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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
二章 妖都征圧阻止編
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二十一話 傾国の美女

おはようございます。疲れで投稿が遅れました。

妖怪の住処はそれぞれ異なる。

村落に住みつく妖怪。

町の隅に家を建て生計を立てるような妖怪。

都市を住処として優雅に暮らす妖怪と働く妖怪。

村落・町・都市に属さず、自然物に化けて人を襲う妖怪。

妖怪の住処を知る者がいれば、その住処すら見たことがない者も珍しくもない。太古より生きる妖怪は、特に、その姿を見せたことはない。

何故ならば、太古の妖怪は姿を滅多に現さないのだから。

妖怪は姿を晒す者と晒さない者に分かれる。あまりにも死生観に違いがあり、生き方を探る妖怪にとって、死とは人生の一環でしかない。

妖怪は死なない。これは絶対の摂理であり、妖怪に死の概念はない。

存在が消えない限り、妖怪は永遠に不滅である。

そんな妖怪の中で災禍様(さいかさま)と呼ばれる存在は、特に異質さを放つ妖怪だ。遥か昔より生まれ、人間の恐怖や憎悪から誕生した妖怪の強さは桁違い。

強さは妖怪や人間で束になったとしても対抗は不可能。潜在能力や生きた年月、伝承の認知度に格差があるからだ。

地獄を恐れ、人間の伝承からなる恐怖から生まれた閻魔大王(エンマダイオウ)。生贄を恐れ、人間の恐怖から生まれた伝説の生物(かいぶつ)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)。天変地異を恐れ、人間の恐怖が伝承となって生まれたダイダラボッチ。国を恐れ、美女の凶悪さを兼ね揃えた存在を恐れ、他国に広く伝わり生まれた九尾狐(キュウビキツネ)

恐怖だけでは妖怪は生まれない。それに基づく伝承や神話が存在しなければ妖怪は生まれない。人間の知的世界から、名を明確にしなければ妖怪に転じない。

名を持たなければ単なる概念しかなく、名を持たない妖怪など恐れも伝承にも残らない。

名を持つことによって初めて、妖怪は妖界に住むことが許される。

数は古来から増え続け、数十万以上に等しい数に達する。

数が増えたのは人間の知的世界が増え、さまざまな名を持つ妖怪が誕生したからである。

地域の伝承が国を巡り、他国にも広まり、世界中に伝わった。それにより、妖界の世界は以前にも増し繁栄した。


日本妖怪、西洋妖怪、中国妖怪の枠を超え、世界妖怪へと変わる。妖界もそれに伴い、多くの妖怪が住み着いた。


人間界と妖界が繋がっていることで、妖怪も人間に合わせて数が多くなっていく。

人間がいるから妖怪は生まれ続ける。

この摂理が崩れた時は………。




此処、妖都(ようと):夜城(やしろ)にも太古の妖怪は住んでいる。妖都という都市部に住む妖怪は少なくはない。

だが、普段は姿を見せず、妖怪にも人間にもその姿を拝められた者はごく僅か。

ある者は死を唱え、ある者は神と崇め、ある者は概念と呼ぶ。それほどまでに、“太古の妖怪”とはお目にかかれない存在なのである。


太古の妖怪と恐れられる一人は、妖都とは隔離された空間を住処とし、時偶に気に入った人間を食らう。

「うむ……。此奴は穢れておる。欲に溺れた人間とは食い切れるものではない。じゃが…」

残すのは勿体無い。そう妖怪は呟き、血肉としてなった人間を腹に収める。

「最近の人間は志も魂も下らぬ。異能を持つといっても所詮は人間個人の欲じゃ。美味と感じられぬ」

ご立腹な態度を取りつつも、自分の指や細腕を繊細に舐める。散らかした後は特に気を遣う。

人間の姿をした妖怪ほど、人間(ひと)には友好的である。だが、機嫌を損ねれば死があるのみ。

この妖怪もまた、人間(ひと)の姿をしている。だが、立派な妖怪である。

万物(すべて)を見る金瞳は、常に誰かを探している。

神々しい尻尾は、常に待ちきれぬばかりに揺れる。

黄金色の狐耳は、誰かを聞いている。

妖艶な姿は、誰かに取り繕うための姿。

未知なる香りは、誰かを虜にするための妖香。

言葉には、常に気品を感じる声帯が混じる。

「そうじゃな、下界に降りて退屈凌ぎでも……。無理じゃったな。今は忌々しい秋水とやらがいるんじゃった。さて、頼れる人間…それも妾に相応しい男はいるかの〜?」

彼女から溜息が漏れる。悩んでいる問題に、心は落ち着かない。

仕方がなく、彼女はある者を通して状況を確認する。

「ほう?今は亡夜におるのか。これはまた随分な使われようじゃな。腹立たしいの!」

一人怒りを言い放つが誰もいないため、声だけが静まり返る。

「町に人間がおればいいのじゃが。……うむ?雪女に凍らされておるみたいじゃ。しかも、人間も引き連れておる」

しめた、と彼女は人間を見てそう考えた。

雪女が人間に加護を与えるなど無理な話だと彼女は思った。

だが、先を見たい彼女は、未来を視た。数秒先から数年先までを自在に見透す目を持っている。その強力な瞳力で視たものは……。


「フッフッフ…フハッハッハッハッ‼︎」


その目は何を視たのか?視た彼女は高笑いした。思わず咽せそうになるまで笑い続けた。

そして、金瞳は光り、彼女は嬉しさに揺れるような微笑をする。

「良き未来じゃ!妾の全てを解決してくれる男が来てくれるとはの⁉︎目は紅葉のような美しい瞳。肉質も体格も申し分ない程に鍛えられた肉体。妾達に好意を抱く物好き。妾を愛してくれる男。異能も素晴らしきものじゃ!よい。妾の積年の恨みを晴らせるのじゃ‼︎」

彼女は訪れるであろう希望に胸を高鳴らせる。

「もしかしたら、妾の全てを捧げられるやも知れぬ。幾千も生きてきたのじゃ。妾は………本気で生を味わいたい。この世は全てが退屈じゃ。太古、(いにしえ)妖狐(ようこ)仙狐(せんこ)災禍様(さいかさま)九尾狐(キュウビキツネ)と呼ばれるのは飽きて嫌いじゃ。妾はたった一人の妖怪に過ぎないと言うのに」

彼女は生きることに失望していた。幾千という時を生きる太古の妖怪は退屈なのだ。

人にも妖怪にも姿を気軽に晒せない。その身分としては窮屈でしかない。“災禍様”と崇められた存在はまともな生活を望めない。

人間からも妖怪からも神として崇拝される者に、自由は与えられない。

彼女は数え切れぬほどの人間を食らい、数え切れぬほどの悪行を尽くし、その名を人間界に知らしめた。名誉とは讃えられぬ悪行、それは事実。

だが、そんな妖怪である彼女でも、退屈と感じた今の心境は理解に及ばない。

退屈とは、心が廃る始まりなのだ。心が廃れば感情が希薄になり、物事に対する意識がなくなる。望まぬ退屈というのは、思う以上に過酷なのだ。

「人間の世も妖怪の世も変わらぬものじゃな。妾が望むのは……」

彼女が望むのは、流動し続ける“変化”だ。町の発展や知識の向上、衣食住の変化を見てきたが、それは単なる時代の流れでしかない。

彼女はその先の未来を視てみたいのだ。

諸行無常や万古不易とは違う、彼女すら知らない大きな事象を望む。

それが起きた時、彼女の心は満たされる。


この殺伐と無慈悲なる世界の救済。または、これに匹敵する世界の崩壊。


だが、未来を掴み、未来を改変出来る存在には限りがある。

高望みした時期もあり、多くの禁忌を犯し、数多な生命からの死を向けられる結果を招く。

中には、自身の不手際で招いた災禍も。


多くの人間妖怪を見てきた彼女は自ら失望し、感情を失ったように抑えるようになった。

変わらぬ結果に絶望していた頃、一人の人間がそれを可能にする力と人格を持つ者を思わぬ形で知ることになる。


訪れるであろう不変の真理が崩壊した今、彼女は快哉(かいさい)を叫ぶ。


彼女の成したい願望は、やはり九尾狐(キュウビキツネ)そのものだった。




一緒に暮らし始めて半年が経ち、二人の関係性も親密さが濃くなった。互いに自分の気持ちを上手く交わせる程の仲となり、幸助と雪姫の生活は馴染んでいた。


それなりに経験を積んだ幸助は、雪姫から本格的に剣術を学び、人間としてかなり成長した。


元々、スポーツに精通していた幸助の身体の扱いやそれに伴う立ち回り、瞬時に状況に応じた行動の取れる思考力を見抜いた雪姫は、重点的に幸助の育成に精を出していた。

今は彼の成長を願い、自らが師範となって稽古を付ける。


雪姫の稽古はかなり気合の入ったもので、人間の身である幸助を完全に敵として相手する一騎討ちの形式戦。


妖術が使えるようになったものの、その幅は広くも術精度は浅く、雪姫の足元すら及ばない微弱。

向上心のある幸助ならば的確な指導で十分という、厳しいスタイルで鍛えることを進んで提案した。




お陰で俺は、雪姫の妖術を扱える様になった。

どうやら、これは雪姫にとってあり得なかったみたいだ。俺が妖術を放った時に雪姫がドン引きしていたのは新鮮だったな。今はしごかれるしかないのだが。

「足腰は、大丈夫みたいね」

「当たり前だろうが。俺をなんだと思ってやがる」

「妖怪好きの変わった人」

「おいおい、それは褒め言葉で受け取っていいのか?」

「……隙あり」

足で引っ掛けられ、俺は地面に転がった。木刀で頭を叩かれ、思わず痛みに悶える。

「幸助は詰めが甘い。私に褒められたら気を緩めるのは駄目ね」

しゃがみ込んで見下ろす雪姫。でも、若干人間味があって、嫌でもなかった。

「煩えな。俺の好みの世界なんだ。妖怪に褒められて嬉しくないわけがねえよ。大体、ほぼ毎日それで負けてるのは気のせいか?」

「気のせい。幸助、自惚れし過ぎ」

「うっ、悪かったよ」

「でも、私の『雪分身ユキブンシン』、『白雪(シラユキ)』、『雪鏡(ユキカガミ)』、『吹雪(フブキ)』が使えるようになってる。組み合わせで使ってる?」

俺は妖術を使う際、雪姫のように技一つで放つことは避けてる。というのも、雪姫を倒すなら複数の妖術を同時に使い、欺く必要があるからだ。

雪分身ユキブンシン』で俺の複製(おとり)を陽動に使い、『白雪』で姿を消し背後を狙い、『雪鏡』で注意を散乱させ、『吹雪』を使って足音を隠して奇襲。これなら、普通の奴は倒せると自信があった。

けど、やっぱり雪姫には効かなかった。同じ妖術(わざ)同士だと決着は着かないし、直ぐに対策ができてしまうらしい。

雪姫の扱う妖術の大半を自由自在に扱えるようになり、何故か雪姫が驚いていたのは嬉しかったな。俺が刀剣に冷気を付与し、その太刀筋を受けた雪姫が俺に質問してきた。

「でも、私の妖術をこんな簡単に使えるの?」

「見様見真似でやってみると出来るもんだな。俺のセンスが良いんだろ!」

「それはあり得ない。私は妖力を生気(せいき)に変換する方法しか教えてない。それなのに、私の妖術が殆ど使えるのは否むものね」

「あーめんどくさ。俺の才能ってもんだろ?別に気にする必要はない筈だ!早く続きしようぜ?」

「……」



雪姫は静かにその謎を暴こうとするが、謎が深まるばかり。何故、幸助が雪姫の妖術を会得出来たのか?解明するに至らなかった。




そんな日々もあったりするが、雪姫は俺の服に疑問を抱いた。それは当然の疑問で間違いなかった。

「ねえ幸助?その服、ずっと着てるけど、変わりはない?」

興味本意というわけではなく、単純に心配に近い。

「ん?あーそっか、毎日あんたにやって貰ってるから気にしてなかったな」

「でも、同じ服だと人間って、飽きない?」

「そうだな……」

俺は服を確認する。確かにこの妖界に来る前の服のままだし、夏服デザインだ。黒いトップスに左腕に銀色の腕時計、青のデニムパンツ、スポーツシューズなんだよな。正直に言っちまうと、この服装で出掛けたくない。

それに、服何処で売っているのかも雪姫には聞き辛いしな。今のところは自力で店を探しているが、そこまで大きくない町に行ってもそんな物は見つかりっこない。かと言っても、こいつに頼って買いに行くのもな…。でも、俺だけじゃあ危険だしな。



「ねえ?少し町外れに行かない?仕立て屋、知ってる」

と雪姫は気を遣って幸助を誘う。

「まあ…良いかな?俺じゃあ探せなさそうだし、お願いして良いか?」

「いい。明日、遠出して向かう。それで、良い?」

「助かる!俺も服は欲しかったんだ。じゃあ明日行こうな」

前だったら反論するのだが、幸助も自然と雪姫にお願いするようになっていた。それ程、親密になっている証である。




次の日、朝食を食した二人は初めての住んでいる町から離れた町へ向かうことにした。

妖界には地と海は存在するが、移動手段は妖術による移動が主流なのである。馬や牛を使った移動もあるのだが、この妖界ではあまりにも無謀な移動手段として誰も使わない。移動があまりにも段違いだからである。妖術を使えば数分で着く場所でも、動物を使った移動は数十日も掛かる。足ならもっと掛かる。

隣町までの距離があまりにも離れている。道のりに宿はなく、妖怪の棲まう場所があるが、そんな危険な場所に泊まる者は誰一人としていない。人間が妖怪の加護を受けなければ生きていけないというのは、こういう意味も指すのだ。


妖界にも基準となる都市制度が存在する。

都と呼ばれる妖都:夜城(やしろ)。純妖が大半占める大都市で、この妖界(せかい)では最も発展を遂げた都市の一つ。その都市には、太古より生きる妖怪も住み着いているのだが、探し出す事はほぼ不可能。その都市の内部に不可侵の結界を形成し、余程の存在でなければ、まず、探す事は出来ない。妖都以外に都市はあるみたいだが、雪姫は行ったことがないらしい。

妖力が空気中に大量に混雑している為、加護を受けない人間はその妖力に身が蝕まれ、人外となり妖怪へ変貌してしまう。逆に妖怪にとっては自身の妖力となり、その身に膨大な妖力を有する。


町と呼ばれる所は数百カ所分布しており、俺と雪姫がいる場所もその一つ。俺が住む町の名称は亡夜(なや)。大抵が人間も住める環境が整備され、妖力もさほど大した程でもない。人間がよく人間界から出現する。 

主に、この町と呼ばれる所から多くの物資が妖都に運ばれる。

村落と呼ばれる場所は1番環境が劣悪で、加護を受けていない人間が生きていくのは不可能。不安定な妖力に加え、暴走する妖怪達が多く蔓延り、手の付けられない最恐の場所だと言われる。稀に、太古の妖怪に匹敵する危険な妖怪も出現することから、妖都から興味本位で顔を出しにくる事がある。退治というよりも戯れに近く、大抵は取り込んで力にするのが主である。


俺は、初めて妖都に行くのだ。そこでなら服が購入出来ると言われ、転移で向かう事にした。

ただ、雪姫からはある事を告げられる。

「私の雪移動は、(しるし)を付けた場所に飛ぶけど、その過程で一つ、問題がある」

それは俺には当てはまらない事だった。

「私の力を持っていない人間だと、肉体が凍り付いて、向こうに着いた時には凍死してしまう」

雪姫の妖術はあらゆるものを凍らせる。加護を持っていたとしても完璧には弾けないらしく、俺が妖術を使えるとは知らなかったため使おうとしなかったらしい。人間に対する心配は相変わらずだなって思った。

「じゃあ、俺には当てはまらないな」

俺は笑って答えた。

「そう。幸助なら問題ない。私の庇護下にいるだけでなく、私の力も扱えるあなたならね。私の手を握って」

そう言って雪姫は手を差し伸べる。俺はそれを握る。

「行きましょう、妖都へ」

吹雪に煽られるように、俺達は妖都へ飛んだ。

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