二十四話 來嘛羅
こちらでも報告はしておきたいことがあります。一応、この章は四章まで投稿したのち、暫くは休止します。と言うのも、メインで作品を手掛けている二次創作と他の作品の制作に取り組んでおり、一旦お休みさせていただきます。転スラのショウゴ達、妖界放浪記の作品は特に完結へ向けて頑張りたいと思いますので、ご理解のほどよろしくお願いします!
妖怪の正体、この妖界の真実についてだった。九尾狐の語る話は、俺にとっては未知な言い伝えに聞こえた。
「お主は真に妖怪を好意に見ておる。妾の目からすれば、面白いと思うぐらいにはの」
「それはありがたいです」
「じゃが、そんなお主だからこそ……うむ、妾の独り言じゃ。気にするでない」
九尾狐は懐かしむように俺を見てそう発言する。何処か意味深に聞こえるが、そんな彼女の表情と声が堪らなかった。
「妖怪達は皆、人間から生まれた存在じゃ。妾も『雪女』も同様、人間の説話や恐怖、歴史から生まれ、この妖界の世界へと生を受けた。人類誕生時から遥妖怪として存在し、昔の人間が自然現象を恐れ、全てをあやかしの仕業にした。あやかしを妖怪と認識した人間は説話に書き記し、その正体を妖怪として説話に残した。人間が妾達を妖怪と畏れ崇めた瞬間に伝承として名を受け、妖怪としての異名とその力が与えられた。妾は遥か昔にその説話に記された上、最恐の妖怪として今も尚、この妖界で今を生きておる。人間が生まれたから妖界は誕生し、人間が書き記すことで妖怪は生まれ、妾がいるのは人間達のお陰じゃ。人間がいなければ、妖怪は生まれぬ。じゃが、人間がこの妖界で忌み嫌われているのは、少々面倒な事情が入り込んでおってな……」
吐息が美しく、それが魅惑のひとつでもある仕草。
一息ついて、口を再び動かす。
「妖怪といえども、その内なる感情は人間と同じく傲慢じゃ。人間と同じく現世では力を十分に発揮出来ないが、妖界なら縛りはなくなる。人間界は地脈にある霊力が漂う世界で、妾のような妖狐でも数年から数十年しか居られぬ。それに、妾や他の妖怪達大半を悪霊や邪悪な存在として排除する逸話や説話が広まる事で、土地の霊力は強さを増し、やがて向こうの世界に居られる時間は一日すら無くなってしまった。弱き妖怪なら、その地に踏み込んだだけで妖力を失い、この地に戻される。じゃから霊力に護られた人間は、妖怪にとっては天敵なのじゃ。霊力に護られていない者を懲らしめるために、わざわざ妖界に降り立った者を狙うのもなんとなくは分かるじゃろ?」
霊力とは、人間の強い意思や私怨を力として放出し、自然発生や伝承を元に生まれた妖力に比べると、異なるものであり強力なもの。
霊力が人を守護し、邪悪から護る自然発生した守神という見方で間違いない。
それが人間界には充満し、妖怪が現れたという現代は存在しないに等しい。
だが、妖界の世界には霊力は存在しない。正確に言えば、己の肉体に宿る霊力にしかない。
霊力は猛毒だが、人が死ぬ際にはその霊力は無害なものへと変換される。
俺は九尾狐に口を挟む。
「霊力と妖力は聖魔の属性みたいなものか?」
単純な興味。俺は知りたいことを知っておきたい。普通に妖界がどんな場所なのかを知らねえし、雪姫からだけじゃ足りない。
「人間の偏見じゃな。じゃが間違っておらぬ。妾達にはできぬ芸当があっての。人間は妖界の地に漂う妖力を霊力に変換する体質を加護を通して受けることができるのじゃ」
「体質?」
「うむ。霊力は妖界には存在しない人間の根源、魂に宿る生気とも呼ばれるもの。人間しか保有しない貴重な生気。それ故、人間は妖怪に疎まれ、その身に宿る力を恐れるのじゃ」
妖力とは、妖界の地であれば常に供給されるが、別の世界ではそうはいかない。妖怪は力を蓄えられるが、消費すれば回復まで時間を要する。純妖であれば、妖力を息をするように取り込み、回復速度を高められる。妖力は魔の属性とも呼ばれる。
一方、霊力は、エネルギーに際限無く生み続けられる感情や環境を起因とした力。人に向けられる事もあれば、自然にその感情を向ける事ができる。また、魔の属性である妖力を霊力に変換できるのは人間のみ。霊力は聖の属性とも呼ばれる。
人間が持つ力を聖。妖怪が持つ力を魔。俺が聞いた偏見ならこうなる。
反する力を持つ存在を互いに拒み合うが、それらがぶつかる事は本来無い。
だが、唯一、妖界でのみで二つがぶつかる。
「そう言えばそうだったな。天邪鬼に俺を血肉にしようだのって言ってやがったな。俺を食うつもりなのか?」
俺は聞いてみた。人間と妖怪が馴れ合っているのは俺と女性店員だけしか見たことがない。
九尾狐はなんでか目を逸らし、何か考える仕草を見せる。
「うむ…それは悪いことをしたの。初対面で襲われるのは気が動転したからじゃろ。亡夜という町は人間が居らぬ故、久方に出会った人間に興奮をしたに違いない」
「興奮…ね。そんな適当な理由で、幸助を襲ったってこと?」
雪姫が怒り出すと碌なことにならねえ。俺は雪姫を宥める。
「なあなあ雪姫落ち着けって。天邪鬼だって俺を血肉にするだなんて本気で考えていたわけじゃないだろうし、俺をその場で食ってもメリットを感じないな」
「そうでないぞ?人間の血肉や生気には、妖怪にはない特別な生命力がある。食えば力を増し、最悪、人間と同じ異能を獲得できると妖怪達は考えておる」
俺の擁護が思わぬ形で返ってきた。
……異能?
「ほう?お主は知らないとみえる。持っておるではないか、お主も」
今の俺はとぼけた顔をしてるのだろう。だって、マジで知らないんだよ。
「悪いが、異能ってなんだ?」
雪姫と九尾狐がもの凄く呆れて溜息をついた。九尾狐は雪姫に目線をやる。
「其方…」
「これは私が悪い。一度も異能については語ってないから。仕方がない」
雪姫が九尾狐に謝り、俺に説明をしてくれた。
雪姫曰く、異能は人間が持つ妖術と同じような特殊的能力なもの。
妖怪は伝承から生まれた際に名の派生に基づき、妖術を獲得するだそうだ。雪姫は元から雪や氷との連想で氷結が使える。九尾狐は多種多様な能力が知れ渡っているため、数多の妖術が使えるだとか。
対照的に、異能は人間が持つ欲望の概念。それを再現した力が異能として宿る。俺や他の人間がこの妖界に迷い込む時に獲得する力。
……あっ!
「俺、無名から力授かってました。あははは…」
説明されて、一人で納得している時に気付くとか阿呆だろ。
「天然思考じゃな。自分の望みを忘れとるとは…」
呆れられたみたい。
「望み?」
「その無名という妖怪が、お主を導いたのじゃろ?」
「無名を知ってるのか⁉︎」
「ンフフフ、お主の考え事は手に取るように分かるのじゃぞ?知っておるぞ?お主の死。無名とやらに蘇生して貰ったことも。雪女に名を与えたのも。お主が妾に恋煩いを抱いておることもじゃ…」
妖艶な笑みを向け、優しい手つきで俺の顎を撫でる。
「ふぅえ?」
「妾は九尾狐じゃ。お主の望むものなら幾らでも知っておる。望みは妾じゃろ?この身を欲する男どもは欲に酔い、妾の思うがままになった。さて、お主はどうかな?」
嗅いだ事のないこの世にはない香りに、俺は意識が持ってかれそうになる。
試されてるのか?お誘い…っていうわけがない。でも……。
「化け狐。幸助を拐かす言葉を包みなさい‼︎」
怒気に返った雪姫が、顔を険しくして威圧した。地面の一部が凍りつき割れる。
雪姫の怒声を聞いた九尾狐はニヤリと笑う。
「フッフッフッ、冗談じゃよ雪女。妾は久方振りに恋しくなっただけじゃ」
ドキッとしてしまった。俺が恋しいのか…。
俺は嬉しさが抑えられねえ。
口元がニヤついているのを見られたみたいで、雪姫が皮肉を言ってくる。
「幸助、化け狐はあなたの心を奪おうとしてる。魅了されたら傀儡にしかならない。好意を抱いたら駄目」
「ほう?其方は嫉妬するかの〜?凍りついた心が動いておるぞ?」
妖しく笑う。だが、雪姫は動揺する仕草を見せない。
「あなたは男しか読めない。それも、一度虜にしようとする人間にしか使えない」
「知られておったのじゃな?じゃが、それは事実かの?」
九尾狐の伝承は妖界では当たり前なのだ。災禍様と崇められているぐらいなら当然か…。
俺の知ってる限り、もう少し違う気もするな。九尾狐なら、どんなものでも見抜く瞳力を持っているだろうし、どんな姿にも妖怪変化し騙し、最強の神孤にもなれるんじゃないのかな?
この妖界も伝承通りじゃないのかもな。
人間らしい感情。街並みも人間に寄せて。人間との共存と弱肉強食。
妖怪って、実は………。
雪姫と九尾狐の言い合いも終わったみたいで、脱線した話を切り返してくれた。
「さてと…。異能について知りたいのじゃろ?二度も説明せぬから聞くのじゃぞ?」
九尾狐は念押しに聞いてくれる。
「大丈夫だ。俺が関係してくるから聞かないわけがねえ」
九尾狐は微笑う。
「うむ。では話すとするかの。人間は、妖界では弱き存在じゃ。じゃが、人間達は不思議な異能を持ち、妖怪達に対抗し得る力を持っておるのじゃ。幸い、伝承ある妖怪であれば死なぬ。最近は、向こうから来る人間が多くてな。今じゃ、この妖都を中心に住む二割は人間が占め始めておる」
異能。これは多分、俺が貰った能力と関係してくるんだろう。
「異能っていうのは…ヤバい力なのか?」
「その通りじゃ。妾の知る限り、異能は数多おる。他人の心を操る異能、己を偽る異能、強力な召喚獣を操る異能、未知な術を使う異能、魂の与奪を握る異能などがあるのじゃが。まあ、妾に匹敵する者はいないのじゃが」
「もしかして、私達を睨んできた妖怪、操られていた?」
雪姫は何か心当たりがあるような口調で言う。
「よく見ておるな。彼奴は人間と組んで、この妖都を支配しようと目論んでおるのじゃ。その証拠に、先程お主達を睨んでおった妖怪達は全員、彼奴らに首輪を付けられとる」
「私と幸助を監視していたのが気になったけど。まさかね、亡夜にもいるとは思わなかった」
2人が知り尽くしている情報を交換し合う中、俺は一人、置いてかれていた。
能力を知りたいんだが、雪姫と九尾狐が難しい話をしている。大学生で培った知識が役に立たないな。
あまりにも飛躍し過ぎている。俺が状況についていけてない。
丁度いいところで俺は話に割り込んだ。
「雪姫?それどういう事だ?」
呆れたようにため息をついて、雪姫は嫌そうな顔で言う。
「あなたが馬鹿な行動するから、妖怪に目を付けられていたでしょ?」
俺は思いついたようにわざとらしく言った。
「あー!あいつらか!凄え殺気だったのは覚えてるぜ?」
だが、妖怪から何か感じ取ったと言われても、殺気くらいしか心当たりがない。
「彼奴らは異能を使って妖怪達を従わせ、更には妖都を我が物にと目論む。不愉快じゃな…あんな人間共に同じ種族が痛め付けられていると思うと。じゃが、妾は彼奴ら人間に手を出せぬ。加護ある人間を殺す事は出来ないのじゃ…」
九尾狐は顔を顰める。不快感があるのか、美人の顔がみるみる怒りに変わっていった。
かなり思う事があるみたいだ。九尾狐は思ったよりも、他者に気を遣っているのだ。
そんな九尾狐に、雪姫は容赦なく口にする。
「太古の妖怪が顰め面ね。私から奪うつもりだったのに呆れたもの。殺せないんだったら手を引けば良いのでは?」
「おい雪姫、それはなんか嫌味か?」
九尾狐は静かに怒りを声にする。
「人間が妖怪に転じた身じゃから言えるだけじゃろ。妾はお主と違い、生粋の純妖。仲間とは思っておらぬが、妖怪達は妾にとって大事な存在。人間に毒されている妖怪やそれを平気でやる人間が気に入らぬのじゃ。人だけしか感情ないと思う娘に、妾の煮えたぎる気持ちは理解出来ぬ。何度、手をかけようとしたことか……」
妖怪の価値観は独特なのだ。この妖界での妖怪は人間以上に、その隠している感情を曝け出す。
そんな姿を見て、俺は痛まれない気持ちになった。
九尾狐の怒気ある話が暫く続き、小一時間は聞いた。それは人間らしい感性を感じる話だった。思っている以上に今の現状に不満を抱き、思っている以上に支配を目論む奴に怒りを抱いていた。話す度に積怒のようなものを感じ、孤独のようなものも感じた。最古の妖怪故の苦しみに触れた。
俺はその話に同情した。
「煩わしいのを承知で九尾狐に訊きたい」
俺は覚悟した。
「なんじゃ?申してみろ」
「人間を嫌う貴女がなんで俺に目を付けた?俺が雪姫から加護を受けて殺せないのは知っている筈。なのに、俺を拐った。俺を利用して何かするつもりだったんだろ?」
ピクッと九尾狐の耳が動く。
目を薄く閉じ、俺の質問に答えてくれた。
驚かせる事実も添えて。
「妾は人間、又は元人間だった者なら看破出来る才を持っておる。お主が妖怪に名を与えるのがあるじゃろ?それは、お主の異能なのじゃよ」
俺は衝撃が走った。俺の能力がこんな…あっさり言われた?
「は……?」
面食らった気分はこういう意味を言うんだな。
そんな俺に構わず、話しを続ける。
「人間はこの妖界に降り立つ際、全ての者がその力を有する。それが異能と妾は呼び、他の妖怪は災いと呼ぶ。名を与える行為は本来、妖怪や人間では不可能なのじゃ。本気で愛する者でなければ名を与えられないという実、全くのまやかしじゃ。“ある禁忌”を犯し、名を与えれば妖怪の滅びを意味するからの。普通なら、雪姫は名を受けた時点で妖力と伝承を失い滅ぶ運命じゃからの。お主は妾達を妖怪ではなく、一人の人として思う心と力があるから出来たのじゃ。迷い込んだ人間では、まず名付けは不可能。命を落とした者も同様じゃ。それが異能であるから成せるもの。そもそも、妖怪が名を持つのに何故欲しくなるじゃろうて話じゃ。其方が容易く名を捨てたと聞いたときは信じ難い話じゃったぞ?」
九尾狐は嘲笑いする。
「俺の能力が名付け?嘘だろ…⁉︎」
俺は唖然してしまった。
嘘だろ?俺が無名から貰った能力が名付け?
なんだか釈然としない。というか、俺はてっきり、身体能力や妖術のセンスが開花したのかと思ってた。
うわぁ。俺ってかなり変人なのか。妖怪に名前をあげるなんて。
あれ?でも可笑しいな……。意外と俺にピッタリだ。
俺が求めていた力がそれなのだと、勝手に納得した。
「娘、其方は名を貰い、何か変化は起きたな?」
九尾狐は雪姫に質問を投げる。
「起きたね。私の力が飛躍的に上がって、化け狐を驚かせた」
雪姫は仕方がなく答えた。嫌味も混ぜて言っているあたり、九尾狐の事が嫌みたい。
「なら決まりじゃ。おおよそ検討は、当たりみたいじゃな。松下幸助、お主の異能はかなり希少じゃ。それでお願いがあるのじゃが、良いか?」
雪姫は九尾狐を睨み、幸助の前に出る。九尾狐の思惑に勘づいた上での行動を取った。
「雪姫、なんで俺の前に出るんだよ?」
「化け狐は、あなたを利用しようとしてる」
俺は雪姫の行動は理解出来るが、その理由に納得が出来ない。
「別に構わねえよ。九尾狐に利用されても」
俺は雪姫の制止よりも、九尾狐の提案を受け入れる事にした。
少し、雪姫がムッとした顔をしているのは可愛かった。
九尾狐は満足そうに、奥ゆかしく笑った。
「快く引き受けてくれたお主に、おりいってお願いじゃ」
「俺にお願いですね?分かった、引き受けますよ」
一呼吸置いてからお願いしてきた。
「妾に名をくれぬか?」
「ああ、喜んであげますよ!」
俺は即答で承諾した。
「そうか。では幸助よ、お主が妾に名を付けておくれ。どんな名でも良いが、出来れば気遅れするような名は避けてくれるかの?」
「よし!じゃあ考えさせて……おい、どうしたんだ?」
俺の横から雪姫が殺意込めた圧を感じる。
「…別に。本当に嬉しそうね?」
「まぁな…。好きだから、それが嬉しくて」
「そうね……あなたがそう望むならいい」
「……お、おう」
圧に押されて、声が少し裏返そうになった。
俺は真剣に考える。
好きな妖怪に、自分の名前が付けられる。かなり複雑だな。雪姫の時もそうだが、俺は名前をちゃんと考えないといけない。
妖狐。もふもふで黄金な九本の尾。月のような金瞳。華やかな和服に豊満な胸。人を虜にする美貌。和に溢れ、知恵に富み、美貌を我が物のように自由自在。俺が一番好きな妖怪。
むずいって‼︎逆に名前付けたら怖いんだが。
気損ねる名前でも付けたら嫌われそう。それだけは避けねえと!
雪姫の時は見た目と雰囲気で付けたからな……。今回は、俺が一番思った名前を付けるのが良いのかもな。
高貴で、それでいて物腰が良く積極的な性格。あらゆるものを見透かし、全てに通じるほどの万能者。
そんな意味を込めて、俺が一番九尾狐に合う名前をあげたい。
名付けが能力だからって、俺がそれに驕る理由はない。
俺の気持ちを込めるなら、それは、能力とは関係ないしな。
愛したいなら、まず、名前を呼びたい。
「『來嘛羅』。九尾狐の名前は、來嘛羅で良いですか?」
俺は初めて好きな人に、名前をあげた。
「ふむ……」
九尾狐は眉間に深い皺を寄せてしばらく考え込んだ。
「何か…癪に触りました、か?」
思わず俺は、九尾さんに声を掛ける。しかし、それに良い反応をしない。考え込むようで、沈黙が流れる。
冷や汗と動悸がヤバい。反応してくれないところを見ると、やっぱ怒ってるよな…。ごめんなさい‼︎
俺は、反応しない九尾狐に頭を下げるまで考えていた。
椅子に座っている九尾さんはスッと立ち上がり、俺の元に寄って来た。
「のうお主…」
「あ、はいっ!」
「気に入った。妾に良き名をくれた事に感謝するぞ!」
その表情は会心の笑顔だった。俺はそんな笑みに心が奪われた。
「妾はこの瞬間、この時より、名を『來嘛羅』。通り名を『九尾狐』とする。そして、お主を妾の庇護下に置き、お主に寵愛を込め、幸助殿と呼称させて貰うが、良いか?」
そう言って、幸助の胸に腕を伸ばして加護を授けた。
その様子を見て雪姫は、心地良く思っていなかった。
「私だけで良かった……」
小さく嫌味のように呟いた。




