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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
2/43

一話 死亡。そして転移転生

長編第一話投稿です。

大分、本編で取り上げている内容より多くなっています。

こちらの方はかなり時間掛けて訂正や追記をしていきながらの投稿となります。

恋がしたい。

でも、そんな恋は叶うことが出来ない。

恋が出来ないというべきだな。成熟出来ない恋ともいえる。

現実の女?それは違う。

芸能人の女?それも違う。

女優?全く違う。

二次元の女キャラクターに恋している?似てるけどこれも違う。

俺が好きなのはそんな現実じみた女に興味は失せた。


人が想像した仮想世界。未知なる怪奇現象に興味があって、俺はそこにいる神秘的な妖怪そんざいが好き。




大学2年生で19歳のアルバイトに励む男子大学生の俺は幼少期の頃から幽霊や妖怪、心霊現象などを信じる変わり者だ。

いつか、俺自身が妖怪達と対等に話し、好きな妖怪と結ばれたい。そんな叶わない夢を本気で望んでいたんだ。

俺は高校時代で挫折しかけたさ。そんな作り話は作り話なのだと……。俺はもう少し現実を見ないといけないのだと。何度俺は親に「現実を見ろ」と言われた。


ただ、俺には捨てられない夢がある。


「す、好きです!付き合って下さい‼︎」

意外とモテるのか、俺は高校生になった時に女子から告白が多かった。

だが、俺は同じ事を言ってやった。

「悪い、お前の気持ちに答えられねえ」

全て断った。

好きな奴は決めてんだ。それは現実の人間じゃねえし、二次元でもない。

だから、俺は大学に入学した後すぐに、俺は“妖怪研究会”をサークル活動として立ち上げた。心霊現象を信じる奴等が集まり、俺は自分の居場所を見出せた。男子は三人、女子多めの五人の計八人とやや少ないが、俺にとってはそれが十分だ。

好きな事、信じるもので会話が成り立つこのサークルは、俺にとっては理想な空間だった。誰も俺を変わり者だとは思わない。

これ以上に幸せと思える場所はない。

話が通じる奴等と話すのは単純に楽しいから、俺は大学に足を運び続ける。

生き甲斐ができただけで、少しは気が和む。


今日も、あいつらと妖怪について語る。日曜日であるが、俺はサークルの為に俺は大学へ車で向かう。

免許取ったばかりの俺の運転は辿々しく、初心者マークを付けているのに背後から警笛のクラクションを鳴らしてくる。

煩いな…。本当に毎日のように聴いている。うんざりするほど…。赤信号で止まっているのかが分からないのか?

「朝から煩い音出すなよ」

といつものように愚痴を吐く。


俺は青信号になるまで待機する。三車線ある道路は走り慣れているわけでない。車の行き来は激しく、クラクションや怒鳴り散らすような声が換気で開けている隙間の窓から聴こえてくる。

こんな機械音や怒鳴り声を聴きたくない。もっと、静かで好きな会話が出来るあの空間に行きたい。駄弁っているだけでも幸せな場所で理想な居場所で……。


そんな事を運転席から考えていると、目に映った光景に俺は目を見開き、咄嗟に身体が動いた。

シートベルトを外し、運転席のドアを開けて走り出す。

年寄りの婆さんが道路上で座り込んでいるのだ。

小さい子供、多分婆さんの連れ子だろう。婆さんが苦しそうに胸を押さえてやがる。俺は走りながら駆け寄る。

「大丈夫か⁉︎」

何故、近くにいるサラリーマンの奴等は動かないんだよ!

なんで女子高生達は見るだけで無視すんだよ!苦しんでる奴を見ているだけで何もしねえのか⁉︎

心の中で愚痴を吐いても口にはしない。

「うっ!く…苦しい…」

「心痛か?おぶってやるから」

俺は婆さんをおぶり、連れ子の手を握り、車が行き交う道路から離れる。


幸い、近くにベンチがあったので、そこに婆さんを横にする。救急車は他の人に呼んで貰えたから、後は来るのを待つだけ。

「お兄ちゃん……おばあちゃん、どうなっちゃうの?」

心配そうに連れ子が涙目で俺の服を掴んで訴えてくる。

頭を撫でてあげて、俺は安心させるように微笑む。

「大丈夫だ!婆さんは無事に決まってる。男の子なんだから、そんな泣きそうな顔だとカッコいい顔が台無しだぞ?」

安心させないと子供は泣くからな。

「でも…おばあちゃんが倒れたのに誰も助けなかったよ。みんなが助けようとしてくれなかったんだよ!」

「っ……そうだな。あいつらは…そういう奴だから。お前は何も気にすんな」

俺は子供がこんな事を言っていることに腹が立って仕方がない。

そうだ。人は身勝手なんだ。

周りの奴らは手助けした俺を冷たい目で見てくる。

「他人を助けるとか……それしかやる事ないのか?学生の分際で…」

「老害を助けたところで意味ないのに。さっさとくたばればいいのに…」

通りかかる人は俺を見てはヒソヒソ話したり、心もない言葉をボソッと言っている。

本当にクソな人間だ。


大学生になってから、俺はよくこんな大人の声を聞くようになった。


車を運転する時、大学の外、買い物する時、何処かの道を歩いている時、絶えず、俺の耳には人を見下す声が聞こえてくる。


我慢もした。ずっとしてきた。


でも今日は、俺はいつもより機嫌が悪かった。


「なぁあんた?」

俺は婆さんを侮辱した会社員の女性を止めた。

「な、何よ⁉︎」

「寝てる婆さんにくたばれと言ったよな?」

「……空耳だと思います」

女性は逃げようとする。

俺はバックを持つ腕を掴む。

「逃げんな!」

「は、離してください‼︎」

必死に逃げようと走ろうとするが、男の俺の方が力は上だ。簡単に逃すかよ。

「婆さんに言った事、謝れよ。男の子も聞いてたぜ?あんたが婆さんにボソッと言ってた事をよ」

勝手に人を貶しておいてのうのうと立ち去ろうとする奴は野放しにしない。

「貴方はなんですか⁉︎ストーカー⁉︎」

「ふざけてるのか?俺はあんたに謝って欲しいから止めただけだ」

正義ズラ?違うな。

俺は自分の意思でコレを実行してんだよ。

「私急いでいるので!失礼します!」

性懲りもなく逃げようとするので、俺は仕方がなく両手で腕が離れないように力強く握った。

「ふざけんな!あんたは自分の口にした事を反省しないで逃げんのかよ⁉︎もう一度、ちゃんと理解して聞け。婆さんに悪口を言ってすいませんと言え」

俺の気持ちが収まらない。

女性が謝るならそれで済む話だ。

だが、そんな俺の願いは安く裏切られる。

「離せよ!テメェのような偽善者気取りがいて反吐ヘドがでんだよ!学生で人助け?今どきいたもんだな⁉︎」

態度が一変し、俺を罵る女性。

女性が明らかに失礼な態度を見せ、俺は怒りを抑えるのが限界になった。

「口悪い人だな!社会人が謝れねえってなんだよ⁉︎歳上の人間に謝る気がないってか⁉︎」

周りが見えなくなるとはこういう事だろうな。

「独り言だから放っておけよ!私が何を言っていても証拠が無いだろ!早く消えてちょうだい!」

「謝れば離してやるさ。重篤な婆さんに言い放った言葉を取り消し、ちゃんと謝罪してくれ‼︎」

謝罪を求めるが一向に謝る様子を見せない。

周りの人からすれば、俺は恐喝している奴だ。そして女性は被害者。

俺の見えないところで一人の男性が電話していた。

多分、俺を通報している。


悪い奴が被害者と見られる様はふざけてやがる。

逆に、俺は加害者として通報される。

こうして、世間の事件はこうやって成り立つ。


だから人を嫌いになった。


恋人作れと言われたが、俺は妖怪さえいれば良い。

妖怪は裏切らない。俺が妖怪に好意を抱いた理由と言って過言ではない。


「うっ‼︎」

「おばあちゃん‼︎ねえ、お兄ちゃんどうしよう…おばあちゃんが!」

マジかよ…。

婆さんが急に苦しみ始めた。

女性の腕を離し、婆さんの傍へ駆け寄る。

俺が離した後、女性が何か言い放った。

「学生風情が偉そうに言うんじゃねえよ‼︎ババアが死ぬのが嫌ならテメェが事故でも死んでろ!」

最後に女性の黒い本音を聞いた。


やっぱクソだ。


しかし、これが本当に起きるとは、心から思ってもみなかった。




その後、5分で救急車が到着し、苦しんでいる婆さんと連れ子は連れてかれた。救急隊員に事情を話し、俺はそこで婆さん達と別れた。


「やべ……。エンジン付けっぱなしだ」


俺は車のエンジンを切るのを忘れてこっちまで走ってきたんだ。

あれから10分経っちまっている。それに、急いで大学に向かわないと。

俺は向かい側に車をエンジンをかけっ放しだから、早く乗らないと警察に違反切符を切られちまう。

1分1秒が勿体ない。信号待ちというだけでも、俺の気持ちは長く感じまう。

ヤバいヤバいヤバい!最悪だ……警察車両が見えてくる。ヤバい…絶対に切符取られちまう。


パトカーを停め、俺の元へ走ってきた。


もう最悪だ。訳を話すか?無理だな。警察は俺の言うことなんか聞かない。周りの人も擁護してくれなさそうだし、諦めるか。


そう思った時だった。


「「キャーーーーーー‼︎」」


悲鳴が響き、全員がそっちに顔を振り向ける。

「トラックが突っ込んでくるぞ‼︎」

俺が気付く前に、目の前にトラックが迫っていた。


あっ、これ死ぬヤツだ。


そう、俺は今の衝撃的な光景を、他人事のように冷静に分析していた。

意外と死ぬ時って怖いとか感じないんだな。死が唐突に訪れる時、それは事故か自然死、病死の内で後悔するものだと親に聞いたものだ。


……違う。俺は本当の意味で死を実感出来ていない。


目の前に確実な死が迫って来ているのに、俺はこんな時でも冷静なのだ。


こんな形で人生終了するのか……。


せめて、妖怪でも拝おがめられれば……。俺は本気で望めたんだろうな。


本気で恋してみたい。本物の妖怪に会いたいなぁ………。


俺の意識はそこで暗転した。




暗転した俺の耳に何かが聞こえてくる。その声は透き通り、俺に優しく響く。

「……さん。こう……ん」

何か聞こえる。俺を呼んでるのか?

起き上がる気力が湧かない。

「幸助さん。幸助さん」

よく聞くと、特に感情が昂っているトーンでもない。

なんとなく呼んでいる。俺にはそう感じた。


「幸助さん。幸助さん。幸助さん」


流石に同じトーンで永遠と言われる気がしたので、俺は目を開けた。


「はぁ……此処は…」


死んだ、と認識して正しいんだろうな。

場所は歪んだ様な空間で、黒い渦や灰色の渦がぐるぐると不定期に回る。

その空間には、たった1人の白髪の少女が立っていた。

服装は白いワンピースで、この空間の雰囲気としては最悪だ。安定性のない法則があるのか、その渦を見るだけで吐きそう。

ん?吐きそう…?死んでいるのに?

妙な疑問が頭に浮かぶ。

「あのー?俺って、死にましたか?」

俺の問いに少女は答えた。

「はい、貴方は先程の交通事故でお亡くなりになられました」

無表情ではないが、その表情に感情というものを一切感じられない。

「あ、はい…そうなんですか」

求めていた答えなのだが、何処か悲しい。


本当に死んじまったって他人に言われるなんて、なかなかないだろうし。 

自分で認識よりも相手に言われる方がよっぽど精神的にくる。


「居眠り運転のトラックにより、松下幸助さんは生後19年と3ヶ月9日9時間38分24秒で、その生涯を終えました。ご愁傷様です」

少女は手を合わせて俺に頭を下げた。

なになに?なんだよこいつ!俺の生きている時間まで言い当てるのかよ⁉︎秒まで答えるとは、かなりヤバい観察力だ。

いや、この場合はストーカーと言った方がいいのか?

「お前何俺の生存時間調べてんだよ⁉︎ストーカーかよ‼︎」

「いいえ、違います。私は幸助さんの生きている時間を知っているに過ぎません」

俺の質問に少女は淡々と答える。それは機械のように同じ答えしか答えてこない。

「俺を知ってるって事は、一体なんだ?」

「当ててください。幸助さんでしたら答えられる筈です」

騙されているようでムカつくが、俺はこいつの正体を探ってみた。

「じゃあ、天使か?」

「いいえ、違います」

「悪魔か⁉︎」

「いいえ、違います」

「精霊…か?」

「いいえ、違います」

「神様ですか?」

「いいえ、違います」

「………」

こういう時ってお決まりの天使や悪魔、精霊の案内人とかじゃないのか。

神様っていう線はあるが、見た目からして絶対に違う。何しろ、この場所に神が案内人として待機する筈がないだろうし。

俺はこの少女の正体を真剣に答えたつもりだったが、全てが的外れ。

なので、俺はこう訊いた。


「妖怪……なのか?」


別に答えに期待するつもりはなかった。これも的外れなのだと勝手に思い込んだ。

少女は、僅かに笑みを見せて頷く。

「はい。私は、この空間に棲まう妖怪で御座います。幸助さんが現世で御誕生した瞬間から、私は守護霊のように取り憑いておりまして、このように死後になってお会い出来るようになったのです」

まさか妖怪とは。

だが、この会話を聞いて断言出来る。

何かに巻き込まれる気がする。


俺にはそんな予感がした。


怖い?違うな。

楽しみで仕方がないんだ。

「……幸助さん?どうして笑っているのですか?」

少女は覗き込む様に尋ねてきた。

「あ…いや、あんたが妖怪って知って…そのぉ…」

嬉しいんだ。

でも、言葉に出来ないもどかしさがある。

「もしかして、妖怪に出会えたことに心が震えるのですね?」

「…心、読めるのか?」

「いいえ。貴方がそう顔に出しているからです。とても純粋なぎこちない顔です」

少女は俺を弄ってきた。

「は、恥ずいな…」

「いいえ、恥ずかしがる要素などありませんよ幸助さん。人は羞恥心や愛憎といった感情を抑え込もうと無意識にします。ですが、貴方は違うのです。きちんと他人に不満や欲求を露わにし、人に伝えられる手段を持ち合わせています。簡単に言いますと、本音で語る鈍才という方なのです」

「そ、そうか……ん?鈍才って?」

「…いいえ。今の言葉は取り消して下さい。私の失言による思わず発した言葉ですので…」

少女は顔を背ける様に言った。


空間を何度も確認するが、此処は気色が悪くて仕方がない。

死んだ後の世界って、こんなに嫌な思いを抱くものなのか……。


不安が拭えない中、俺は本音を漏らす。

「この空間…妙に居心地が悪いんだが、何とかなんねえか?」

変えて欲しいとお願いする。しかし、少女は首を横に振る。

「すいません。私の力ではこの場所を変化させることが出来ません。不快に思われてしまうのも致し方ありません」

申し訳なさそうに頭を下げる少女。俺は小さい子に謝らせる趣味はない。

「いやいや!無理って言うなら仕方がねえよなー?あんたが無理に落ち込む必要はないって!」

「いいえ…幸助さんの守護霊なのに配慮出来なかった私に責任があります。どうぞ…私を好きな様にして下さい」

語弊ある言い方。

俺が疾しい気持ちを抱いていると思った様だが、俺の趣味は違う。

もっとなんだろうな…?こう…胸があって、髪が長くて、目が凄く赤い……。

「好きな様にって…俺はそんな趣味はない。ないんだが……綺麗だな。俺が好きな妖怪のイメージに近い。身体が細いが、ちゃんと食べてるのか?食べなくても大丈夫なのか?髪は白いけど、これって染めてるのか?地毛なのか?…目も凄い綺麗だよ。吸い込まれる様な惹き込まれるような魅力ある目だ。俺も目は赤いけど、こんな綺麗な目はしてない」

あれ?少女をよく見たら好きな妖怪との共通点が多い。ただ胸は気にしないで、俺はまじまじと姿を見てしまう。


気付いてたら、俺は少女の肌を触っていた。


惹き込まれるような幼い容姿に興奮したわけではない。ただ純粋に好きな妖怪の容姿を思い浮かべていた。

瓜二つのように勝手に重ね、俺は妖怪の姿を妄想した。

俺には好きな妖怪がいる。

その妖怪がその姿で在れと強く願ったぐらいだ。

会いたいが、俺は叶えることが出来ないのだろう………。

「こ…幸助さん」

「匂いは……はっ⁉︎俺は何を⁉︎」

絵面的に俺は犯罪者だ。鼻で匂いを嗅ごうとまでする俺を世間は何と見るだろうか。犯罪者だと罵るに違いない。

少女を触る変態のレッテルが貼られる……。

「満足…しましたか?」

怒るわけでもなく、表情に恥じらいというようなあざとい目を向けてくる。

うわぁ……なんかヤバい。

「あ……なんて言った方がいいんだ?」

満足しました、なんて言ったら馬鹿だ。

かと言って、してないと言えばどうなるかも分かったもんじゃない。

少女は妖怪と言った。それに、守護霊に手を出したら色々と駄目な気がする。

「そうですね……子供らしい魅力的な触り心地だったと?」

「もう駄目じゃん…。絶対に俺が変態じゃねえかよ…」

俺にそんな趣味はない。まあ、今更説得力など皆無だがな。

「幸助さんは楽しみという楽しみを知り尽くしていません。ですので、もし望むならば…幸助さんの欲望を叶えてあげましょう」

「今言ったら誤解されるだろ⁉︎」

「そうですね。でも私はそれを叶えてあげる事は可能です」

「だから言い方!」

俺は少女の発言に突っ込まずにいられない。

だが、少女が赤らめている様子がないのを見て、真剣な話だと思った。

「ここからは冗談でお話するわけにはいきません。幸助さんのご趣味に口出すのも如何したものかと反省し、守護霊として御話致します」

真剣な表情で俺と向き合う少女。その目は俺を映し、赤い瞳が俺を離さんばかりの鋭さがある。

「死んだ俺に何か用か?守護霊だった妖怪が何故俺に姿を晒す?」

「用なら…そうですね。貴方は若くして亡くなられた。だから、貴方には選択肢を御与え致します」

選択肢?妖怪がそんな事を決められるのか?

「私がそんな事を決めていいのか?っていう顔をしています。なので、私が貴方に教えてあげましょう。私は守護霊としては自我の持つ妖怪で、幸助さんの今後の決定権も握れるんです。簡単に言いますと、今の私は神様と天使と同等の決定権を有する守護霊の力を持つ妖怪です。天国へ導く事も地獄へ導く事も、そして私達妖怪の住む妖界へ導く事も可能なのですよ?」

初めて疑問系で問われた気がする。しかも、何故か後半あたり口調が生き生きしていて、俺に選択肢をサラッと言いやがった。

「俺的には人生再スタートしたいんだが」

天国や地獄に行く選択肢は正直選びたくない。妖界って多分異世界だよな?だったら、人生再スタートする方が良いに決まってる。

少女は更に表情が明るくなる。僅かな笑みが更に感情豊かさを持った気がする。

「分かりました。では、私達の世界に来訪者として手続きします。接続して通れる空間が完成するまで、数十分待って頂きますのでご了承下さい」

「そんな簡単に承諾して良いのか?」

俺の疑問に少女は首を傾げる。

「別に?望んだ選択肢に導くのが私の役目なんですから、当然だとは思いますよ。この空間は妖界と繋がる場所ですので、10分さえあれば可能です」

なんか…俺が思っている異世界転移?っていうヤツはかなり適当な案内人に導かれるイメージが強かったんだが…。


例えば、疑問や文句を公言すれば望まれない形で転生させられるものかと思っていた。そんで、異形種や性転換、武器などの形で転生させられる。しかし、この少女今、「私達の世界」って言ったな。

妖怪の世界があるというのか⁉︎

手続きをする少女に対して、疑問を問い投げた。

「なんで、貴女は俺に取り憑いていたんだ?20年、こんな俺に取り憑くメリットでもあったのか?」

自分の世界から離れても尚、俺に取り憑いているんだったらこいつの望んでいるものはなんだろう。そんな疑問が俺にはあった。自分の世界で過ごす方が断然良いに決まってるのに。

少女は一瞬言うのを躊躇ったが、その口は動いた。

少女が悲しげに表情を浮かべて、俺を見ようとしなかった。

「本当に気を遣って下さるんですね。今まで、私は多くの若くして亡くなった方々を案内しましたが、幸助さんは、そんな中でも御優しいのですね。だからでしょう。私は貴方の守護霊として見守るのが心地良かったんです。いつしか、貴方を本当の意味で死んでは欲しくなかったのですが、あんな不幸が貴方を死に至らしめてしまったのは、見るに堪えません。自然死ならば良かったのですが、運命というのは突然、悲惨な決定を下す。変える事は可能ですが、確定された運命を変えるのは無理な話です。生ある者は必ず死に導かれる。この運命だけは誰も変えられないのです。幸助さんはその中でも一番可哀想です。人を助ける、これに罪も何もないのです。なのに、助けた貴方が居眠り運転のトラックに轢かれるのは損でしかありません。あの場で一番行動力の取れた貴方こそ、本当の意味で心優しい……」

長々と話した後、少女の目からは涙が伝っていた。


なんで、こんな俺の為に気を遣ってくれるんだろう?凄く嬉しい。

この少女の静かに語る表情が暗くなるにつれ、俺の胸を締め付けてくる。

俺、この少女にそこまで泣かせる事をしたのか。なんか、罪悪感が込み上げてくるな。

でも、達成感というか誰かに評価して貰えたというのも嬉しいと受け入れられた。

「長々と語った後に気を悪くする事を訊くみたいですが、宜しいですか?」

俺は少女に、敬意を払う。

「なんでしょうか?」

「俺に肩入れする理由、お訊きしても良いですか?」

少女は涙を手で拭い、ニコリと笑顔で答えた。

「貴方が好きですから」

「えっ?……今、なんて?」

いきなり率直にきた回答に、俺の思考は止まりかけた。

そんな俺を気にせずに少女は、笑顔で語る。

頬に僅かな赤みが見え、語る少女の仕草は恋する乙女のようにも見えてしまった。

「貴方の純粋さに惹かれてしまいました。幸助さんが生まれたそのときには気付けませんでしたが、妖怪や幽霊などをこよなく愛したいという願いを、私が叶えてあげたいと思ってしまいました。恋…心、そんな近しい感情を貴方に対して、いつしか、向けていたのです」

この人の話、なんとなく理解できた気がする。なんで俺に取り憑いてまで見ていてくれていたのかを。

だけど、俺は……。

「こんな俺にですか?ですが…俺を知っているなら分かるかもしれません。俺、好きな妖怪がいるんです。それが貴女ではないんです…」

断る一択だった。俺は断った。

妖怪に好かれるのは嬉しい。だけど、俺には譲れない恋がある。

「そうですよね。幸助さんは好きになった人を変えない。それは重々御存知です。純粋だからこそ、その恋い焦がれる気持ちも知っています。今更、そんな想う人の気持ちを変えさせる事を無理強いする事は出来ません」

なんだか、更に申し訳ない罪悪感が襲ってくるんだが…。

初めて妖怪からの告白を断るのもかなりしんどいんだが。 

妖怪や幽霊は好きだ。だから、余計に断るという行為に荷を感じてしまう。

「なんか、すいません。貴女を一方的に振る感じで」

「いいえ、こちらこそ振って下さり感謝します。これで、私は躊躇いなく幸助さんを導けますので」

妖怪も恋をするんだな。もしかして、俺が一番好きな妖怪も恋するのかな。

するならしたいな。それで俺の気持ちを伝えて結ばれるってのも……。

妖界がどんな世界かを知らない今、俺は楽観視して考えていた。




そんな思い耽っていると少女は準備が完了した。

「幸助さん、妖界への空間に接続、完了しました」

そう言われ、黒い渦を見た。僅かであるが、渦の中から光が漏れ出している。

「では、幸助さん。貴方にはお話しなければならない事項があります。二度目の人生において過ごす妖界、妖怪達が集う世界についてお話しいたします。心して聞いて下さい」

真剣な眼差しで俺をしっかりと見てくる。

妖界の世界について聞かせてくれる少女は、やはり妖怪なのだと思った。

見た目とは裏腹に、詳しい情報を俺に真剣に伝えようとしてくれる。

「この妖界には定められた掟や秩序は機能はしているものの、政治や経済が成り立っているような世界ではありません。また、誰も咎めないし、誰も味方しない。見た目以上にルールにはかなり煩いので気を付けてください。妖界に生きる者達は独自の私観を持ち、違う価値観同士でぶつかり合う事も当たり前です。最悪、戦闘に発展する危険に巻き込まれます。基本的に、『妖力ヨウリョク』というものが全ての種族に宿り、妖怪と人間を識別するものとしても分かりやすいです。妖力を多く有する者ほど強力な存在で、純妖じゅんようは怪奇や神話、都市伝説から生まれた者が妖怪となり、古き妖怪であれば、その妖力は神にも匹敵します。自然発生した妖力で独自の進化を遂げた者を純妖じゅんようと称され、『八岐大蛇ヤマタノオロチ』や『九尾狐キュウビキツネ』、『天逆毎アマノザコ』、『大嶽丸オオタケマル』、『閻魔大王エンマダイオウ』がこの妖界で最も最強で凶悪な妖怪で恐れられ崇められます。混妖こんようは人間と交わる、又は人間が妖怪となった者を指し、都市伝説と人間が混じった種族とも捉えられます。人間よりは厄介な存在であり、突出した力を放てるのが特徴的です。この混妖こんようはかなり特殊な種族であり、唯一、純妖じゅんようにも人間にも転換する事が可能である種族でもある。『蛇女ヘビオンナ』や『猫娘ネコムスメ』、『両面宿儺リョウメンスクナ』、『二口女フタクチオンナ』がそれらに当たりますが、人間になりたい混妖こんようは滅多にいません。人間はそのままです。妖界では最も弱者と認定され、搾取される存在として見られ襲われます。殆どは神隠しや死んだ者で迷い込んだ者達が大半を占めており、妖怪とは違い、生気に満ち溢れた種族である為、純妖じゅんようの血肉として重宝される。その為、妖界という地という事で数は少なく、妖怪達が蔓延るこの地においては希少的な存在とされてまして、簡単に殺されることはありませんが飼い殺しされる可能性はあります」

少女は俺が理解しているかのように話すが、俺はそれどころではなかった。

「ん?純妖?混妖?なんだそれ?」

俺の頭は処理が追いつかない。

俺は長々と語ってくれた少女に質問するしかなかった。

「理解し易くしますと、純妖じゅんようは人間という肩書きや人間の名残を一切持たない妖怪を呼称します。混妖は、『雪女ユキオンナ』や『二口女フタクチオンナ』のように、人間として人間界を生きた者を呼称します。人間界ではどちらも生きていた時代がありますが、特徴なのが、混妖こんようは人間と変わらない肉体を持ち、容姿も人間と然程変わりません。逆に、純妖じゅんようだと人間の肉体を持ちますが、人間の肉体も捨てられるのです」

「悪い…純妖じゅんようがいまいち分からん」

混妖が人間の容姿で優しそうなのは分かった。だが、純妖も人間の肉体を持てるのは不思議な気がする。

矛盾してるわけじゃないが、混妖の方がおいしい種族に思える。

しかし、少女は純妖じゅんようの魅力を説いた。

純妖じゅんようは人の肉体に興味があり、ありのままの姿を抑え、人間と変わらぬ姿で過ごしています。力を内に封じ込め、人間の肉体でも本来の姿同様に力を発揮します。混妖こんようは一時的に妖力を瞬間的に妖術に付与するとお話ししましたが、純妖じゅんようはその力を常時使えます。更に、『妖怪万象ヨウカイバンショウ』という人間を捨てた究極奥義を使い、自らの全盛期の力を解放する禁術も兼ね備えています。ですが、それ相応の代償を支払う危険な代物ですので、人間を好む者であるほどあまり使わないですよ?幸助さんが望む方がいらっしゃるのは、この純妖じゅんようの種族です。そして、太古の妖怪として妖界に名を馳せております」

「おお!なるほど、それで理解したぜ!」

純妖じゅんようの魅力が分かり、俺は少女の説明に頷いた。

もっと聞きたいことが増えた。

「ちなみにさ⁉︎あんたは守護霊って言うが、どんな妖怪なんだ?」

少女を知りたくなった。

俺の興味は底知れず、他人を知りたい衝動が抑えられない。

俺は妖怪を全員把握している自負がある。

実際、俺は現代妖怪まで精通していて、他人に伝承を聞かされただけで一発で分かるぐらいには。

だからこそ知りたい。少女が守護霊なのは分かったが、名前がある筈だ。俺を導く妖怪という妖怪ですら成し得ない力を持つ少女が堪らなく面白い。

少女は首を横に振る。

「すいませんが、それを教えする事は許されておりません。私は純粋ではない者を迎え、その真偽を説き、妖界か天獄に導く役目を担わされておりますので」

自分を教えてくれる感じではなさそうだ。

踏み込もうと思ったが、断っている限りやめた方が良さそうだ。

「悪かったよ。それ以上はいかないから、それ以外の事を詳しく教えてくれねえか⁉︎」

話を切り替え、俺は妖怪の世界について知ろうと話を振った。

「分かりました。ちなみにどういった事を?」

純妖じゅんようっていうのは仲良くは出来るのか?」

俺の質問に対し、少女は若干呆れたように溜息を吐く。

「幸助さん……それを本気で仰っているようですが、私はおすすめ致しません」

「なんでだよ?別に気紛れで好かれるとか友達になったり出来るんだろ?だったら仲良くは出来るじゃねえのか?」

少女は再度溜息する。

「私の想像以上でした…。本当に妖怪が好きなのですね」

少女は悟ったように深い溜息を見せた。




俺が無謀な質問でも、多少なりの質問にも少女は俺の知りたいことには詳しく語ってくれる。

「妖界って凄い広いんだろ⁉︎地球と比べるとどうなんだ?」

「そうですね。難しい比較にはなりますが、地球と太陽で比較すれば分かり易いかと。妖界の方が人口も多いですし、人間界から迷い込んだ方が数多くいます。それに、現代妖怪のようにゴロゴロ生まれる妖怪も多いので、その者達の受け皿が常に拡張されるような世界です」

面白い表現だな。

「つまり、妖怪と人間が増えれば増えるほど、妖界の地形が拡張されるってわけか?」

「その認識で間違いはないかと……。最近はあまりにも広過ぎて、妖怪の都市同士が幾万という距離になったのも、そのような現象が関係していますが」

「へぇーそうなんだな?じゃあさ?現代妖怪って何がいるんだ?『こっくりさん』とか『口裂け女』とかか?」

ネットが発達した現在、様々な噂が再発した。

それにより、世間やネット社会では大きな知名度を持つ妖怪が増えた。


江戸や明治時代までに作られた妖怪とは違い、アレらは興味本位で人が作った妖怪の認識がある。


実は、現代妖怪はあまりタイプじゃない。


「いますよ?いっぱい。幸助さんはとても恐ろしい事を興味本位で聞くのが恐ろしいです」

少女は気持ち的に遠ざかるような表情をする。

「なんでだよ?普通に聞きたかっただけなんだが…」

「興味本位が現代妖怪の恐ろしいところなのです。彼等は多くの人間の一時的な欲求で生んだ悲産物ひさんぶつ。人間と妖怪をいびつに交わせ、人間が到底敵わないような存在すら存在します。人外として振る舞い、人間を殺戮対象でしか認識しない知性の欠片のない殺戮人形です。彼等はこの世界を脅かす恐怖者。そして、現代妖怪は興味本位で語ってはならないのです。彼等の中には語ってはならない妖怪も存在しますし、存在を認識、しくは存在を口にすれば……死が訪れる事でしょう」

恐ろしい話を聞いたようだ。

現代妖怪がこの世界に生まれ、多くの被害を生んでいると思うとゾッとする。

「ちょっとその現代妖怪について最後に聞きたい」

「おすすめはしませんが…どうぞ」

躊躇うも俺の質問を許してくれた。

「どんな現代妖怪が…出るんだ?」

億劫な気持ちで聞いた。

俺はよく調べたが、現代妖怪の定義がいまいち知らない。

好きな事に妥協はしない俺だが、現代妖怪は都市伝説範疇までしか知らない。

「……これは知っていれば幸助さんも近付かないでしょうし、確認された現代妖怪を教えます」

「ありがとう…」

罪悪感はありつつも、少女は俺の気持ちを答えてくれた。

「現代妖怪は物や都市伝説は兎も角、怪奇現象や人間の記憶を弄る、人間にその姿を知られてはならない、人間の怨念の集合体、不幸を呼ぶ悪魔、絶滅古代種、異世界を繋がる異界、架空妖怪、最強生物、呪いの王…地球外生命体、呪霊。名前は言いたくもありません。彼等は人間が不要に生み出した最恐の妖怪として認識してくれればそれだけでいいです。ですので、最都さいと:新来しんらいには足を踏み込んではなりません。命が奪われるだけの苦痛を抱きたくなければ…」

最都っていう都市は行かないようにしよ……。




「…最後に、貴方にはして頂かなくてはならない儀式があります。今から向かう場所は妖怪達がありのままに生きる世界。そんな世界に人間である方が入り込めば、その身を喰らわれるでしょう。妖怪は気紛れに人を救いはしますが、たぶらかして糧として取り込まれる事も珍しくありません。人間という事で貴方の命は天秤てんびんにかけられてしまうのです」

「はぁっ⁉︎」

俺は思わず声を上げてしまった。

「ちょっと待てよ!それ、今から食べられに行きますって事になってねえか⁉︎」

少女は悪びれなく考えて言う。

「はい。そのまま行きましたら間違いなく。それともう既に話しましたよ?」

「しれっと怖い事言わないで貰います?俺、妖怪は好きですが、流石に食べられるのは嫌ですよ!」

異世界に行って襲われるなんて、不運にもほどがあるじゃないか⁉︎

俺の心配を汲みしたのか、少女は口を挟む。

「そこのところは私が貴方に授けるので問題はありません。私ほどの妖怪でしたら、かなりの力を与える事が可能です。ただ…」

「ただ?」

「私が授けられる力は、その人の願望を忠実に具現化させるという物でして。幸助さんが望むような特典は授けられないのです」

「つまり、俺自身に基づいた力を獲得、又は引き出すっていう感じか?」

俺はその内容から答えを導く。簡単でシンプルな物だな。

俺が欲しい力を望んでもその能力が獲得できるわけではなく、異世界転移の特典とは己自身の内に秘めた欲求が力として具現させるというものだという。

難なく獲得出来るが、その力は未知数という感じだ。

厄介なのが、それを授かる本人ですら、どんな力を与えるのかが分からないのだ。

「理屈としては当て嵌っています。幸助さんの深層心理に潜むその大欲を具現化させ、それを理想な形で扱えれば、妖界の地に住む妖怪達にも匹敵し得る事でしょう。しかし、その力を使い熟せなければ……」

「命はないんだな」

「はい。仰る通りです」

 妖界の世界は未知数の上、今から獲得する力も不明。授かる力もどんな力になるのかも分からない。

つまり、殆ど何も分からない状態で挑む事になる。

人生リセットボタンで戻るよりも難易度は漠然なものだ。

「この妖界では常に争いが起きるわけではありませんが、かなり好戦的な妖怪はいますし、幸助さんは人間。襲われて糧にされるのは十分あり得ます。妖界に到着して襲われないように、私の方からこれらの物を差し上げます」

異様な渦から何かが出てきたと思ったら、様々な武器や札、この世界の通貨と思しき物、ある程度の食糧までが俺の目の前に置かれていく。

「この剣とか刀、拳銃ってマジもんなのか?」

「はい。刀剣、拳銃、ライフル銃全てが本物で御座います」

俺は拳銃を手に取ってみた。かなり重く、それに剛鉄のような硬さだ。これで人を殴ったりしたら死ぬな。俺は試してみたいと思った。

「試し射ち…してみていいか?」

「構いませんが、的はこれにしてみますか?」

少女が両手で同時にパンっと叩くと、鉄塊が出てきた。

俺はその鉄の塊に狙いを定める。


パーンという乾いた音がして、俺は拳銃の反動で倒れ込んでしまった。


初めて射った感覚としてはかなり恥ずかしい。

それを見て、少女はクスッと笑った。

「腕はないようですね。射った弾が何処に行ったのかが分かりませんですし」

「マジかよ……」

泣きたくなる。小さい子に銃は向かないと言われる気持ち、分かるか?目の前の少女に悪びれる様子もなく、気持ちを察しられ、「止めた方がいい」って純粋無垢な表情で言われたら悲しくなるよ。

俺は諦めて、一番使えそうな武器を握る。

西洋剣に近く、刀身が青く照り輝く刀剣を俺は選んだ。

「よし、これなら俺でも扱えるだろうな!」

俺は両手で振り回す。素振りのように無駄な体の動作を一緒に行い、刀剣を振り回す。思っていたよりも刀剣は軽く、俺の思うように振るえた事に、俺は驚いてしまった。

「おおっ‼︎これ使い易いな!軽いし、何か振り回す度に力が増すっていうか、力が馴染むんだよなー⁉︎」

俺の疑問に少女はすかさず答えた。

「はい。その刀剣は使い手の精神と連動する珍しい武器です。妖力とは違い、己の意思に呼応するそれは、妖力に長ける存在にも有効な致命傷を可能とする一振りです」

「妖力?妖怪が使うような魔法みたいなものか?」

「魔法とは殆ど似たような仕組みだと思います。妖力とは、異妖が持つ魔力と同義で、妖怪は持つ妖力を放出して妖術の発動が可能です。妖力で生み出されたものは、魔法同様に自由自在に形を変え、己の力として相手に知らしめる事が可能です」

「なんだ。魔法と似たものなら良かった。そう思うと、妖怪がいる異世界はかなりヤバいんだな?」

「それはそれは、大変というもので片付ける幸助さんの方が恐ろしいですよ?それに、勘違いしているかもしれませんが、この妖界は貴方が生きていた日本とは少なからず連結しているのです。本来、人間界に短時間顕現出来る存在を、皆は妖怪と呼び畏れる。そんな妖怪達が集う場所が妖界なのです」

それは驚きの事実だな。妖界が俺の世界と繋がっていたのなら……⁉︎

俺はその事実を確認する。これは、俺にしか分からない事実になる。

「顕現するという事は、俺の世界に来てたんだな?妖怪が⁉︎」

俺はその事実が本当なら、気持ちを抑えられない。

少女は俺の望んだ回答を答えてくれた。

「はい。かなり頻繁に姿を現していますよ。私は守護霊として見守っていましたし、つい先日なんか、大妖怪の方まで様子が見たいという事で幸助さんの世界に来訪しておりましたので。妖怪の方々は自由気ままの価値観を持っているんです」

本当にいただなんて嘘みたいで嬉しい。グッとくるこの喜びを思いっきり拳で突き出した。


「しゃあああっっーーー‼︎オカルトなんかじゃなかったんだ‼︎よっしゃあっー‼︎」




俺は渡された武器などを身に付け、力も解放して貰う。

その際の詠唱はかなり神秘に感じた。

俺は膝をつき、少女は両手で何かを込めるように眩い光を発光させる。

「思う念力岩をも通す力を授け、我が加護の元に幸運あれ。歳行かぬ者に永劫の加護を御与えせよ。我が願い、聞き届け給え。名を持つ者には惜しみない愛と加護を。名を持たぬ者に恥じぬ生命の息吹を。成熟するべく第二の人生を妖界で過ごす熱情を。何者にも恐れない心胆を持ち、勇敢なる男を正なる運命に導くがいい」

俺はこの詠唱を心に刻む。刻んだ事で、俺の中に力が芽生えたのを感じた。

「成功、しましたか?」

「成功……はしたみたいだな。けど、何を獲得したのかが分からないな」

体や服を見たが特に変わったところはない。俺の心に変化でも起きたのでも思っていればいいか。

「すいません…。私のこの力は、この空間ではまともに発揮出来ず、どんな力に目醒めたのかが判明出来ず申し訳ございません」

俺は別に大丈夫とニッと笑って言ってあげた。少女を泣かすのは男の恥だからな。

「では、全ての準備は整いました。空間より妖界の方に向かって下さい。私は、此処でお別れです」

「えっ⁉︎」

俺は突然言われた事に強く反応してしまった。

俺の守護霊じゃないのか⁉︎なんで別れるんだよ。

「なんで付いて来てくれないんだ⁉︎俺の守護者なんだろ?」

少女は悲しそうな表情で答えた。

「貴方が…事故死してしまったせいで、私は守護霊としての役割は全うしました。いいえ、私は守護霊としては失格なのです。貴方を護りきれなかった私は、守護霊としての権限を、今の儀式を持って失いました」

当然か。護りきれなければ、その役割は失う。


つまり、彼女はこの儀式を持って、彼とは離れなければならない。そう定められていたのだ。


「……どうして言わなかったんだ?貴女は……」

少女の名前を訊いていない。それと同時に、俺はそこでその話に入る事をやめてしまった。

少女の顔を見て、俺が口を挟むのは更に傷付けるのだと感じた。

悲しそうなんだ。そして、本当に俺を好意的に思ってくれていた妖怪なんだ。

そんな彼女に、俺が突っ込む事はしてはならない。そう思い、 気持ちを落ち着かせる。これ以上、悲痛な表情で答えて欲しくないんだ。

その代わり、最後に俺は訊く。

「名前……教えて下さいませんか?俺、貴女の名前を一方的に知らないのは正直嫌なので。これなら、答えてくれますか?」

少女は悲痛な表情をしていない。それを超える隠し立てのない笑顔を見せてくれた。

「はい。私の名前は、無名ムメイ。貴方を好きな無名ムメイです!ずっと、幸助さんの幸せを願っております‼︎」

最後の最後で、無名ムメイが感情を曝け出してくれたのだと思い、俺は込み上げる涙を目と目の間を摘んだ。

「ありがとう無名ムメイ。俺も貴女に守護して貰えて良かった。また、いつか会おうな!」

俺はそう台詞せりふを言い、無名ムメイに用意して貰った空間の中へ足を踏み込む。

「はい!またお会いしましょう!そして、貴方をいつまでも見守らせていただきます!」

俺は挨拶を交わした。後ろにいる無名ムメイに改めて別れを言う必要はない。


俺は彼女の加護を信じて、僅かに見える光を頼りに渦の中へと消えた。

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