三十三話 嘘も時には必要
明日はpixivで投稿します。
3日が経過した。亡夜はいつもと変わった様子はないみたいだし、気分転換に外を歩いてみた。
だが、俺が外に出て歩いていると、あからさまに違う光景が俺の目に映った。
俺を見る妖怪達が土下座で出迎えていたんだ。
「なんだよこれは…?」
妖怪達に理由を聞こうと思ったのだが、頭を上げてくれる様子がなく、それどころか震えてやがる。
得体が知れないと思った俺はこの場から去って、雪姫と來嘛羅に聞いてみた。
「なあ、俺が歩くたびに皆んなが頭下げてくるんだ。何かあるのか?祭り事でも始まるのか?」
來嘛羅は俺の話を聞いて考えていた。
「一度、妾が様子を見てみるかの。もしかしたら、只事ではないやも知れぬ」
來嘛羅連れで再度外へ出て行く。
これが間違いだった。
俺がやっぱり来ても土下座が続いていた。しかも、さっきよりも震えが速くなっているようにも見える。
妖怪がここまで震える姿は見たことがねえ。何か、嫌な事でも……。
「幸助……。あなたに加護授けたよね?」
「そうだけど?俺を加護してくれるっていう」
「化け狐の加護あるでしょ?多分、それのせい…」
気難しそうに雪姫は言った。ん?來嘛羅のせい。だと?
「なんで來嘛羅がなんだよ?理由とかは……あっ‼︎」
俺もなんとなく分かった気がする。そうだ、來嘛羅は……。
「九尾狐様‼︎このような粗末な町に足を運んで下さり、恐縮でございます‼︎我々のようなものに何か御用でしょうか?」
「ちょいとな。この町には数日滞在すること許してくれたまえよ。急な故、其方らには迷惑をかけてしまうじゃろう」
「ははっー!」とまるで王に逆らわない意思を示しているようだった。來嘛羅は堂々たる姿でその光景を見下ろす。
「うむ。其方らに気を遣わせる迷惑、すまぬ。この者は妾が加護した故、其方らには恐縮じゃの」
亡夜にいる妖怪達は、太古の妖怪を拝んだことがないが、來嘛羅の神々しさに心が萎縮してすぐに九尾狐だと理解したみたいだ。
「あの…九尾狐様。この町は如何なさいましたか?」
一人の妖怪が声を震わせて聞く。口を聞けない存在だからなのだろうか?この町の評価を聞きたいみたいだな。
來嘛羅は高く飛び、町を見渡す。
俺も少し気になるな。來嘛羅の徳の意が。
ゆっくり地に降り、頭を下げた妖怪達に近付く。その際、妖怪は生きた心地がしなかった。
わざわざ近付いてくるのだ。怒りを買ってしまったのではないかとヒヤヒヤしていたからだ。
太古の妖怪と自分達の隔ては天と地の差がある。気を狂わせれば災禍様さいかさまの名の下に巻き込まれる、と。
目を瞑り、死を覚悟までした。
「素晴らしいのじゃ。良い環境を維持しておる。山河が妖力のみならず自然の恩恵で肥え、建物も従来より質が高くなっておる。これほど心地良い場所は指折り数えられるぞ!」
來嘛羅の評価は絶賛だった。この場に集う妖怪達の震えは消え、安堵の息を漏らす。
「それは!誠なのですか⁉︎」
「嘘は言わぬ。数百数千の町を見尽くしている妾が保証する。この町はいずれは富をもたらす町となろう」
大袈裟に聞こえるかもしれない。だが、太古の妖怪の言葉は口は災いの元となると同時に言い勝ち巧妙ともなる。
災いが起きると言えば起きる。富がもたらされると言えば起きる。他の妖怪は太古の妖怪の言葉を疑いなく信じるのだ。
「随分と晴れた物言いね。化け狐だと崇められるのは当然…みたい」
こちらは随分と態度が冷たいものだ。雪姫は來嘛羅の言葉を丸呑みするつもりはねえみたいだ。
「そうか?來嘛羅が言ってることは合ってる筈だ。俺は信じてるがな!」
「惑わされるのは良くない。幸助、化け狐に惹かれてる。自分で分かってる?」
俺を心配してんのか?惑わされるって言われると……。
「別にいいぜ俺は。來嘛羅に心奪われたのは昔からだからな。好きな妖怪に身も心も奪われるんだったら構わねえよ」
「…本気で言ってるの?幸助…」
「俺がこんな気持ちに嘘吐くわけねえだろ。妖怪好きを舐めるなよ!」
俺は正直に言った。何かに夢中になれるものを見つけられたんだから、そのために頑張りてえんだよ。
妖怪が好きだが、ずば抜けて來嘛羅が好きだ。
「そうだったね。幸助は化け狐に恋をして…」
何処かと物寂しそうな表情を浮かべていた。
「なんか不満か?」
「……そうね」
雪姫の様子が気になったが、俺の背後から背丈を超える尻尾に包まれ、思考がリセットされた。
「嬉しいぞ幸助殿。これはご褒美ではないが妾の尻尾で気を緩めるがよい。明日あすは決戦の時。持つ力をすべて発揮できるようにするのじゃぞ〜?」
言葉よりも尻尾に埋もれた心地よさに浸った。
腹ごしらえをするということで、一度雪姫の住処に戻る。
烏天狗達に料理を振る舞えと、來嘛羅が雪姫に言う。
そして、雪姫は腕によりをかけて魚料理?を振る舞った。
料理を見た烏天狗達の顔は顰めっ面を披露していた。料理を出され、暫しの沈黙で険しさを増す。
「なんだ?このピチピチしているものは?」
烏天狗は苛つきを抑えながら雪姫に問う。
「川魚で作った刺身。生きてるから美味しい筈」
逆に聞く。川魚でどうやって刺身作ったのかが知りたい。生きまくった魚を刺身と呼べるか?
「巫山戯るのも大概にしろ雪女。俺にこんなゲテモノを食わす気か‼︎」
大変お怒りの様子……。雪姫の対応に感服するぜ、逆に。
俺は烏天狗の反応が只事じゃないのを理解し、來嘛羅にそっと聞いた。
「なあ來嘛羅、なんで雪姫に作らせた?あいつらの反応的にヤバいんじゃねえのか?」
「…のうお主よ、逆に問う。何故、雪姫の料理を食えると思うのじゃ?」
「はい?」
「食えるかと申したのじゃ」
ちょっとキツめに同じことを言う來嘛羅。もしかして……。
「やっぱり、あの料理は不味かったか?」
「う、うむ…不味かったの。指折り三本に入るぐらいは…」
「あ…俺の価値観が可笑しいかと思ったぜ。來嘛羅が堂々と生きる存在の方がいいって言ってたから俺が間違ってるかと…」
「すまぬ。アレは立派な嘘じゃ。刺激したら彼奴の冷気で空間が凍土してしまうからの。妾なりの嘘で難を逃れたかったのじゃよ」
來嘛羅曰く、雪姫が怒りだすと力が暴発して、あらゆるものを凍結させてしまうとのこと。以前の雪女だった状態ではあり得ない力を持ったらしく、刺激したら住んでいた空間が凍結してしまうだそうだ。数千年も住んでいた空間が凍結してしまえば、元に戻すまで数十年掛かるだとか。
どうやら、俺が容疑者と犠牲者になり得る可能性があったらしい。雪女に名前付けしたので力を得て、キレて凍結させたら俺が凍っていたとさ……。
俺の能力《名》って、俺が思い描いていた夢と似た物なんだよな。
妖怪の名前を呼び、友達や恋人みたいになってみたいし、なんなら手助けがしたい。俺はずっとそう願っていた。
來嘛羅が言ってた通り、俺の能力は妖怪に名をあげ、力を与えているのかもしれない。
見返りを求めていねえ感じで、俺は自分の能力がいい物だと、心底から感謝した。
「ちょっと聞きたいんだけどさ?來嘛羅はどうやって食べたんだ?」
「入れる前に完全に生命を絶ち、焼いて口に入れたぞ」
言い方…。でも、アレは食えた気がしないのは納得だ。そんな芸当、教えて貰いたいな。
「これから食事…俺が作るか?和食ぐらいなら、作れるんだが」
「うむ!それは名案じゃ‼︎幸助殿の手料理ならさぞ安心じゃろう」
余程あの料理が嫌みたいな反応だ。なんか安心した。
雪姫と烏天狗が喧嘩する間、取り残されていた女天狗は幸助と來嘛羅が楽しく話しているのを羨ましがっていた。
(來嘛羅様と堂々と話す態度に親しみ方と言い、この人間は距離の詰め方が怖い。太古の妖狐と恐れられている御方に、気軽に話しかけることすら強靭な精神がなければならないのに……。悟美ちゃんと紗夜ちゃんとは違うものを持ってるのかも)
と同時に、幸助の不思議な魅力に興味を持った。
今後、雪姫は料理禁止命令を多数決で可決され、雪姫はこの日、ずっと不機嫌だった。
雪姫の料理を全員が死ぬ気で食べきり、お腹に違和感がある中、話し合いが行われた。來嘛羅は自分の椅子に腰掛け、俺達はその周り囲うように立っている。
当然、秋水の件についてだ。
「來嘛羅様、どうぞお話し下さい」
女天狗がそう聞くと、來嘛羅がこの場を仕切る。
「さて、其方らも知っておろうが数週間後に秋水は動く。妾の言ってることは確実じゃ。奴等は妖都を混乱に陥れるために妖怪を操り、妾に喧嘩を売ろうという腹じゃ」
秋水達が妖怪を支配し、妖都にする計画。シンプルだが、これが本当に起きて仕舞えば大変なことになるらしい。
「支配されるとどうなるんだ?まあ、俺はそんなことにはなって欲しくないが」
「妖界は常に均衡を保っておる。妖怪も人間も仲違いするが、距離は詰め過ぎぬ方が良いのじゃ。寧ろ、其方らが既に壊しておるがな?」
「詰め寄り過ぎか?妖怪と人間で友好関係なんか普通だろ?」
來嘛羅だけではなかった。烏天狗と女天狗も俺達の状況は異質なのだとか。
「それはそうです。人の子が妖怪と対等な立場を築く上で友好は稀です。しかし、それ以外を望めば今回のような事態を招くのです」
女天狗は心配そうに言う。
「貴様が來嘛羅様に加護を受けた時点で恐ろしいのだぞ?太古の妖怪である來嘛羅様の加護。これを受けたら妖怪達はどう出るだろうな?」
なんかヤバい事になってねえか?怖くて聞いてみた。
「來嘛羅、それってどういう…」
「うむ、妾の加護は他の者とは違う代物。お主に寵愛を捧げた。他の妖怪はそう捉えるであろう?」
「そうなるんだな」
「さぞ、人間と妖怪に狙われる可能性があるという事じゃ」
……え?今、なんて?
「阿呆あほうの顔をしおって。幸助殿は既に秋水らに目を付けられる条件を満たしてしまったのじゃよ。近いうちに、お主は秋水に狙われる定めなのじゃ!」
なんで笑えるの?っていうぐらい、來嘛羅に余裕があった。俺が命狙われる原因はこれだったのか……。
「滅茶苦茶羨ましがられてんじゃねえか‼︎」
凄い優越感があるんだが。ここまで狙われているのに喜べるだなんて、俺は分かり者だな。
「フッフッフッ、お主は変わり者じゃな?狙われておるというのに喜ぶとは」
「秋水って奴に狙われてるんだったら待ってれば良いんじゃないのか?」
俺を狙う目的なら、寧ろ、返り討ちしてやればいい。そう思った。
「秋水は簡単には動かぬぞ。初めて駒の捕獲に失敗したのじゃ。さぞ、お主に執着するであろう」
來嘛羅は俺が支配できなかったことで、秋水が焦っていると言う。
「俺があいつらを追い払ったことで確実に俺を仕留めようとするんだな?」
「仕留めはせぬ。秋水は幸助殿の異能を欲しておる。人は殺さずして、宵河に拘束しておるのじゃ。人間は数人を除き、そこに収容されるように閉じ込められておる」
俺は流れるように上手く話が進んでいると感じた。俺が求めている答えが分かってきた。秋水の能力が分かってきた。
來嘛羅がしたい事。その目的が分かった。
俺達が秋水の潜む地下に襲撃する間、來嘛羅が宵河に行って人間を倒すんだ。多分だが、秋水の能力と集められた人間には何かしらの関係があるというのが、俺の推測だ。
「分かった。來嘛羅が宵河で足止めしている間、俺達で妖都の妖怪を助け、秋水達をぶっ潰してくるぜ‼︎」
「うむ。幸助殿の決心、無駄にせぬぞ」
來嘛羅が一方的に提案した計画だが、それは理にかなっている気がした。
「悟美ちゃん、紗夜ちゃん。二人が危険に巻き込まれそうなら私達を呼んでね?」
「大丈夫だわ。ちゃんと屑共は葬ってきちゃうから!」
「わ、私も…イジメは良くないし。ちゃんとが、が…頑張ります‼︎」
「來嘛羅様の御恩は忘れてはなりません。緊張しないように頑張ってね」
女天狗のイメージが違うのに今更気付いた。本来は気性荒い性格の筈だが。大人しいという伝承、なかった気がする。まあ良いかな、ずっと怒りっぽい烏天狗と比べたら大人しい方がマシだしな。
上手くいく保証は來嘛羅が作ってくれる。宵河を來嘛羅が制圧し、俺達が夜城を制圧する。制圧というか、妖怪を助け、秋水達を倒してくるんだが。
俺達は別れた。來嘛羅は転移で宵河に先に向かった。だが、移動に関して、問題が発生。
「烏天狗。あなた、転移できる?」
「黙れ雪女!俺がそんな転移、持ってる筈がないだろ‼︎」
この中で妖都に行ける手段を持っているのが雪姫しかいないのだ。そして、雪姫の移動にはリスクが伴う。雪に耐性がない人間が跳ぶと凍り付いて死んでしまう。妖怪の烏天狗と女天狗は死なないから問題ないが、悟美と紗夜は一緒に行けない。
「どうするんだ?二人死んじまうぞ」
俺は心配した。この二人も来て貰わないと倒せねえんだよ。
悟美から馬鹿みたいな案が出た。
「私達は耐えて頑張るわ。異能で乗り切れると思うし、紗夜はいつものね」
根性論だった。來嘛羅と特訓したが、根性でやり遂げられる気がしなかった。きちんと対策を練った上でやるのが上等だ。
「本当に大丈夫?私の移動、死ぬかもしれない。本当に良いのね?」
雪姫も再確認する始末。そりゃあ、死なれたら嫌だろうしな。
「死んだら死んだで大丈夫。どうせ、來嘛羅の加護で耐えられるし」
「わ、私は大丈夫‼︎うん!悟美ちゃんが、あっ…うん」
紗夜がテンパっている。変なところでテンパったりする奴だな。掴み所が見えない不思議さと異質な雰囲気を匂わせてくる。
「とりあえず俺に捕まってろ。俺は雪姫の凍結には耐性があるから死なねえよ」
俺は悟美の方を掴む。紗夜はいつの間にか消えていた。
「あれ?紗夜って奴はどうした?」
「紗夜は私の影に入ったわ」
「そうなのか。雪姫、準備出来たから行こうぜ?」
紗夜は気にしない方がいいな。どうせ、足手纏いになりそうだし、影にずっと居て貰った方がいいかもな。
そんな偏見を抱きつつも、秋水を倒す決心する。
閻魔大王の加護を授かった一人、秋水は幸助達の襲撃の数時間前に目覚めた。
「お目覚めですか秋水様?」
洗面用具を持つ名妓が声をかける。
「チッ、閻魔の野郎がオレ様の力を増幅しやがった」
「それは…どういうことで?」
「知ったことかよ。とりあえず、何か起きるんだと思えばいいだろう」
秋水は嫌な表情で名妓から強引に奪い、個室で顔を洗おうとする。
突如、秋水の頭に激しい痛みが襲う。脳を蝕むような痛みに、思わず洗面器にしがみつく。直接頭に声が響く。その声の主は秋水に与える。
『秋水よ。貴様にワシの力を与える』
「こ、この声は……閻魔の野郎か?」
『そうだ。今日、お前のところに人間と妖怪が攻めてくる。それに備え、ワシの力の一部をお前に与える代わりに、攻めてくる者を亡き者にせよ』
「いや、待て!今日なのか⁉︎支配はできるが殺すっていうのは…」
こっちに来てから人間の扱いは駒として見下し、多くの人間を宵河に閉じ込めている。能力の増幅としての役割を担う。
価値観は簡単に変えられるものではなく、秋水は慌てる。その言葉に動揺を見せ、再度確認してしまう。
『口答えするか秋水よ。本来ならば、地獄に送られる罪人。お前はワシの情けで迷い人として死の直前に転移させたに過ぎない。畜生と餓鬼を犯したお前を許した恩、忘れたわけではないな?』
「また脅しかよ。30年経った今なら良いだろうが!」
『30年で済む話ではない。お前が犯した業は数千年経とうが消えることはない。妖界で生きられるのはワシが居るからだ。逆らえばどうなるか?展開を知るお前なら理解はできよう…』
秋水は握られてはならない弱味を握られている。窃盗と虐待による数多くの者に手をかけた過去を持つ。動物を弱者として見下す性格を持ち、弱い者なら容赦なく自分の物になるまで強調する歪んだ人間性に目覚めたのが秋水なのだ。
罪を咎める筈の閻魔大王が秋水を匿った。この事実が、來嘛羅が憤懣する要因にもなった。
そんな秋水でも、力の上下関係を強制させている。閻魔大王の加護により、罪の重さだけ大罪という名の首輪を付けられ、支配する力を持つ。
更に、秋水に対する感情は『殺意』だ。異能の力を向上させ、本来引き出される力の限界を超えている。
『ワシの力を持て』
空間が捻れた場所から剣と首輪が落ちる。
『力を使え。でなければ、お前の命は地獄へ引きずり込む』
閻魔大王の《契約》が発動し、強制的に契約を課すことができる。今、秋水に課された契約は『力を与える代わりに、力を使わなければ地獄に堕とす』というものである。
つまり、秋水が与えられた力を使わなければ、本当の死として地獄へ堕ちるのだ。
躊躇う意思はなく、秋水は力を貰った。
地獄に蔓延る怨念が篭った呪剣。禍々しい力を帯びた首輪。しかし、秋水はある危険を感じた。
首輪だけ、懐にしまった……。




