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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
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三十七話 最悪な恥

なるべく話しを纏められるように調整してみます。

刀に貫かれた悟美の顔には死相がない。

それどころか、意気揚々と息を吹き返す。

「シシシッ、言い残すこと?馬鹿みたいだわ」

「ん⁉︎…では、死にたいんだな?」

「殺せるものならね」

瀕死の重傷を食らっても尚、悟美が苦しむ様子はない。可笑しい、そう思わずにいられない。

何食わぬ顔で潰れた心臓は再生し、傷も癒える悟美。

貞信は静かに考える。

(心臓を潰したというのにこの女は生きている。恐らくだが、死の恐怖はないと見た。死の恐怖が稀薄しているか、それともそんなに叡智な女ではないか…)

悟美の治癒能力が異能による影響なのは瞬時に理解する。

それと同時に、悟美は死に怯えたことがないことも理解する。

目を光らせ、その疑問を行動を持って証明する。

「では死というものを味わうが良い…」

膝を曲げ、体の重心を低くする。人間味のある構えをする。

「何かしら〜その構え?」

「黙れ……」

そう呟いたと同時に悟美の背後に立っていた。


この時点で悟美は死んだのも当然だった。


瞬間移動による最速剣技を直接叩き込み、その身で痛みを感じぬ速さで胴体を斬ったからだ。目に止まらぬ速さで両手の肉刀で斬り裂いた威力はダイヤモンドなどの硬度な石質すら斬り飛ばす。

「ワシの道理に反する女など単なる愚か者でしかない。女は戦場に現れるな。女は男のために真底尽くす事こそが定め。貴様は戦場を何も知らない。戦場は死の臭気が漂う決戦場だ。その程度の浮ついた邪心を持つ女は死を持って味わうがいい」

「がはっ‼︎」

咳き込むように大量の血を吐く悟美。

勝負ありと言わんばかりに、貞信は堂々と斬り立つ。


貞信は戦国の世に生まれた人間。それ故、価値観は現代の日本とはかけ離れた男尊女卑の価値観の人物なのである。悟美という戦場を遊び場として楽しんでいるのに激怒し、女という存在は男性の後ろを歩くべき存在と吐き捨てるほど。


感触はあった。死を持ってその事を理解して貰えれば。せめて女らしく、恐怖しながら死ぬことを願って………。


背後で倒れる音がしない。

貞信は見極められなかった。二度目の完全なる敗北を下等する女に知らしめられる。

「ねえ?今凄い速さで動いたかしら?刀以外にこんな面白い居合い不意斬りって凄いわ!もっとやってくれないかしら〜?」

背後からあり得ない声が聞こえた。

大量に血を吐く悟美であるが、頬を赤らめて貞信を紅い瞳で嬉しそうに見つめる。

それを意味するのは即ち、自分のトドメを回避したという事実。

「あり得ない…。貴様、ワシの攻撃をどうやっ—なっ⁉︎いつの間に⁉︎」

貞信は折れた肉刀に驚く。並の力では折れないはずの強度を誇る肉刀を、女の身である力で折ること自体が信じられなかったからだ。

(馬鹿な⁉︎ワシの肉を媒介に生成した刀身だぞ⁉︎)

皮肉とばかりに思っている相手にへし折られた気分は最悪だった。

その表情は悟美に見られてしまった。

「あは!その表情良いわ〜‼︎ねえ?殺したと思った相手がしぶとかった気分はどうかしら〜?私の異能は特殊よ。私自身が死に怯え、死にひれ伏せなければ死なないわ。不思議でしょ?貴方よりも面白い体かも!」

悟美の異能はかなり特殊なのだ。

根源欲という人間本来が持つ欲望であり、人間の本質から由来する異能である。欲が潰えぬ限り、永遠に不死に近い肉体と化し、更なる進化へ至る。


人間の本能である心理に基づき、愛や憎しみ、暴力などが根源として顕現し、その猛威が異能として発揮される。

異能自体がこの世界に準じる人間の本質に近しい程、その異能は格別とした強さを発揮するという。

それに伴い、本人の精神面や肉体に異常な症状をもたらす。

悟美の場合、死を一切恐れず、生にも執着しないが快楽を求める狂人として、異能が成長に伴い定着した。

悟美は幼児の頃に妖界に迷い込んだ。幼い肉体と精神に異能が宿るとなれば、その力は途轍もなく恐ろしいものへと変貌する……。

「私は貴方と遊びに来たの‼︎気分は今最高だわ!早く壊れるまで遊びましょ⁉︎」

「ありえん…ありえん!貴様人間か⁉︎」

悟美は《狂乱》を発動。その肉体は禍々しさを纏い、笑う狂人と化した。

「アッハッハッハッハッハッハ‼︎」

もはや人間の笑いではなかった。笑っている人物が同一人物とは理解できないほど、壊れたように狂気に満ち笑う悟美。

貞信の体は刀の肉体へと変貌し、武具は切り落とされ、身に纏うのは無数の肉刀と化した鋭い刀。弱点すらない鋭い武器とかした体に己が誇る経験値、先程の悟美を相手に対応できるほどの視力と勘。

これほど優れた武人はいないとばかりに最強の武器人間が立ちはだかる。

「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。秋水やが語っていた金言だ。今の主殿は正にその通りだ。ワシからすれば、主殿は本物の狂人。ワシの威厳を蔑ろにされるのは武士の恥。真剣を折った時に気付くべきだったな?主殿はワシと同じ異能を持つ女だと。壊れるまで戯れるというのなら…」

貞信は己の闘気を研ぎ澄ませる。

己の精神を極限まで練り上げ、一時的に火力不足を補える切り札。妖怪との身体能力の差を埋める手段として、研究に研究を重ねた研磨された技術。

人間には異能以外で身体能力を向上させる術が加護にしかない。だが、貞信は加護による身体能力向上を諦めた。

正確に言えば、己の力量と経験でその身を鍛える事で妖怪を圧倒する身体能力フィジカルに辿り着いた。

500年という長い年月で積み重ねた闘気。その積み重ねた闘気は最高峰の技として貞信は披露する。

「この技で一度秋水殿を瀕死に追い込んだ。不意打ちさえなければこのような事態に巻き込まれることも機会も巡らなかった。皮肉なものだ。今、ワシは秋水殿に殺意と共に感謝しようとは……。ワシの全てを賭け、主殿を葬るとしよう‼︎」

貞信は秋水より実力者だった。

30年前、自分を襲ってきた秋水との勝負は圧倒的に実力差があった。負ける要素などなかった。秋水の実力は異能にあって、決して剣術には到底及ばない。そこに敗北という結果は考えられなかった。

強いて言うのなら、秋水が加護を受けたのが閻魔大王だった事が運の尽きだった。秋水を選んだに過ぎず、敗北を決した貞信は敗北した。

もしも、閻魔大王が目を付けていなければ、勝負は貞信の勝利に間違いなかった。


その敗北が脳裏に浮かんだ彼に勝利は訪れない。


瞬足の居合術が炸裂する。一瞬にして十連撃の一撃必殺の斬撃が繰り出す。

額の刀、両腕の刀、肩や膝の刀。それら全てをぶつけた。

この居合術から逃れられる者はいないと自負する貞信。自信や勘などではなく、己の実力で成し遂げたと頷く。

しかし、悟美が倒れる様子はない。

(まさかな…)

瞬速の居合術が届いていないと錯覚してしまった。

否、それは間違っていると、直ぐに気付かされる。

パキパキと氷が割れるような音が体から響く。

居合術に使用した肉刀が全て折れたのだった。

信じられないのはそれだけではない。自分の体が数十箇所に激しく三節棍で打ち込まれた痕がくっきり浮かんでいた。

「アッハッハッハッハ‼︎」

変わらずに笑い続けている悟美。自我は封じられ、単直な動きしかできない《狂乱》では成し得ない芸当。

「何故だ⁉︎ワシの体に損傷を与える芸当。こんなもの…ワシの知るものではない‼︎」

貞信も仰天するほど錯乱する。「あり得ない」と何度も吐き続けながら悟美に居合術を行う。

しかし、その度に肉刀は砕け、貞信の体にダメージを負う。何度も挑むが、貞信のみが傷を負い、精神的に消耗していく。

「何だ⁉︎何なんだこの強さは⁉︎こんな化け物見たことがないぞ⁉︎ワシの剣技を超えるものなどある筈がない‼︎」

体は打たれ、想定外の出来事に流され、貞信の自信は地に堕ちていく。

貞信の剣技に勝る者はいない。それなのに、込み上げる恐怖が止まらない。

武士が恐怖に堕ちた時、その精神は武士ではなくなる。ただ恐怖に怯える人間となる。

しかも、貞信が恐怖したのは化け物ではなく、一人の女に対してであり、屈辱感と絶望感を一気に味わい、存在意義すらも危うくなっている状況まで追い込まれた。

疲弊していく貞信。全ての剣技を放ち続けて1時間。その精神は既に崩壊し始めていた。

「傷が負わせられなくなっている。まさか、進化する異能が本当に…⁉︎」




悟美は笑う。狂喜に笑い快楽に飢える狂人を本気にさせてしまったことを後悔する。

「アッハッハッハッハッハッハ………あ〜やっとだわ!意識ある状態で理解できるわ‼︎」

それは貞信にとって最悪な事態となった。

悟美が自力で《狂乱》を制御した。

「あは!随分ボロボロになったわね〜?どうしちゃったのかしら〜?まだ、遊べるでしょ?」

悟美は不敵に嗤い、怯える貞信に微笑む。悪魔のような笑みを見て、貞信は死を覚悟した。

先程の強い意思が折られた貞信に再起は不可能。初めて尊厳を砕かれ、積年の努力も水の泡になり、生きる理由を失った貞信に勝ち目などなくなった。

「ねえ?どうして震えて怯えてるの?私って怖いかしら?貴方が私を興奮させてくれたお陰で笑ってる時でも意識があったのよ!私の異能は興奮すると意識も覚醒するらしいの!ねえ?もっと遊びましょ‼︎」

追い討ちをかけるように悟美は無邪気に笑いかける。貞信は膝をついて戦意を失う。

「た…頼む。ワシを楽にしてくれ…」

貞信は目の前の悟美に屈服した。

だが、悟美は満足しない。拍子抜けも良いところだとばかりと駄々をごね、貞信に問い詰める。

「やだ。折角、戦国の世を駆け抜けたあなたで遊べるのよ?こんな機会滅多にないし、もっとぐちゃぐちゃにしてあげたいわ。ここでやめたら、待っていた甲斐がなくなっちゃうでしょ?ねえ?來嘛羅が言ってたわ。名妓と秋水、そして貞信は殺して良いって!だから、ね?一緒に遊びましょ?」

悟美にすれば、遊び相手が遊びを止めるというのは癪に触る。身勝手であるが悟美にとっては待ち侘びていた楽しみ。それを阻害することは許されない。

「何故だ…ワシに死を与えろと言ったんだぞ⁉︎それを無視すれば貴様は‼︎」

「え〜?私のこと散々文句言って泣き喚くとか面白いわ‼︎そうだわ!」

悲痛な表情で怒りを吐くが悟美に阻まれる。

悟美は得意げに語る。

「貴方は何が良いかしら〜?まだ遊ぶなら良いけど、私が貴方を全力で殴るか蹴るか…それともこの三節棍で。えへへ〜、楽しみになってきちゃった!」

貞信の表情はみるみる青ざめていく。獰猛な顔付きは恐怖に歪み、口元がガチガチと震える。

「一体……貴様は、何者だ?」

「私?そうね〜。シシシッ!し〜らない‼︎」

武士の命乞いは恥である。自害は生き恥。

生殺与奪を握られた今、貞信が報われる道は閉ざされた。

己を極めた武道すら踏み躙られ、下と認識した女である悟美に命である刀と異能を折られ、恐怖のあまり冷静さを失った貞信の運命は………。

「じゃあいくわよ〜?幸助君が秋水を倒してくれるまで楽しむとするわ。腹から一気にいくから、死なないでね?」

「ギィヤァーーーっっ‼︎」

悟美は快楽を求め、貞信は魂の叫びをする。

狂人と武人は所詮、精神次第で変わるのだ。

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