十九話 戦勝。そして……
お久しぶりです。
暫くはこちらの方とpixivの二次創作とオリジナルを投稿していきます!
十二天将は、確か安倍晴明が使役した妖怪の姿をした式神だった。実際、実物を見るのはコレが初めてだが、恐怖というかより神秘さを感じる。
妖怪と人間の血を持つ彼の陰陽術。しかと、この目で知った。
見惚れてしまうという浮ついた心は抑え、雪姫と共にそれぞれ六体を引き受ける。だが、規格外の大きさの為、掠りさえしたら死ぬだろう。
「何とか引き剥がして六体は俺にきたけど……コレどうやって倒すんだ?」
まったくの無計画で挑んでしまった。
幸い、雪姫の方には凶将という十二天将の中でも凶悪な式神で知られる六体を任しているおかげで、大分負担は少なくなった。吉将は陰陽術の精度は恐らく最強、雪姫だと負担があまりに大きく、俺の身が妖怪じゃなければ大したダメージにならない。
とは言っても、陰陽術は全員がかね揃えていると想定し、長期決戦はまず無理だ。あの親玉である女を倒せば解けるのだが、遙か上空にいて視認すら出来ない。
俺の剣の腕はまだ浅く、止まっている木を綺麗に切れれば褒めて貰えるレベルしかない。
しかし、俺には妖術が開花した。ちゃんと才能が俺にもあったって事だ。
「死ぬ前だ。俺の出し切れる妖術を披露してやるぜ‼︎」
死期を先延ばしに出来ないのなら、せめて華やかに散って死んでやる。そう覚悟すれば、十二天将達を道連れに挑める。
俺が相手するのは吉将の『六合』・『青龍』・『貴人』・『天后』・『太陰』・『太常』。いずれも神話や伝承に色濃く強さが記されている妖怪式神。倒すにはそれ相応の強さに至るか、伝承に則って倒す方法もあるが、ひとつ、式神を攻略するズルがある。
それを整えるには、俺が持つ刀剣の力を借りる必要がある。この刀剣に宿る力は、自らの意思を具現化し、力として体現する所謂妖術の真似事が出来る。
式神自体に妖術は相性は最悪だが、妖術をサポートに回し、刀剣の力で式神を倒すのが最も有効打だと俺は考える。
「上手くいけよ?『雪朧』!」
妖術を行使し、俺の肉体を雪へと変える。
だが、雪姫の妖術を真似しただけでは、単なるコケ脅し。この式神達にはやはり……。
俺が雪へ姿を消そうとした瞬間、魔法陣のようなものが形成され、妖術の発動が阻止される。
「チッ…考えたくなかったが、やっぱ対処されてんのかよ⁉︎面倒だ!」
妖術は迂闊に使えないというわけだ。そうなると、雪姫も少し危ないな。
だが、二人で十二天将全員を相手は瞬殺されてしまう。十二体全員で発動出来る陰陽術もあったら意味がない。力を完全解放させない為にも、どうしても引き離さなくちゃいけなかった。
妖術が使えないなら、使わせて貰う状況に持っていくまでだ。
身体能力はこちらの方が上だ。図体がデカいのは三人、機動力がないのが三人。式神の弱点として挙げるとすれば、妖怪討伐を目的とした式神とは随分大層な強さと引き換えに、何かしらの弱点としてある。
とは言っても、全ての式神が集えば弱点など霞んで見えてしまう。引き剥がして正解だったのは言うまでもない。
「魔法陣を形成した式神は、『貴人』と『天后』、『太陰』だな?特に『太陰』は陰陽術に特化してるから、そいつから封じる必要があるよな」
刀剣に意思を封入する。この世界、人間界にすら存在しない力を想像し、具現化させ刀剣に宿す。
対陰陽術に特化した封印剣となり、コレに刺された者の力を一時的に封じることが出来る。
「っ…⁉︎体力持ってかれるのかよ」
だが、その代償は厳しいものだった。以前にも使ったが、生気か霊力が激しく持ってかれちまう。強い倦怠感が襲うも、なんとか踏ん張る。
善なる力を封じる力を持つこの刀剣に技を名付けるなら、
「壊神剣としとこうか!」
神の力を封じるんだ。物騒な技名も今は似合ってるだろうよ。
俺が煌めく刀剣をチラつかせると、六体の式神は連携して押し寄せてくる。三体は巨体で襲い掛かり、三体は陰陽術で俺へ攻撃してくる。
俺が注意すべきなのは、直接襲ってくる式神三体。陰陽術をその身で受けながらも、三体の攻撃を避けていく。
しかし、やはり十二天将の威力は伊達ではない。俺の肉体をある程度傷める力はあり、火傷は覚悟するしかない。
だが、図体が大きい分、動物型の三体の式神を標的に絞りやすい。
『青龍』に噛み付かれそうになった瞬間を狙い、腹あたりを斬り裂く。
立て続けに、襲ってくる『六合』と『太常』の首と頭に刀剣を入れ込む。
すると、予想どおりの結果となり、三体の式神の陰陽術を一時的に封じることに成功する。
休む暇などない。陰陽術を延々と行使し続ける残りの三体へと斬りかかる。
陰陽術を封印したとしても、特に力的に弱体化するわけではない。妖術に耐性がなくなっただけで、根本的な弱体に至るわけではない。
人型の三体にも刀剣で斬りつけ、これで六体の式神の力は一時的に封印しきった。
倒す事は多分出来ないだろう。なら、俺が出来ることはただひとつだ!
「よしっ!あとは上の妖怪に倒して貰うまで、てめぇらを封印してやるぜ!妖術解放ぉっ‼︎」
陰陽術さえなければ、ただの式神風情になる。今しか、こいつらを封印する時間がない。
俺は刀剣に妖術を付与する。そして、俺の肉体から霊力を妖力へ変え、以前雪姫がやっていた凄技をしようと全解放する。
「万丈妖封、俺の全ての力を持って、善性なる式神の頂点を封印してくれ‼︎『銀世界』‼︎」
刀剣を天に向け、俺は唱える。
俺が妖術に目覚め、この力を使いたかったと強く願い、俺の全霊力をこの技に注ぐ。
しかし、俺はとある誤算をしていた。
既に雪姫の『雪夜』が俺がいる範囲まで発動しており、その効果に入り混じるように融合されてしまう。
昼と夜が交差する時、その力は有り得ぬ真価と伝承を生み出すことを……。
雪姫は十二天将が現れたと同時に、『雪夜』が発動していた。
これにより、雪の伝承を持つ者に強化付与がかかり、雪姫本来の力が異端なく発揮される。
怪異に力を与えるとは即ち、『雪女』本来の恐怖が再現される。
式神にも自我は存在する。妖怪特化した式神であっても、魂の宿る彼らにも恐怖という感情は持つ。それを知る雪姫は、怪異の象徴である死装束を羽ばたかせる。
夜の豪風と止まない雪、視界の悪い中、式神達は動けずにいた。
その中で、暗闇に姿を眩ます雪姫が疾走する。
(式神は真正面からの強行突破は不可能。なら、先に機動力を奪い、私の姿を認識出来なくさせる。夜に特化した伝承を持つ私が優勢なのが幸運ね)
自身を皮肉させるも、この状況下で自らの伝承が役に立つことを利用するしかない。
妖怪が嫌い。だが、妖怪の力を使う幸助に対し、異様な好感を持ち、彼の前で妖術の行使に躊躇いは消えた。
人間が召喚した式神だというのに、全力で時間稼ぎする為に殺すつもりで妖術を使う。
そんな最中、雪姫は幸助に思う事を瞑想する。
(ねぇ幸助。あなたは妖術が使えるようになった。確かに信じられないけど…本当に成し得てしまったのね。でも……これであなたは自由を得た。私から離れてしまうのも時間の問題。寂しい……こんな感情を抱くまで心身共に尽くしてしまった事を後悔してる)
式神へ刀を刺し、妖力を封じ弱体化させる。それでも、幸助への気持ちが込み上げて仕方がなかった。
(もしも、九尾狐という妖怪に出会い、その恋が叶うとしたら………どうしてだろう?あなたが離れる事が怖い。居なくなってしまう人の子の誰よりも、あなたが消えてしまう事が……怖いの)
突然襲う不安と心痛。雪姫の心は彼の存在を欲していた。
常に当たり前と感じていた生活に浸り、心が他者を求めていた。変化した生活を日常と思い、退屈を消してくれる存在を得たのが、雪姫には初めての経験だった。
得たものがあまりに親しみ易く、欲した中で最も身近に置いてあり、常に自分へ好奇心を向けてくれる彼という存在が、雪姫の生きる糧になっていた。
最初こそ、妖怪を愛する幸助を単なる人間と思っていたが、半年を迎える前期を共に過ごし、人の心を理解する事ができた。
しかし、もう彼女が求める人間は人間そのものではなく、松下幸助というたった一人の人間性に惹かれてしまった。
この感情を表すなら………。
(まさかね。私が幸助とまだ一緒に居たいなんて考えてしまうなんて。でも、これ以上楽しい日常や生き甲斐は見つからないでしょうね。あの子以外では…)
まだ答えは出ないが、その心が既に幸助にしか揺らがない様になっているのは事実。いずれは、彼女もそれを察してしまうだろう。
だからこそ、幸助が無事に自分から離れられるように、このまま消えようと考えていた。
妖術を会得した彼を引き留める理由が消え、己の存在理由が失せたと考えた。自由を与え、狸寝入りをする様に消えれば、自身の心にも決心がつく。
そう思い、幸助がいる範囲まで『雪夜』を拡張する。自身の妖力に影響が少ない体質を得た彼ならば、己が放つ妖術の凍結には巻き込まれず、上空で戦うロバリア達の決着が着く。そうなれば式神は消滅し、危険は去る。自らは霧隠れでもして、幸助の幸せを願いながら同じ生活に戻れば良い。
思う度に胸が締め付けられる。思わず足を止めてしまう。
「なんで……?私、幸助に出て行って貰いたくない、そんな約束破りを考えてしまう。私だけを頼って生きて欲しかったのに。こんなにも…あなたの存在が必要であるの気付かなかった」
思い込みで納得させようとも、本音は口に出てしまう。
その瞳から、後悔の涙が静かに落ちる。感情が崩壊しかけ、これ以上の引き留めは自身の覚悟が揺らいでしまう。
「泣いたって……幸助が留まるわけじゃない。行かなくちゃ。幸助から離れないと」
その時、幸助が『銀世界』を発動させたことにより、雪姫の決心は変わってしまう。
夜に降る雪と昼に降る雪の狭間である景色へ変化してしまい、新たな妖術となって二人の魂が結ばれる。
『雪夜』と『銀世界』は本来交わることはない。親和性などなく、打ち消しあって効力を失うのが本来あるべき結果だった。
だが、二つの妖術が中和し、互いに融合した妖術が新たに生み出され、二人の力で空間が強化される。
強化された範囲にいる十二天将全てが、幸助が放った壊神剣の効力が即効に効き始め、効力による自身の強化が更に施される。
『九尾狐』による強化も関係しているが、二人の妖術が打ち消し合うことなく融合するのは、互いの実力による賜物。効果が持続すれば、十二天将は妖力や陰陽術を失い、その身を凍結させる事が可能となる。
何より、幸助が放ったとされる『銀世界』が雪姫の妖術を拒まず、受け入れた様に融合したのを知覚し、雪姫の口は薄く笑っていた。
しかし、これを維持するには条件がある事を雪姫は理解する。
「幸助の霊力が激減してる。助けないと!」
全てを注いでしまった結果、幸助の安否が必須となる。動けなくなる前に助け出す為、雪姫は傍に向かう。
保護した人間の中で、唯一加護を授け、共に苦楽を共有し合った。この生活を手放したくないと、彼への執着は凄まじかった。
幸助の生存を優先した。これが、雪姫の信条が変わる選択となった。
人間を味方する事から、松下幸助という人間を守ると置き換わる。
雪姫が駆け付けた頃には、幸助は妖術を行使して倒れていた。霊力を消費し、その場で倒れたのだ。
十二天将達は完全に凍結する前に、『九尾狐』によってロバリアは葬られ、式神の機能を有していた彼らは異界へと消滅していく。
消滅する式神に目もくれず、雪姫は幸助を抱く。
「幸助⁉︎」
目を閉じた幸助を本気で心配し、普段冷静な彼女は彼の身体を大きく揺らす。
すると、揺れに反応を見せ、幸助の瞼がピクッと動く。
「うっ……だ、誰だよ…?」
気を失っていたのか、視界がぼやけてなのか、雪姫本人を認識するのに時間が掛かる。
「私だよ幸助。雪姫よ」
彼から与えられたその名を名乗る。
『雪女』として認識して貰うのではなく、『雪姫』個人としての意思を見せる。
「あっ…な?雪姫か…?」
口を動かすことも重い程、霊力は体内には残っていない。しかし、助けて貰った恩人が目の前にいるのを認識した瞬間、幸助は弱々しく笑う。
雪姫の姿を見て安心したのだろう。そのまま目を閉じて、深い眠りについた。
しっかり生きている事が肌の温もりで感じる。自らの信条である人間を守り抜き、特別な感情まで向ける様になった雪姫は、眠りについた幸助の胸の鼓動に耳を当てる。
「ありがとう……あなたに死なれなくて」
お礼が口から漏れる。シリウスの目に確かな輪郭が宿り、幸助の姿を鮮明に映そうと凝視する。
この時、雪姫が松下幸助を自らの目と記憶にその姿を刻み、初めて向き合った。
もっと彼の姿を見たいと、雪姫らしかぬ我欲が芽生える。
「……あなたを救ったのは、間違いなくあなたの好きな妖怪の仕業。残念だけど……私ではまだ救える力がない。でも、こうしてあなたに触れられる喜びを知れた。生きてくれるだけで、こんなに嬉しくなるだなんて」
本来の喜びの感情を取り戻し、自らの感情とも向き合う。彼に一度だけ見せた笑みが溢れる。
彼の生存が嬉しくて堪らず、感動の再会を果たしたかのように強く抱きしめる。
そして、眠る幸助に問い掛けるように呟く。
「ねえ幸助。あなたの事を知りたくなったの。もし良かったら、幸助が望むこれからを隣で見ていたい。それと……私から離れないでちょうだい」
昼と夜の狭間の雪原で抱擁する妖怪は、自らの行動理念に“変化”を招いた。
他人に守ると固執した妖怪の呪縛は解かれ、心の赴くままに自らの信条を捻じ曲げ、未来を望んだ。
先が見えぬ未来を願うことは、訪れる悲劇や絶望も共に覚悟しなければならない。
しかし、名を捨てた妖怪は、そんな暗黒な未来のことなど眼中になかった。
目の前にいる人間へ情を抱き、自らの感情を優先した。
「どんな事が起きようと、私は付いて行きます。辿り着いた場所が私なら、若く堕ちたその魂の行く末を見届けさせて。そして……」
軽く顔に冷たい息を吹きかける。直後、口と口が紙一重で触れそうな距離感で冷たく微笑む。
「……あなたの温もりを絶やさせない。何があっても」
雪姫の信条は、松下幸助によって大きく変わり、伝承の柵から解放されたのだった。
『雪女』の呪縛に何百年と苦しめられてきた彼女は、一人の人間によって呪縛と受名が解かれ、生きる目的を得た。
“名付け”によって力が消失したかと思われた『雪女』としての能力は消滅せず、純妖を拒んだ彼女が選んだ種族は本来、存在しない種族へと進化を果たした。
妖術は扱えるが、妖怪ではない種族。人間への憧れと共に一人を守るためにその身が“変化”に適応していた。名を改めた妖怪は力を失う理を破り、新たな名を刻み、且つ人間性と自らの欲望を獲得。それが妖精という新たな種族の誕生をもって、『雪姫』へと進化した。
妖精へと進化し、この世界における唯一無二の存在へ到った。今後、彼女と同じ種族が生まれてくる事はない。彼女にしか許されなかった種族への進化をもたらしたのは、紛れもなく彼の仕業。
その彼の仕業とは………。
幸助と雪姫の噂は瞬く間に亡夜の妖怪達に知れ渡る。
『妖術が使える人間と名を捨てた妖怪が、“災禍様”を超える人間を相手に生き延びた』と広まり、多くの注目の的となった。
二度も“厄災”と“災禍様”に準じる妖怪を退き、妖怪にとって天敵だった式神を封じたという功績から、彼が称賛されるのはさほど問題ではなかった。それどころか、彼の勇姿を讃え、妖怪にしか許されていない妖術を使える者とは思えない待遇が待っていたのだ。
俺が目を覚めてからは、とんでもない情報で混乱し、収拾が追い付かない。仕舞いには、
「凄いさねあんた!有名人だよ⁉︎」
狸の婆ちゃんに自分の孫のように抱きしめられ、
「やるじゃねえか人間のお兄ちゃん!町のヒーロだよ!」
小さい蛙の子供に町を救った英雄だとかチヤホヤされた。
俺は正式に、この町の住人として認められる事となった。
拒まれた人生の中で、死んで初めて多くの人に認められた。こんなにも嬉しい事なのだと、俺は喜びに跳びながらガッツポーズをした。
ただ、俺は本当の意味で喜べなかった。
目覚めてから称賛され、町の英雄となった俺なのだが、気掛かりな事があった。
あの光景が脳裏に過ぎり、思わず吐きそうになった。
「嬉しいんだけど……その、俺を庇ってくれた妖怪、知らないか?」
あの狐の姉ちゃんのことだ。俺を庇い、死を間近を知ってしまった。恩義をくれた人を弔いたいと思い、町の妖怪に聞いたのだが……。
「誰だったかな?庇った人なんて……さぁ、知らないね」
既視感を感じた。それも、途轍もなく自分事のように。
その瞬間、途轍もない消失感が後悔のように押し寄せる。
「っっ‼︎うっ…⁉︎」
発作のように、心臓が強い呪縛に締め付けられる。
過呼吸になり、息を必死に吸おうにも苦しさが延々と続く。
「アンタ大丈夫かえ⁉︎」
妖怪達の心配も耳に入らない。答えられないほどに、今の俺はどうにかしそうだ。
このまま死ぬのではないかと思い、意識が途切れそうになる。
だが、簡単に目を閉じることは出来ないようだ。
「しっかりして。幸助!」
抱きしめられ、危うかった意識と呼吸が戻る。
俺は何かに囚われている。この感覚は、誰かに忘れ去られているような苦しみがトラウマとなって再発したんだ。
自分だけが知り続け、他の人は忘れてしまう恐怖。俺が異常者と言われ、嫌われた元凶が目の前で起きて平然と立てないほどに動揺した。
「酷い疲れがあったみたいだね。雪女よ、その人間の子の治療を」
雪姫が俺を支えてくれたお陰で、辛うじてそんな事で倒れたとは思われなかった。
ただ、妖怪が俺の感情をすると言った瞬間、雪姫の表情に憎しみが灯る。
「ふざけないで。あなた達にこの子の何が分かるの?治療と称して、彼を食べようとするのね」
妖怪を嫌悪する雪姫。蟠りが解けておらず、雪姫の些細な怒りに妖怪たちが触れたことに気付かない。それが最悪なことに、俺達の関係が悪くなりかける。
「何を言う雪女!この人間は我ら天敵である式神を退いたんだぞ⁉︎食うなどという非人道をやるわけがなかろう!」
「そうですとも!恩を仇で返すなど致しませんわ!雪女は何とち狂ってらっしゃる!」
他の妖怪達も俺を恩人扱いしてくれる。もう俺を食べる気はないし、『人形』達による殺戮があっても庇ってくれた。そんな彼らが俺を毛嫌いして食うなんてことは絶対にないと信じれる。
なのに、雪姫は頑固として俺を離そうとしないし、妖怪達の言葉を反論ばかりする。
なんでだ?俺はもう大丈夫なのに。
いや、雪姫は俺をしっかり抱きしめて、震える声で言った。
「私は……人の子を誰も助けられなかった。これが我儘だというのは百も承知。だけど、この子はそんな私の呪いから救ってくれた。お願い……松下幸助は私に任せて」
に恩を感じてくれていたことを初めて明かしてくれた。全員に言うつもりはなさそうな雪姫だとは思ったが、まさか俺のことを思って……。
我儘のような意思を聞いた俺は、自然と涙が溢れてきてしまう。
「なんで俺なんかを大事にしてくれるんだよ…⁉︎」
思わず聞いてしまう。雪姫は優しく泣きそうになるような笑みを浮かべる。
「どうしてって。私は人の子が好き。そして、漸く私の呪いで死なない人の子が今、私に恩を売ってくれた。もう死なせたくない。どうしても、あなたを守りたいと思ったの」
滲み出る本音なんだと思う。雪姫は自分の気持ちを隠す傾向があって、何考えているかが分からない部分があった。それが見えるようになって、俺自身も嬉しいと安心した。
『雪女』の伝承に柵を持っていた雪姫が、自らの意思で俺を庇う姿を見て、妖怪達は諦めがついたように手を退く。
「あの雪女が人間に愛を向けるとは……信じられないが、この目は真実を見た。皆のもの、後は彼らに任せよう」
代表して一人がそう言うと、何事もなかったようにその場から離れていった。




