二十八話 ただ認められたいが為に
ほんの少しだけ手解きしております。
あれから5日経った。目が覚め、雪姫と來嘛羅にその後を聞いて驚いた。
妖都で、立て続けに妖怪が失踪しているというのだ。人間の死体も確認されており、かなりの犠牲者が出ているようだった。
「俺達を襲った奴らが暴れ始めているのかよ?」
「事実じゃ。妾の目の行かぬ場所で被害が出ておる。どうやら、妖都の六割近くが連中にやられてしまっているのじゃ。道行く者が減り、今は妖都に相応しくない程の静けさじゃよ。妖怪達も店を畳んで顔を隠しておる。さて、どうしたことかの…」
俺は妖怪の方が強いのは理解している。俺が持つような能力と違い、初めから持つ妖力を使った妖術は強力だ。だからこそ、狙っている奴らに負けるとは思いたくない。
「俺は能力って言っているが、來嘛羅と雪姫は異能と呼ぶ力は確かに異質でヤバかったが、來嘛羅なら余裕だろ?なんで好き勝手に狩られてんだよ」
俺の疑問はどんどん浮かび上がる。
「幸助、あなたは勘違いしているかもしてる。この妖界で生きる妖怪に戦闘能力はあるけど、それは妖術に対してであって、異能には敵わない妖怪が大半。人間と過ごす事が多かったから分かるけど、あなたみたいに被害が出ないような異能が珍しいだけ。後は凶々しい異能でしかない」
「それで、其方は人間を切り捨てたというわけじゃな?」
來嘛羅は揶揄うように雪姫の心を掻き乱そうとする。
「なに?化け狐が知った口をして」
「言い方が良くなかったかの?じゃが、それも事実であろう。人間という種族は未知なる可能性を秘めている上にその力を見誤る。幸助殿は特別だけじゃったと。それさえ分かれば、其方にも聞き貰えるじゃと思ったが」
そういえば、俺の疑問はこれだけではない。
俺自身の身体能力と扱っている妖術が飛躍的に上がったというところだ。
どうやら、俺が眠っている間に雪姫達に弄いじられていたみたいなんだよ。思ったよりも力が漲ってくるんだ。力を持て余すような何かが……。
「今の俺だったらやりあえるんじゃねえのか?二人死んだんだし」
俺は九華を殺した。それに関しては後悔もない。雪姫達を侮辱した奴らを生かす理由もないしな。
「幸助殿、実はの、あの者達は死んでおらんのじゃ。分華を取り込んだ際に違和感を感じ、一度戻ったのじゃが…どうやら、妾の目を欺いておったのじゃ」
「マジかよ⁉︎」
「嘘ではないぞ。幸助殿が凍らせた九華を調べたら分身じゃった。最初から妾達を試すつもりで放ってきた忍者のような奴らよ。お陰で、こちらの動きを監視されておる。動きを封じ、他の妖怪を狩る所業を繰り返しておる」
「くっ、許せねえな…。いっちょ、あいつらを絞めあげてくるか」
「気を立てるでない。今は行動するには時期が不味い。妾が出向いて滅ぼすことも可能じゃが、その場合、妖都が半壊してしまう。力を抑制すると負けてしまうからの」
流石最古の妖怪であり、俺の好きな來嘛羅だ。異世界人達を倒せる力は持っているんだな。
「じゃあなんだ?あいつらを野放しにするわけにはいかねえし、妖怪達を解放する手筈は整えるべきだろ」
「それなら安心して幸助。私達以外にも動いている妖怪や人の子はいる。まずは、その者達に協力を要請するべき」
「そうなのか?」
「うん。幸助と同じように、正式に加護を受けた人間はいてね。妖都にひっそり住んでいる人間が二人に心当たりある。2週間後、私達が化け狐の空間から出て説得しに行く。その際、幸助にも手伝って貰うけど、大丈夫?」
雪姫が意外な提案をしてきた。
俺は迷わずに頷く。
「うむ、決まりじゃな。その者達は100年の時を生きる迷い人じゃから、その強さは保障出来よう。烏天狗と女天狗の加護を受けし者故、その力は強靭じゃ。もう妖都にいる協力者はその者しかおらぬ」
「そうなのか。じゃあ、そいつらに協力を貰いに行こうぜ!」
暫くは來嘛羅の空間内で身を潜めないといけないのか。こういう時に暇潰せるものがあればな……。
「ところで雪姫、あんた凄く変わったな?」
「……気付いてたんだ」
「ああ、当然だ。表情というか喋り方か?後は雰囲気自体がこう…柔らかくなった感じがしてな?滅茶苦茶喋りやすいんだ。俺が眠っている間に何があったんだよ?」
喋っている時もそうだったが、俺と会話する時は人間らしい仕草が多かったもんだから気になった。
「そ…そうなのね。私の事、意識してくれてくれるんだ。ユフフ」
「表情が冷たいお姉さんじゃないしな。何か、來嘛羅に影響でも受けたのか?」
すると、雪姫が頬を膨らませジト目で、
「知らない……」
そんな一言で雪姫にプイッとされた。
「なんでだよ?俺とあんたの仲だろ?それぐらい教えてくれよ!」
「駄目。私の恩愛を受け入れないと言わない」
「知らねえよ、あんたにしか分からないだろうが、俺に聞かせてくれよ」
「無理。私の料理、食べてくれるなら話してあげる」
「うっ‼︎」
急に吐き気を感じた。“料理”という言葉ワードに酷く反応してしまう。
「なんじゃ?其方が振る舞ってくれるのかの?それは誠に楽しみじゃ。是非作っておくれ」
「分かった。化け狐にも食べさせる、楽しみにしてね」
なんでか不敵に笑う雪姫が、てくてくと台所に向かいやがった。
「おい待て!おいっ‼︎」
俺は無理やりでも辞めさせようと台所に向かう。
「これお主よ、何故なにゆえ止める必要がある?幸助殿と妾の為に命を提供してくれるのだぞ?何故なにゆえ、そんな不愉快極まりない顔をする」
「アレを料理とは言えないんだ!來嘛羅が食べて良いものではない!直ぐに止めてくれ‼︎」
俺は弁明する時間が欲しかった。なのに……。
「お待たせ。化け狐の空間内だと楽、材料が全て揃っているから」
そんな時間は存在しなかった。
「ほう?妖術でも使ったのかの〜?随分早う仕上がりじゃな」
「料理なんか簡単、3分あれば出来る」
それは料理と呼べるのか……?3分で出来る料理なんか聞いたことがない。俺の認識不足か?
「なあ雪姫…ちなみに何作った?」
なんで作った物に布を被せる?そこからツッコみたいんだが。
「これ?若鶏の生け料理だけど」
「おお!それは大層なご馳走じゃな!」
來嘛羅が目を光らせて喜ぶ。
若鶏の逝け料理なのではないのか?そもそも、名前からして3分は少な過ぎるだろ‼︎
「俺、生食えないんだけど」
「大丈夫、幸助のお腹に合うから」
「俺に死ねと言ってんのか⁉︎」
冗談じゃない。こんなもん食ったら腹下すレベルで済む筈がない。
「何を喚く?お主の為に丹精込めて作っておるじゃろ。それを口にしないとは命を侮辱するのと同じ、妾とてお主の感性を疑う」
こればかりは否定したい。食材を侮辱しているのは雪姫の方だ。
俺の目の前に大皿が来てしまい、思わず腹痛が襲う。布を被せられているが、これは料理じゃない。
「はい、これ食べて精をつけてね」
布が取られ、俺の目に映るのは生きた鳥だった。
生きてる、というか痙攣しているように見え、内臓剥き出しの状態だった。
羽根は全部抜かれ、中途半端に生きていて、それでいて血と肉が見えるから吐き気が誘う。
必死に吐き気を押さえ、その料理に俺は文句を言いたい。
「うむ……これはなかなかの見栄えじゃな。雪姫も良い腕じゃ」
「そう?私の料理を褒めるのね」
「久方ぶりに人の物を食べるからの。これも新鮮味があって良いぞ!」
え…?
來嘛羅が褒めてるのか?あの見た目も食感も最悪なゲテモノをか……?
なんでそんな美味しそうに料理を見れるのかが不思議でたまらない。
「こんなこと…間違ってる!なんで生きてる動物が良いんだよ⁉︎」
間違っているつもりはない。下処理も殆ど無い物を料理とは言わないし、俺は認めない。
「え?でも、幸助は生きた魚、食べたよね?」
「あれは食べるのが魚だけしか無かったからだろうが!お陰で毎日踊り食いで口の中を冷やさないと食えねえんだよ‼︎」俺が何度口を怪我したことか。妖術で口を凍らせながら砕かないと魚が暴れて口の中が滅茶苦茶になる。実際になったし!
「幸助殿、妾妖怪は生きた状態の方が栄養を摂れると考えておる。生きてる血肉が妖力となり一部となる。死んだ生物じゃと大して栄養が摂れぬ。死体を食べるよりは聞こえはいいと思うのじゃが?」
俺が真剣に否定してるんだが、來嘛羅が耳を疑う事をサラッと言いやがった。
俺が間違ってるのか?
俺は自分の価値観が可笑しいのではと錯覚し始めた。
「死体食べるのと生きた体食べるのはどっちがマシ……聞こえは良いの、か?」
「分かりきった事じゃ。死肉を食らう方が穢れておる。新鮮な血肉は生きたものしか持たないからの」
なんだろう…。俺の今までの常識がヤバいのか?
牛や魚を焼いて調理して食う事になんの躊躇いもなかった。
來嘛羅や雪姫の反応を見ると生きた状態が新鮮だという。妖怪は生きた状態、人間は死んだ状態のものを口にする。
ヤバい、今ヤバいことに気付いちまった。
俺の方が滅茶苦茶気持ち悪いじゃねえか⁉︎
「分かったよ。俺も今日から生で食ってやる」
幸助は環境や状況に馴染むのが早い。
好き嫌いがない性格で、どんな物でも食べてしまう考えを持ち、見た目に何があろうと食べる事を優先的に考える人間だ。
決して貧しい環境にいた訳でもないが、どんな見た目のゲテモノでも食べてしまえる。
決心すれば問題ないと、幸助は覚悟した。
案外、こういうところが來嘛羅が気にいる部分でもある。
(すまぬ幸助殿……。雪姫の料理は壊滅的じゃ)
尚、幸助を唆した來嘛羅は雪姫の料理を認めていなかった。
対秋水に向かって、ただ待っているだけじゃ無駄というもの。
2週間あるし、俺はどうしようか?
秋水の奴は強さが桁違いだとさ。分華や九華の奴らが強かったのは事実みたいだが、あれは劣化版らしい。
分身の強さは、本来の半分以下になるらしく、俺はそいつらにギリギリ勝ったに過ぎないのだ。
「幸助?思い悩んで、どうしたの?」
「あいつら強かっただろ?俺も何か手を打たねえと、って思ってた。何か修行とか特訓に打ち込みてえんだ」
「それだったら私がしてあげる。2週間で伸ばせるかは分からないけど、あなたなら大丈夫」
フォローしてくれるのはありがたい。けど…。
「2週間ごときで賄えるわけがなかろう」
來嘛羅が峻厳を言う。
「無理だよな……。2週間程度、ゲームとかじゃねえし。都合良く力を格段に上げる方法なんかこの世界にないだろうし。仕方がねえ、自力で鍛えるしか」
俺は刀剣を引き抜こうとすると、來嘛羅がある提案をしてくれた。
「待てお主よ。まさかであるが、誠に2週間を乗り切るつもりかの?」
「だって、仕方がないんだろ?少しでも役に立てるように剣を振るえるようにしときてえんだよ」
「2週間など、人にはとても無理じゃ。天才でなければそれも不可能じゃろう」
「天才は別だろうが。俺は凡人だ。あいつらから妖怪を救いたいんだ。元は人間だから、気合いでなんとかしてやる!」
俺の意気込みに容赦なく來嘛羅は厳しめに発する。
「気合いなど、まやかしに過ぎぬぞ。そんなものが筋で通せるほど、人間の世は甘かったのかの?妾の見てきた人間は気合いではなく、それに見合う努力の賜物と欲望故の願望があったからじゃ。幸助殿、気合いという気迫は人一倍あるが、それは単に根性論に過ぎぬ。天に吼えても天に届かないようなものじゃ」
「化け狐。幸助のやる気を削がないで!あなたの言い分は正しいかもしれない。けど、それは昔の話。今はそれで乗り切れることだって—」
雪姫の形相に臆さずに來嘛羅は笑い出す。
「削ぐならとっくに折っておるわ。其方はお節介にも程がある。人間に思い入れる感情を抱きながら先を恐れて進化をせず、やっとその壁を乗り越えたと思えば…ンフフフ。やはり妖精の思想とはみっともないぞ?」
「純妖がそんなに偉い?人間は弱いから、それを克服して強くしようと汗水垂らして頑張ってる。化け狐は努力なんかしてない身で、よくも幸助を蔑めたものね」
対抗意識がぶつかる。雪姫と來嘛羅の温度差が激しく見える。
「努力をしておらぬと申すのじゃな?」
「勿論。純妖なんか人間を餌としか見ない哀れな種族。相容れない関係と手を結んだのが間違いだった。私は500年以上、迷い人を助けるためにこの身を鍛えた。なのに…」
悲痛さを顔に浮かべる雪姫。來嘛羅が抉るような言葉を投げかける。
「結局誰も救えておらぬではないか。いや、ただ一人救えたのが唯一の救いかの。手を伸ばしたところで離しては他人の物と同然。其方は望んだ者が人間だからと、半ば諦めかけておったのだろう?」
「化け狐の分際で…」
何も言えない。悔しくて言えないと、雪姫が泣きそうに見えた。
「人間は弱い種族なのは間違いじゃ。幸助殿が証明したであろう?其方の代わりに人間を葬ったところを。それが弱いというなら軽薄も甚だしい」
俺は人間だから。だから弱い。そんなことはないと來嘛羅は言った。
でも、雪姫の気持ちも汲んで欲しい。
「なあ來嘛羅、俺は雪姫の負担を減らしてやりてえ。ずっと前から人を助けようと頑張ってたんだ。人が弱いのはそれぞれの価値観だろ?価値観で決めてるなら勝手に決めて構わないぜ?」
俺の決め事は俺が決めなくちゃならねえ。
「幸助…」
「大体、人だからって心配し過ぎなんだよ。言い方悪いが、秋水は妖怪より強いのなら余計に心配はいらないって。俺がそいつよりも強くなれば心配ないだろ」
人間が弱いなんて定義した奴は誰だって言いたい。無名もそうだし雪姫もそう思ってやがる。
人間が妖界で弱者。この定義自体がそもそも間違ってる。
人間界だったら妖怪が弱いのか?違うだろ。
妖界だったら人間が弱いのか?違うな。
「伝承とか読み漁ってて思ったけどさ?なんで妖怪が人間より強いばっかり書いてるのかが分からねえんだよ」
「ほう?それはどう意味じゃ?」
「俺の勝手な物言いだけど、怖いから生まれたんじゃなくて、好きだから生み出されたんだろ?妖怪って」
多分、妖怪に詳しい人を怒らせる発言だな。俺はそういうのに拘るタイプじゃねえ。
「幸助殿。お主が考えていることは分かっておる。じゃが、それもお主の私観じゃろう?」
「だからこそだよ。人の思い描くものは自由だろ?雪女、そして九尾狐。人の想像力、つまり伝承から生まれた妖怪が現在もこうして妖界ここにいる。誰かに存在を望まれていなければ、俺は雪姫と來嘛羅に会えなかったんだ。ないと思ってた世界に転生したこと、俺は滅茶苦茶幸せに感じてる。じゃあ尚更、人が感じる感性に違いがあって良いじゃねえか?」
來嘛羅は面白そうに俺を見ている。俺を試すような問いを投げてきた。
「なら一つ問おう。幸助殿は、妖怪と人間をどのような存在と心得る?先程申したことがお主の答えではなかろうて。妾や雪姫に名を与え、力を賜った。見返りを求めぬお主の真意、述べてみるがよい」
來嘛羅の目が本気だ。体が萎縮し、心臓を鷲掴みにされている気分だ。答えを間違えば命がない。そんな気さえする。
幸助の勘は間違っていなかった。來嘛羅は本気で質問を授けたのだ。これに答えなければ魂を食われる。
來嘛羅…いや、九尾狐は人を化かすのと同時に人を食らう妖怪だ。人の姿をする妖怪は人間に友好的。だが、それは決して善意だけではない。
興味本位、討伐、拘束、支配をしようと愚かにも棲家に侵入した人間は多数いた。人間界でもまた、多くの人間が討伐のために九尾狐に敵意を向けた。
その結果、多くの人間が九尾狐に食われた。
それは伝承に過ぎない言い伝えとされる。だが、伝承が偽りとも言い切れない。
しかし、伝承が妖界では具現化し、顕現する。九尾狐が人間を食らうのは当たり前の認識になり、その力を持っている。
伝承に伝えられる力を全て使える九尾狐。『千里眼』・『妖怪変化』・『繁栄』・『破滅』・『強欲』・『神獣』と知られる力は勿論、知識による戦略と篭絡を得意とする。単なる人間など、騙し食らうのは造作もないのだ。
金瞳で見透した未来に幸助を見た。在り方を気に入り、懐にしまっておきたい。だが、品定めはしなければ落ち着かないのも九尾狐の性根だ。
他人の懐に漬け込むような伝承により、自分自身もそうでなければならなかった。能力や行い、容姿、智恵すらも伝承に影響に左右される。
性格すらも人間によって生み出された憐れな存在。それが妖怪の正体なのだ。
望み、恐れられ、偏見を植え付けられ、人格も力も伝承により左右された妖怪の運命に終わりはなく、永遠の時ともいえる時間を妖界で過ごす。
唯一、心は思うがままに望める。心は本音を語れる。來嘛羅が本当に望む回答を幸助は既に持っている。公言してくれることを望む。
だからこそ、九尾狐…いや、來嘛羅は幸助に問う。
俺は嘘を吐かない。吐けば悲しませ、俺は食われる。俺が望んだことは……。
「あんたらに対する愛だ。俺は九尾狐が恋したかった。だから分かったんだよ。俺は妖怪と人間で幸せになっていい世界があっても良いんじゃないかと思った。人が人に恋するように、妖怪が人に、人が妖怪に気持ちを伝えても良いんじゃねえかと。今は、來嘛羅にちゃんと想いを伝えたいんだ!」
言い切った。俺はちゃんと言えてる。好きな奴に告れてる!
「それで、妾に何を求めるのじゃ?好きというのに嘘はないのは分かったが、真実と求めているものを答えておくれ。聞いた上でお主を扱おう」
「好きな奴のために……俺は何かをしたい。好きな気持ちを何かに繋げてんだ!來嘛羅が俺を強いと言ってくれたように、俺は応えられる男でいたい。あんたを守れるぐらいの強い男にだ!妖怪に認められるほどの人間になって、もっと頼られたい‼︎」
逃げ出したくなるほど恥ずかしい台詞セリフだったのを悔やんだ。
だが、これが俺の本意なのだ。
好きな奴のために、一度も頑張った記憶がない俺にとって、誰かを好きになって頑張りたいのは憧れであった。
俺の告白に、來嘛羅は口を塞ぎ込んでいる。雪姫も何か言いたげであるが口に出そうとしない。
「妾を守る。と申したか?」
「ああ!俺は女のあんたに本気で好かれた人間としていたい。それだけだ」
これで認められなければ俺は食われる。まあ、食われて泣く奴は雪姫だからな。流石に嘘一個もない言葉はキツ過ぎたか……。
腹を抱え、ブルブルと身体を震わす。
「そうか。妾を女おなごと見るのじゃな?…フッフッフ…フハッハッハッハッ‼︎お主は面白う存在じゃ‼︎」
吹き出すように來嘛羅が笑った。
面白いと笑われたのか?でも、俺は嬉しかった。ちゃんと、俺の気持ちが届いてくれているみたいだから。
「そうかそうか!妾がお主の女か。うむ!その話、とても愉快じゃ!妾をこよなく愛そうとするその想い。傲慢なほどの妖怪信者ときて妖怪に認められたいか‼︎蔑む人間は数え切れぬが……お主の欲望は簡明直截そのものじゃな。その胸の内、しかと受け取ったぞ‼︎」
気持ちが昂ったのか、來嘛羅が上機嫌だった。
俺はモフッとする感触に体が包まれた。
「化け狐‼︎」
と、雪姫が声を荒げているのを耳にしていたが、それどころではなかった。凄え尻尾けもうに撫でられ、容赦なく体中が尻尾に包まれる。
俺には來嘛羅が喜んでいるように感じた。
「見込み通りの男じゃな⁉︎では、妾が全身全霊かけて応えようではないか!」
「マジか⁉︎」
俺は期待を胸にした。來嘛羅に認められたことで、俺は何かして貰えると。そう思わずにいられない。
「外に出るまで2週間、妾がお主を世話するとしようぞ!妾に目を付けられたお主が逃げる事は許さぬぞ?」
俺はこの日より2週間、來嘛羅による特訓が始まった。




