとっては充実したものだった。
放浪の旅で経験を積むという考えも良かったが、現実的に見ればそれは唾棄すべきものだった。
「お主は創作を思い浮かべてあるようじゃが、ちとは狭間を弁えるのじゃ」
「狭間?」
「境界線のことじゃ。現実と夢を混合させてしまえば一握りの命じゃ、容易く奪われてしまう。じゃから妾が教えられる事を叩き込んでやろうという腹じゃ!」
現実を明確にして口にしてくれる。希望的な思考をするよりかは楽で、つい來嘛羅の説教ですら嬉しく思ってしまう。
あと2ヶ月もないんだ。出来るだけ、來嘛羅とのいれる時間を確保したい。それが本音であり、思う存分にこの時間によがりたい。
「うむ?お主、何故笑っておるのじゃ?」
気付いたら心の底から笑っている自分がいた。無意識に來嘛羅といるだけで曝け出せる感情がある。一喜一憂すらも一緒にいるというだけで自然と出来る。
「だってよ、あんたといると幸せなんだよ!向こうにいる時より楽しいって思えて、俺生きてるって実感出来るんだ!あんなに認められない世界より、こうして來嘛羅の側にいられて妖術も教えてくれて、それに妖怪のことも少しは理解できた気もするんだぜ?会って会話するだけでも楽しいんだ!」
本音を隠す必要はない。俺の気持ちも素直に吐き出せる。
『九尾狐』にしかこんな気持ちは吐露出来ない。純粋に吐き出すなんて初対面の相手には出来ないと言うぐらいだし、俺が彼女の美貌や伝承に惹かれて陶酔してるって分かる。
けど、自分を曝け出すのは悪くないと今は思う。
ただ……來嘛羅が『玉藻前』じゃなかったのが残念に思うよ。
來嘛羅が俺にある提案をする。
「幸助殿。近いうちにお主が求める物を与えようと思うのじゃが、受け入れてくれるか?」
「もちろん!早めがいいな、数ヶ月後にはいなくなっちまうし」
「吉報を待つのじゃな」
俺を気遣い、ある話しを持ちかけてくれることになったのは、その翌日であった。
來嘛羅は俺にある話を持ち込んできた。
「幸助殿。お主に良い交流話がある。決して悪いものじゃないから安心せよ」
上機嫌な様子だな。何か面白そうな話だな。
しかし、來嘛羅の信じられない言葉を耳にする。
「明日より20日程、お主には今回の放浪旅に参加する新城悟美と十六夜紗夜と親交を深める機会を与える」
「……はい?」
突然の呼び出しで期待したのが地に堕ちた気分になった。
「共に戦った者との親睦は必要じゃ。お主とあの者との仲が険悪では旅も務まらぬ。それでは心が気休めぬ。特訓だけでは体が悲鳴を上げるぞ?暫しは妖都を探索し、娯楽に打ち込むのもどうじゃ?妾が既に手配をしたから心ゆくまであの者と戯れるがよい」
「いやいやいや!なんであいつらと親睦深めんだ⁉︎ってか、俺は一刻も早く強くなりてえんだよ!別に交流なら戦闘訓練とかでも出来るだろ」
俺は別に大丈夫な気がする。
來嘛羅と出会った時だって1日で打ち解けたし、雪姫の時だってすんなりといけた。
それに俺には休めない理由がある。
來嘛羅との時間を大事にしたい。妖都を離れるまではなるべく時間を過ごしたい。
下心はないし、來嘛羅との特訓で力を付けたい。“三妖魔”の恐ろしさを知ったからこそ、俺は命を張れるようにメンタルや妖術の精度を鍛えときたい。
だが、來嘛羅は俺の気持ちとは違う言い分だった。
「お主は人との交流があまりに避け過ぎておる。妾や雪姫だけでは知見もなくなってしまっておる。秋水や名妓の醜さがお主の嫌な感情として根付いておるじゃろ?」
「アレはちょっと…な。凶悪な奴らだったな」
俺は妖都を征服しようとした奴らを心の底から許せる気がしない。妖怪を蔑ろにした奴らに怒りを感じたしな。
「彼奴らは無事に地獄へ堕ちたのじゃ。それに妖都も既に再建し終わっておる」
この世界の都市や町の再建速度は異常な程の速さで行われる。來嘛羅が手を加えれば1日もかからない。
俺がその現場を見た時は神の所業を見ている錯覚だった。
「でもな、分華と九華が烏天狗の元で修行してるんだろ?俺もそれで良かったんだけど…」
「駄目じゃ。お主のことじゃ、妾と共に時間を過ごしたいと申すのじゃろ?」
はっきり言われた。かと思えば、俺の両手を來嘛羅に掴まれ、慈愛のように微笑んだ。
「放浪の旅が終われば全ては終わる。お主が人間との交流をしてくれると妾も安心するのじゃ。お主が旅の前に消耗しておる姿を妾は見とうない。妾の願いとして聞き入れてくれぬか?」
やっぱ來嘛羅は俺を見てくれているんだ。
俺の肩の荷が下りたのを感じる。
「分かったぜ。來嘛羅がそれで安心するんだったら悟美達と付き合ってくる。その後は特訓に付き合ってくれよな?」
「フッフッフ、それを聞けて妾も安心じゃ。交流は明朝からじゃ。今日は休息し、明日に備えておくのじゃな」
來嘛羅はそう言い残し、いつの間にか俺は結界の外に飛ばされていた。
「今日はあれで終わりか……もうちょい居たかったな〜」
名残惜しい気持ちを残したまま、俺は仕方がなく雪姫がいる宿屋へ戻った。
一方、悟美と紗夜も烏天狗達から交流について告げられる。
「ええっ⁉︎嘘…!なんであんな男の人とですか⁉︎」
紗夜は猛反発していた。
「すまんが、二人はあの小僧と20日間は一緒に過ごしてという命を來嘛羅様から託されたんだ。嫌だとは思うが辛抱してくれ」
太古の妖怪の命令といっても渋ってしまう。
愛情を込めて育てた二人を男に差し出す真似など出来ないのだ。
そう、悟美と紗夜は異性の人間との接点があまりにもなかったのだ。
戦闘時や探索以外は結界の外に出ることがなく、結界内で100年以上も過ごしている。世間知らずではなくとも、他人慣れをしていない。
悟美は時偶に脱走し、服屋や気分転換に村落まで一人走りで向かうことがある。
その都度、紗夜によって無理やり戻される羽目になっている。
紗夜は外を嫌い、心許した者以外を嫌う。悟美より年下であり、何かと悟美にだけは心許している。
それを危惧した來嘛羅と女天狗は、交流を深めるという理由で、20日間という時間を設け、今回の発案に至る。
「む、無理です!わ、わわ私、あの人嫌いです‼︎」
「うっ、確かに」
両者の食い違いがあっても幸助をよく思わない二人。
紗夜は幸助を嫌と首を振る。
悟美は違う。
「ねえ紗夜?私は大丈夫だと思うわ」
「悟美ちゃん…?」
「あの人は紗夜には怖い人なのかも知れない。けどね、悪い人じゃないわ。不束者の私でも邪悪な存在じゃないって言える。勘かしらね?」
悟美は余裕ある態度で紗夜の疑心を解く。
二人は本物の姉妹ではないが、人間界ではまずあり得ない時間を妖界で共にしている。
信頼力は本物の姉妹には劣らない。悟美は紗夜の不安に気付き、それを取り除いてあげる。
「でも…幸助っていう人は私…」
悟美も紗夜が嫌がる理由を知っている。
「苦手でしょ?でも大丈夫だわ。貴女は“アレ”がない人が最も天敵なんでしょ?幸助君はそれに該当する人で、紗夜とは相反する人。怖がるは怖がるわね」
「あんな人見たことないです。わ…私は嫌、とにかく嫌です!あの人見た瞬間分かっちゃったの……。なんで持ってないのですか⁉︎」
震える声に似合わず声が大きく、近くで寄り添う悟美もニヤつきながら耳を押さえている。
「も〜大き過ぎるわ紗夜。そんな大きい声だと楽しくなっちゃう。シシシッ、良いわ。20日間は私の影に隠れちゃえば?そうすれば、貴女は怖がらずに済むでしょ?」
「悟美ちゃん‼︎ありがとう!」
目を輝かして喜ぶ紗夜。しかし、そこに女天狗がつっこむ。
「紗夜ちゃん、それは流石に駄目よ。ワタクシが來嘛羅様に懇願してお願いした行事なんだから。文句言わずに親睦深めて頂戴!」
紗夜の内心は奈落へ落とされる。
「うわあああーん‼︎女天狗がイタズラしてくるよ〜‼︎」
「あーあ〜また不安定だわ。しょうがないかしら〜?よしよし…」
泣きつく紗夜を悟美が頭を撫でてあやす。
「悟美ちゃんがまたあやしちゃって…。あまり甘やかすと紗夜ちゃんが離れなくなっちゃうから気を付けなさい」
「またこの下りを見せられるか。紗夜は成長しないものなのか…」
女天狗が甘い注意をする横で烏天狗は溜息を吐く。
「悟美ちゃんがやっぱり落ち着きます!もっと撫でて下さい‼︎」
紗夜は一度甘え出すと止まらなくなる。
情緒不安定で臆病な性格であるが、悟美はそんな彼女を心地良く受け入れている。
悟美の為ならば、如何なる危険地にも共に向かうほど、その行動力は大胆となる。
悟美は紗夜と違って積極性があり、残虐性や狂気を好む。それ故、人間や妖怪の討伐を言い渡されても素直に応じ、全てを遊びと認識している。
とても二人の相性が良いとは言えない。
しかし、それは長年過ごした月日以外にもある関係があった。
10分撫で続け、悟美は飽きてきた。
「ねえ女天狗?今回の親睦だけど、私だけで良いかしら?」
「それは駄目よ悟美ちゃん。來嘛羅様が最終的に取り決めた事なの。簡単に断れるものじゃありません」
「分かったわ。私が紗夜を納得させてみるわ」
尚、悟美は優先順位という概念は持ち合わせていない。
來嘛羅との『契り』を結んだ身として果たすのではなく、自己快楽の為に紗夜を説得させる。
「ねえ紗夜?私の我儘良いかしら〜?」
「ん…なに?」
「幸助君と交流しましょ?」
「……嫌です」
やはり同じ反応をする紗夜。悟美は少し悪戯をしようと思った。
「どうしても駄目?」
「無理です……」
「そう……」
何を思ったのか、悟美は笑顔で紗夜を強く抱きしめる。それに反応して、紗夜は嬉しそうに顔を緩める。
悟美が不敵に笑う。
「シシシッ!痛いわよ」
「ふえっ?」
柔軟に体を捻りながら抱きついたまま飛び蹴り、背後に反り投げる。それも、自分の体ごと。
一切の警戒をしていなかった紗夜からすれば、これほど怖い事はないだろう。
机に向かって二人とも頭を思いっきり強打し、机が大破する。
「悟美ちゃん⁉︎」
声を掛けたのが遅かった。痛みで紗夜は動けず、悟美はそんな紗夜を面白がりながら満面な笑みで笑う。
「シシシシッ‼︎やっぱりこれじゃないと言うこと聞かないわよね〜?えへへ、私だって鬱憤溜まるのよ?折角結界から20日間も出れるんだし、楽しまなきゃ。紗夜には悪いけど、今回は付いて来て。来なかったら、どうしちゃおうかしら〜?」
「う…痛いよ」
「痛いでしょ〜?分華っていう人があまりにも弱かったから退屈してたのよ。だから少し晴らせたわ」
紗夜からすれば良い傍迷惑。痛みで今だに動けず、涙を浮かべる。
「私だって紗夜にだけは手荒な真似はしないわ。だけど、言うこと聞かない人はこうしちゃうわよ〜?」
大破した机の脚を持ち、簡単にへし折る。
それを見た紗夜はビクッと体を震わす。
「あは!紗夜が怯えるの可愛いわ〜!さあ言うこと聞きなさい。さもないと、こうやって骨へし折っちゃうかも!シシシッ、は〜や〜くぅ〜!返事しないとやっちゃうわよ?」
悟美に“手加減”という言葉は存在せず、気ままに思ったことを行動に移す。
この性格に至った経緯、烏天狗達の気性の粗さが原因にあり、元々あった狂気じみた性格に上乗せされた結果である。
烏天狗と女天狗が気性の粗さを見せないのは、悟美が拾われた頃から自分達の感情のままを見せてしまったのが成長に大きく影響を与え、悟美もそれに伴い我儘になっていった。
少年期に見られる反抗期というのとは異なり、従順であるが、自分の気に入らないものや気に入ったものにその性格は大きく表す。
感情が常に興奮状態となり、気が済むまで狂気に笑う。加減などなく、自由気ままに快楽の為に殺戮をするのを厭わない。
《狂乱》も伴い感情は限界を超え、制御不能の狂戦士と化す。
一度狂い出すと歯止めが効かない。烏天狗達はそれを知り、今の温和な性格を取り持っている。刺激をしないように、悟美の前では均衡を保つ。
だからこそ、今楽しげにする悟美を迂闊に刺激することができない。止めようにも止められないでいる。
「紗夜はまだ一度も折ったことないよね〜。そしたら最初に指折ってみる?意外と癖になったりして。それとも、肩からいってみる?分華も凄い叫んでたから楽しいかも!シシシッ、紗夜が行くっていったらやらないわ」
紗夜の答えは当然……。
「い、行きます…うぅ」
泣きながら答えた。
紗夜も痛みには勝てない。
「シシシッ、これで説得できたわ!明日、幸助君と遊べるんだよね?そしたら三節棍が必要かしら〜」
何故武器を?と全員が疑問に思う。
「おい悟美、武器は必要ないと思うが?」
「だって必要でしょ?分華と九華っていう双子も連れて行くんだし」
「なぁっ⁉︎」
悟美の我儘に振り回される烏天狗達は哀れだった。
俺は明朝に起き、支度をする。今日はどっか飯食ったら此処に帰ってこよう。
俺はそんな呑気に考えていた。
「幸助、忘れ物ない?」
「ねえよ。そうだ、俺の現金返してくれよな?」
まだ没収されたままのお金を求める。しかし、俺に頑なに渡そうとしない。
「まだ大金は駄目。また変な物を食べてくるから」
「変な物って魚だけだろうが!いい加減、俺の金銭感覚を疑うんじゃねえよ‼︎」
「……仕方がない。化け狐に言われたことだし、今更覆せないね。20日間は娯楽に打ち込めるぐらいは…」
渋々俺にお金を渡してくれた。しかし、その金額は思った以上に少ない。
「なあ?これ、マジで言ってんのか…?」
渡された金額が可笑しいのだ。
「幸助なら足りるでしょ?」
「巫山戯んなよ‼︎これだけって少ねえーよ‼︎」
俺が貰った金額がどう見ても20日間で足りる気がしない。雪姫が揶揄っていると信じたいぐらいに酷い。
「だって…あなたはつまみ食いするから。回るだけでしょ?そしたらそれで十分だと思った」
「だからってこれは酷いだろ⁉︎一円って何だよ⁉︎20も保たねえよ‼︎」
「贅沢言わない。そもそも、あなたはコレを1日で使い切るつもり?」
「え?」
雪姫は冗談ではなく、俺が勘違いしたみたいだった。
俺が阿呆みたいな顔をすると雪姫が冷たく息を吐く。
「幸助、あなたは何を勘違いしてるの?散財するつもりじゃなさそうだし、超過する金銭は要らない。人の子二人を楽しませるのが今回の目的」
お金の使い方は俺より詳しい。それは紛れもないし、俺より長生きする雪姫なら当然なんだろう。
そういえば、生活にうるさい伝承がなくもないのを思い出した。
子供がいる伝承もあるし、家事育児は厳しいんだろう。
「悟美と紗夜を楽しませるっていうのは出来る気がしねえけど、なるべく頑張るわ」
「幸助!」
雪姫が強く訴える。思わず身が固まる。
怒らせるようなことをまた言っちまったか?
雪は吹雪いていないが、怒っている感じがする。
しかし、雪姫の口からは怒りは出なかった。
「惜しみなく、あなたが1日毎に楽しませなさい」
俺の勘違いはまた続く。
「怒らねえのか?」
「怒る?それは違う。あなたはふた月に至るまでは成人はしない。人の世はそうなのでしょ?」
優しく俺に言ってくれる。まるで姉のようであるが、凄く優しい。
俺は頷く。
「うん…それなら良かった。金銭や人との交流には特に気を付けなさい。化け狐に甘やかされて碌な人間になるのなら、その時は私は黙っていない。幸助は人の世に居たから余計にこっちでは調子狂う時があるかも知れない。ちゃんと二人との交流は親密にしなさい。私には、今日まで人とまともな交流をさせてあげられなかった責任がある。止める理由がない。終わるまでは口を挟まないけどその都度、私に報告をして頂戴」
心配、してるんだな。俺が20歳にならない内に散財する事や人との交流を拒まねえように、俺に肩入れしてくれてるんだ。
それに、俺の今後も危惧してくれてる。
本当に妖怪は優しいな……。
俺は妖怪が誰よりも好きだ。雪姫の冷たい態度も俺を思ってくれている部分がある。
まあ、怖いけどな。
悟美と紗夜は確かに好きじゃないし、積極的に命狙われたし、それにあいつらに対する特別感は全くない。
それに、秋水の奴や名妓だった奴を見たせいで俺の人への興味が失せてきている。
不思議な感覚だぜ。俺は人嫌いになってるんだよ。
平気で俺の命を奪おうとしてきたし、あんな醜い部分を晒してまで人の尊厳を奪おうとしやがった。許せないというかより、俺は人間に失望した。
もしかしたら、俺は妖怪の方が幸せになれたかもな。
「ありがとな雪姫、大事にお金は使わせて貰うぜ」
「それ以上は私もあげられないから大事にしなさい。幸助なら間違いないように使い熟せると思ってる」
「じゃあ飯にしようぜ!」
「うん…後はお味噌…し、る………」
まさか…⁉︎
「おい…この臭いヤバくないか?」
「大変。沸騰させ過ぎた」
雪姫は冷静に言いながらももの凄い速さで台所へ向かった。
一応、宿だから飯出る筈なんだが、雪姫に毎朝作って貰っている。
雪姫曰く、料理の腕を鍛えたいとのことだ。で、俺はその味覚を確かめる審査員みたいになっているわけなんだが、料理の方はまだまだ。
下手くそではないみたいなので、妖都に来てからは僅かに腕は上がってる。
時偶に、凍った生魚が食卓に出てくるのは避けられないが……。
「行ってくる」
「気を付けて幸助」
慣れた挨拶。慣れた足どり。新しくなった妖都の街中を歩く。
來嘛羅が再建に携わったというだけあって胸が高鳴る。
景色は以前より幻想的に見える。常夜だからか、自然とこの景色が俺の中で浸透する。
店も妖怪も町も俺好みの空間じゃねえか。
最高だな。これなら、今日から20日間は楽しめるかもな。
高揚する気分のまま、俺は悟美達が待つとある店に向かう。
目に見えた光景を疑いたい。俺は悪戯を見ていやがるのか?
目の前の奴らを見て、俺はそっと離れたいと思った。
一人、二人…三人……四人いる。
「あ!幸助君〜‼︎」
俺が一番苦手な悟美が笑顔で俺を見つけて手を振りやがる。
「ヒィッ‼︎」
悟美の声に釣られ、俺の姿を見るまでもなく体全体で震える紗夜。
「テメェー遅せぇよ!俺らを待たせんじゃねえよ」
腕を組んで喧嘩売るように壁に寄りかかる分華。
「分華!少しは自重しなさいよ。言える立場じゃないんだから」
「ケッ!九華も物好きだよな?姉ちゃんズラしやがってよ」
「分華‼︎アタシの言うことが聞けないわけ?」
「チッ、荒れ荒れ臭えよ!」
うざがっている分華に対して強気で叱る九華。
俺は何を見せられてるんだ?
「おい悟美、こいつらは何の用件でいやがる?まさか、俺への嫌がらせか⁉︎」
挨拶もなしに、俺は双子がいる理由を聞いた。
悟美は「シシシッ」と笑って悪気ない様子。唯一、俺から視線を逸らしていた紗夜が憐れむような目を向けてきた。
「大丈夫よ?來嘛羅にも許可は貰ったわ。この二人は悪い子じゃない、ただアホなだけの弟さんと賢くて本心を晒せないお姉さんが付いてきただけだわ」
「巫山戯んな女が!俺を小馬鹿にする気か⁉︎あっ⁉︎」
口悪く二人を軽く紹介する悟美。
激情したのは当然分華だ。
胸ぐらを掴み、低い身長で長身の悟美を睨んでいる光景に俺は吹きそうになった。
俺も一回だけ悟美に対してやったけど、掴んだ瞬間に静かに悟った俺が惨めに思ってしまったのは言うまでもない。
「シシシッ!頑張って背伸びしちゃって〜。えっと〜九華だったかしら?この子に痛い目合わせて良いかしら〜?」
悟美は自然に九華に聞く。九華は顔を引き攣る。
「それはちょっとごめん。アンタのやり方で黙らせると死にかねない…。ホント、やめて欲しい」
「え〜じゃあどうすれば良いかしら?」
「ホント…痛い目だけはやめてあげて」
悟美から受けた凄まじい痛みの記憶。來嘛羅によって分華の記憶から抹消されているものの、九華は悟美の恐ろしさを知っている。非常に可哀想な人なんだなと俺は思った。
分華の肩を俺はポンっと叩いて同情する。
「あんた…そいつを怒らせねえ方が身の為だぜ?」
「何言ってんだテメェ?」
「俺より非情だ、ちょっかいは自分を滅ぼすぞ?」
生憎、俺に関する記憶はあるみたいだから、こうして怖がらせるように言えば大人しくなる。
「くっ…テメェより最悪なヤツがいんのかよ⁉︎」
悪態は吐くがまだマシな態度でよかった。
これでもし、悟美に挑むような真似をしたら俺は知らねえ。
「ホッ…」
「シシシッ、歯向かってくれたら面白かったのに」
九華は肩を落として安堵し、悟美は笑いながら悔しそうにしている。
「あ、あの‼︎皆しゃっん‼︎」
突発的に紗夜が声を発したかと思えば変なところで声のトーンが高くなった。俺や双子はびっくりした。一番最初に反応した分華は禁句を言ってしまう。
「変なところで気色悪りぃ声出すんじゃねえぞ女が‼︎」
この場の全員が瞬時に理解した。こいつ死んだなと……。
「ごめんなさい!そ、そういうつもりじゃなくて‼︎」
「ぎゃあぎゃあ喚きやがって!あいつの連れの女で如何にも根暗な野郎だしよ。こんなヤツと一緒にいるヤツがアホらしいな⁉︎」
どうやら性格は簡単に変わる事はないらしい。
口悪いし、紗夜を一方的に口汚くいう分華に生はない気がしたのは俺だけではない。
俺は静かに手を合わせ、分華の安全を拝んだ。
「根暗な女は俺の吐口にすらならね……じゃ…あ……」
全てを悟った分華は可哀想だ。みるみる青ざめていくその顔はトラウマ再発レベルの顔だった。紗夜より分華が可哀想に思えてきた。
「ねえ?紗夜を一方的に虐めて楽しいかしら?」
「あ…あぁ…」
「貴方を虐めて良いよね?虐めるのも虐められるのも楽しいのでしょ?シシシッ」
怖い笑顔がそこにあった。悟美の匙加減でこいつは生死を彷徨う羽目になるんだろうぜ。
口は災いの元と言ったが正にその通りだ。
分華は穏やかではないだろう。諦めたようなちびりそうな顔をしてる。
「さ〜て、私の遊び相手になってくれるかしら〜。交流は様々な形で良いって言われたからまずは……これでいこうかしら?」
紗夜の影から三節棍を取り出す。本気で殺す気に見えるんだが⁉︎
「待て待て悟美。そいつを吹っ飛ばすのは今やめとけよ!折角の交流会も台無しになっちまう」
俺は三節棍を取り出し切る前に止めに入った。
楽しみとか娯楽を何かと勘違いしてる女だ。止めると癇癪起こしそうで怖え。
また悟美が文句でも言うんだろうと思った。
取り出した三節棍をそのまま紗夜の影に落とし、三節棍を手放した。
「んー分かったわ。20日間は大人しくしてれば良いかしら?」
「随分物分かりがいいな。驚いたぜ」
「でしょ?別に今楽しんじゃってもいいけど、20日間は目立ち過ぎないようにって來嘛羅に言われたから。さ、交流会を始めましょ」
仕切り直し、悟美は何事もなかったように振る舞った。
不思議な奴だ。狂人みたいな女が変に理性的だと調子狂うな。
しかし、俺は裏切られる結果を経験する。




