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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
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二十五話 征服を目論む影

お久しぶりです!

少しpixivの方からも取り寄せていますので、少し話の辻褄が合う事を祈ります。


明日も投稿します!

妖怪達が住まう妖都に闇が潜む。人間の世界と同じように、妖界にも存在する。

妖怪の立場などなく、妖怪は人間に支配されていた。

栄えている妖都・夜城とは違い、薄暗く、目を覆いたくなるような悲惨な光景が見られる地下が存在した。その場所は異能や地下に入れる能力を有していなければ、出入りすらできない。

そんな地下で、妖怪を支配する人間達が拠点にしていた。地下に広がる空間は妖都と匹敵し、数百の殆どの妖怪は微動だする事を許されていない。

ある異能を持つ人間によって、全ては支配されている。

一人の男、山崎秋水やまざきしゅうすいという者を筆頭に、他四名の人間が妖怪を支配する。

首にかかるぐらいの黒髪を持ち、美醜に無頓着で好まない性格。身だしなみは不清潔極まりなく、身軽な軽装で気品がない。長身で目付きは鋭く、何を見ているかが判らない。

座り方も雑で、他人にこれでもかと注意される態度の悪さが滲み出ている。周りを囲う妖怪は心の中で彼を蔑む。

誰も彼を慕わない。そして、憎悪を抱く。


秋水の元に、行動が許された妖怪が頭を下げ、膝をついて報告する。

膝をついて顰め面をするのは、天邪鬼だ。

「報告……します」

「なんだ天邪鬼?俺様が探している奴を見つけたのか?」

「…儂を滑稽にした雪女とその小僧が妖都に侵入を確認。儂等に気付き、殺意を放っておった」

天邪鬼は嫌そうな表情で報告する。そんな態度を秋水は気に入らない。

「ケッ!テメェ…まだそんな態度を取るか?身の程を弁えろ」

秋水の手に青い炎ような塊が揺らめく。それを見て、天邪鬼は恐怖に震える。

「く、くそっ‼︎」

「何度も躾をしないとテメェらは聞かないんだろ?何度も教えてやるぜ」

その塊を握り潰すと天邪鬼はのた打ち回る。

「あぐっ⁉︎グフ、グアアアアアアアーーー‼︎」

その様子を見た妖怪は目を背ける者、怒りで更に殺意を激らせる者で分かれた。

踠き苦しむ天邪鬼を見て、秋水は嘲笑う。

「フハハハ!良い踊りを披露しやがる!もっと見させてくれよ。なぁっ!」

塊を握り潰すこの行為は、秋水の持つ能力のほんの一部。その力の前に、妖怪も逆らえない。

「ねぇ秋水様。それぐらいにしてあげたら?それ以上、踊らせると死んじゃうわ」

秋水の背中から、豊満な胸を押し付け耳元で囁く。身長は低く、中学生と認識するぐらい幼く見えるが、中身は50歳を裕に超えている。

女の名は秋山名妓あきやまめいぎ

「妖怪は死なねーんだよ。それはテメェが知り尽くしてる筈だと思うが、テメェが言うなら構わないぜ?」

秋水は機嫌良く手に持つ塊を消し、ニヤリと笑う。

「なぁ秋水や。日本者にほんものの一本釣りは順調か?」

武士のような格好の男は、獰猛な顔付きで現状を問う。

男の名は、佐藤貞信さとうさだのぶ

「問題ねえぜ?この妖怪世界にいる人間達は大半は回収している。まだ四十人程だが、いい奴らで良かったぞ?躾のしがいがあって」

「そうか。なら、もう狼煙時か?」

彼等はある事を目論んでいる。

「秋水殿。ワシは主殿に従うが、本当に功を成せるものか?本当に…」

獰猛な顔付きは、秋水を強く睨む。

秋水は余裕そうに答える。

「ああ、全く問題ない。オレ様の力さえあれば、妖怪など恐るに足らない弱者だ。人間の力を見せつけてやらねえと」

「主殿は新参者なのによく恐れないのだな。ワシでも、そんな無謀をするつもりはなかったんだが」

貞信は500年程前の武士の端くれである。戦国の世に生まれ、僅か30歳という若さで戦で命を落とし転生者。異能により肉体の劣化はなく、若い肉体を保ちながら今日こんにちまで生きてきた。

「私も驚きものですわ。秋水様はお若いのに、その行動力は尊敬ものですわ」

愛想よく笑う名妓。


名妓は昭和初期に生まれたのだが、14歳の頃に患った天然痘が病の原因を生み、無惨な死を遂げた転生者。妖怪の加護を受けた事で天然痘の病を克服し、生きる事が出来ている。

「ハハハ、謙遜はよせよ。テメェらの方が十分に尊敬してんだぜ?なんせ、オレ様よりも永く生きているんだからな」

秋水はそう二人を褒め称えるが、内心はなんとも思っていない。

他人に興味がない。単に、集めた人間が使えるから使っているに過ぎないと考えている。秋水の異能の糧として生かしているに過ぎない。

過去を顧みない性格のせいで、最近味わったあの恐怖の出来事を曖昧にしか憶えていない。偏った記憶でロバリアを朧げに記憶する。

ある意味、忘れた方が幸せなのは言うまでもない。

人間関係よりも他者を支配する欲求が強く、妖界に迷い込んだ頃からずっと胸に秘めている目的があった。その目的は……。

「ところで秋水様?残りの二人は何処へ?」

まだ幹部らしき人間がいるのだが、この地下にはいない。

「あーアイツらか、半年前に『雪女ユキオンナ』に名をやった奴を捕まえに行かせてるぜ。なんせ、雑魚の女は消えちまったしよ。偶々、妖都に出張ってきたみたいだし、天邪鬼では荷が重過ぎたな」

秋水はすでに手を打っている事を打ち明ける。

「なるほどですわ!それでしたら、もうその彼も捕まりになるのもそろそろ、と言うわけですね?」

嬉しそうに名妓は納得する。

「アイツらなら捕まえる。雪女は都市伝説では強えみたいだが、妖怪である限り、あの二人になら容易い」

「彼等も新参者だろ?少し、『雪女ユキオンナ』を甘く見過ぎではないか?」

貞信は気に掛ける。だが、秋水は問題ないと言い切る。

「オレ様の超能力、舐めるなよ?願望強え奴を舐めたら痛い目をみる。テメェは身をもって知っただろ?」

「……」

貞信は面白くない顔をした。

貞信は秋水に殺されかけたのだ。それを思い返す度に、秋水への恐怖と怒りが掘り返される。

貞信もまた、秋水に忠誠というものはなく、目の敵にしているに近しい感情を向けている。

従っているのは、秋水に敗れた己を恥じ、従っているに過ぎない。

所謂、武士道精神に忠実というわけなのだ。

「俺様に従えば、命は保障してやるよ。俺様が妖怪世界の王になった暁には、好きな町や村でもくれてやる。自由に過ごしていいのはそれからだがな」

秋水は不敵に笑った。

秋水の目的は、妖界の王になることなのだ。

その為に、多くの人間や妖怪を支配下に置いているのである。

人間が特殊能力を獲得するのを知り、それを利用する為に妖界に来た人間を支配した妖怪に捕まえさせ、自分の手駒に加えている。

特殊能力である異能を持つ人間だけでも数十人存在し、妖怪は数百人である。

秋水は人間達を一ヶ所に集めており、妖都:夜城の地下には潜ませていない。別の拠点に隠れ潜ませ、誰にも知られないように隠蔽している。妖怪は地下と別の拠点に分かれている。

既に20年も計画を進めており、秋水達の総戦力だけで都市壊滅出来る程だ。


秋水の欲望は、達成されるまで満たされない。


一度決行した事を止める事を知らない秋水は、もの凄い勢いで妖都を侵食していく……。









俺は來嘛羅と雪姫と共に、空間から妖都へ戻っていた。

來嘛羅の妖都への踏み込みより、空間から解放されたのだが、雪姫が來嘛羅に冷めた視線を向けていた。

「ふむ、そろそろ良いじゃろ?妾に氷柱を向けて何を思う?」

「離せ…」

「ほう?幸助殿のことじゃな。すまぬな、これ程身軽な童とは知らず…つい綺麗な尾で摘んでしまっておったわ」

わざとらしく俺を尻尾で包み、宙吊り状態にされている。雪姫はそれにキレているんだろう。

來嘛羅にとって、俺というのはお荷物なんだろうな。

「この姿勢は恥ずかしいんだけどさ?申し訳ないんですが…そろそろ降ろして貰ってもよろしいですか?」

まだ話し慣れていないので、言葉を探しながら要求する。

だが、俺を覗くように見るなり面白そうに笑う。

「ンフフフ!お主はこのままが良いじゃろうて。良い機会じゃから、今宵は連れ回してやろう」

あぁ…それは嬉しいな。確かに尻尾で掴まれながら町を回るのも楽しそうと思った自分がいた。

このまま摘まれながら連れ回されたい。そう思ったのだが、雪姫には度し難いものだと態度で示す。

「やめなさい!幸助を自由にしろ化け狐。人の尊厳を摘み取るな!」

周りに妖怪がいないことが幸いだった。こんな雪姫を見たら、誰もが疑うだろう。まして、雪女が感情的に怒りを向けるとなると尚更だ。

それ程まで、今までの雪姫の表面かんじょうは違っていた。

「では堪忍してくれるかの?」

來嘛羅は俺を丁重に扱い、そっと地面に立たせられた。

「えぇ…意外と良かったのに」

俺は大きく溜息を吐く。何故か俺に駆け寄る雪姫が、寒気を感じる形相で俺を睨む。

「幸助?今、自分で何を言ったの?」

「あ……いやぁ…」

凄い圧を感じる。迂闊に口を滑らしたら凍らされる‼︎

「大丈夫。ちゃんと話してちょうだい。ね?」

殺される…‼︎

「これこれ良さぬか雪姫よ。幸助殿が混乱しておるではないか。それに、早う町を回らぬか?」

救済が差し出されたと安堵にホッとする。

雪姫は俺から少し離れ、もう一度來嘛羅を睨む。

「化け狐…」

「童である幸助殿に恐怖を与えるでない。さて…済まさなければならぬ事もあるしの」

來嘛羅の顔に真剣味が見えたが、ほんの一瞬の出来事で、俺の目を疑ってしまった。見えたかと思えば、妖艶に笑みを浮かべていたから直ぐに勘違いだと改めた。


來嘛羅は人の姿へ擬態する。

先程の女性の容姿ではなく、少々來嘛羅らしさを残した容姿に変化へんげし、高貴な貴女へと様変わりする。

九尾狐キュウビキツネ』とは変化へんげを得意とする妖怪。その変化範囲バリエーションは多岐に渡り、赤子から老婆、何なら男まで変化できる変幻自在の妖術を操る。

俺もそういう変化を使えるようになりたい。ちょっとばかりの無謀な夢だろうけど。

「美人ですね…いや、絶世の美女の変化へんげは世界一!」

俺は心から褒めた。すると、來嘛羅は口元を扇子で隠して頬を赤らめる。

「うむ、恥ずかしゅうのぉ……」

やっぱり妖怪も照れるんだな。雪姫じゃあ見れない仕草だから、頬が緩んでしまう。

「……」

雪姫は俺を黙って睨んでいたのは怖かったが……。

とりあえず妖都を歩いた。かなり歩くのかと思ったが、來嘛羅は辺りを警戒している素振りをしていて歩みが遅かった。数分程度で歩ける場所を10分以上かけ、松葉杖を付いたように鈍く遅い。


何か可笑しい。俺は來嘛羅の様子を終始窺うことにした。





俺達が歩いている。それは普通のことであり、特に思うところがあるとは思わない。

しかし、雪姫と來嘛羅が俺を挟む形で密着するものだから、人の注目を浴びている。

特に、來嘛羅に対して目が離せないのだろう。姿を擬態しているとはいえ、何となく高位の妖怪だと察しているのかも知れない。

無知な奴がいなければ、だがな。

「あの來嘛羅?皆んながあんたのことを見てるんだが、大丈夫なのか?」

「妾は別に見られても良いのじゃ。ただ、狐の妖怪とやらはそう数はおらぬ。大抵が上級に位置する妖狐じゃからな。物珍しそうに見惚れておるのも無理もない」

「そんなに少ないのか?亡夜の方では一人見たけど」

「ほう?それは生き残りじゃな。名のない妖怪が生きているとなれば、今度は丁重に空間へ招いてもやろう」

來嘛羅が他人に気を遣うのは意外だ。て、まだ初対面ばかりだったのに何言ってんだが。

流石は妖怪の王に君臨する『九尾狐キュウビキツネ』様だ!心も寛大で、相手を慈しむ精神を持ち合わせた完璧超人。

來嘛羅の態度を見る度に、俺はますます好きになっていく。やはり俺は『九尾狐キュウビキツネ』が好きなんだなと分かる。

「優しいんだな」

「どうじゃろう。お主にはそう見えるかの?」

「いやいや!あんたは美女だけじゃなく、その心遣いも最高だって!」

すると、來嘛羅がほくそ笑む。

「お主は素直で可笑しいの」

「それって馬鹿に…」

「うむ、失言じゃったな。お主の心が清く、人間にしては本心が口に出ておるから愛いと思っての」

貴女らしく笑うも、俺を決して無碍にあしらっているわけではない。その態度が更に俺の気持ちに火を付ける。

「あんたって……凄え照れるぜ!てか惚れちまうよ‼︎」

「うむ⁉︎どうしたのじゃ急に」

羞恥などどうでも良い。俺は自分の気持ちを伝えることに必死になる。

「やっぱ伝承は違った!あんたは俺の想像以上の妖怪なんだ‼︎妖界っていう世界…雪姫や無名から聞いた時、弱肉強食の上下社会かと思った。だってそうだろ⁉︎命狙われる、俺は餌としか見られないと、本当は怖かったんだ…!妖怪に食べられたいという恐怖が俺にもちゃんとあった。だから……あんたと出会えて、あんたの伝承が違うって理解出来たんだ‼︎“災禍様”が恐怖の存在だと何度も聞かされ、会うのは怖かったさ……」

何度も重ねて言われた恐怖。それは蓄積されたように聞かされ、俺は『九尾狐キュウビキツネ』と出会う事に躊躇いを感じてしまった。

好きな妖怪に苦手意識を抱いてしまった。だから不安で仕方がなかった。

いざ、彼女と出会った時、俺の中で不安が崩れた。

不安がジェンガのように崩れ、思わず感情の制御が出来なかった。

妖怪に恐怖するのは間違っていたと、俺は心底から涙して後悔した。

「何故泣いておる?」

俺が今伝えた後、相当心配そうに声を掛ける來嘛羅。確かに俺は今、涙を抑えられず泣いている。

男なのに情けねえんだ。人前で泣くような人間ではなかったのに。

馬鹿だ。好きな人を心配させてまで俺一人泣いてんのは。

「幸助……落ち着いて」

雪姫も一緒だ。俺が急に泣き出すからお母さんみたいに頭を撫でて接してくる。背が高いせいで本当にそうなっちまう。

「何でだよ……‼︎俺、こんなにあんた達に怖いって思ってた自分が許せねえんだ。好きな、こんなにも優しい妖怪に出会えてもう気持ちが滅茶苦茶なんだよ。男なのに…こんな不安が消えただけで子供みたいに馬鹿に泣いて…うぅっ!」

人生でこんなに涙脆くなるのは今後ないだろう。俺にはそう思えるほどに泣いた。

喚くのではなく、鼻を啜り、涙が大粒となって地面に落ちる。必死に手で拭えど拭えども止まらない。

「畏敬の念に心が窶れておる。お主よ、その涙は決して誰も咎めることは赦されぬ。感情の解放とはお主にはなくてはならぬ欠かせぬものじゃ。誰も止めもせぬ。喚こうが転げようがお主の感情が収まるまで存分にしておくれ。こうなるかと思い、既に結界をお主に掛けておるから安心せい」

余計な気遣いまでされる。優しい手をこうも差し伸ばされたら……。

「ありがとう…本当に、ありがとう…!」

「うむ。お主には礼があるからの。それに、妾もお主という人間を知っておきたいのじゃ。なに遠慮するでない、この來嘛羅が幸助殿の如何なる羞恥も感情も煩悩も見ておろう」

全て吐き出して良いと唆された。

だったら、俺は自分の気持ちに素直になろう。

そう思えると、喉に詰まる異物を吐き出すように口が動く。

「ずっと…前から妖怪を本物だと皆んなに証明したかった!タブー、降霊術、書物、伝承、歴史を馬鹿みたいに試したんだ!親に言えないことを危険を顧みずに!それでも、悪魔でも喚び出せたら良かったなんて思った。悪魔と契約して魂を売ろうが消えようが、妖怪を証明して俺のところに喚べるなら幾らでも危険を侵しても良かった!雪女を喚ぶ為に雪山を無断で行ったさ。九尾狐に出会えるなら殺生石の場所に行って天に願ったすらある。どんな妖怪が来ても喜べると心構えして挑んだ。なのに…結局はあれもこれも無駄に終わったよ。信憑性のクソも無かったよ!…だけど‼︎この世界に来て救われたんだ。俺は…俺の望みは叶ったんだと。だからもう……俺の望みは叶っちまったんだ」

俺は九尾狐、それも玉藻前に出会えて本当に幸せの絶頂にいる。

雪女だった雪姫にも出会えて、天邪鬼にも会えてもう満たされた。

このまま、俺は地獄へ堕とされても満足するだろうな。

言いたいことを言えた。もう悔いを残さなくても………。


「なにを満足げに笑みを浮かべておる?涙が拭てなくて示しがつかぬぞ」

「いや、もう言い切って不安が消えちまったんだ。あとはあんたと無事に人生を満喫出来たらどれ程楽しいものなのか」

「お主…ンフフフ、それは求愛と捉えて良いのじゃな?」

求愛…か。悪くねえし、早くしたいぐらいだ。

「そうだ。あんたが玉藻前なのは間違いないんだし、今からでもお付き合いを…」

最後まで伝える前に、來嘛羅が何か言いたげな顔をする。

「……お主、今何と言ったかの?玉藻前・・・と。聞き間違いでなければそう名に聞こえたんじゃが」

「ん?まぁ、あんたが玉藻前で間違いないんだろ?」

「ふむ……お主が思うだけなら別に良いがな。…そうか、お主は…ふむふむ」

一人頷き、來嘛羅は先に歩き出す。

俺はその意味が分からなかった。




雪姫は最初から知っている。來嘛羅が納得した理由を。

幸助が理解していないと察し、彼にその真実を伝えようとする。

しかし、先に歩み出した來嘛羅に肩を触られる。

気軽に声かけるような優しいものではなく、明らかに意味が込められた重圧を感じた。

その意味を悟るも、先程の優しさの欠片もない冷たく低い声で耳に囁かれる。

「是正するな。禁を破れば喰らう」

警告され、雪姫の緊張は触れる刀に伝う。

誰が喰われるかは明白であり、自身ではないことを悟る。なら誰なのか?

十中八九幸助を指す意味であると同時に理解しなければならない。

幸助に感情移入する雪姫にとって脅迫紛いの警告は凄まじい効果となる。

「化け狐…!」

「殺気を発するな。妾がその気になれば、其方など木っ端微塵じゃ。それに、焦がれる者が死ぬのは辛かろう?」

「っ‼︎……やっぱり、ここで‼︎」

ならば首を刎ねる。雪姫は固く意思を決する。

そう思った矢先、來嘛羅は幸助を人質に取るように尻尾で包む。

來嘛羅は雪姫の思考は読めなくとも、肉体機能であれば容易に先の動きを予測する。一枚上手であり、來嘛羅の行動に意味があるものとなる。

「うおっ⁉︎また掴んで⁉︎」

人質に取られた幸助であるが、当の本人はそんな事に巻き込まれているとは微塵も思っていない。來嘛羅が気紛れに尻尾で掴んだと勘違いしている。

「ふむ…お主よ、ちと装束が似合わぬぞ。折角じゃ、妾が張ってやるから妾好みにさせておくれ!」

「お、おう……てか、今回はそれが目的でこっちに来たんだよな。お願いして良いのか?」

その顔には、先程の冷徹な仮面などなく、幸助に向ける妖艶な表情を作って取り繕う。

幸助なら分かる筈だった。しかし、幸助は既に來嘛羅の魅力に侵されていた。

「構わぬ。寧ろ、お主のような珍しく大和風の顔付きは妾好みじゃよ。よく見せておくれ…何ならお主の裸体も堪能してみたいの〜」

「いや〜体は見られたくはないな。俺男だし…」

恥ずかしがるも、満更でもない幸助に思わず怒りを感じる雪姫だが、ここは我慢すると顔を顰める。

「遠慮しても悪かろう。金とやらはたんまりとあるから心配するでない。お主は妾の召す物に袖を通すだけで良いぞ?これも一つの付き合いじゃ」

そう言い、來嘛羅は弾んだような態度で幸助を連れて行く。雪姫も置いてかれまいと歩かなければならない。

不本意ではあるが、來嘛羅の脅しが嘘偽りでないことは確定した。

雪姫は來嘛羅の動向に目を光らせる。

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