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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
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十六話 罪深鬼

早速投稿させて貰います!

幸助のしでかした事をちゃんとやっておこうと思いました。雪姫からは言われなくとも、やはりここの部分を誰かに指摘して貰わなければという事で。


良いところですが、次は『妖界放浪記』を進めていきます。転スラの方はまだ進んでおらず、時間を有してしまいますので、ご了承の程よろしくお願いします。

待ち遠しい日を遂に迎えた。

「よしっ!雪姫行こうぜ早く!」

気分が高揚し、俺は雪姫を引っ張るように亡夜の町を早歩きして目的地に向かう。

「待って。そんなに速く歩かなくてもあの妖狐は逃げない」

雪姫が珍しく冗談を言う。俺と長く住んでいる影響か、俺の話に付き合うようになってくれた。まあ、時折怖いのは相変わらずだが。

「そうは言ってもよ?今日は狐の姉ちゃんに招かれてるんだ!こんなこと、もう二度と味わえねえかも知れねえだろ」

初めてのデートかも知れないお誘い。妖怪からなら尚更断るなど出来ない。漸く、俺にも春が訪れたってわけだ。

人生最初で最後の妖怪との交流。これを最高の時間にして、生涯を後悔なく余生を過ごしたい。

そう気軽に考えていなきゃやっていけない理由がある……。

「そうね……ひと月の約束、気にしてる?」

「まぁ、な。あんたと約束したんだから守るべきなんだろ。そしたら後悔しても意味ねえし」

悔しいが、あれから必死に特訓に付き合ってくれたのにも関わらず、俺は妖術を体得する事が叶わなかった。

残念であり、俺には才能がないのだと思い知らされた。

雪姫との約束である妖術体得の期限をひと月を切って、俺はもう諦めていた。特訓を重ねても、俺が体得するなどあり得ない話だったんだ。そう思い、昨日ですべてを放棄する事にした。そうすれば、これ以上頑張る必要も無くなるし、雪姫に守られながら生きていくのが最適だと。

「だから…後悔はしてねえよ。あんたの約束を破れば、俺はただの嘘吐き人間になっちまう。約束は守るから、それで良いだろ?」

後悔がないと言えば困らせてしまう。しかし、才能のない人間がこの世界で生き抜くことなど出来ない。だから俺は後悔する事を押し殺し、今後の人生を雪姫に捧げる事にした。

俺以上に強い雪姫なら、俺を簡単に守れるんだろう。実際、雪姫が相手した織姫と彦星を討伐してみせたらしいからな。

…てか、『織姫オリヒメ』と『彦星ヒコボシ』って妖怪だったのかよ⁉︎この世界、マジで意味分かんねえ…。

「そう…幸助がそう言うなら。ただ、これだけは勘違いしないで欲しい。一生家から出さないわけではない。最低限、必要な外出は私と同行なら許可する」

「そりゃあ助かるよ。同じ部屋に篭ってばかりだったら自殺しかねない」

力なく笑う。どうしても表情では隠し切れないものだ。

「悪いようにはしない。幸助は私の大事な人だから」

あくまで待遇を良くしてくれる条件でだ。それでも、俺の自由は雪姫に握られているのは事実変わりない。

最期の自由な外出として、俺の贅沢な時間を有意義に使う。




雪姫は罪悪感があった。だが、それ以上に内心は喜びが勝っていた。幸助に嘘を吐いた事よりも、幸助といられる時間が保障される方に気を取られている。

「ねえ幸助。今日過ごしたら……もう、特訓しないの?」

気掛かりは幸助自身の再燃焼する心。それが妖狐と出会って再発するのではという不安がある。もう頑張らせたくない雪姫にとって、幸助の最後の我儘を聞いていたのかと。

「もう良いんだ。頑張っても俺にはどうする事も。雪姫とずっと居られるなら良いかなって…」

本当は喜んで貰いたい。しかし、自分が勝手に約束させたのもあり、今更取り消すなど出来ない。というか、取り消しにするなどするつもりはない。

「安心して。幸助が不満にならないような事をしてあげるから。ちゃんと人生を後悔ないようにしてあげる……だから、自暴自棄にだけにはならないで」

そう言い聞かせるように、そっと冷たい手で握りしめてあげた。

力なくした彼を今後支える上で、自分の出来ることを口にして安心させようとする。

本心であり、幸助の為と思っての気持ちである。それを聞いた幸助は、少しばかり引き攣っていた顔を綻ばせる。

「あぁ…ならねえよ」

「そう……それならいい」

顔には出さない。雪姫の顔はいつもと変わらない。しかし、心の底では彼との時間が約束される事に欣喜している。

(人との交流が欲しい私にとって幸助は大事な人。だから誰にも渡さないように目を見張らなくちゃいけない。妖怪に食い殺されない為にも…)

だが、幸助をここまで縛るには、経験してきた過去の悲劇による歪曲された価値観。人間は弱いと思い、弱き人間を食らう妖怪に対しては慈悲などかける道理は微塵もない。今回、妖狐に招待されたのを断るべきだと考えたほどだ。

「幸助。妖狐とは一体何をするの?」

「興味あんのか?」

「……一応」

正直聞きたくはなかったが、気分を紛らわす為に幸助と話すことで落ち着こうとする。

「今日最期になるだろうから、狐の姉ちゃんに妖術を見せて貰おうかなって!九尾の末裔らしいしな、もう会えないなら折角ということで」

本当に純粋だな、と思う雪姫。

妖怪に好意を抱くなど愚か者がすると思っていたが、幸助がその気持ちに上下が無いことからいつしか幸せ者なのだと見ていた。

親目線に近く、幸助に自由を奪ってしまう罪悪感が再び襲う。

「…好きなのね。そんなに九尾が」

「あぁ!出来たら結婚なんか申し込んでみたいぐらいだ‼︎」

「そう……その九尾にはどういう好きがあるの?」

つい、幸助の本音が知りたいと思ってしまい、探る感じで聞いてしまう。

自分よりも好きな妖怪が、この世界における“太古の妖怪(いにしえのようかい)”だという事実。明らかに無謀にも程があると吐きたいが、その無謀さが逆に興味を引き立てる。

すると、幸助は嬉しそうに『九尾狐キュウビキツネ』が何故好きなのかを語り始める。それはまあ、自分のことのように語るのであった。

「あの妖怪って1000年、いや紀元前より存在してる神の大孤なんだよ!昔の人が壁画にその存在を記したんだぜ?信じられるか⁉︎御伽話に出てくるような妖怪が実在していると証明しているようなもんだぜ⁉︎壁画に描いたってことは、その人は何かしらの形でその姿を見たんだ!妄想で描けるほど、あの姿は難しいもんはない!九本の尾を持った神聖な霊獣、それが『九尾狐キュウビキツネ』なんだ。古い年月を生きていて博識で叡智で、何より相手を見抜くあの心眼ならぬ神眼が最高な力なんだ!過去未来現在のすべてをその目で見据え、人が辿り着けない天地すらも眺めた。俺達じゃあ理解の追いつかねえどっかに踏み込んでは、俺達を導いているようだと考えてる。頭が良い?そりゃあ1番妖怪として有名だからな⁉︎常に新しい情報を得ては適応し、現代までその変化に浸透し生きてる!名の無い妖狐として生まれ、『妲己ダッキ』・『褒姒ホウジ』・『華陽夫人カヨウフジン』・『クミホ』・『玉藻前タマモノマエ』と名を重ねて得たただ一人の妖怪。その時代、背景、政権が彼女の凄まじい傾国の美女としての美貌で人も心も支配し操り、多くの人間や社会に影響を及ぼした!架空伝承として語り継ぐにしては矛盾がある!俺はそう思っている!だって、妖怪がいないと言ったらなんで妖怪を作ると思うんだ?作らないと失礼?違うな、人はその事実を隠して架空のように伝承として妖怪達を贔屓にした。崇めれば忌まわしきとして厄祓い、理不尽でホントふざけてやがる‼︎それでも、九尾狐は多くの人々に様々な形で愛され、俺も虜の一人になった……。実在するって言うんだったら早く知りたかったぜ、マジで会いたい人がこの世界にいるんだったら、俺はその人に出会って人生すべてを捧げて尽くしたい。たとえ、俺がその人に悪いように操られてもな」

言いたい言葉をくっつけたようなありのままを、すべてを吐いたように満足げに笑う。

悔いはないとばかりに、自分の口から自慢という自慢が吐き出された。


それは、幸助自身が心の底から欲する妖怪への熱烈な感情。雪姫は彼の気持ちをすべてを受け止めることは出来なかった。


「妖狐を神と崇めて、それに恋するだなんて……惨めな願望ね」

長く語ったにしてはあまりに一言で済ませられそうな返答が返ってくる。幸助は雪姫のそんな態度を悪く思わなかった。

「良いんだそれで。九尾狐は俺の憧れそのものなんだから。俺がそいつに届くぐらいの強ささえあれば、きっと認めてくれるんだろう……」

承認欲求に飢える。幸助自身の未練が浮き彫りとなり、以前話してくれた過去と照らし合わせ、漸く理解に漕ぎ付けられた。

「そんなに強さが欲しいの?幸助…」

強さへの執着があるのかを問う。

「いいや、俺は強い人になりたいんじゃねえんだ。別に最強になろうだなんて思わない。もう…ならないと思うからな」

幸助にとっては無駄な質問。答えなど最初から決まりきっている。

雪姫はそれでは面白くないと、更に聞く。

「じゃあ、あなたはどうして認められたいの?」

一度聞いた答えしか返ってこないとばかりの質問。雪姫は彼の事を何も理解していないのと同じ。

呆れて溜息を吐きそうになる幸助は、雪姫にしつこいと言おうとする。

だが、幸助はここで答えを変えた。彼女の真剣な質問に同じ回答ではつまらないと。

「……守りたい奴の為にだ。ありふれているが、九尾狐の危機を助けてあげたい。もし、世界が滅びそうになっても、俺が力及ばずの相手だろうが、悪用されようがな」

この時、幸助へ要らぬ感情を持ってしまう。それが、雪姫のこれまでの信条を揺るがすものとなるとは………。

これまでにない、人間への感情が暗い影として忍び寄る。

感情を露わにする事がないようなその顔に、信じられないような嫉妬が醸し出される。

幸助が発した言葉には、全くもって共感出来ない。

「信じられない。あなたは妖怪の何もかも解っていない…‼︎」

心から拒絶し、尋常ではない表情で言う。

冷気をぶち撒け、幸助を凍らせるつもりで吹雪を放つ。

「っっ‼︎」

「妖怪が好きなのは認める。だけど、あなたがここまで考えなしとは思わなかったね。妖怪を護りたい?ふざけるのも大概にしなさい!何度も襲われておいてその口が開けるのは、もはや人間の感性じゃない。その口…二度と喋れないようにしてあげる」

冗談ではない事を幸助は気付く。だが、自分が口にしたことが間違っていないと思い込んでおり、何故怒るのかが理解ができないでいた。

「待ってくれ雪姫!俺は何か間違った事を言ったか⁉︎」

必死に乞う彼の言葉が耳に入らないのか、雪姫の行動が荒ぶる。刀を引き抜き、本気の感情を剥き出しにして迫る。幸助は後ろへ退がるも、あまりの迫力に上手く退がれない。

「気付かないあなたが悪い。ここで私に誓いなさい。一生私から離れてはいけない、出来るならば生かしてあげる。出来ないならば——‼︎」

最期の情け。雪姫が人間へ嫉妬、怒り、殺意を向けたのは異例だ。それ程まで、今の彼女の心理は非常に不安定になっていた。

このままでは殺しかねない。そう思った妖狐は、近くまで来ていた幸助を助ける為に止めに入った。

「待たないさえ雪女。その坊やはわっちの客人、手出しは禁やで」

得意の『狐火キツネビ』をチラつかせ、格上である雪姫に臆する事なく幸助を庇う。


妖狐の介入により、雪姫の幸助への感情は収まる……。

「……退()け。私の幸助を蠱惑するな。それ以上、幻の姿を見せるな!」

そう思われたが、口から発せられる声帯が異質に聴こえた。

雪姫が只事でないのは妖狐も認める。

「待たれよう。わっちの棲家で如何なる怒気を発する?それ以上荒ぶるのであるなら、この子の生死は保証出来やせん。静まりたまえ!」

冷静に諭し、雪姫の激昂を鎮火させようと宥める。言葉では意図を伝えられないと判断したのか、更に幸助の安全を保証するように庇護する姿勢を見せる。

「狐の姉ちゃん⁉︎」

「坊や、今は余計な振る舞いは命取りになる。雪女は殺気立ってるさえ。静かにせよ」

「っ……」

両手で自らを盾にし、幸助には指一本と触れさせない。恩義のある人間への感謝を示し、雪姫の怒りを鎮めたいと考える。

しかし、今の目の前にいる雪姫は正真正銘の妖怪。自身と比べるまでもなく妖力や術の練度に差がある。挑まれればものの数秒で息絶える。生きた心地がしないのは、妖狐にとっても同じ。

「何故庇う姿勢を…?」

混乱する。庇う姿勢をする妖怪を初めて見て、妖狐の態度が異様だと認識する。

「庇うさえ。わっちはこの子に恩義がある。先月、妖怪の身であるわっちを助けてくれたさかい。妖怪であっても、この子に恩を返す義理はある」

妖狐に目論みはない。寧ろ、今日という日を心待ちにしていたまである。なのに、待っている事に落ち着けなかった暇潰しに外に出てみれば、なんと仲違いする二人を目撃してしまった。

自分は死んでもいいなんて考えたことがなかった妖狐は、初めて人間に感化され、純妖でありながら人間の味方に徹する。

「口では皆んなそう言う……そして、結局は食われた。惨たらしく、汚く…肉を引きちぎってね。妖狐、命が欲しいなら退きなさい。幸助をこちらに渡して。さぁ…」

警戒を解かず、徐々に冷たい口調で冷気を強める雪姫。

このまま歪み合いは死を意味する。妖狐は状況を収めなければならない。

「駄目ぇ‼︎わっちはこの子に殺生を加えないと誓う!今後人間を食わぬと『契り』を結んでも良いさえ!」

恐怖心を殺し、雪姫の言い分を否定する。自らを苦しめる縛りを科してまで。

そんな縛りを科してまで命を賭ける妖怪の心理を知ろうとはしないが、覚悟だけは本物だと理解する。

雪姫の怒りは鎮まり、妖力の漏れが霧のように晴れる。刀を下げ、殺気も一切向ける事をやめる。

「……命を対価にするならば、今は許してあげる。幸助に助けられたからでまかせでも言ったのでは?」

「違うさえ。でまかせで言っても無駄だと解ってる。雪女、わっちの客人だから手は出さぬ。これも改めて伝えたいさかい」

「私を客人?随分威勢の良い物言いな事ね。幸助、さっきはごめんなさい。怖かったでしょ?」

幸助を見て、軽いお辞儀で謝罪する。勿論、幸助は怒る。

「マジで死ぬかと思ったぞ⁉︎俺を人間じゃないとか口を裂こうと襲おうとするしよっ‼︎いや…でも『雪女ユキオンナ』だとそうだよな。人を殺すって言うのもあるし……俺こそ禁忌破ったみたいか…?」

伝承を知る幸助は、最初は怒るものの、何故か雪姫の行動を仕方がないと割り切った。許してしまう形をとってしまうが、妖怪に対して本気で怒ったのは初めてだった。

それが雪姫にとって、非常に嬉しいものだった。

「なんで怒ってくれるの?普通、怖がるところでしょ?」

自分に叱る人間はいなかった。ここまで殺意を向けても尚、怒りを向けてくれた人間は現れなかった。全員が恐怖を喚き散らし、その後死んでしまったのだから当然の話。

「怒るだろ。俺に語らせておいて勝手に殺意マシマシにガン見するんだからな⁉︎殺したらお化けになって睡眠を邪魔するぞ!」

冗談を混ぜるも、そこにはもう怒りが微塵もなかった。

先程感じた幸助からの怒り。それが雪姫の冷たい心に影響を与える。

胸に強い刺激ではなく、何か溶かされるような優しいときめき。胸に手を当て、自身の気持ちに向き合う。

「不思議ね……初めて本気であなたに怒られた、なのに凄く……」

何故か微笑む。それも、安堵したような。

幸助は顔を引き攣って体を震わす。

「えぇ…あんたそっち系の素質があんのか?」

「知らないわね。そっち系とは何?」

「良いや…しらなさそうだし」

「やっと大人しくなったさかい?なら、わっちが命を賭して身を張った意味があったさえ」

妖狐も安堵し、『狐火キツネビ』を解除する。

気が抜けたのか、解除した瞬間に倒れ込んでしまう。それを幸助が受け止める。

「おっと⁉︎大丈夫か?」

「え、えぇ…。力が抜けてしまはったんや。背負ってくれやないか?」

「あぁ…庇ってくれてありがとな」

動けなくなってしまった妖狐を幸助が責任を持って背負う。




一時、俺は命の危険に脅かされたが狐の姉ちゃんによって事なきを得た。今は道案内して貰いながら、狐の姉ちゃんの住む屋敷に向かっている。

俺が背負っている間、妙な視線を向けられたが何も言ってこない。

「そうそう…そこを曲がって欲しい。もうちょっと……」

「あのぉ、もう少し落ち着いたらいいんじゃないですか?」

「いやん!坊やはせっかちさえ。たんと着くように教えてやってるさかい」

狐の姉ちゃんが落ち着きのない様子で指を差し、俺達を誘導する。

「適当じゃないよな?」

「適当だったら帰れんさかい。わっちの場所は秘密裏にある所て」

初めて人を招き入れるようで、狐の姉ちゃんが落ち着きのないのは俺を招くのがどうやら楽しみらしい。

俺もその反応を見て嬉しくて、指示に誘われるがままに歩く。

ある所で止まって欲しいと言い、狐の姉ちゃんは俺から降りる。もう動けるのか、颯爽とした佇まいで朗らかに笑む。

「わっちの屋敷さえ。長らく寛いで頂きたい!」

妙なテンションはあるが、とても自慢したそうな屋敷が目の前に広がる。

和風の建物であるのは分かっていたが、とてもしっかりとした造りの古風も感じられ、時代を感じる。

「へぇ〜⁉︎こりゃあ凄えや!さっきまで見えなかったのに」

「人払いの結界を張ってるやさかい。この辺りの妖怪にすら知られぬよう、厳重に妖術で隠してるやで?解いたのは初めてだから、暫くは見えてしまうのがいかんのやが…」

「ええっ⁉︎それってマズいだろ⁉︎」

思わず食い付いてしまった。狐の姉ちゃんが言いたげな表情でとんでもない事を言うものだから、それが本当に危険であるのかに反応してしまう。

結界を解いて再度発動出来ないのは、相当マズい。

「わっち以外を招く上では仕方がないさえ。他人を土足で踏み入れさせてあげるには、わっち自身の結界を完全に解く必要が出るやさかい。誰も迎え入れた事なくて…すまんの」

俺を招くのが初めてで、つい解除してしまった。という事で捉えて良いだろう。

マジかよ……。

「い、良いよ別に。今は誰も来なさそうだしな。襲ってくる奴らは雪姫が祓ってくれるらしいし」

「……行ってくる」

漸く口を開いた雪姫は、屋敷の前で屋敷を背にして警備態勢に入る。

ちなみに俺自身が招待されているので、雪姫は席を外すとのことだ。敵の襲撃があれば、すべて雪姫が対応する事で話し合っている。

俺だけだと心配した雪姫だが、「最期になるから心ゆくまでいなさい」と了承を得た。

俺の我儘に従い、俺は屋敷へ、雪姫は警備に行く。

屋敷の中は、それほど大層と言うわけでもなく、質素な造りでかなり広々としている印象を抱く。おばあちゃんの家と言う感じとは違い、何やら江戸時代に栄えた花魁の街の建物を意識しているらしい。


案内して貰い、その後はやや広めの広間で座布団に座って食事をいただく。料理は狐の姉ちゃん自らの手料理でもてなしてくれる。

「美味えぇっ…‼︎生きてて良かったぁ!」

俺はそれを躊躇なく口にして、感動を口にする。

狐の姉ちゃんは口元を押さえて笑う。

「凄い感想さえ。そんなにわっちの味付けが気に入ったさかい?」

「美味しいのはそうなんだけど……久しぶりに温けえご飯にあり付けられて……うぅっ、食ってたら涙が出てきやがったぜ」

「雪女に何を食わされてたのか、お尋ねしてもよろしくて?」

「あ、あぁ良いぜ」

俺はこれまでの雪姫の食事について語ってあげた。冷たくて普通じゃあ食えたものではないと。更には、料理というものではないと言うことも大袈裟なほどに。マジで本当に死にかけるものばっかりだったがな。そして、最近は少しだけ改善されてきたと言うことも……。

「うわぁ…よく殺されなかったやね。正直、そこまで酷とは思わなかったさかい」

思いっきりドン引きし、持っていた箸を落とす始末。大惨事を見るかのような表情で震えていた。

「無理もないよな。俺も耐えれたのが奇跡だ」

「耐えれてる方も方さえ。それを奇跡と呼んで間違ってないのもまた…」

俺を讃え、雪姫に対して畏怖する。

「でもさえ、坊やは妖怪を選ばないのかさえ?そんな物騒な事をする雪女から離れ、わっちに庇護されないかさえ?」

突然の誘い。妖怪は気紛れとは言ったが、これは流石に……。

「なんでそんな事を聞くんだ?どうせ、俺は雪姫から離れるつもりはねえよ。加護は一人からしか受けられないんだよ」

加護は一人のみしか授かれない。それは分かっているので断ろうとしたのだが……。

「ンフフフ!坊やがなんて言い聞かされているかが分かるさえ。それは惜しいさえ」

狐の姉ちゃんが可笑げに笑う。

「何がおかしいんだよ⁉︎」

何に笑われたのかが分からねえが少し不満がある。

「いやん。坊やは雪女から何も聞かされてないんだって言ったまでさえ。妖怪が人間への好意で与えられる加護は何もひとつではないさかい。雪女からは、加護の庇護は詳しく聞かされてないのさえ?」

何か訳ありな様子で妖しく微笑む。そこに見えない加護の秘密があるのかと興味が湧く。

俺は詳しくは聞いたことがない。加護による庇護で妖力と妖術への耐性が付くのと、発信機の様な機能、身体能力の向上ぐらいだ。

特にこれと言った俺への説明はなく、雪姫は話そうとはしなかった。何か隠したい事情でもあるのだろうか?

「そんな興味があるやさかい。わっちが直々に加護について話してあげてもよくて。その前に………普通の話し方の方で宜しいですか?そっちの方が坊やも理解し易そうなので」

高貴なお嬢様から普通の娘さんになった様に雰囲気を変え、なんだか話し易くなった気がする。まぁ、多少の違和感は残ってはいるが。

「もしかしてだけど、演技してたのか?」

「いやん!そりゃあ伝承に刻まれた口癖ですからね。坊やだから伝えるけど、わっちの言葉遣いも未名の伝承から来てるんだよ。こうやって話すことが定められた妖怪の宿命、的な?」

話を続け、狐の姉ちゃんから加護について語られる。

「坊やは気付いてると思うけど、雪女以外に一人加護を与えられた過去がある事を?つまり、加護は部外者の妖怪からの庇護も受けられるのを意味するのよ。重ねて加護を受ける事で得られるのは、なにも身体能力上昇や妖力妖術の対魔効果だけじゃない。不老を獲得し、妖怪の知名度に沿った寿命を得られるのよ」

加護がどんなものなのか、狐の姉ちゃんは虚偽ではなく真実として話してくれる。信用は出来ると安心する。

「雪女やったら…そうだね、大体500年ぐらいか。でもあくまで“厄災”の基準としてはね。坊や、提案があるんだけど……」

「なんだよ」

「わっちの加護を受けるかい?」

微笑む顔に嘘はない。俺にゆっくり近付き、頬を紅潮させて上目遣いを見せる。

「妖怪は食欲で人間を見てる。それでも、人間のように稀にそれ以外の感情を人へ向ける時がある。その感情は……」

こんなに真剣に訴えている。だが、そんな空気に耐え切れず痺れを切らしてしまう。

「それにしても、随分話し方が変わって人も変わりましたね…」

あまりの変化に敬語を交えてしまった。

遮ったが、俺の手を握り笑みを絶やさない。

「妖怪って人の皮を被った生物なのよ?人間を簡単に騙すにはこれが手っ取り早くてね。わっちも数十人は食ってるから、騙す時には自然体でいられる様にねえ」

妖艶な容姿とは裏腹の腹黒い本性を見せる。だが、不思議と恐怖や危機とする焦燥感はなかった。

俺はとても落ち着いている様子を保ち、狐の姉ちゃんのことを知ろうとしているのだ。

「皮を被って人を食う、ねぇ…。なぁ狐の姉ちゃん、俺はあんたから見て美味そうに見えるか?」

「恐ろしい質問をするね坊や。勿論、老若男女の中でも若い男はわっちの好み。今でも坊やに対する食欲は無いとは言い切れない」

舌舐めずりをし、凄く物欲しそうな目でうっとりする。俺を捕食対象として見ているのは確かだ。

だが、俺は聞きたい。

「なんで俺を食う事をやめたんだ?あの時、いや…俺と出会った時に食えば今にならなかっただろ?」

俺と出会った時、何故食おうとしなかったのかを。

この世界に来た時に、この人とは出会った。そして、俺を食えるなら食えたはずだ。雪姫に介入される事なく、俺を食い殺せたはずなんだ。

その機会を逃したとは思えない。俺に対する期待でもあったのだろうか?

「そうだね、そうすれば良かったね。興味本意で逃しただけだったけど、今は違うかな?この感情を人間的感情に当て嵌めるなら……一目惚れ?」

俺への好意を唐突に打ち明けた。

俺は思わず赤面してしまう。妖怪からの感情を始めて好意的なものとなり、表情と心がかなり焦ってしまった。

「フフッ、可愛いね坊や。照れてるのかい?」

「いや!あ、当たり前だろ⁉︎」

「坊やに助けられた時、心臓がドクンと脈を打ったんだよ。その時に思った、坊やを見逃したのは興味ないんじゃなく…一目惚れだった。食欲を勝る感情は初めてなんだよ。坊やを人間じゃなくて異性として。他の人間には一切感じなかった感情が理解出来なかったけど、今ならはっきり言える」

狐の姉ちゃんも俺と同じく頬を赤らめ、見た目相応に恥じらいを見せる。多分だが、この人も初めてに戸惑っているに違いない。人間に恋する妖怪なんているのかと。

でも、それを信じたこの人は、自分の意思が強いんだろう。ちゃんと自覚し、俺に好意を隠すことをしなかった。

九尾狐キュウビキツネ』の末裔とは聞いたが、これは明らかに騙しているようには思えなかった。

「坊やにわっちの加護を授けたいのは、つまり、そう言うことなんだよ?加護は人間へ好意がなければ与えられない。だから、今なら坊やに秘術が使える」

「秘術?なんか響きいいな⁉︎」

「そうも言ってられないよ。妖怪が人間に恋するだなんて…普通は閻魔様に裁かれちゃう。恋して思わず名前を貰っちゃったら、それこそ地獄に堕ちかねないからね」

聞いてはいけない真実を知った時、俺はどんな反応をすればいいのか?

不意にこの世界の事実を打ち明けられた時、俺は罪悪感に苦悩すれば良いのだろうか?それとも、無法者のように自慢げにすれば良いのだろうか……。

「えっ……ちょっと待ってくれ。名前貰っちゃマズいのか⁉︎」

俺が先程とは違う態度を見て、狐の姉ちゃんはやはりと言わんばかりの表情をする。

「そうだったんだ。坊や、『名付け』が禁忌だと知らなかったの?」

「あ、あぁ…知らなかった」

「………坊や、悪いことは言わない。もう雪女は妖術が使えない、ただの人間に成り下がってしまったんだよ。多分、今使ってるのは妖力の残穢が残っている余力だからだと思う。今、外にいるんだよね?」

俺と雪姫の心配をする。その焦りから、俺がとんでもない事をしでかしたのは確かなようだ。

妖怪の力を奪った、そう捉えれば正しい。

雪女ユキオンナ』の名前を奪い、『雪姫あな』に変えてしまった。名前が呼び辛いと言う理由というだけで……。

「悪い…あいつに謝りに行かねえと!」

それだけで済めばの話だがな。多分、凍らされてしまうんだろうが。それぐらい、俺のした事はとんでもない事だった。

席を外し、俺は狐の姉ちゃんの腕を振り解き、外へ脱する。

しかし、此処が狐の姉ちゃんの棲家。逃げれる選択などなかった。

「わっちの加護を受けるまで逃しません!この屋敷から逃げられると——っ‼︎なに…この膨大な生気は⁉︎」

何かしようとするが、突然の静止。俺は空かさず外へ逃げる事を急ぐ。

しかし、俺は外へ行くべきではなかった。そう思わせる惨事を見せられるまでは……。

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