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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
33/46

三十二話 打ち砕かれる反撃の狼煙

明日も投稿します。メンタルも回復し、何とか回復まで至ったので、集中して二次創作に打ち込めそうです

目が覚めると、俺は布団の中にいた。

和室のようでとても住み慣れた部屋。

見たことある空間だな。雪姫の住処に戻ってきたみたいだ。

「起きたのね幸助」

雪姫が抱きついてきて、思わずヒヤッとした。

「冷いって‼︎」

抱きつかれた途端、もの凄い冷気が体に染みる。

「三日も寝てた。私達、ずっと心配してた」

「心配してるなら、もう少し表情柔らかくしてくれよな。いつもの雪姫だから、怒ってるようにしか見えねえんだ」

寝起きの文句が言えるなら生きてるみたいだ。

「あれ〜?幸助君やっと起きたのかしら〜?おはよう」

恐ろしいものが体中を走り抜けるのを感じる。この声は……。

なんで俺の家にいるんだこいつ⁉︎悟美が何故ここに……。

「あ!あの‼︎…おはようございます」

こいつに至っては誰だ?見たことがない奴じゃねえか。

「あんた誰だ?」

「わ、私は‼︎…あ、ああ‼︎」

逃げちゃったよ。俺が誰かと聞いただけなのに…。

「駄目ですよ。紗夜ちゃんは男嫌いなんです。人間の男が大嫌いですので」

「……なあ?俺と雪姫の家になんで居るんだ?そこの羽根生やした……ってええっー‼︎」

俺の目の前には、天狗が二人いた。思わず声を上げてテンションが上がる。

「漸く目覚めたかの?目覚めから仰天するとは大したものじゃ。事情を話すから寝衣を着替えおくれ」


俺は着替え、來嘛羅からこれまでの経緯を聞いた。

「そういうことか。俺達を秋水の手下と思って悟美が襲い、烏天狗と悟美は加護を來嘛羅に受け、女天狗も紗夜の加護を來嘛羅と合併。で、此処にいるのは、秋水の奴から遠ざかったわけだな?」

亡夜に戻ってきたのは來嘛羅の案だとか。

「妖都にいるのも窮屈での。数日は目が届かぬから安心せい」

俺が気を失っている間、どうやら悟美は烏天狗を吹き飛ばしたのだとか。その事実が一番恐ろしい。

妖怪を吹っ飛ばした奴が仲間とか、仲良くできる気がしねえ。

「來嘛羅、今後の動きとして俺達はどうすればいいんだ?」

來嘛羅の進めた出来事に俺は疑問を抱くつもりはない。

「そうじゃの。この人数だけでは危ういのは明白じゃからの〜」

來嘛羅は人差し指を口元に当てて考える。正直、何を考えているかは分からない。

「俺は來嘛羅や雪姫、烏天狗達が優位に動ける作戦なら乗るつもりだ。陽動でも囮でも構わねえ。妖怪を全て助けるとかならやってやる!」

俺は進んで特攻になっていいと思った。

「確かに、陽動なら誘い出せるであろう。じゃが、お主は妖怪が苦しんでるのをどう救うつもりじゃ?」

「あっ、それは…」

「無理じゃろうな。どんな手段を使ったとしても心を傷める結果に終わる。言ったであろう?妾は未来が視えると。」

來嘛羅は俺が妖怪を傷付けられないと知ってるんだ。

「でもさ、俺は能力が《名》だし、異能の中では最弱の類なんだろ?秋水の奴の討伐の力になれる気がしねえ…」

悟美と戦って分かった。俺の能力は恵まれていなかった。

刀剣と『未来視』で精一杯の抵抗ができても、倒せなければ意味がない。

俺にできることといえば、囚われた妖怪を上手く誘い出すぐらいなのかもしれない。

気合いや根性、妖術で粋がっていた程度で、妖怪を支配してる奴には勝てない。

無念さで胸が焼けそう……。

「それがお主の理由かの?」

「っ‼︎」

俺の思考を読まれた。

今の心情は最悪としか思えない。

「お主が何故なにゆえ、秋水如きに敗れるのかが分からぬ。何故なにゆえ、悟美に勝てなかったから諦めようとする?」

「悟美は俺では抑えられなかったんだ。しかも、雪姫を怪我させてしまった。こんな俺が妖怪を救えるわけがねえ」

罪悪感が心を押し潰してくる。二度も助けてくれた雪姫をボロボロにした罪は重い……。

「こんな俺に何ができるって……言うんだよ」

思わず本音がボソッと呟いた。

パンっ!と一瞬、両耳に痺れるように痛みと声が聞こえた。

「やめて。そんな責任だけで自分が落ち込まないで!」

「痛っ‼︎何すんだよ⁉︎」

雪姫に文句が言いたくなった。

俺の口より速く、雪姫が口を動かす。

「幸助!私に言ったの忘れた?助けられた恩を返せないクソ野郎にはならないって。あなたを私は三度救った。二回しか幸助は助けてくれてない。あと一回返さなかったら許さない」

「三回⁉︎」

いつ助けてくれたんだ?天邪鬼の時と來嘛羅の時しか覚えてないな。逆に助けたのは、九華の時と悟美の時……ヤバい。助けて貰った方が多い。

「俺全然約束守れてねえじゃねえか‼︎」

雪姫は冷静になって俺に聞く。

「理解した?幸助、自分で言っていたことを守れてないの。私を助けるつもりで、支配されている妖怪達を助けて欲しい」

弱みを握られたからには責任を取れってことなんだな。

なんだか、秋水も悟美も怖くなくなってきた。

雪姫の方がよっぽど面白いぐらい怖いぜ。

「じゃあ雪姫。俺が助けた方が多くなった時、何してくれるんだ?」

弱みを握りたくなってきた。気紛れっていうか嫌味も含めてな。

「幸助の好きなこと。してあげる」

「言ったな?撤回とかなしだぜ?」

「いい。でも、幸助には厳しいと思う」

雪姫が落ち着いた笑みで頷く。

本気で約束してくれた。だったら、やるべきことは決まった……。

「よい目じゃ。お主の恐怖が綺麗さっぱり消えおったぞ。今のお主になら、妾の体を捧げてもよいかも知れぬ」

お、おおっ‼︎マジか⁉︎

だけど、雪姫が凄い目で來嘛羅を睨み付けてる。

「幸助を誘惑しないで化け狐。幸助はあなたを所望ではない」

「そうかの?幸助殿は其方よりも妾に気が向くみたいじゃぞ?」

冷たい雪姫と余裕な來嘛羅。約束したばっかりだけど、できれば來嘛羅とかにして貰いたい。

あの神々しい尻尾に埋もれて……。

「幸助、今厭らしいこと考えた?」

「ちょっと…な」

「そう……」

雪姫は目を細めて睨んでくる。




今後の方針は決まった。

4日後、俺達は妖都の地下と宵河を攻めるのを決行する。

だが、俺は残念に思ってしまった。

來嘛羅が俺と来てくれないのだ!

なんでかと言うと、來嘛羅は単独で宵河にいる人間を倒すと決めてしまったからだ。

俺は頑張って説得した。でも……。

「來嘛羅。なんであんただけで人間のいる方を攻めるんだ?一人だと危ねえじゃねえのか?」

「そうじゃな。じゃが、お主に問い返す形になるが、お主一人で四十以上の人間を相手にできるかの?相手は全員異能を使うのじゃぞ?」

「そ、それは…」

そうだった。妖界にいる人間は全員が能力持ちだった。分華の多分《分身》と九華の《忍法》は凶悪だったな。分身で他者も作れるみたいだし、忍術もあの程度ではない筈。

「お主は妾にとって命より大事なのじゃ。もしものことがあってはならぬ。危険が少ない方で皆と一緒におるとよい。妾の心配などせんでもよい。妖怪は死なぬし、ましてや、妾は太古の九尾狐と恐れられる妖狐じゃ。お主が死んでしまっては悲しむ者がおる。じゃから、雪姫達と共に秋水を殺すのじゃ」

「秋水は妖怪を支配してる奴だ!來嘛羅なら俺と一緒に簡単にやれる筈だ‼︎頼む!俺と雪姫達と一緒にやろうぜ‼︎」

俺はどうしても居たかった。なのに、なんで居てくれねえんだよ…。

「それはできぬ」

やたら俺の言葉に頷いてくれない。それどころか、哀しげに顔を暗くする。

「なんでだよ?」

「すまぬが、妾は秋水を手にかけれぬのじゃ。これはお主には話していなかった。妾は秋水を間接的に懲らしめる。じゃから、お主は直接秋水を殺しておくれ。閻魔大王に直接手を出すのを止められておるからの」

そう言う來嘛羅の表情はとても悔しそうだった。だから、それ以上追及はできなかった。

俺は謝った。

「ごめん來嘛羅。本当はあんたを守ってみたかったんだ。好きな妖怪を守りながら戦ってみたかったんだ。來嘛羅は強いけど、その…女だから、俺が守っ—っ‼︎」

俺が言いかけている間に、來嘛羅の優しいハグが俺を包んだ。

とても甘味の香りが鼻に入って、抱かれるままに体に力が入らなくなる。

來嘛羅は俺の耳に囁く。

「幸助殿は檸檬が好みじゃろ?強い匂いは苦手のようだったから、妾の香水を混ぜておる。どうじゃ?」

そうだったんだ…。俺の好きなフルーツの匂いだったんだな。嗅いだことあったけど、こんなにも、癒される匂いだとは知らなかった。

「幸助殿は奥が深いの〜。檸檬の花言葉は知っておるか?」

「……分からない。ただ、俺はこの匂いが好きで。何も」

「ンフフフ、お主も花というのに興味を持つとよい。檸檬の花言葉は“心からの思慕”じゃよ。花や木を好む者はそれだけでどういう人物なのかが理解できるのじゃ。恋焦がれるその心を大事にし、妾を思い出しながら戦うのもよいぞ?」

「んなっ⁉︎そんな風に思っちまったら逆にヤバいだろ⁉︎」

「悪くはなかろう。誰かを想うことは、お主にとって力となるからの。4日後に一度別れるが、また会える」

それは励ましではなく、來嘛羅の確信だった。俺にはそう思えてならなかった。

それが余計に嬉しかった。




來嘛羅は既に結果を視ていた。

幸助には言わないのは、結果を知っていることで変わってしまう未来があるからだ。

人は未来を知りたがり、良ければ前に進もうとし、悪ければ別の道に進もうとする。

妖界の世界の未来は不変とされたが、望まれない異分子が入り込んだことで、未来に大きな影響を及ぼした。

來嘛羅が以前視ていた未来は、妖都を支配した秋水だった。

手を出せない以上、來嘛羅にはどうしようもできなかった。自分は退屈と称し、空間内で永遠と過ごそうかと考えていた。

そして、暇潰しに視ていた未来には別の未来が映し出されていた。

その目で視た未来に來嘛羅は救われた。

來嘛羅は不変を嫌い、新たな変化を求めていたのだ。それが今は叶いつつあり、心が躍っている。




金瞳は静かに狐目へ変わる。

「その目は?」

俺はその目を初めて見た。俺はその目の魅力に神性を感じた。

カッコいい……。

「フッフッフ、幸助殿なら知っておる筈じゃ。妾は人間の姿を模した妖怪。こんな妾を真髄から好いてくれたのはお主が初めてじゃよ」

そう言って俺から離れ、優しく首を撫でられた。

「俺が初めて……。おっしゃああっーーー‼︎」

俺は胸に込み上げる感情を晒した。

「うむ、喜ばれるとちと恥ずかしいのぉ…」

來嘛羅は妖艶な笑みを浮かべていた。


俺は悟美に聞きたいことがあった。正直、俺はこんな奴と馴れ合いたくはない。

だが、俺は秋水を吹っ飛ばすために友好な関係にしておきたかった。

「幸助君、何の用かしら〜?」

「なああんた、なんで烏天狗を蹴り飛ばした?育ての親だったんだろ?」

「烏天狗のこと?いつもの癖でやっちゃったわ。でも、烏天狗がいけないのよ?」

別に俺は悟美に正せとは言わない。人間なんか、正せと言われて正せる奴なんかたかが知れてる。秋水の奴は屑。分華も人間性は最悪。九華も口が悪かった。

俺は悟美に強要しないし、別にやり返すとかはしねえ。だが…。

「だからって、てめぇの価値観で烏天狗に仇を返すな馬鹿野郎!來嘛羅に従うって言ったあんたは絶対だ。妖怪好きの俺の前で、理由もなく妖怪に手を出すな。いいな?」

俺は悟美の胸ぐらを掴んで、壁に押し付ける。

「女の子に手をあげちゃうんだ〜。まあいいわ。私は女としてみられるよりはマシだし」

「俺はあんたの気持ちを聞いてるんだ。なあ、絶対に妖怪に手をあげるな!」

だが、こいつは反省の顔をしないで謝ってきやがった。

「シシシッ!別にいいわ。妖怪が好きなら悪い妖怪にも?」

「……それは」

「でも、ちょっと面白いかも。幸助君の目的は知らないけど、私と利害は一致してるかもしれないわ」

「あんたと、か?」

「えへへ!その通り。烏天狗と女天狗が秋水を憎んでいたし、私がそれを果たしてあげる。今回は妖怪には手を出さないようにするわ。その代わり、つまらない遊びでもしてたら、本気で今度こそ叩き潰すね」

「殺すってわけだろ?まあいいや。とりあえず俺が仕留め損なったら俺が殺やられるってことなんだろな」

「あは!よく分かってくれるのね⁉︎じゃあ、一番強い貞信とは遊ばせてね?」

「そいつって…秋水の奴に操られている奴だろ?」

「シシシッ!でも、烏天狗が面白いぐらい強いって言ってたから。幸助君には秋水を譲ってあげるわ」

こいつの言ってることが全くではないが、理解しようにも分かち合える気がしねえな。

妖界の世界にも善悪は存在する。俺は妖怪は善と決めつけるのはできない。逆に悪と決めつけられない。

でも、嫌いになることはあってはならない。

妖怪だって、この世界の住民だ。誰にもそれを侵害する権利はねえんだ。悟美の言っている果たしは多分、秋水を殺すことなんだと言われるまでもなく理解した。

妖怪を救い、秋水達を倒す。俺が成すべきことはそれしかない。

「分かった。俺があいつを倒してきてやるぜ。面倒な奴は任せるとする」

「えへへ!紗夜とは違った意味で面白いわ。ちゃんと後始末までだよ?」

「言われなくてもやってやるぜ!てめぇこそ、ヘマしたらぶっ飛ばすからな⁉︎」

強く決する。

妖怪を力で苦しめる奴は俺が許さねえ‼︎




秋水は椅子にくつろいで考える。

彼等の動きも活発になるにつれ、妖都内の反発が大きくなったからだ。抵抗する妖怪や人間が増え、その度に秋水本人が出向いていたからだ。

疲労は溜まり、最近は眠りについていないことに気付いた時には遅かった。

「秋水様?食事に喉は通らないのですか?」

名妓は秋水の様子に気付き、心配を装って声をかける。

「なんでもねえ。オレの計画はどうだ?進んでるか?」

「進んでいますわ!ですが、分華の情報では太古の妖怪及び雪女は逃げたそうです」

「逃げた?」

秋水は九尾狐を見たことがない。だが、どんな妖怪なのかはある程度知っている。

しかし、秋水にとって妖怪は手駒でしかない。

「ええ。それと幸助という人間もまだかと…」

名妓の言葉で気を悪くしたみたいなのか、秋水は席を立ち上がり寝室へと足を運ぶ。

「どちらへ?」

「知ったことだ。オレは一旦眠る。3日は起きないから任せた名妓」

そう言って寝室へと姿を消す。

地下に久方ぶりに揃った四人は困惑する。

「おいおい、秋水のヤツ眠りやがったのかよ‼︎マジでなんだよアイツはよ」

「分華うるせえよ!少しは黙ってやがれ‼︎」

「うるせえって言ったヤツがうるせんだよ‼︎」

「舐めてんのか?あっ⁉︎」

双子で喧嘩を繰り広げ、名妓と貞信は呆れ返る。

「困ったものですわね。秋水様が眠ると妖怪と人間の支配が弱まるというのに」

「そうだな。名妓や、貴様は逃げぬのか?」

貞信は名妓に問う。

「何をおっしゃいます?私は女として利用されている身。逃げたら死刑が確定よ」


実は、秋水の異能は並ならぬ力を持ち、常時発動型の支配系異能である。長時間使用し続けると抗えぬ睡魔に襲われるのは全ての異能に共通する。

その点、秋水の《王》は数百を超える人数を支配しているため、異能による生気の消耗はかなりなもの。

一度、睡魔に襲われてしまうと数日は目を覚まさず、秋水の場合、支配力が眠っている期間は著しく弱くなる。




人間は既に逃げる意思を奪っているから問題はないが、妖怪はそうもいかない。

妖界に生きる妖怪の精神力は人間を遥かに超越し、精神は支配できない。更に妖怪は異能の強弱を見抜く術を持っている。

だからこそ、秋水が不能になったタイミングを見計らい、妖怪達の暴走が起きると秋水達は予期していた。


秋水が眠りについた途端、妖怪達は大きく動き出した。

「人間が寝たぞ‼︎やるなら今だぁーーー‼︎」

数百いる妖怪の数だ。暴れたらひとたまりもない。

そこで必要なのが、秋水の幹部四人だ。

仕切るのは名妓。彼女は秋水の側近の中で、最も指揮を得意とする。

「まあ折角なんですし、全員で準備運動をしておきましょう。制圧するのはあと3週間後だけど」

「そうだな。ワシも逃げる選択はできぬし、一度敗れた身を管理してくれた秋水やには多少なりの恩があろう。王の寝床を騒がす妖怪を黙らせるとしよう」

名妓と貞信はそれぞれ準備をし、暴れ始めた妖怪に敵意を剥き出す。

「俺もやらねえーといけねえタイプかよ。ったく…なんでコイツらは妖怪を怖くねえんだよ」

「黙れよ。アタシの分身を殺させた恨み、後できっちり返させて貰うから」

分華は愚痴を言いながら、九華は愚痴言う分華を恨みながら、すぐに動かせるようにする。

秋水が寝た今、彼等が妖怪を支配する命めいを与えられている。

「ガキどもが‼︎舐めると潰すぞ‼︎ウガアアーーーッッ‼︎」

男性から一気に人狼になり、遠吠えで妖怪全員に戦意を奮い立たせる。

すると、妖怪達は彼等を目の敵として襲い始めた。

しかし、四人は沈着する。

「散っ‼︎」

貞信の一喝で全員が単独で飛び散った。


総計300を超える妖怪の群れが地下に集い、名妓・貞信・分華・九華を殺さんとする。

300の妖怪の群れはそれぞれ妖術を行使し、あちこち動き回る彼等を指標に攻撃を繰り出す。

まず、妖怪達に狙われたのは名妓だ。

彼等の中で1番動き辛い着物を着用し、体力もない。おまけに元々病による身体が病弱だったこともあり、名妓は立ち止まっていた。

「ハッハッハ!やはりお前は最弱。その身に受けた病に今も尚侵食されている身では逃げれまい」

針女ハリオンナ』は指先から無数の針を発射する。

名妓はその場から動かない。だが、その表情に絶望は見えない。虚無の顔をした名妓はニヤリと肉体しょうじょに似合わない笑みを浮かべた。

「私が最弱?最強と違ってかしら?」

名妓に発射された筈の針が、名妓に突き刺さることなく目の前で止まった。

針女は分からなかった。目の前で起きた防御に理由が思い付かない。

「私は秋水様のお気に入り。そんな柔な妖怪に狙われるほどの女でなくてよ」

名妓は余裕で立ち尽くす。針女はその態度に激昂する。

「ハッハッハ!‼︎じゃあその喉笛を貫いてやる‼︎」

針女が敵意を向けた瞬間、結果は決まった。

「じゃあ死んで下さいな」

名妓が笑みを浮かべると、針女は空中に持ち上げられるように身動きが取れなくなる。

「ギャ‼︎…が…ガァ‼︎」

体がミシミシと絞めつけられる。必死の抵抗もするが、針女になす術はない。

「昔は妖怪も強かったのかしら。ここ最近、有名妖怪以外の力は微塵もないぐらい弱いわね。でも、妖怪は死なないから凄いわね」

死なないと分かっている名妓は針女の全身を砕き、しばらく身動き取れなくした。

だが、背後を取った妖怪達が名妓を襲う。

『化け狸』と『化け猫』の二人は同時に名妓の首を引き裂こうとした。

しかし、徒労に終わる。

「残〜念。私はあのお馬鹿な二人とは違って異能は言わないの。だから、妖怪は私を真っ先に殺そうとする。異能を知らない妖怪は私を狙う。それが当たり前のことと知って油断する筈がないわ」

またしても、名妓の当たる直前で攻撃が通じない。

見えない壁のように、それでいて何か意思を感じるものが名妓を守っているのだ。妖怪には見えない何かが……。

まだ襲ってくる妖怪はいた。異能が開示されて既にバレている分華と九華に狙いを定めている。

悪女野風アクジョノカゼ』は全身の口から異臭を放つ。

「臭い息吐くなよ口女‼︎風遁:大風傷干たいふうしょうほ!」

分身の九華の攻撃程度はたかが知れている。だが、今の九華はそんな程度では収まらない。

「ぎゃあああああっーーー‼︎」

断末魔と共に、他の妖怪諸共裂き切れる。

分華も九華の戦いに絆され、活力を漲らせる。

「やってやるぜ‼︎あのガキにやられたのは腹たったからな‼︎影分身‼︎」

分華の影から数十人の分華の分身が姿を現す。瞬時に4人の分華は秋水、名妓、九華、貞信の姿となり、それぞれ散る。

「これで十分だ!俺は触れた相手を記憶し、俺または他者の劣化能力を分身で使えるんだよ。テメェーら妖怪にはこれで十分だ‼︎」

逃げの一手だった分華は反撃の牙を向ける。

分身の分華達は妖怪を次々とケチ散らしていく。逃げる妖怪、怒りに燃える妖怪で分かれ、分身に挑んだ妖怪達は全員が返り討ちにあっていく。

逃げた妖怪を担うのは、貞信の役割だ。逃げた先に当然の如く堂々と立つ姿は鬼門。

「あやかしよ。このワシから逃げれると思うならば、その身を賭けて挑むがよい」

刀を構え、獰猛な顔は異様なほどの威圧感を漂わせる。

他の者とは格が違うのだ。貞信の闘気の前に、逃げ腰の妖怪達は立てなくなる。

『送り犬』が牙を剥き出して貞信に噛み付く。

貞信は「愚かだ」と吐き捨て、噛み付いてきた送り犬を斬り捨てる。

斬撃が見えない。刀身すら拝んだことがない妖怪には、これは恐怖に該当する。

「あやかしや。貴様らはこのワシに牙を向けるか?それとも、死を望む痛みを延々と刻んでやろうかのう?」

妖怪が死なないと知る貞信からの言葉で、妖怪達は震え上がる。

死を体験できない妖怪にとって、痛みは死の痛みは激痛そのものなのだ。

死なないからこその痛みを背負う妖怪にとって、彼等の恐怖による支配は地獄なのだ。

一度目を付けられたら逃げられない。定められた時点で、傀儡となるのが定められているのだ。


秋水は妖怪の力を支配し、地下の王として君臨する迷い人。身勝手な思想を夢見る愚か者だ。

他人を支配することを強く望んだことで、妖界に迷い込んだ際に《王》を獲得した。

元々、自堕落で贅沢な人生を送っていた者であり、不都合を嫌い、他者を嫌い、力を欲する欲は侮れない。

死戦を潜り抜けた故に純粋な力を得た貞信。

病弱だった肉体で欲した願望を得た名妓。

憧れや心酔によって一時的な欲望で得た分華と九華。

この4人を勝る欲望を秋水は秘めていたのだ。

人間の願望というものは抑止ができない。抑えられない欲望は力となり、異能となって人間を変貌させる。

善と悪の願望など全て同等の欲望。人の欲を導く者とは誰なのか?

それがどんな存在であっても欲望は潜んでいる。自然、人間、物質、妖怪、世界、概念に欲は芽生える。己が知らないだけで、実は奥の奥では常に強欲よくが揺らめているのだ。

ふとした瞬間に求めたものであるほど、その欲望は歪んだものになる。


自分は選ばれた人間だと自負し、数多くの人間と妖怪を支配し、多くの存在を不快にした秋水の足元から刻一刻と、最強の脅威が波のように迫っていた。

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