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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
31/46

三十話 新城悟美

4話目です。

ちょくちょく内容も増えてますが、皆さん気付きますでしょうか?

2週間の月日は各駅停車に乗っているかのように過ぎていった。充実したようで、俺は來嘛羅と雪姫にしごかれた。

俺らは妖都に出て二人の人間が隠れ住むある神社へ向かう。

町に異様な程の静けさで、妖怪も人間も見当たらない。

來嘛羅はまるで手当たり次第で探している。

「そろそろこの辺りかの…。魔避けの結界を張り巡らせおって、少しは目印でもあれば楽なのじゃがな」

「仕方がない。あの二人は妖都でも特別な人間。それでいて私達妖怪を上回る異能を持ってるからね」

「そうじゃな、烏天狗と女天狗を超える者じゃからな。彼奴あやつらは対異能にも優れているというのに敗れたと渋々語ってたわい」

「そう…。余程凶悪な異能を獲得したということね」

「無論じゃ。寧ろ、それらを悪用せずに今日まで潜んでいる方が恐ろしいのじゃがな。普通、暴れれば妾が出迎える程には事態は悪化するのじゃがな。手を煩わせない天狗には感謝せねば。妾に及ばなくとも、幸助殿と雪姫では太刀打ちは敵うまい」

嘘ではない。來嘛羅は二人の人間を知っている。

力を知っていても尚、彼等を褒め称える來嘛羅の度量が窺える。

「俺よりも強えのかよ。その異世界人は」

「そうじゃろうな。今のお主でも触れることすら叶わんじゃろう。戦闘狂と人格者の二人が組む事自体が面白うなんじゃがな」

なんだよそれ。戦闘狂と人格者って、一人は絶対にヤバい奴だろ。

戦闘狂だったら狂戦士バーサーカーしか思い付かねえ。

「面白いじゃねえよ!流石に俺これからそんな奴と会うんだろ?行って戦闘になります〜ってならないよな?」

俺はそんな奴らとは御免だ。仲良く出来そうな人に殺されるなんて。

「でも幸助、戦闘になって女だからって手を抜いたら駄目。二人は強いからね」

「二人ともなのかよ…」

てっきり男かと思っていた。女だからって手加減するかと言われるとそれはないな。

「まあいいや。俺が戦闘に巻き込まれても大丈夫ように、來嘛羅達が特訓してくれたんだ!今の俺なら足手纏いにはならねえよ」

雪姫は嬉しそうに言う。

「期待、してるね」

「妾もじゃ」

來嘛羅もそう言ってくれて俺は心の中で叫んだ。




暫く周りを警戒しながら歩いていると來嘛羅がある神社で立ち止まった。

「やれやれ…やっと辿り着いた。随分、厳重に結界を張っておるな」

見た感じは普通の神社で、よく近所で見かけるようなちっぽけな建物と庭の広さ。とてもではないが、人や妖怪が住むには相応しくないほど質素だ。

來嘛羅が目的地を見つけたようで、呪文のようになものを唱え始める。

「呪鎖を解き放ち、我らを受け入れることを承認したまえ。懇々申す妖狐の言い伝えを聞き入れなければ結界を破壊する事を厭わぬ」

否、來嘛羅は強行突破をしようとしているのだ。

來嘛羅の応答に中からは何も反応がない。

「いないのか?」

俺は留守だと思ったのだが、來嘛羅はそうでないみたい。

「いや、妾を試しておるのじゃよ。全く困った天狗だこと」

そう言っている來嘛羅は得意げに笑っていた。

「妾も本気で行くとするかの!幸助殿、雪姫、妾の傍から離れておれ」

「えっ?」

俺が聞き返そうとしたが、なんでか雪姫に襟を掴まれ、数十メートルぐらい引っ張られた。一瞬にして移動した事が信じられないぐらいの速さで。

その直後、俺はとんでもない光景を目にした。

「はぁーっ!」

拳に妖力を込め、袖を捲り上げた來嘛羅が凄まじい速度の平拳を放った瞬間、何もない空間が一気に崩壊した。

空気が震えたかと思えば風の圧が襲い、俺は吹き飛ばされそうになった。

マジで死ぬかと思った……。

「…お?なんか綺麗な建物が見える。神社の中にこんな空間があるとはな。よく考えたもんだ」

神社があったと思われる場所は吹き飛び、代わりに岩山と川、一軒の古小屋のような建物が広がっている。

「なんだよこれ?神社が消えたかと思えば妖都とは違う景色が見えるんだが」

「『固有結界』じゃ。己の妖力で独自の空間を生み出し、自身の都合の良い空間を築く結界なのじゃ。太古の妖怪もしくは眷属のみに許された特権じゃがな。妾も使っておるのと一緒じゃが、こちらは住処となる場所を指定しなければ使えぬ」

來嘛羅の持つ結界は他の妖怪とは異なり、どんな場所からでも空間に出入りが可能な代物。

結界を持てる妖怪は多いが、その殆どの妖怪は住処となる場所に依存する。

「あの…これ破壊しちゃって大丈夫…です?」

さっきから烏の「カァーッ!カァーッ!」が聞こえてくるし、何か迫ってくる気配を感じる。

來嘛羅は悪びれない表情で、

「うむ、大丈夫ではないの」

と軽く言うものだから、俺は昂る。

「しれっと言わないでくれよな!絶対にヤバいだろ!」

俺の心配を他所に來嘛羅と雪姫は空間内へと入ってしまった。俺もそれに続いて敷地内へ踏み込んだ。

その瞬間、殺意が一気に接近した。

「伏せるのじゃ!」

來嘛羅の声と共に体を低くした。

伏せた途端、俺の背後から大砲のような轟音が響いた。

間一髪で潰れずに済んだのだ。

「ひえ……」

俺はビビった。

殺意込めた挨拶をしたと思われる人物が、俺達の目の前に現れた。楽しげに喜びを抑えられない女が俺らを見ていた。

「シシシシッ!私達を捕まえようと来たのかしら〜?知ってる顔もいるみたいだし」

「あんたがここの住人か?」

「そうね、貴方達を始末しちゃっていいって言われて来たの!殺しちゃおうかしら〜」

女はニヤニヤしながら俺達を見ている。

一言で言うと、こいつは危険すぎる。そう俺の勘が言っている。


軍服でミニスカート。俺よりも長身で異様なほどの可愛らしい容姿と來嘛羅には劣るが妖しい笑顔。純白の白髪が束ねることを許さないのか、腰の辺りまで綺麗に伸びている。美女に見えるし、美少女とも言えるぐらいの容姿端麗。

歳は俺よりなさそうに見えるが、白髪と真紅の瞳、不気味なほどの歳に相応しない程の言動。俺より幼いと言われてもいいぐらい、声はやや高い。

「それは烏天狗にか?烏天狗の加護を受けし人間の新城悟美しんじょうさとみよ」

それが彼女の名前だった。





來嘛羅は臆さずに悟美に問う。

「烏天狗と女天狗の二方に言われてきたのか?だとすれば、妾に対する無礼であるのは存じ上げぬか?」

「あは!私の事を知っているみたい。てことは、私達を狙っているのだわ」

話を聞かない。会話は困難だと分かり、雪姫は瞬時に悟美に襲い掛かる。

「大人しくしなさい」

雪姫は悟美の首に峰打ちを試みる。その速さは來嘛羅でも認めたほどだ。

キィーン!と澄んだ音が響く。何処から取り出した三節棍で防ぐ。

「くっ…これで倒れないなんて…」

「シシシ、私を傷付けないで倒すなんて。本当に殺さないとダメよ?殺さない覚悟だったら死ぬわ!」

容易く刀を止められ鬼相浮かべる雪姫。それに対し笑みを崩さない悟美。

悟美が手にしている武器は、鎖などで三つの棍棒を繋いだ漆黒に塗り染められた三節棍。

空中に飛んで襲った雪姫の攻撃を容易く見切る。その実力は本物だ。

(殺すつもりはなかった。けど、この人間、手加減いらないみたい)

雪姫は気を変えた。

刀身に切り替え、悟美を殺す覚悟を振るった。

「あなたは強い。だから本気で行かせて貰う」

服が白無垢へと変わり、その目はドス黒い青へと変色した。

「変化?違うわね。もしかして……」

悟美もその強い意思を感じ取り、改めて相手を見極めることにした。

その姿を見た幸助は驚きを隠せない。


悟美が僅かに距離を取る。

「あれ〜可笑しいわね。この妖怪、混妖の筈だった気が……別に良いわよね‼︎楽しめるなら!」

警戒したのが馬鹿とばかり、悟美は勇敢に真正面から突っ込む。

「確かに混妖だった。けど今は違う…」

雪姫は刀を構え、悟美の突進を真で受け止める。

確かに手応えがあったが、それは刀に衝撃が吸収された。

「シシシッ‼︎久しぶりに楽しめそうじゃない!」

「人は殺したくない。だから……」

雪姫はあくまで殺生を拒む姿勢。それを気に入らないのか、悟美は熱を上げる。

「妖怪にしてはつまらない発想をするのね。そんな意識じゃあ強くなれないわ‼︎」

と同時に、二人は死闘を始めた。

引くに引けなくなり、悟美への説得は意味のないものとなった。




「雪…姫、なのか?あれは…」

あんな雪姫を見たことがない。見たことない姿に畏怖する。

知らない姿。初めて見る妖怪としての雪姫。今までのが嘘のように……。

なんであんな姿で笑ってるのか?どうして殺意を剥き出しにするのか?

悲しさが込み上げてくる。

躊躇わず雪姫の助太刀に入る。

身体能力はこの中では一番低いと俺自身がよく知っている。

人間だからという理由で放棄するなら楽なものだ。

だが、俺はそんなことを望まねえ。

「雪姫!一緒に抑えるぞ!」

「幸助!」

突然の参戦に驚く雪姫。そんな事をお構いなしと言わんばかりに武器を振り撒く悟美。

「シシシシッ。私の遊び相手が増えたわ!良いわ、貴方達と遊んであげる!暇潰しになってくれたら、ちょっと考えてあげなくもないけど!」

殺意から快楽へと変わり、悟美の表情は怖いぐらい不気味な笑みへと入る。

「遊ぶより止まってくれると助かるんだが?俺はあんたと遊びに来たんじゃねえし、あんたと対立もしねえ。話しようぜ?なあ、聞いてるか?」

不満げに悟美は駄々をごねる。

「やだ!折角、烏天狗が遊んで良いって言ってたのよ?遊び道具が遊ばないってあり得ないわ!妖怪は駄目だけど貴方は別にやっちゃって良いって!ねえ?貴方はどれぐらい耐えられるかしら〜?」

俺の頼みはどうやら聞いてくれねえようだ。それどころか、俺らを玩具オモチャと見てやがる。

俺と雪姫が手を組んで悟美に初めて挑む。

「俺とあんたならやれる!倒すぞ!」

「うん、幸助」

人間と妖怪が取り合えば、最強に違いねえ。




初めての共闘に雪姫の心は弾む。

幸助の動きに合わせ刀を振るい、凍てつく冷気を放つ。

(幸助と一緒ならいける!)

高鳴る鼓動と共に息が荒れる。疲れからではなく、それは共に居られることに対する興奮だ。

助ける側の雪女が今、助けられ共闘する雪姫へと変わった。

白無垢の姿を羽ばたかせ、幸助の助力に尽力する。



悟美はすばしっこい。それでいて一撃が重い。

「くたばりやがれっ‼︎」

俺の刀身を簡単に弾きやがる。渾身の一撃は放ってないが、隙を作っても勝てる気がしねえ…。

まるで狂戦士バーサーカーだ。俺と雪姫の攻撃が1ミリも当たっちゃくれねえ。

「シシシシッ‼︎まだ二割しか出してないわよ?この倍を出したら死んじゃうかも!」

暢気に言っているようには思いたくねえぐらい、実力差があり過ぎる。俺が九華を倒した時よりも実力は確実に上がっている。

なのにこの女は、そんな俺を赤子扱いしているようにさえ感じてしまう。

積み重ねている戦闘経験が段違いなのだ。

俺は時間が遅く進む空間で2週間いたとしても、この悟美という女はそれ以上の年月をその身で生き抜いてきた。

妖怪が蔓延るこの世界で100年。それだけで強者の証になる。

「黙れ‼︎変な武器使いやがって‼︎」

「違うわ。これは三節棍っていう武器。私の愛用の武器だけど〜?」

そう言いながら、容赦なく攻撃が襲ってくる。

遠距離、中距離攻撃を試すことにした。

「雪姫!氷結使え!」

「うん、『氷楼架空ヒョウロウカクウ』‼︎」

俺は雪姫の妖術で生み出された雪建物に乗り、刀剣を銃のように構える。狙いを定め、俺は放つ。

「『氷針弾アイスショット』!」

 音速並みのスピードはある技だ。これで隙でも……。

「残念〜。シシシッ!」

簡単に避けられた。

「クソッ!じゃあこれはどうだ‼︎」

俺は雪姫の『氷楼架空ヒョウロウカクウ』に細工をした。俺は雪姫の妖術が大半使え、それを応用する力を持ってる。理屈が不明だが、この女の不意打ちにはなる。

「『氷乱分子アイシュモルキュア』!」

雪建物が分子レベルとなって悟美に弾け飛ぶ。受けた箇所が凍てつく冷気で肉体が凍結する仕様だ。

飛んだ先に雪姫がいるが、この攻撃は雪姫には通じない。同じ系統の攻撃は通用しないという妖怪特有の能力がある。それを知っているからこその戦法でこの女を倒せる。

「もうちょっと、マシな攻撃はないかしら〜?」

余裕な態度を見せると今度は、分子レベルの攻撃を三節棍を豪快に振り回し、俺の攻撃全てを掻き消した。人間業とは思えない技量を見せ付け楽しんでやがる。

「化け物だな。これを弾きやがるとはな…」

悔しい。こんなに実力差があるとは考えてなかった。悟美が能力を使わない限りだと、何か特殊なタイミングじゃないと使えない……。

違う、心の底から戦いを楽しんでやがるんだ。この女、俺の攻撃と雪姫の攻撃を戯れ合うように遊びやがる。

上、下、背後から隙を突こうと仕掛けるが、全部無駄骨だ。舐められているのか、俺の刀剣を目を瞑って全て弾きやがる。

「シシシッ惜しいわね」

俺の隙を躱し、蹴りで飛ばされる。

「幸助大丈夫⁉︎」

「クソッ!こいつ半端ねえぜ!」

思ったよりもヤバい奴だ。俺の刀剣を見ないで弾きやがる!

「幸助!とっておきを使って!少しは効くと思う」

「よし!乗ったぜ‼︎」

俺は刀剣に冷気を纏わせ、雪姫と連携攻撃を開始した。

特訓のお陰なんだろう、思ったよりも雪姫と息がピッタリだ。

俺と雪姫は半年間特訓して俺達の連携もバッチリだ!

妖怪と人間でタッグを組めば、あの秋水って奴だって倒せる。

これなら……。

「食らえ!『雪昌通牙︎(セッショウツウガ)』‼︎」

刀身に最大凍結させた攻撃やいばを悟美の胸に目掛けて放った。強さで耐えてくれるなら多分死なないだろう。


希望が打ち砕かれた音がした。


嘘だろ……。

なんと、俺の突き刺そうとした凍結した部分を三節棍でぶっ壊しやがった。

「マジかよ…」

超高密度に生成した氷が一瞬で砕け散った。

思わず苦笑いしてしまった。

「アッハハハ!貴方の攻撃弱すぎたかしら〜?残念ね、さようなら…」

三節棍が俺の首に迫る。




あ……俺死んだ。

だけどなんだろう。思ったよりも攻撃がゆっくり視える。

違う。攻撃自体がどんな風にくるのかが分かるんだ。未来視っていうものなのか?

走馬灯ではなさそうだ。

俺は無意識にしゃがみ込んだ。

背後で岩山が大きく破壊された音が響く。




(えっ?幸助、どうやって見切ったの?)

その様子を見た雪姫も何が起きたのか理解出来なかった。

幸助の身に危険が迫り、幸助自身が死を認識するよりも行動を優先した。

それにより、幸助の視覚に変化が起きた。

來嘛羅が得意とする『未来視』を原因不明で習得したのだ。

否、幸助は來嘛羅に異能の力を引き出して貰っていたのである。

特訓として來嘛羅が幸助の異能に眠る可能性を、己の体を張って習得させた。しかも、幸助がそれを異能と認識せず、間違った解釈で己の異能の正体には辿り着いていない。

だが、それこそが幸助には必要だった。

己の異能の正体に気付かない事こそが、來嘛羅には都合が良かった。

知らぬが仏。幸助に真実を話すことはない………。

「視えたな。これならいけるぜ!」

幸助は自分の力に勘付き、知らずうちに獲得した『未来視』を駆使し悟美の猛威を躱す。

「あれ〜?私のフルスイングを躱すだなんて、見誤っていたみたい。でも……問題ないわ!」

悟美は体全身を使い、幸助に容赦ない打撃を与えようと振るう。

一歩間違えれば死に直結する一撃を、幸助は見逃すことなく全て見切る。

「シシシシッ、面白いわ!こんなに避よけてくれる人初めてだわ‼︎ねえ、もっと上げて良いわよね⁉︎死なないなら遠慮しなくていいでしょ‼︎」

多彩な攻め方に転じる悟美。三節棍の先端を握り、リーチを獲得する。

大振りかと思えばその速度は衰えず、視認が難しい速度で幸助に襲い掛かる。




狂気そのものが俺に襲い掛かる。

だが、俺は変に冷静だった。

次の攻撃が来るのが視える。

刀剣を使い、俺は三節棍が襲う軌道を全てずらす。

まるで作業みたいだ。悟美の攻撃自体が直線的で受け易い。

当たったら死ぬと肌で感じるし、舐めているわけでない。

だけど、俺ってこんな才能があったのか?

未来視出来るなんて、俺にしたらチート過ぎるぜ‼︎

俺は気分が良くなってきた。

「おっしゃあっ‼︎今度は俺の反撃行くぜ!」

刀剣に生気を込める。

俺が無名から貰った刀剣は、俺の意思と生気であらゆる属性を自由自在に扱える優れ物。

恩人でもあるし、俺のことを好きって言ってくれた妖怪からの賜物に感謝しかない。

俺の声と共に眩く光出す。

「地を切り開け!『軋轢地闢アツレキチトウ』‼︎」

刀剣を振るった軌道通りに地面が割れ、悟美を襲う。

「面白い術だわ。シシシッ!」

だが、俺の攻撃をいとも簡単に空中へ飛び回避した。

ま、空中は身動きが取れないんからな。そこを狙ってやる。

「必中…『風醒弾丸エアリアルショット』‼︎」

刀剣を銃のように構え、空気砲のように発射。

その速さは音速を超えている。

「呆れたわ。こんな攻撃が……」

悟美に当たった瞬間、爆発が起こり、空中にいた悟美は直撃だった。

「よし!後は生きているかの確認………え?」

俺は思いもよらない光景を目の当たりにする。




幸助達と悟美が戦闘中、來嘛羅は古小屋に入り、烏天狗と女天狗と対話していた。

その傍で、もう一人の迷い人の十六夜紗夜いざよいさやが立っている。

容姿は黒髪で短髪。目は黄色く、身長は小柄で視野が狭い。

全身漆黒オールブラックを基調とし、顔以外は全く肌を見せない暗殺者アサシンのような姿。

紗夜は悟美とは対照的で、人見知りなのか、話し方が挙動不審そのものだ。

「あ、あの…女天狗様。このお方は?」

ずっと声を震わせ、紗夜は女天狗に聞く。

「このお方は古き時代よりこの妖都に住まい、人間共を食らう純妖の九尾狐様であらされるお方よ」

「えっ⁉︎えっ⁉︎ひええっー‼︎」

聞いただけで恐れてしまい、女天狗に抱きついて子供のように震える。

「これ、妾の素性を悪く言うではない女天狗。人間を食らうのは合っておるが、無闇に食べるほどのことはしておらぬ。邪念を抱く人間の魂はちと美味うからの、そこの娘は食べるつもりはないから安心するがよい」

笑って訂正する。

「これはこれは九尾狐様、ワタクシ達を尋ねたのはてっきり、迷い人を食らうためかと思われて焦っていたのです。お陰で悟美ちゃんと紗夜ちゃんを取られずに済んで一安心です」

ホッと胸を撫で下ろす女天狗。

「しかし、俺の結界を易々と破壊されてしまっては奴らが入ってくるはずだ。今日もこの辺りで探し回っていたからな」

女天狗とは違い、烏天狗はその鳥のような目で來嘛羅を睨む。

結界を破壊されたことに腹を立てているのだ。

「それは申し訳ない。じゃが、代わりに妾の結界で上書きしたからこれで構わんじゃろ?」

來嘛羅は悟美の初手の攻撃が放たれた後、瞬時に結界を張り出し、外と隔絶したものに変えていた。

「それなら構わんが…」

烏天狗は納得した。來嘛羅であるならば心配要らないと。

「結界の件が安全と分かった上でお聞きしますが、何故、九尾狐様はワタクシ達に声を掛けてくださったのです?善意…とは思いませんが」

用件を知りたい女天狗は來嘛羅に聞いてみる。

「うむ、それを今日は聞かせてやろうと思うて。ひと月辺りにこの妖都で災いが動く。これは知っておろう?」

「はい、ワタクシも紗夜にお願いして調査して見たところ、かなりの数の妖怪が駆られてしまい、地下に閉じ込められてしまっております」

「やはりの。妾もその刈っておる一人を尋問し、情報の大半を抜き取ったんだが、思っていたよりも事態は深刻じゃ。妾一人では対処は困難。そして、閻魔もこの件は鋭く目を光らせておる」

來嘛羅は正直に語る。自身が抜き取った情報を全て烏天狗達に開示する。

「……俺の情報よりも詳細だな。俺達よりも生きているだけあるよな」

と、來嘛羅を敬うようなことを呟く。

「30年前より迷い込んだ山崎秋水は更に昔に来訪した秋山名妓と佐藤貞信を支配し、そして、妾の愛しの幸助殿を拐おうとした黒山分華と九華までも支配下に置いた。本来なら見過ごすのは良くなかったのじゃろう」

秋水という男の素性は來嘛羅は知っている。見過ごしていい人間でないと常々思っていた。

だが、手を出さなかったのは訳がある。

來嘛羅が口にした妖怪の閻魔大王という者との《契約》が原因だった。


太古より生きる妖怪は、何かしらの異能を隠し持っている。八岐大蛇や九尾狐、天逆毎、大嶽丸、閻魔大王などはそれぞれの人間に匹敵する欲望を持つからこそ、自然獲得した異能を持つ。

唯一、異能を操ることを許された者達なのだ。

九尾狐から來嘛羅として名前を変えた彼女もまた、異能を隠し持っている。

閻魔大王の異能は他人への自らの強制の縛りを与える《契約》。

この異能は、自身と他者との契りや判決などで強制的に契約を結び、成立又は破棄されなければ、契約された相手は契約に従わなければならないというものだ。

來嘛羅は秋水が現れた際、閻魔大王に呼び出され、無理やり契約を結ばされてしまった。

『山崎秋水という男に、九尾狐が一切の手出しを禁じる』というものだ。

これを破った場合、來嘛羅は重い罰を下される。

監視や情勢しか知る術がなかった。だからこそ、幸助や雪姫のような人物を懐柔したかった。

妖怪は兎も角、迷い人の大半はあまりにも傲慢な人間ばかり、並ならぬ覚悟では抑えつけられない連中ばかり。

頼れないと判断した者を魂ごと食らい、今日まで至る……。

「其方達に頼みたいことがあるのじゃが」

來嘛羅の頼みはそれなりに重い。それを汲み取れるのは、目の前にいる者達と信じた幸助達だけなのだ。

「閻魔大王様も大概ですね。危険人物を擁護するなんて裏があるとしか思えない」

「俺も同感だな。九尾狐様のその痛ましい想い、承った。この妖都は俺達の故郷でもあるんだ。みすみす人間共に支配されてたまるか!」

女天狗は深く考え、烏天狗は協力を惜しまないようだ。

「すまぬな。秋水とやらを葬ってくれた暁には、妾が持つ異能を授けるとするかの」

異能、その言葉を聞いて二人は慌しく焦り出す。

「待って下さい!ワタクシ達に異能って事は、あの噂は本物⁉︎」

「そ、そうだ!俺もそんな大事、噂程度でしか思ってなかったが……まさか、本当に⁉︎」

來嘛羅の発言にはそれなりの価値がある。

それは今回の見返りとしてもお釣りが出るほど。ましてや、妖怪達が喉から手が出るほど渇望している物だ。

人間か太古の妖怪しか得られない異能は、妖怪達には縁遠い話。

それを授けるという事は、來嘛羅が本気だという証拠なのだ。

「あ、あの!異能って、私が持っている——」

「喋っちゃ駄目!紗夜ちゃんの異能は特別でもあるんだよ?簡単に口を開いたちゃ駄目!」

紗夜が言いかけた途端、女天狗は瞬時に止めに入る。異能とはそういうものなのだ。

「フッフッフッ女天狗よ、今更隠しても意味はなかろう。妾は幸助殿の異能は知っておるし、悟美とやらの異能もある程度は把握しておる。この際じゃ、妾と其方達の異能を開示するのは悪くなかろう」

異能の情報交換。來嘛羅に躊躇いなど存在しないと言わんばかりで、強要する。

そう簡単に教えられるもので収まるはずがない。最悪、悪用しかねない物を簡単に明かすとなると、それ相応の危険を背負う。

「当然、条件はある。妾が開示した異能は他の者に話すでな。また、其方達の異能は妾の中で留めておこう。それならどうじゃ?」

烏天狗と女天狗は顔を見合わせる。

「教えても良いのでは?折角ワタクシ達の協力者として九尾狐様が助力を下さるし」

「それもそうか。もしかしたらそっちの方が悟美のためにもなるだろうし…」

悩んだ末、烏天狗達はその条件を呑んだ。

來嘛羅が言い出したことなので、自身が持つ異能の全てを開示することにした。


だが……。


「申し訳ありません…。今話したのは全部ですか?」

「うむ、そうじゃが?」

「いや御冗談を…。今開示したのは、異能だよな?」

「全て妾のものじゃ。何か不思議そうな顔色をしておるが大丈夫かの?」

どうやら、烏天狗達には信じ難いものだったらしい……。

「次は妾が聞く番じゃ。とは申しても二つなのじゃろ?」

烏天狗は気を取り直して開示を始める。


「俺の加護を受けている悟美は見ての通りの《狂乱》だ。自我を代償に妖怪すら凌駕する身体能力と成長速度を可能にする代物だ。しかも、強さは桁違いだ」

悟美の異能は、理性を失う代わりに発揮する力を我が物にできる異能。あらゆる肉体の損傷と回復を超速化させ、妖力の消費よりも回復速度が上回る。

「だが、その力は一度解放すると理性を失い、見境なく他の者を殺戮するのを厭わない。使い熟せば本物なのじゃがな…。実に惜しいものじゃ」

だが、強靭的な精神を持ったとしても完璧にコントロールが不可能である。理性を失った野性の猛獣の如く、その身は狂気に呑まれ、制御不能となる。

「惜しい…。そんなことで収まるほど、悟美は俺の考えの上を言っている。これは俺の推測になる。悟美は何かを試しているのをつい最近知った。それである事をさせてみたんだ」

烏天狗は來嘛羅の興味を唆ることを言う。

「ほう!それはどんな方法なのじゃ⁉︎まさか、異能の開花とかなのか?」

烏天狗はお茶を啜って勿体ぶる。

「九尾狐様と言ってもやはり辿り着いていなかったのか?てっきり、こっそり辿り着いているのかと思ったんだがね」

「妖怪に嘘を吐いて何になろう。妾は己の異能には自信があるのじゃ、公表されたとて対処は不可能じゃ」

來嘛羅は興味津々。自身も異能と迷い人を研究する身ということで知りたいのは無理もない。

「はっはっは!九尾狐様が辿り着いていらっしゃらないのなら、この件はまた後日としよう。話すより実際に見た方がいいとは思うがな」

不敵に笑みをする烏天狗に來嘛羅は察した。

「其方……妾の幸助殿に要らぬことに遭わせる気じゃな?」

「そう思うのなら見てくると良い。恐らくだが彼はもう……」

烏天狗が意味深に笑う。それが意味するものを悟った來嘛羅も微笑する。

「なるほどの。其方、悟美を本気にさせたのだな?」

だが、目は笑っていなかった。

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