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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
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十七話 再び妖術顕現

お久しぶりです!

かなり重要な内容を含んでおりますので、『妖界放浪記』の方でも大分影響してきます。


明日はオリジナル小説を投稿いたします。

妖狐が感知したものは人間に宿る霊力。感じ取った気配に畏怖し、体が硬直した。

桁違いの霊力を感知したのは初めてであるが、あまりの異質さが屋敷に迫っているのを感じ取る。


雪姫も同様に、その存在を妖狐が感じ取った直後に反応する。

「この気配は?……こっちに迫ってきてる」

人間というのはすぐに分かる。雪姫が人間に対し警戒するのは、幸助以来のことである。

かなり長距離と離れてはいるが、向かってくる速さが尋常じゃない。幸助の元へ行くのにも間に合わないほどの距離が迫っていた。

「仕方がない。人の子なら私を見て怖がる筈。脅す形だけど、仕方がないね…」

人間相手に戦闘意欲は湧かない。殺す気はなく、ただ向かって来ているのならば追い返す事を視野に入れている。

迫り来るのが人間である以上、余計な危害は加えない。そう思っていた……。




その人間は、幸助達の敵う相手ではなかった。そして、本気で松下幸助という人間を殺害に来たという命令(いし)を持つ。

空中から現れた人間は、雪姫を見つけるなり降下する。

「此処か……。雪女のクセに外出しているとはな?探すので時間を使った」

女性だった。それも見た事のない人間。雪姫は彼女を睨みつける。

「何か用?今は暇ではないの」

相手にする気はないと断るつもりだった。

「黙れ、妖怪の雌が」

そう発した瞬間、雪姫の口元と舌が引き裂かれる。

幸助を殺す為に遣わされたロバリアは、言霊で従わせる力を持ち、現象として発する事が可能。

悲鳴や苦痛に悶えるかと思いきや、雪姫は静かに睨み続ける。治癒し、徐々に顔に負った傷が癒えていく。

喋れるようになり、雪姫は刀を引き抜く。

「どうやら、私が目的ではないようね」

ロバリアの目的を推測し、幸助が狙いなのだと見抜く。

「そうだな、お前に興味はない。マツシタコウスケという人間を差し出せ。何処にいる?」

「知らない」

即答で答える雪姫。幸助を狙う者と分かった以上、居場所を答えるわけにはいかない。彼女にとって、彼の存在は信条を守り抜く上で必要な人間であるからだ。

差し出せば殺されてしまう事は承知。決して口を割らないつもりだ。

「そうか。なら、何処にいるかを吐け!」

言霊に従わせる力を持つロバリアに抗う事は出来ない。見えない実力差を感じた雪姫は、咄嗟に自らの喉笛を刀で裂く。

「自らの喉を潰して声を発せなくしたか。どうやら、マツシタコウスケに秘密があるようだな?」

ロバリアは不敵に笑う。

そう、彼女は肉体だけはスイ=ロバリア本人となっているが、その中身は別人となっている。




地獄より遠隔で肉体を操り、言葉を介するのは『閻魔大王(エンマダイオウ)』本人である。

「退屈するこの身を楽しませよ。ワシの気紛れで生まれ変わった雪女よ、せいぜい足掻いてみせろ」

それはつまらぬ欲求を満たす為の娯楽に過ぎなかった。



閻魔大王の支配により、ロバリアは操り人形のように動く。残酷に幸助を殺す人形として、ロバリアは傀儡となって猶予の生命を弄ばれる。

雪姫の喉は回復するが、いつでも声を絶てるように氷で編み出した首輪を着ける。死ぬつもりはなく、幸助の居場所を吐かない為の対策として。

「幸助を殺す気ね。人間であるあなたを殺すことになるとは…」

自らの信条を破り、守る者の為に刀を構える。信条破りをする雪姫を見て、ロバリアは不快な笑みをする。

「人間に希望を抱く雪の亡霊『雪女ユキオンナ』。貴様も儚い理想を破ったか。面白い!」

ロバリアの肉体で解放出来る最大限まで霊力を解放する。霊力だけで言えば、雪姫を圧倒的凌駕する。

「この感じ…何処かで」

解放した霊力を痛みとして受ける。大した痛みではないが、肉体に刻まれた記憶がその人物に対する恐怖を浮き彫りにする。

「そうだろうな。この身体で“妖怪大戦争”を暴れていたからな?そうか!貴様程度では記憶にすら残っていなかったな。その時の貴様は随分と楽しそうに妖怪達を殺してたぞ?恨みに恨んで積年の怒りで殺した感覚を思い出してみるか⁉︎」

手のひらから球体状の高密度のエネルギー弾が生み出される。触れた妖力に反応し、高出力の爆発を引き起こす恐ろしい技。それも、ひとつではなく数十個も。

「……来なさい」

触れれば死ぬと、エネルギー弾の恐ろしさを先見する。

自身からは動かない。ロバリアから動かなければ動くつもりはない。先に動けば、こっちが死ぬと断言出来る。

「ならばこうぞ‼︎命尽きるまで!」

轟々しい女とは思えない興奮の声と共にロバリアが動いた。エネルギー弾が雪姫に放たれる。

間違うことなく先を読み、雪姫は自身を雪へと変える。

「『餅雪モチユキ』」

エネルギー弾が触れる瞬間、雪姫の肉体は完全な雪へとなり、ダメージを無効化する。『餅雪モチユキ』を使用している間、如何なる攻撃を無効化することができる。雪姫はそう思っていた。

「お得意の無効化妖術か?流石は妖術を扱うにしては大したヤツだ」

褒めるロバリア。雪姫の妖術が相当な高等術だと見抜き、妖怪における強さを評価する。

だが、雪姫の戦い方を見た者としては失望する。

「だが、その程度で人間が守れるものだろうか?貴様が人間でも喰らえば、“災禍様”など容易くいけただろうに。実につまらん妖怪だ」

「なんだと…?」

「つまらんと言ったのだ。人間を食らうが元来の妖怪の欲望、欲望に身を委ね、本能のままに食欲に溺れた方が幸せだっただろうに。魂を入れ変えた方が良かったか?」

「何を言ってるの?あなたなど知らない」

力を持つ『雪女ユキオンナ』。伝承における知名度はかの“三妖魔”に匹敵する。なのに、力を得る為に人間の血肉を喰らわない選択をする彼女への侮辱を吐いた。

閻魔大王として、彼女の伝承による強さを良く知る。知っているからこそ、気紛れに彼女に憐れみを施した。

この事実は雪姫自身が知る事はない。閻魔大王という大妖怪に目を付けられていたと言うことを。


「知らんか。当然だな、その身に刻まれた魂は忘却の彼方へ行っているからな。面白いと思って遊んでみたが、もう潮時だな……」

興が冷めたとばかりに、閻魔大王の興味は失せる。そして、ロバリアという肉体に抹殺を命じる。

閻魔大王は、ロバリアと強制の誓約を結び、遠隔による支配で魂を封印する。その対価として、ロバリア自身の身体能力及び異能を限界突破させる。

無言となり、今後一切の言葉が発せなくなったロバリアの雰囲気が変わる。完全なる傀儡となり、雪姫を殺すという意志が植え付けられたことで手加減がなくなる。

これまでが遊びだったとばかりに、新たなる技をみせる。

弓を取り出し、矢のない状態で構える。生前、“太古の妖怪(いにしえのようかい)”を葬った技を披露。

その技の名を反転滅矢グラヴィリバーイ

妖力に反応して触れれば、強力な重力の反転が発生し、魂まで砕く滅殺の一撃。コレを人間の身で膨大な霊力があるロバリアだからこそ扱える。しかも、この技が彼女の全てにおける一部でしかない。

人間の身でありながら、妖術を超越した彼女の潜在能力ポテンシャルは、戦闘経験のある雪姫ですら心身に恐怖を与える。

(出力が一気に矢の形状に凝縮される⁉︎この感じ、私が避けられるものではない)

死の宣告をされたとばかりに雪姫は絶望する。

完全なスイ=ロバリアであるならば1秒も満たない速度で連射出来る恐ろしい技だが、支配された完全な状態ではない為、時間を有する。それでも“災禍様”以下ならば必中必殺技。脅威の殺戮技を雪姫に向かって放とうとする。

「ごめんなさい……幸助。あなたは逃げて」

反転滅矢グラヴィリバーイが自らに直撃する最期まで、彼への心配をする。


本当は、幸助の自由を保障してあげたかった。拘束するような真似はしたくなかった。


当初は、自分は消えたいと思い、自らの危険を顧みずに『名付け』を受けた。縛られていた呪いから解放される為に、幸助を利用するような形で。

しかし、人間に対する嫌悪を持つ彼を受け入れることが出来なかった。妖怪を受け入れようとする愚かな思想に異を唱えてしまった。

自身もこの半年の間で考えさせられた。人間とはどのような生物だったのかを。幸助ただ一人を世話し続け、人間としての魅力に憧れた。憧れたのと同時に、妖怪への憎しみと彼への束縛が増すばかりと感じた。

人間を縛り続ける妖怪の『雪女ユキオンナ』としての自覚があるが為に、妖怪としての自分を恨んでしまった。

だが、ようやく掴んだ人間との生活。後悔はないとばかりに生きることを諦めようとする。


彼女の心は諦めに折れなかった。


避けられないのならば、真っ正面から捌いてみせるという気迫を発する。

「人間!私はお前と道連れを選んでやる!幸助を殺すお前を生かすなど出来ない。あの人の幸せの為に、この雪姫(あな)がお相手する‼︎」

土壇場に見せる他者への執念の炎。雪姫は初めて、人間であるロバリアへ刃を入れた。

反転滅矢グラヴィリバーイが発動させるには10秒というあまりに猶予ある攻撃の前に、雪姫の刀身が両腕を両断する。

ロバリアは決して憎い顔を見せない。嗤い、その笑みは狂喜に満ち溢れている。

腕を再生させ、今度は聖剣を取り出す。ロバリアの奥の手があると雪姫は距離を取る。

「矢の次は剣。随分、手の内があるようね」

ロバリアの宝物庫のような空間には、大量の【心具】が眠っている。彼女の魂が状況に合わせてコレらを取り出し、充分な強さを引き出すことが出来る。閻魔大王との《契約》により、【心具】自体にも強力な強化が付与されている。

聖剣に込められた付与効果は『ベイン』と『魂玉砕ソウルクラッシュ』。触れたが最期、斬り込んだ対象者をこの世界から滅ぼす逸事の武器。この聖剣も、“太古の妖怪(いにしえのようかい)”を抹消した規格外の性能を有する。

聖剣を見て、雪姫は自身の全力を解除する。

「その聖剣…斬られたら即死だけでは済みそうにないわね。聖なる太陽の反転、昏き夜へと変われ……」

自身を中心に景色を変える。雪姫のみが使える冬を心象風景にした造形妖術。空が暗くなり、夜へ沈む黄昏の時間を再現する。

銀世界ギンセカイ』が昼とすれば、今回発動した『雪夜ユキヨ』は夜そのもの。

雪女ユキオンナ』の伝承において、妖怪が放つ死の恐怖が増幅するのは夜の一時ひとときである。

雪姫はそれを良く知る。妖怪が夜に盛んに活動が活発になるのは、夜に妖怪の強さが増すからだ。だからこそ、夜の襲撃が最も危険であり、夜から朝を迎える時間が最も混沌となる。


この奥の手を使ったら、自らが妖怪としての呪いが刻まれる。己が妖怪となり、妖怪として人間を殺すに特化した伝承を使う時が来たのだ。

幸助という人間を守る為、ロバリアという人間を殺す事を覚悟した。


創り出した空間で、薄暗く夕陽が沈むのが始まる。反転滅矢と同じく時間に猶予がある妖術だが、沈んだ瞬間、雪姫の『雪女ユキオンナ』としての本領発揮が出来る。

時間にして10分。それまで、自力でロバリアを食い止める必要がある。

空間を閉じれない雪姫の『雪夜ユキヨ』から逃げるのは簡単。しかし、閻魔大王による《契約》により、この場からの離脱及び戦闘放棄は許可されない。

殺すしかなく、雪姫を相手するしかない。

聖剣を構え、雪姫に突進する。雪姫もまた、ロバリアを正面から渡り合う。

実力さはあるが、雪となった地面と吹雪の中であれば、雪姫が圧倒的に優勢となる。

(あと10分…この場に留め、この女の生命を断つ!幸助、あの妖狐と一緒に早く…逃げて!)

他人に託すなど夢にも思ってもみなかった。憎き妖怪に守りたい人間を任せてしまうなど。

だが、この場で勝つという自信がない今、意気投合していると思う二人の生存を優先した。

彼が生きていれば、自分の死は報われるのだと。

偽善である行動が吉となる凶となるのか……。




雪姫に謝らなくちゃ‼︎俺のせいで雪姫は妖怪の力を……。

謝罪で済む話じゃない。俺は殺されても文句は言わない。

走って今からでも謝って、もう二度と外に出ないと誓わねえと‼︎

雪女ユキオンナ』を変えてしまった事は、妖怪の歴史を崩壊させる最悪だ。

外へ出た。すると、俺はとんでもない光景を目の当たりにする。

外は異様なほどに寒く、氷河期に迷い込んだと思うほどに冷たい吹雪が体を急激に冷やす。

間違いなく、雪姫が使用している妖術だった。この感じ、長く生活すれば嫌でもわかる。

敵への激しい憎悪だ。俺を狙う妖怪を殺す殺意の気配だ!

マズい!止めなきゃ‼︎

「雪姫ぁっ‼︎待ってくれ‼︎」

俺は叫んだ。すると、俺の目の前に見知らぬ女が急接近する。聖剣で俺を両断しようと。

「幸助逃げて‼︎」

迷う事なく俺の名を呼ぶ雪姫。一瞬で理解した。俺のせいだと。

俺がでしゃばったばかりに、俺が死ぬんだと。

「悪い……逃げてくれ」

俺の人生、本当にくだらなかった。

茂に霧隠れされてから、俺の人生に光なんてなかった。他人のせいにし、俺は自分を肯定してきた。

だけど、俺が幻覚を見ていたのだと思うと、他の奴らの言い訳が正当に思えてならなかった。俺自身が社会不適合者で間違ってなかったのだと。

いやしない架空の茂美が原因だと押し付け、俺は正当だと皆んなに知って貰う異常者なんだ。他の奴らから見たらな。誰にも相手されず、親にも見放され、見知らぬ相手にも相手されなくなったこの時代を恨んだ。

人を助けているのに誰も他人に手を差し伸べない、こんなクソな時代に生きてるから認めらねえんだ。いつしか、俺は世を呪いたかった。

婆ちゃんも助けねえ奴に偽善者扱いされたり、無視されるのが虫唾に走る。

なんで俺だけなんだ。俺は妖怪が好きだから変人異常者呼ばわりされるのか⁉︎意味分かんねえよ!

きっと、俺は誰かに呪い殺されたんだろう。偽善者振る舞いをした俺を呪ったのか、茂美が俺を呪って地獄に招こうとしたのか。どちらにしろ、俺は世に必要とされなくなったから死んだんだ。

だが、この世界は俺を受け入れてくれた。

死んだ俺に命を与えてくれた無名。一生の恩があって返しきれねえ。お金も武器も貰い、俺への警告も話してくれた優しい少女妖怪。

俺を獲物として見てくれた天邪鬼。もう一度会う機会があったら、友達にでもなってくれねえかな……。

俺を助け、俺が犯した禁忌タブーを受け入れてくれた雪姫。一緒に過ごし、俺を大事に想って生活を支えてくれた第二の恩人。できれば、料理上手くなって人に振る舞えるように頑張って欲しかったな。

俺に興味を示してくれた『人形ヒトガタ』。あの後、消えちまってどうなったか分からないが、俺と戦って自分を変えたようで何よりだ。あいつがいなきゃ、俺が妖術を使ったと錯覚出来なかっただろうぜ。

狐の姉ちゃん……。俺はあんたが九尾狐だったら良かった。でも、俺に好意を向けてくれていたのは正直嬉しかった。もう、二度と妖怪には出会えないだろうけど。

大丈夫、俺は満足出来たんだ。思い残す事など………。

しかし、俺が受けたのは聖剣の痛みではなかった。赤く染まった水のような生温かいモノを全身で浴びた。

俺の目の前に、またしても知っている妖怪が立ちはだかって、俺を庇った。

「ゴハッ‼︎」

「狐の姉ちゃん⁉︎」

聖剣が直撃し、彼女の血が俺にかかった。つまり、俺の代わりに……。

倒れる狐の姉ちゃんを抱き、俺は泣きながら揺らす。

「なんでだよ⁉︎俺なんか放って出てくんなよ‼︎」

非常に常識のない言葉を吐いてしまう。それほど、俺はこの人に肩入れしていた。

肩から脚までを深く斬られ、もう助からないと理解するしかなかった。応急手当ても回復魔法のような力などない俺は、ただ冷たくなっていく彼女を抱きしめるしか出来なかった。

僅かに生きているその手は、俺の頬を感触よく触る。

「坊や……泣かないで。わっちなど、もう消滅する伝承。何も…残らないわっちを忘れて」

弱々しく、俺に微笑むその顔は、一切の死への恐怖を感じさせない。

「もう喋らないでくれ!」

苦しそうに言うものだから、俺は喋るのを止めようとした。

だが、俺のそんな気持ちを汲んでくれず、最期の力を振り絞って言葉を発する。

「初めて好きになった人を、こうして守りたかった…のよ。出来たら……雪女から剥がしてでも…結婚…して、欲しかった。男を守るのは妻として………ありがと」

言葉を振り絞った結果、俺への愛情を語って静かに息を引き取った。

こんな俺に、「好き」と言ってくれる人がいるんだ。俺を受け入れて認めてくれたのが妖怪だった。

妖怪が好きでホント良かった。

「あぁ……あんたには感謝してるぜ」

名前を持っていないから、妖怪の名は呼べない。何もなければ、招待してくれたお礼に名前を付けてあげようと思っていた。

なのに、そんな願いもこの人の気持ちも叶わなかった。


この気持ちを一言で表すなら……。


「晴らしてやる…‼︎」

そして、俺の中に“変化”が再び招かれる。

あの感覚が甦る。人形に向けた時よりもはっきりとした核心を掴めた。

早く、そして立体的な感覚をその身に刻まれる。

一度得た感覚を何度も経験すれば、ソレが何なのかを理解出来るのが人間という生物だ。死んでも尚、潜在的に俺はこの力で妖術の核心を掴んでみせた。

誰かに認められたいからこそ、他人を見下してきた。俺なら出来る、なんていう発想などでは到底無理。他人を見下す気持ちが僅かでもあれば、そこに俺が欲する力が得られない。

だが、この力を扱う上で必要だったのは、扱いたい物に対する強い興味と対等であり続ける純粋な心。

この妖術が使いたいという純粋な眼差しを向ける曝け出した純欲。

使いたい力に対し、俺自身が支配するのではなく、願うような低い姿勢で望むことが必要だったのだ。

妖術は妖怪の伝承を示す。ソレを使うには、俺の中の記憶が必要不可欠。伝承を知り、実際にこの目で見て、この刀剣に込める願望が最大の近道。今の俺が出来る妖術の取得方法としては、唯一の異常とも思われた妖怪への執念と妖術への憧れの心。

人を殺す為に使うなんて思ってはダメだ。妖怪を守るなんて考えてもダメだ。

他人を見下すなどせず、本心から対等に向き合うことこそが、俺に必要だったことだ。今更ながら、何故そうしなかったのだろうかと不思議に思える。

俺と妖術を対等に考え、その力に望む意思を注ぐ。

「狐の姉ちゃんの情を込める……」




幸助がしている事は、まさに妖術の行使だった。

雪姫にとっては、最悪な状況になり、嬉しくもあった。

「幸助、ソレは⁉︎」

刀剣に付与されたのは、雪姫が得意とする氷結妖術。更には、刀身の周りを纏う『狐火キツネビ』の炎が揺れる。混合させ、自らの技として習得してみせたのだ。

「夢じゃなかったんだ。あんたに認められたかったんだ。やっと…掴めたぜ!」


ロバリアの魂は、幸助の特異なる才能を見た。

妖術を扱える人間など、見たことがなかったのだ。鱗片に感じる妖術の気配の中に、自身が欲する力がある事を自覚する。心から慕う妖怪の力を持った人間への嫉み。排除せねばという感情が魂を大きく揺さぶる。魂が肉体を取り戻そうと、閻魔大王の支配を強引に引き千切る。

自らの力に匹敵する強者が現れたのだと。

その瞬間、閻魔大王との契約と妖術による支配が解けてしまう。彼女もまた、この妖界における“太古の妖怪(いにしえのようかい)”に魅入られた最強者。自我を取り戻すなど、自らの精神のみで成し得てしまう。

しかし、閻魔大王という大妖怪との契約の代償を逃れられるほどの力がない。その誓約に則り、彼女の生存時間は3日から1時間へと短縮されてしまう。

寿命を引き換えに契約解除を施しており、閻魔大王とて、ロバリアという人間性に恐怖を持っていた。

だが、これで支配から逃れ、寿命1時間となった今、スイ=ロバリアの完全なる意思が蘇ってしまう。

「……悪夢を見ているのか。童の前に九尾様の力を持った人間。これはまさに悪夢だ。生かしておく理などない!」

力の上限を失い、閻魔大王による誓約の罰を受けたロバリアが幸助に明確な敵意を向けた。

それが幸助の感情を昂らせ、異能を覚醒させるとは知らず。




今の俺にとって、こいつは仇だ。殺してやるのが道理だ。

道を踏み外す覚悟がなければ人を殺せないのは知っている。ただ……。

「来るか⁉︎狐の姉ちゃんの仇とってやるぜ‼︎」

刀剣に付与した妖術同士が混ざり、俺に扱えるように浸透する。

その鱗片を感じた雪姫は、かなり焦っていた。

「なんで私の雪を?」

「使いたいって思ったからだと思う。そうじゃなきゃ、使えないのが理不尽だがな」

「そう……」

いつもの返しがきたが、妙に弾んでいるような口だった。小さく喜んでいるような、そんな感じに思える返しだった。

妖術の習得方法は不明、だが、俺の心の在り方が関係した。

妖怪と対等になり、その心のままに力を振るうことこそが、俺が妖術に目覚めるきっかけとなったのだと感覚で理解した。

刀剣には、二人の波長を混ぜ合わせた。一つは雪姫の雪の伝承を、もう一つは狐の姉ちゃんの伝承を掛け合わせたような雪と炎が白く燃やす様な輝きが刀剣を纏う。

俺は先制攻撃を仕掛ける。

「『炎狐蚕雪エンコカコイススグ』‼︎」

火の雪を纏った狐が刀剣より放たれ、繭を作る様に奴を高速で巻き付いていく。

「初見…これが、人間の為せる技?壊すまで」

破壊しようと聖剣で斬ろうとするが、狐は切れた後も形を保ち続けた。更に、聖剣を持つ手に狐が噛み付き、凍傷と火傷を同時に与える。

「これは……童の腕に傷を付けれるとは。小僧っ‼︎」

「どうだ⁉︎俺の妖術を舐めるなよ!」

初めて妖術同士を合わせたにも関わらず、俺が振り切った妖術の精度は中々の見栄えがあった。ダメージも入ったのか、かなりご機嫌斜めの態度を晒す。

「この肉体に傷を入れて良いのはお前ではない。余すことなく童を好きに許されて良いのは、寵愛して下さるただ一人だ!」

「へっ!怒った顔は美顔なのは褒めてやるぜ?さぁどうした?この俺が怖いかよ」

この際だ、死ぬ間際にでも煽ってやる。勝てないと判断していないが、こいつは単なる人間じゃないのだけは分かる。油断すれば死ぬが、煽れるだけの気迫は持ってる。

奴は聖剣を消滅させたかと思えば、何やら技を行使し始めた。

暗黒に染まる球体が九つ。それも、異常な出力や引力を感じる。奴を守る様に散りばめられ、それらが周りにある空気や土石を吸い込んでいく。

「ブラックホールだ‼︎雪姫!」

俺は雪姫に警戒を促すと同時に確認を取る。

「待って幸助。後1分ちょうだい」

冷静に答えが返ってきて、俺は更に畳み掛けようと奴へ走る。

ブラックホールらしき引力を利用して、高速に直線的に走る速度は異様なまでに速くなった。

奴は俺の行動を嘲笑う。

「童の引力を前に単身とはな?舐められたものだな小僧」

空間から取り出した双刀鎌を俺の後方へ投げた。

更に追加で槍を持ち、鋭い刀槍で直線に走る俺へ振る構えをする。引力を利用し、鎌と奴で挟み撃ちを狙ってきやがった。

「死ね!」

実に安直な攻撃方法だ。俺の事を完全に下に見られてやがる。

参ったよな……こんな方法で背後を取れちまうなんて。

「舐めているのはあんたの方だ!」

「っっ⁉︎童の背後を⁉︎」

空かさず、俺は刀剣で心臓を貫いた。

俺が安易にブラックホールの引力で走るわけがない。引力の速度を利用し、雪による幻影を出した。幻影を生み出した後、俺は気付かれない様に背後へ回る。

戦っていたのだが、奴が感知能力系は持ち合わせてはいないと直ぐに分かった。目だけで相手を識別し、強さを見抜く目は持っているようだが、俺自体は舐められていたのが幸いし、人である急所を完全に破壊した。

貫いた際、刀剣に宿らせた妖術により、心臓を完全に焼き尽くし、再生されないように粒状の氷にまで変化させたんだ。生きているわけが……。




人は心臓の機能を失った直後、数分足らずで死に至る。

だが、妖界で肉体が大きく変貌したロバリアは、人とは違う生物として進化していた。

「心臓を貫かれたとて、童が死ぬと思うか?」

血を吐くことすらなく、破壊された心臓を気にする素振りもない。

幸助の攻撃は確かに効いていた。しかし、ダメージの範疇としてはあまりに小さかった。

「んなっ⁉︎……あんた人間か⁉︎」

たじろぐ彼に、ロバリアは見下した笑みを見せる。

「人間って愚かね。だから嫌いな種族をやめて正解だったと、お前を見て思う」

心臓は再生させない。そもそも、ロバリア本人にとって心臓は不要だった。

肉体に依存する人間の弱さを克服し、魂に肉体を依存させ、己の意思で肉体を模っている。

それに、元々憑依の形で魂から肉体を再構成しているため、幸助の攻撃を簡単に躱すことが容易である。

「心臓を貫いて死なねえって……」

「完全な存在として寵愛を受けるなら、人間の域は浅はかな場所ね。寵愛せしあのお方に魅入られる為なら、人間などとうの昔に捨てたわ」

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