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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
27/46

二十六話 双子の来襲者

お久しぶりです。

投稿頻度が落ちてしまいすみませんでした。

数日間、メンタルが不安定でして、小説を投稿も書くこともままならない状態でした。


明日はpixivで二次創作を投稿します!

俺の服を見た來嘛羅が落ち着かないみたいで、俺は本来の目的である服を探し求めた。

正直、この世界に求められる格好にしては似合わないと思っていたから良かったし、俺も妖界に馴染みたいと考えていたから助かった。

服が現代の要素ばかりで、妖都には似つかない。

なので、來嘛羅に凝視されている。

「うむ。お主よ、そのみずぼらしい格好はちと恥ずかしゅうの。とっておきの召物を貢いでやろう」

身体を執拗に大きな尻尾で触り、俺の神経を撫でるように服をなぞる。

「良いのか⁉︎」

「良いぞ。条件じゃが、お主の召物をしてあげる代わりに、妾好みに着させてくれぬか?」

「お、おう……」

そう言うなり、俺を様々な服屋へ連れて行く。


だが、服の調達という名の着せ替えの地獄が始まった。




俺を着せ替え人形のように着せていく。

「ふむ……肉付きは悪くないから重装も悪くないじゃが。ちと合わぬの」

「待ってくれ。裸見られるなんて聞いて——」

「恥ずかしがらなくて良い。裸族の妖怪人間幾千も見てきたのじゃ。お主の肉体はその中でもなかなかに良いぞ?」

來嘛羅に見られるものだから、俺は凄く緊張してしまう。

好きな妖怪に見られた体を褒められるのも悪くないが、褒められてばかりで何もしてあげられない悶絶もある。

「來嘛羅、さっきから俺の服を探してくれているのは嬉しいんだが。その……」

「うむ?幸助殿は嫌かの?」

「いや、服は助かるんだが……。なんで、來嘛羅はそんな質素な服装になったんだ?尻尾が一本だし、髪が黒髪に変えちゃってるのが気になって…」

來嘛羅の美貌が欠片もない、というわけではないんだが、尻尾が一本はなぁ〜物足りないんだよな。

俺が美しくコーディネートでもしてやりたい。なんて欲掻いた結果、來嘛羅が妖しくクスリと笑う。

「なんじゃ幸助殿?妾の尾が恋しいかの?」

思考を読まれる。それは、他の奴からしたら不快にしか思わない読心術であるが、俺は寧ろ、嬉しい限りだ。

來嘛羅に覗かれている感じが堪らないのだ。

「物足りないかな。折角、純金のような神々しい尻尾が一本しかないのが勿体無くて」

俺が願うように言ってしまった事に対し、來嘛羅はにんまりと笑みをする。

「ンフフフ、お主がそこまで言うなら……ほれ!」

気前よく、三本に生やしてくれた。そして、俺の首に巻き付けるように一本尻尾を肩に乗せた。

尻尾からは凄く良い匂いがする。眠らされた時に比べると、抑えめの甘い匂いで、鼻にくる匂いが妙に落ち着く。

匂いを表現するのは無理だな。どんな匂いなのか分からない。鼻にゆっくり染み込むような、濃厚な……。

俺の頭に強い衝撃が襲う。

「痛っ‼︎なんだよ⁉︎雪姫!」

雪姫が容赦ない手刀(チョップ)で頭を叩いてきやがった。

僅かに、雪姫が嫌そうな表情をして俺に聞く。

「匂い、好きなの?」

「……ん?」

「幸助、匂いに興奮してるから。もしかして、そういう事に興味ある?」

ここまで真剣に視線を向けてくるのかが分からないが、やけに俺に対して好意を見せてくれる。

とりあえず、刺激しないように聞くしかない。

「俺は匂いフェチじゃねえよ。來嘛羅の匂いが俺好みなんだ。もしかしたら、雪姫にも出来るかもな」

俺の考えに対し、なんでか來嘛羅が呆れ返っている。

「のう幸助殿。妾を褒めてくれるのは嬉しいのじゃが、そんな都合の良い事は出来ぬ。妾が見定めた男以外には通用せぬのじゃよ。お主が死ぬまで、妾の美貌に平伏せられる男は幸助殿だけじゃ」

「マジなのか⁉︎俺が死ぬまで、俺以外を誘惑しないという意味で受け取って良いのか⁉︎」

俺はこんな美女に目を付けられたんだな……。死んで良かった。


あっ…これ、マジで冗談になってないから逆に凄えな。


「化け狐、あなたは幸助をどうするつもり?一度虜にした人間が命潰えるまで依存させる妖術で催眠を。そんな事、幸助に許容しないで欲しい」

「仕方がないじゃろ?妾の多面性の一つなのじゃ。目を向けてしまったからには、責任を果たすべきじゃろ?」

「それはあなたの都合。私と幸助だけでもやっていける」

「それは不味かろうて。お主達は既に狙われておる。妾が傍におれば心強い筈じゃ」

「それは嫌。勝手に連れ去ろうとした化け狐の言葉は信じられない」

雪姫はきっぱり断った。

雪姫は來嘛羅を敵視している、という感じには見えないが、なんで張り合うのかが分からねえ。誰かと絡む度に、冷たいのを巻き上げるのだけは勘弁して欲しいんだが。

そんなやり取りをしている内に、建物が密集する内の一軒で足を止めた。

気にはなっていたが、文字は全部日本語だな。途中、うどん屋とか寿司屋とかもあったし、日本と全く違うというわけではなさそう。

散々歩いて見つかった何軒めかの服屋で俺の服を調達。俺は試着室で着替え、着ていた服は雪姫に渡した。

「これは?もう着ないの?」

「まぁ…もう着る機会はないかもな。未練はそこまでないし」

「そう……。なら、私が処分しておいておくね」

「ああ、好きにしてくれ」

俺は思い出の品を捨てる。

普通は残すべきなのだろうけど、ずっと着てた服がボロボロになってしまった。

雪姫に何度も刺繍で縫って貰ったが、毎日着込んでいた服は限界を迎えても可笑しくなかった。

捨てて貰い、俺は一思いに新着する服を考えることにする。




雪姫は幸助が捨てた服を貰い受け、そっと空間へ蔵う。

その一部始終を見ていた來嘛羅は雪姫を揶揄う。

「ンフフフ。其方よ、何をしておるのじゃ?」

見られたと知り、雪姫は鋭い形相で振り向く。敵に不意を突かれたように。

「っっ‼︎化け狐ぇっ⁉︎」

それも、尋常ではないほどに。何か見られてはいけないものを見られた気分のように、雪姫は咄嗟に刀を引き抜こうとする。

「これこれ、早まるでないぞ?そういう趣味を持っておろうとは知らなかった妾の不注意じゃ。許しておくれよ」

「何を言い掛かりにして?私を脅す気?」

「ふむ。そう捉えるならば仕方があるまい。妾は何も見なかったことにしよう。なに、心配せずとも其方が想う幸助殿には手を出さぬ。大人しくしておれば、その事は見て見ぬふりしてやろう」

「……分かった。でも、あなたが幸助に手を出したその時は」

雪姫の危険な匂いを嗅ぎ取る。執念とも独占とも思える濁った鼻が痛くなる何度も嗅いだ悪臭。

「何もせぬ。じゃが、其方の臭いは鼻を突く。その心、何処よ穢れた?」

「……何のこと?」

「知らぬならありのままの今を歩むが良い。妾は踏み外した者を裁かなければならぬからの。せめて用心せよ」

そう伝え、來嘛羅は幸助の後を追う。




購入を済まし、装備を身に付け、俺は試着室を出た。

俺の姿を見た二人の反応はというと、

「うん、似合ってる」

「より愛くるしくなったの。和洋折衷とは、随分好みが分かれるところじゃが、目の保養には十分じゃな」

雪姫は軽く両手で拍手しながら褒め、來嘛羅は俺の格好をじっくり眺めている。

和服や着物が多い妖界で目立たず、尚且つ現代風に近い服装を俺は選んだ。

シャツの上に紐無し羽織。パンツに革靴。ちなみに、店員らしき妖怪に薦められたがハットは要らなかった。

妖界にもこんな服があったんだなと安心した。てっきり、かなり着込むのを想像していたから、予想外れて良かったと思うな。

「いや、來嘛羅も見てただろ?」

「うむ。もっと服を仕入れてみるのも良かろう!」

來嘛羅は気に入ったみたいなのか、今度は別の店に尻尾で引っ張られる。

その後は凄いものだった。どうやら、來嘛羅に火をつけてしまったみたいなのだ。

來嘛羅の着せ替え人形のように渡された物を全て着せさせられ、俺の服をチョイスしていく。


最初は嬉しいのだが、容赦なく俺の裸まで見られて、俺は危機を感じた。

「ほう?筋肉はやや付いておるみたいの。黒髪に似合う服は多いから選びやすいの!それと……ちっこいのは?」

俺は構わず魂こころから叫んだ。

「雪姫!ヘルプっ‼︎」

俺の服を持ったままの雪姫は、なんでか、微笑ましい笑みで服を見つめたまま何も言わない。

雪姫はそんな俺の助けを拒否しやがった。

「おいっ‼︎ヘルプって言ってんだろうが‼︎」

強めに叫んだら、ようやく反応してくれた。だが、

「幸助、ヘルプ?って何?」

と、シラを切りやがった。

服を着せ替えさせられた俺は、いつしか來嘛羅に主導権を握られた。

俺は思った…。二度と來嘛羅に服を選ばせたら駄目だと。


結局、俺は最初に選んだ物を私服として着ることにした。





妖都を回り続けて六時間ぐらい経過したかな。そろそろクタクタで座り込みたい。

なんで、こんな妖怪混みの中を延々と歩く事になってるんだ?

俺はよく分からないから聞いてみる。

「來嘛羅、買い物は済んだしそろそろ戻らねえか?」

俺は本音を漏らした。足も疲れてきたし、帰りたいと伝えた。

しかし、來嘛羅は振り向く事なく言葉を言う。

「お主を狙っておる輩がいるのじゃ」

俺は背筋にぞっとする寒気を感じた。

「それは、どういう意味で…?」

「それ以上話題にするでない。人目ひとめにつかぬ場所に行っておる。黙って着いてくるのじゃ」

冷たくあしらわれた。だが、來嘛羅の表情が笑っているようにも見えた。

妖都は広く、数時間程度では抜け出す事は不可能だ。乗り物はあるが、俺を狙う奴が襲ってくるかとしれない。だから、乗り物には乗らないのかと思っていた。

自然体の成り行きのまま、俺達は妖都で妖怪や人が居ない場所に来た。

流石の俺も、何かが狙っている気配を感じた。雪姫は戦闘に入るつもりなのか、刀に手をかけて辺りを凝視している。

人気ひとけがないといっても、かなり場所が開けた所で、逆に人目が付かない方が可笑しいぐらいだ。

「此処は既に妾が手を施しておる領域じゃ。妾の許可無しには出入りが出来ぬようになっておる。仕留めるなら、此処が最適じゃな」

來嘛羅は得意げに言う。

どうやら、來嘛羅は最初から出会う事を想定していたのだ。俺と雪姫と出会う前から仕込みを開始し、俺達がその領域ばしょに踏み込んだ瞬間に、來嘛羅の結界が起動するように。

つまり、敵が來嘛羅と出会う事は最初から決まっていたのだ。好きな妖怪ながら、油断ならないな。

どんな行動を起こすのかを最初から知る程の予知能力。

出入りを禁止にする強度な結界。

俺を虜にする美貌。

未知なる力を兼ね揃える太古の妖怪。

この勝負……。


俺が最後まで考える間も無く、突然、爆音が響く。 

爆音と共に砂煙が舞って、破壊された瓦礫が飛び散る。

「くっ…」

俺の前から、飛んできた瓦礫の破片が俺の耳を切った。傷口から微かに血が滴れる。

俺は妖術で止血を行う。

「…来たようじゃな」

「そうね…」

巻き上げられた煙が消える。二人の人間が現れる。

男は腰に剣を刺し、動きやすさを重視した軽装なデザインの忍者服を纏い、短髪で普通の高校生ぐらいの顔付きに見える程に若く見える。

女の方は髪を後ろに巻き、ツインテールのように縛っている。服装は忍者をイメージしての服デザインを着こなし、体格は俺より長身でやや細身。

見た感じ、二人は兄妹きょうだい姉弟しまいのどちらかの血縁関係だと思われる。もしかしたら双子なのかもしれねえ。

二人は男と女で、どちらも不敵な笑みで俺達を見ていた。

「クヒヒヒヒ、わざわざご丁寧に待ってくれたんだね?お陰で人間だけじゃなく妖怪もおまけ付きなんて」

女が最初に喋った。それに続いて男が名乗る。

「よう、随分俺らを歩かせてくれたな。礼の代わりにそこの男を差し出せ。そうすれば、テメェら二人は見逃してやる」

生意気にも俺達を見下す男。

俺が目的のようだ。

俺は丁重に聞くのと一緒に断った。

「なあ、なんで俺が必要なんだ?悪いが俺は付いて行く気はないぜ。俺は好きな奴等と一緒にいたいし、勧誘するとかなら別の奴にしてくれよな?」

俺の返答に満足しないのか、女の方がキレ出した。

「はぁっ⁉︎ふざけんなよアンタ!散々アンタを捕らえろと言われてんのに手を引く馬鹿がどこにいんのよ!」

キレた女を男が宥める。

「おい、九華きゅうか。口走ると情報が漏れる。それ以上口を開くな」

宥めるよりかは威圧に近い。女は九華と言うんだな。

「あんたは俺を知っているみたいだな?何故狙う?」

俺は男に聞く。知りたい事はあるし、來嘛羅の話していた組織黒幕が気になるしな。

「あーそうか。お前、自分の能力を知らないのか?それとも何か?お前は自分の能力は知っているがしょぼい能力だったのか?」

男が俺を馬鹿にするように言いやがる。

「あーそれだったら悪い。俺が訊いたのが悪かったな、謝るよ。妖怪に名を与えてしゃしゃるお前を引き抜こうとした俺らが馬鹿みたいだったな、謝るよ」

「くっ!てめぇ…」

こいつの話し方がうぜえ。この世界で初めてキレそうだ。

俺は刀剣を握り、奴の首を刎ねようとまで考えた。

だが、俺よりも怒りに駆られた雪姫が男に刀を振るった。

「チッ!」

男は舌打ちし、咄嗟に背後に下がった。服を掠めただけで無傷だった。

「なんだよ妖怪?この俺に牙を向けるか。妖怪の分際で」

雪姫は俺が見たことがない程、青白い目と表情が殺意で満ち溢れていた。

妖気がお構いなしに漏れ出て、刀身と服が吹雪ではなく凍てついている。足元までも影響を及ぼす。俺も寒さで身震いしてしまう。

さっきまで疲れていた筈なのに、こんなに力を引き出せるんだ?なんの力なんだ?

「ねえあなた。幸助の嫌味を躊躇いなく言うのね…。幸助が怒ってる、なのに、あなたはそれをヘラヘラと……。人間だから殺したくはなかったけど…」

氷が割れる音がする。それと共に雪姫は決意を示す。

「私が愛する人間だけには手を出させない。もう決めた。他は容赦無く……殺す」

雪姫が俺のために怒っているのは直ぐに感じた。


だけど、一つ言いたい。雪姫のその言葉だと、俺も殺される気がするのは気のせい…だろうか?

俺、別に雪姫に愛されてるとは言われてないし、保護者目線でしか思われてなさそう。

でも、嬉しいな。俺のために怒ってくれているんだ。

なら、俺も応えなければな。

「雪姫、ありがとうな。俺も覚悟決めてやるぜ!」

俺は刀剣を構え、九華達に刀身を差し向ける。

「なあ、あんたら。俺は雪姫、來嘛羅が好きだ」

「なんだ急に?告白を咬ましやがって、頭可笑しいんじゃねえのか⁉︎」

「俺はかなり可笑しい奴だぜ?人間よりも妖怪が好きなんだ。好きな奴が妖怪なら、俺は雪姫達に付く。あんたらに付くメリットを感じねえし、俺はあんたらみたいなタイプ、大っ嫌いだ」

俺は歯を見せ、笑って返してやった。

「そうか……。じゃあ道具でしかない妖怪と一緒に、この俺、分華ぶかに殺されるんだなっ‼︎」

分華はそう言って、両手に握る短剣で俺を真っ先に狙ってきた。

「速いっ!」

身体能力は分華に武があるみたいだ。

俺は刀剣で弾いていく。

「ふん、ガキくせえのにやるな」

「煩え!」

俺は見極めて攻撃を仕掛け、突いてくる攻撃を躱す。

幸助が分華に夢中になる隙を見逃さない姉の九華は、足に隠す毒針を無音で放つ。

しかし、雪姫は咄嗟に割り込んで弾き返す。

「うっ‼︎……やらかしたね」

雪姫が弾いた毒針の一つが運悪く九華に刺さる。彼女が用いる毒針に致死量程の効果はなく、せいぜい肉体に麻痺を引き起こす程度。

「興醒めね。自らの毒で動けなくなるなんて」

雪姫は空かさず首を刎ねようと振るう。

毒の効力はないばかりに、九華は素早く避ける。

「チッ!」

「素早いのね」

「うるさいわよアンタ!」

雪姫は白い息を零しながら刎ねることに集中する。



勝負は運任せ。その名の通り、雪姫が九華に遅れるどころか上回っていた。

最初に雪姫が先制をとり、九華に毒を与えたことで勝負は見えていた。体力と妖力はなくとも、人間と妖怪での身体能力は違う。疲れているとはいえ、雪姫に武があるのだ。

自身に不利だと認め、九華が雪姫の心理を乱そうとする。

「嫉妬女が!舐めてると潰すぞゴラッ‼︎」

雪姫はそんな言葉に耳を傾けない。ただ殺意を向けているだけだった。

「侮辱したあなた方には死んで貰う」

雪姫の凍結した刀と九華の片手剣がぶつかる。

雪姫は刀身に冷気を流し込み、武器の無力化を図る。

(妖力を付与しないなんて、私の攻撃を舐めている。幸助が特別。妖術は簡単に習得できないから)

九華が異能を使ってこないのが不思議に感じるが、冷静さは保つ。幸助の勇姿を見て奮い立たされる。

刀に付与された凍結により九華の片手剣を凍らせ、使い物にならなくさせた。

「クソが‼︎武器がこんな早く凍るなんて知らねえよ!」

九華は愚痴を叫ぶ。

(この程度で幸助を奪うなんて、勝手な思想を抱いたのが馬鹿ね)

雪姫は九華の実力に落胆していた。


戦闘に参加しない來嘛羅は、出入り禁止の結界を最大限の強度にするまで、手出しが出来ない状態。

二人の戦闘を見て金瞳を細める。

(油断するでないぞ雪姫。名を貰って驕れば……滅ぶぞ)

來嘛羅は幸助の能力を看破している。

幸助の異能は《名》。そう來嘛羅が幸助に伝えた。

來嘛羅だけが幸助の異能の根源を知る。

能力の名前は看破したのだが、その詳細は秘匿状態。

知らないというよりも複雑過ぎる故、その秘めた能力を伝えることをしない。

名付けと言ったのは異質だからである。

その異能が発揮する力が未知数。もしかしたら、弱い部類なのかもしれない。

一方、九華と分華の異能を分かっているからこそ警戒しているのだ。

“覚醒者”の異能は段違いであると。


片手剣が凍結して後が無くなった九華は、遂に異能を披露せざる得ない。

躊躇えば命がない。九華は先程の荒い口を閉じ、指先に集中を研がす。

指を使って印を結び、唇に手を近付ける。

(何かくる…)

雪姫は警戒心を最大まで上げる。

「風遁:空気鉄砲くうきてっぽう!」

「っ…風?」

小さく空気を圧縮した風が、雪姫の肩と脇腹を掠める。

更に九華の追撃が続く。印を結び、口を膨らませる。

「火遁:熱砂胞風ねっしゃほうふう!」

火の纏ったような砂状の広範囲攻撃が繰り出される。

雪姫は吹雪を吹かせ対抗する。

(吹雪が溶かされている。不味い…)

吹雪が熱で水に変わる。雪姫は危険と判断し、距離を置く。

しかし、九華の手は止まらない。連続で印を結んだ瞬間、自身が発光し始めた。

「雷遁:雷光点火でんこうてんか‼︎」

眩い光は広範囲に渡り、目を潰しかねない程の輝きを放つ。

九華の閃光が辺りを覆う。不意に襲う光の反射で目眩しを受けた。 




思わず雪姫と戦っている俺は目を瞑ってしまう。

「うっ!目眩しか⁉︎」

俺は急に来た攻撃に対応出来ずに視覚が一時的に封じられた。

「雑魚めが‼︎」

「がはっ!」

その隙を突かれ、俺は分華の蹴りで背中を強打し地面にめり込んだ。

マジで痛え…。

「おい、さっきまでの勢いはどこいった?」

分華は俺の背中に足を乗せたまま、見下すように言う。

だが、意外にも俺は冷静だった。

雪姫に習った技を使って乗り切ろうと行動に移した。

俺自身を瞬間凍結フリーズさせ、分華の足を固定させる。

「は?…何してやがる!」

分華はくっついた足を引っ張って取ろうとするが、あまりの凍結度に足が抜け出せない。

「ほう?幸助殿は器用じゃな」

と、來嘛羅は独り言のように呟いたのを聞いた。

背中に固定しちまえば、俺のものだな!

俺は刀剣を頭スレスレで、自分の背中と並行に振り斬る。

「ギャアアアアアッーーー‼︎」

振り斬った瞬間、俺の背中から途轍もない激痛の叫びが聞こえた。

背中に生温かい感触がした。こいつの血だな。

分華は斬られた片足を抑え、地面に転がり込んでいた。見るに堪えないほど、分華はもがき苦しんだ。

痛そうだな。俺だったら泣き喚くかもな。

分華の無様な姿を見た九華は苛立ち始める。

「ふざけんなっ‼︎何足持ってかれてんだよ糞男!早く分身を出しやがれ!」

この九華はかなり口が悪いみたいだ。それに分華の能力まで直ぐに分かってしまった。

俺はその能力の使用を阻止する為に容赦なく手を下す。

まず、分華の手と足の関節ごと凍結させる。これで動く事も出来なくなる。

痛みが無くなる為、分華は泣きじゃくりながらも俺に叫ぶ。

「クソが!クソッタレが‼︎テメェみたいなガキに自由を奪われるとはな‼︎解放しやがれクソがっー‼︎」

「あんたが俺を見下したから、だろ?俺の能力が名付けだけだと勘違いしたあんたが馬鹿だけだろ?」

俺は煽られた返しをしてやった。

「ふざけやがって‼︎お前如きガキにやられちゃ、俺の立場がなくなっちまう。妖怪と連むお前なんか殺さねえと気が済まねえ!とっとと俺を解放しやがれ‼︎クソがぁっ‼︎」

「何言ってんだよあんた。残念だが、もうあんたの出る幕は終わりだぜ?」

俺の言葉で、分華は恐怖の顔をし始めた。

「俺は寛大じゃねえよ。その気になれば、俺はあんたを殺してやる」

顔しかまともに動かせない分華は、縋り付くように俺に命乞いをする。

「嫌だ…。巫山戯るな…巫山戯るなよクソが‼︎俺はこんなところで死にたくない!散々アイツに馬鹿にされた俺がこんなガキにやられるなんて……死にたくない。頼む!俺はまだ生きたいんだよ‼︎なぁ⁉︎お前も人間なら分かるだろ…?人間が人間を殺しちまったらヤバいぜ?人として終わってる」

迫真の演技では無さそうだ。

それに、こんな情けなく縋り付く大人に俺は嫌悪感を感じていた。

だからだろうな。

俺は無意識に、こいつに冷淡に言っていた。

「何寝ぼけてるんだ?人間だから知らないといけねえのか?妖怪と隔てなく愛せないあんたらの命乞いなんか聞きたくない」

そう告げた。分華は絶望したような顔をして何も言えなくなった。

俺はその顔を見て、清々した。


俺と分華の勝負は呆気なく終わり、結界が仕上がったのか來嘛羅が近寄ってくる。

「お主、随分戦い慣れておるみたいじゃな?雪姫に稽古をつけて貰った実力、誠に素晴らしいの。その男は妾に任せるとよい。幸助殿は雪姫の助太刀に向かうがよい」

笑顔で俺を褒めてくれた。その笑顔に釣られ、俺も思わず貰い笑みをしてしまった。

「うむ?何故なにゆえそんな笑みを浮かべるのじゃ?そんなに嬉しいものなのか?」

「あっ…すいません。好きな人に褒められるのは初めてで…。こんなにニヤけてしまうんだなって。あれ來嘛羅?なんでクスクス笑うんだよ?」

「いや何、お主の幸ある笑顔が純粋なものでな。妾も思わず見惚れてしまったのじゃよ?」

そう言う來嘛羅の表情に赤みがあるが、何処か奥ゆかしさを感じる。

俺は思わず言葉を失った。

それを悟られたくないが為に、俺は雪姫の手助けに行った。




來嘛羅は表情を変え、冷酷な表情を分華に見せつける。

金瞳は離さんばかりの威圧を光らせ、分華の精神を萎縮させる。

「だ、誰だよテメェ‼︎」

震えながらも分華は口答えする。

來嘛羅は分華の顎を持ち、目を細める。

黒山分華くろやまぶか、あそこにいるのは黒山九華くろやまきゅうかで合っておるな?其方は妾の同胞達を蔑ろにしたのじゃ。私利私欲で妖怪という存在を貶し、暴力という支配を施した。人間という種族に生まれ、迷い込んだ其方に下す罰は死じゃ。後悔して閻魔に下されるとよい」

來嘛羅は尻尾を九本生やし、身動き取れない分華を尻尾で掴む。

美女の顔から狐の鼻と口が生える。目は狐目になり、より一層妖怪らしさが強調される。

その姿を見て分華は、その妖怪が誰なのかを理解した。

「嘘だろ……や、やめてくれぇ…」

惨めに同情したくなる表情を浮かべる分華。來嘛羅はそんな分華に容赦はしない。

來嘛羅は不敵な笑みを浮かべ、分華に罰を与えた。

尻尾に触れている箇所から生気を吸い上げる。

「良い惨めじゃ。人間であろう者が同胞に足を斬られて抵抗ができぬじゃろ?容易く食えて楽なものじゃ」

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だっー!殺さないでくれっ‼︎なんでもするから‼︎なあって‼︎」

「なんでもするじゃと?」

「そうだ!俺に出来る事を全てやる!秋水や他の奴等の情報も能力も教える!あーそうだ!俺がスパイになって情報を渡す‼︎お前らに協力してやるって言ってんだ!だから…」

來嘛羅は心の中でほくそ笑む。

「では『契り』じゃ。妾に全てを開示する条件として、其方の魂を数千年保護しよう」

分華は恐怖に駆られ、それを受け入れてしまった。

來嘛羅に絆されるがままに口が勝手に動き出す。分華自身は來嘛羅に操作されているとは思っていない。

「俺と九華の他に、秋水や名妓、貞信、異世界人40人いるんだ。妖怪は200とアイツが支配していてな、一年以内に行動を起こすとのことだ」

「では、その者達の場所は?」

「此処妖都の地下に妖怪がほぼ全員いて、この妖都から離れた宵河よいがっていう場所に異世界人がいる。俺は捕まえたあのガキを宵河に連れて行く予定だったんだ」

数分に渡り、分華は全てを語り切る。

敵の情報や拠点に張り巡らしている結界や呪術、妖怪の詳細を聞き出した。

來嘛羅の持つ能力で全てを無意識に吐かされているとは理解出来ずに、分華は包み隠せずに話した。

「もうこれで全部だ!俺を離してくれよ‼︎」

分華は全て語った。なのに、來嘛羅は離す素振りを見せない。

聞き終わった來嘛羅は分華に下す。

「良かろう。其方の良いい情報のお陰で救える。其方に感謝の意を述べて、肉体の死をくれてやろう」

「はあ……?」

「うむ、聞き取れなかったかの?其方の人生は此処で終わりじゃと申したのじゃが?」

分華はその意味を受け入れられなかった。

「巫山戯んなよ……約束がちげーだろ‼︎」

「違うとはなんじゃ?妾は魂を保護するとだけは申したのじゃが?死を与えないとは言っておらぬし、其方との契りは破っておらぬ」

分華は死の恐怖が避けられないと分かり、歯をガチガチと震わせて涙を浮かべる。

「話しとは最後まで聞くものじゃよ。親にも警告ぐらいは受けたのでは?他の者と契りをするなら、その意味を理解せよと。其方は恐怖のあまり、妾との『契り』を結んだのじゃ。後悔して妾に取り込まれるがよい」

艶然に微笑む來嘛羅は悪魔だった。

分華は最後の抵抗を試みる。

「俺は妖怪の加護を受けてんだ!殺すのは出来ねえはずだ!」

それは、來嘛羅にとっては関係なかった。

「殺生をするとも言っておらぬ。肉体全ての生気を奪い、其方の魂だけを数千年糧として生かし、時期が来れば養分となって消える。妾が下した契りはそう意味するのじゃよ。其方が得ている加護じゃが、魂が死ななければ殺したにはならぬ。よって、其方の加護には反しておらぬから安心するがよい」

來嘛羅は急速に吸い上げる力を上げ、分華の肉体は、形が徐々に尻尾に吸い込まれるように消えていく。

最後の断末魔すらも吸い尽くし、残った魂を手に取り口に頬張る。

「うむ。やはり人間の欲は面白いものじゃ。あい、楽、さちせい、苦、嫉、憎、哀、食と様々な欲が満たされた生気は、人間しか生み出せぬ。久方ぶりに食べたが、もっと欲しいの」

來嘛羅は幸助を見て、舌なめずりをする。

「妾の期待に応えてくれる限り、お主は食べはせぬ。スイのザマにならなければの」

不穏な一言を残し、食らった分華の解析に入る。




俺は雪姫に手助けに入り、九華の能力に対抗する。

「食らえ!火遁:火鳥乱舞かちょうらんぷ‼︎」

俺は刀剣で、飛んでくる火鳥を斬り裂く。

その勢いのまま、九華に目掛けて刀剣を振るう。

俺の攻撃が九華の胸を斬った。

「きゃっ!巫山戯んなゴラッ!」

そんな罵声に構わず、背後に回り込みもう一撃食らわす。今度は背中を深く斬り裂いたことで、九華は顰め面をした。

「俺を舐めるなよ。女だからって、俺が斬れないとでも思ったか?」

俺は容赦するという手加減は持ち合わせていない。

容赦は情けになるからな。

「うるさい‼︎アンタを連れて行かなくちゃ、アタシ達が死んじゃうの‼︎早く倒れてよ!」

犬のようにきゃんきゃん喋るなこいつ。凄い感情任せの女だ。

背中を深く斬り裂いたっていうのに、なんで倒れない?俺の踏み込みが浅いのか?

いや、再生力や耐久性が高いんだ。致命傷には至ってない。

確実に仕留めるには、俺の妖術が要となる。

「なあ雪姫。あんた大丈夫か?」

雪姫は俺よりも戦い慣れている筈だ。さっきから放ってくる九華の攻撃で、だいぶ削られているみたいだ。

「少し、駄目かも…」

雪姫では、殺さない人間をギリギリで押さえ付けるのは困難なのだ。

雪姫の妖術は九華を加護する妖怪の存在が大きく阻害されてしまっている。

恐らく、地獄の番犬に近い何かが妖術に耐性を持たせ、雪姫の攻撃が致命傷の手前までしかいかないのだ。

加護を持つ人間を封じる術を持っていない。それ故、殺傷能力の高い妖術が使えないのだ。

それだけなら疲労などしない。

だが、來嘛羅との戦闘で既に妖力の大半を失い、動けるだけで精一杯なのだ。一度解放してしまった力の代償は凄まじく、嫉妬と殺意で疲弊した肉体を動かすのも苦痛を伴うみたい。

「弱気か……確かに忍術みたいな攻撃はキツいよな」

九華の攻撃は多彩であるが、印を結ばなければ発動出来ないのは熟知した。

俺と雪姫で連携攻撃を繰り出すのだが、攻めきれない。

勝てないわけではないが、何か決定打に至らないんだよな。

俺はある提案をする。

「雪姫。あとは俺に任せてくれないか?」

雪姫は眉をひそめる。

「なんで?幸助、一人じゃあ無理。私も一緒に…」

俺は雪姫の言葉を遮って強い意志を伝えた。

「俺一人であいつを倒す。加護を持っている奴は殺せないんだよな?だったら、人間同士なら俺が有利だ!雪姫はもう限界だろ?」

「……でも、幸助の異能は…」

「《名》しかないと思うだろ?だったら間違ってるぜ?あいつは忍術が能力であるが、それ以外は大したことがない。俺は名付け以外は大したことがない。能力さえなければ、人間なんか一緒だ。あとは気合いで勝ってやる」

それでも雪姫は心配な表情をする。弱ったりすると、表情が分かり易く見えるのは気のせいだろうか?

「分かった。でも、厳しいのなら退いて。化け狐がいるから」

「ああ、やってやる!俺が終止符を打ってやるぜ‼︎」

俺は全身に力を巡らせ、最大最速で突っ込んだ。

雪姫は來嘛羅とやり合い、九華ともやり合っている。疲れない筈がないんだ。


俺が來嘛羅に捕まった時、本気で俺を救おうと尽力してくれた。俺を守る為に、周りに圧を放っていた。


俺を最初の危険から、最初に助けてくれた。


でも、本当は違う。人間の為に無理しようとしていたんだ。何を思って無理してるかは俺には分からねえ。

無理をして人間を助けているのを知り、俺は罪悪感を抱いた。

人間は弱い、だから守らなければならないと使命感に駆られた。それが雪姫には辛かったんだと思う。

だったら俺は……。


「助けられた恩を返せない糞野郎にはならねえぜ‼︎」


青く照り輝く刀剣が、俺の叫びと共に輝きを増した。

眩い光は、俺の意思さけびを顕現させているようだった。

刀剣の振るう感覚が、先程までとは比べるまでもない程、俺の感覚と一体化しやがる。

攻撃を簡単に掻き消すような技を出せば良い。

「雷遁:針千本はりせんぼん‼︎」

「『風鬼裏斬舞フウキリザンマイ』!」

俺は無数の針に対し、豪風を巻き起こし全てを吹き飛ばす。

無名から貰った刀剣は俺の意思の呼び掛けに反応し、思いの技が出る。相手が雷なら風を。風なら火を。火なら水って感じで。

相手の攻撃の宣言より速く刀剣に込める。

「水と—」

「『雷撃衝波ライゲキショウハ』‼︎」

俺は言わせる前に攻撃を繰り出す。

距離は離れているが、雷の速度は印を結ぶ速度を遥かに上回る。俺に武がある。

「きゃあああああっーーー‼︎」

雷撃をモロに食らって無事で済む筈がない。

しかし、しぶとい奴だ。印を結んで肉体の損傷を回復しやがる。

九華は俺を見て、顔を険しくし怒声を吐いた。

「アンタの仕業か‼︎アタシの忍術を全て消しやがってっ‼︎名付けが取り柄じゃないの⁉︎」

「生憎、俺は一切の妖術を使っていないぜ?」

俺は得意げに台詞セリフを言う。

「コケにしやがって…‼︎死ねええっっ‼︎」

見境なく襲ってくる九華の動きは単直だった。

雪の妖術を刀剣を通して行使する。

「妖術⁉︎アンタ妖怪⁉︎」

「うるせえよ」

驚く九華に俺は冷たくあしらった。

刀身が雪姫と同じように冷気を帯び、矢の如く穿つ。

「終わりだ。『雪昌通牙セッショウツウガ』‼︎」

突き刺した刀身が冷気を発する。

九華の内部から急速に冷気で凍結していく。

感覚いたみが麻痺し、内臓から血管、血、神経、心臓、脳へと冷気が広がり、生命活動が停止した。




俺は突き刺した刀剣を鞘に戻し、興奮状態だった思考を落ち着かせる。

「か…勝った。俺、勝ったんだよな…。あはは」

達成感と優越感を味わう。はじめての自分の意思で力を使えて、俺以上の俺を知る事が出来た。

やり遂げた。

俺はやったんだ!俺は人に手を出したんだ‼︎


あれ…?ちょっと、待てよ?


こいつを殺やったのは、俺……なんだよな…?


頭が冷静になっていく。味わったことのない不安と恐怖が俺に認識させるように襲う。

九華が冷えて凍った姿。

氷の隙間から滴れる血。それがあまりにもリアルに感じる。

殺気立った顔に浮かぶ僅かな恐怖の表情。俺に対して恐怖しているようだが、その顔に宿る目はしっかりと俺を睨んでいた。

同じ人間を自分で殺めたという事実。

全てが脳裏に焼き付く。


「うわああああああああっっーーー‼︎」


「幸助っ⁉︎」


幸助は自分がした事を理解してしまったのだ。その罪悪感とも呼べる苦痛に頭を押さえ、自らの罪を喚く。

人を殺めた。それが幸助自身に強く襲ってきたのだ。

その姿は、先程の勇ましく戦った幸助とはかけ離れているものであった。

「幸助!どうしたの?この女に、何かされた?」

雪姫は、蹲って泣き喚く幸助の背中を摩る。その様子を見兼ねた來嘛羅が幸助を眠らせる。

「ふむ…。やはり未熟じゃな。幸助殿の生気が不安定になっておる」

少し憐れむ表情をする來嘛羅に雪姫は尋ねる。

「化け狐。幸助に何があったの?急に泣き出して…。訳を話して?」

「分かったのじゃ。じゃが此処は落ち着かぬ。一旦、妾の空間に身を隠すとしよう」

來嘛羅が空間を開き、雪姫達はその場を後にした。

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