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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
13/46

十二話 集え厄災

これで三話投稿完了です。大分疲れてましたので、投稿が遅れました。

雪姫は肉体と精神を休めることなどしない。

幸助と居る明朝と昼間、常に彼の監視と心配を怠らず、冷たくとも丁寧に接する。

「食べなさい幸助」

「うっ…お粥の方がまだ食いてえよ」

「栄養は考えているから大丈夫」

彼女からすれば、幸助が自身の食に抵抗するような様子を見せる。成人男性には必要な栄養素を揃え、自らが提供する料理に嫌々な顔がされるのは気分が悪い。

まるで、幸助が何に対し嫌がっているのかを理解出来ない。

「あんま言いたくなかったけどさ…温かいご飯出せねえのか?」

雪姫は「何言ってるの?」と首を傾げる。

「作って貰ってるから文句は言いたくねえけどさ……ご飯の感触だって大事なんだ。こんなシャリシャリのヒエヒエご飯食って美味しいって言えねえんだわ」

何故、彼が美味しさを求めるのかが分からない。

雪姫にとって、食事は栄養を重視する。そこに美味しさを求めようという探求はなく、彼女の食へのこだわりは存在しない。

たとえ、炊いた米が冷えていようと、魚が凍り付けになっていようが、野菜がアイスのように硬くなろうが関係ない。口に入れば栄養は変わらないと、そう信じている。

信じているよりかは、執着がないと言っても差し控えないだろう。

「美味しさを求めるなんて…今の人の子は常識が可笑しいのね」

雪姫は非常識にそんな事を言えてしまう。

「いやそうだろ⁉︎美味しくなかったら食えねえよ‼︎」

「食は美味しいものを作る必要はない。生きる上で必要な栄養が摂れればそれで問題ない。そもそも、食は人間にとって大事なものと考えているのならば、栄養以外に摂取する要素なんて必要ない」

「なぁっ⁉︎……本気で言ってんのかよ」

幸助が表情を険しくして怒る理由も理解出来ない。理解しようとせず、ただ思った事を口にする。

「幸助、あなたは生きる事に無駄を求めている。無駄を追い求めようとするから我儘になるのよ。どうして、私の言う通りに妖術が得られないの?それだから半期を切ってるじゃない」

雪姫は幸助に対し、少なからずの好感はある。しかし、所詮は人間としての偏見に過ぎず、幸助個人を見ているのではない。

こう発言するにも、人間に好感を持って接していると自負し、相手の尊厳を傷付けるなどという発想はない。

真に理解しようとしない、理解をしてあげようというしたたかさを持っていない事で発生する問題である。

「それは……」

とは言っても、妖術を会得出来ない幸助は何も言い返せない。

幸助の中では、妖術が習得出来ないのは自分の所為なのだと信じているからである。力がなく、才能がないと嘆く彼は、まだ自身が自分を理解出来ている方なのだろう。

雪姫は相手に何か求めようと情が湧かない。幸助への行動全ては、ただ自身の中にある伝承(マニュアル)に従っての行動原理でしかない。他人の心を動かせる弁論もなければ、相手へ思いやる情も持ち合わせていない。


人間であれば簡単に心が傾くことでも、妖怪相手となればその難しさは段を登る。

本能が殺生であって、そこに感情を持ち込む妖怪はいない。人間を殺めたいという歪んだ本能が存在し、雪姫にはそれが存在しないだけ。

正確に言えば、雪姫は混妖で居続けていたから今の状態に落ち着いている。今はどうなったか不明だが、雪姫に変化は起きている。

人間を食いたいなどと考えれば、その状態も崩壊する。




そして、今日の夜もまた外へ出る。

「一体…何をしたっていうの?以前にも増して、妖怪達が活発になり始めてる」

違和感を何処となく感じていた。

ここ最近、妖怪の行動が大胆になってきている。幸助は気付いていないが、雪姫はこの世界の住人。故に、変化には少なからず敏感である。

人間を殺しに来る事はよくあった。しかし、ここまでの執拗さはなかった。

「10…それどころじゃない。数が多過ぎる。名を持たない妖怪だけじゃない。何故…日本妖怪までもこちらに来る?」

過去に類を見ない異常現象。雪姫が心の中で焦燥する。


雪姫の焦燥は間違っていなかった。

集団行動のない妖怪が、軍となって亡夜へ押し寄せていた。自分の命が欲しくないとばかりに足を止めず、疲労をものとしない彼らは乱走する。

行進に統一性はなく、ただ闇雲に進む彼らには言えぬ事情があった。

妖都:亡夜へ人為的に送られてくる妖怪が大半で、それは亡夜に『雪女ユキオンナ』がいるからであった。

雪姫は空気中に粉雪を散布し、遠方までの敵を索敵する事ができる感知能力を持つ。事前に妖力を混ぜた粉雪には、肉体機能の低下を与える仕込みがある。大抵の妖怪であれば、雪姫の妖術に太刀打ちなど出来ない。山姥でさえ、この能力に気付いていれば対策は怠らなかった。

勝機があると、そう思って待ち構えていたのだが、雪姫は更なる事態を想定しなければならなかった。

「……こちらの動きに気付いた?三手に分かれて別行動を?」

視認出来る距離の手前、妖怪達がそれぞれ別行動を始めたのだ。しかも妖術を祓われ、進軍も止められない事態。

ここで漸く異常性の正体に気付く。

「これほど統制する集団は妖怪では“三妖魔”以外を知らない。人の子が関わっているわね。恐らく……噂に聞く秋水という人の子の手練れに違いない」

直行し、敵を迎えるつもりの雪姫だったが、引き返す事を選択する。

妖怪達の狙いが、自分だけではないと気付いた。とある噂を思い出し、冷静に行動に移す。

「人の子を捕まえる人間の手練れなら、私以外を狙うのも当然。幸助がこの町にいる事が噂となって広まったのね。やっぱり……閉じ込めておくべきだった」

幸助を幽閉すればと、そんな恐ろしい事を口にする。

隠しておくべきだと後悔し、来た道を最速で駆け走る。

しかし、雪姫の退路を断つように、既に回り込んだ妖怪がいた。

「そのイノチぃ、貰い受けぞおおっっーーー‼︎」

巨大な金棒が雪姫の頭上に振り下ろされるが、小柄な腕とは思えない剣捌きで金棒を跳ね返す。

金棒を振るった妖怪を見た雪姫は、その人物の姿に驚く。

「っ⁉︎そんな…何故あなたが此処にいる⁉︎『牛鬼ギュウキ』‼︎」

まるで、特別な感情を抱いていたような悲しみを込めた叫びだった。

かつて、人間を食らう事を生業とする狂暴さで、『雪女ユキオンナ』と死闘を繰り広げた事があった。

互いに全盛期の存在した江戸時代に打ち合い、雪姫は妖怪において唯一倒せなかった存在でもある。

倒せないばかりか、一次停戦を結び、不可侵の『契り』まで結んだ。


雪姫の目に映る彼は、あまりにも人間離れした容姿をする。

上半身の頭は牛、首より下は人間の裸が混ざり、下半身は蜘蛛の体を持つ。日本妖怪において、彼の伝承は古来より言い伝えられている。

その名を『牛鬼ギュウキ』と刻む。

しかし、今の彼にはそんな古き妖怪とは思えない滑稽な姿だった。

傷だらけの皮膚、癒えぬ生傷、尊厳を奪うように取り付けられた首輪。どれも彼を牛鬼と信じるには無惨な姿でしかない。

「…ぐっ、ふふ…。今の俺が何に見える雪女。人間に首輪を掛けられた哀れな牛だろう⁉︎」

目に殺意が漲る。その目が何を語ろうとするのか、雪姫は静かに噛み締める。

「……人間が憎いのね」

「そぉおだ⁉︎俺は死んだ!人間に妖怪の尊厳を奪われたんだ‼︎惨めになあぁ‼︎」

牛鬼の意識は錯乱していた。巨体から発せられる腕力の凶悪さをその身で受ける雪姫。

骨すら粉末にする攻撃を受けても尚、雪姫は防御妖術である『雪老ユキロウ』で急所とダメージを抑える。素早く体勢を立て直し、刀を再び握りしめる。

だが、牛鬼の攻撃は実体のない物質にも触れられる。故に、雪姫にとって唯一の天敵とも言える。

「くっ‼︎牛鬼、あなたが何故この地に来たの?そして、何故人の子を襲おうとする⁉︎」

真剣な剣幕で質問を問う。負傷しながらも、牛鬼の攻撃を容易くいなす雪姫の本気が伝わる。

牛鬼の進撃は止まらない。力任せに襲う彼にはもう届かない。

「人間に肩入れする貴様など、共々皆殺しだぁ‼︎」

その腕力に握られても潰されても即死の威力を備える。雪姫であっても、直接握られれば死を免れない。

(駄目なのね。完全に精神が破壊されている。牛鬼がこれ程まで狂わされているとは……人の子が一体…何をしたと言うの?)

訴えても無駄と理解して冷静になってしまう自分がいる。牛鬼の狂乱を止めるべく、最も油断の生まれる隙を探る。

しかし、雪姫にそんな時間は残されていない。迫り来る魔の手が幸助に着実に近付いているのであった。




俺は珍しく、夜中に起きてしまった。

いや、珍しくもなんともない。雪姫が出て行った後、俺は寝てなどいなかったんだ。隠れた特訓する為に寝たふりをしていた。

早く雪姫に認められたいからな。無茶もするってもんだろ?そう思い、今夜も雪姫が帰ってくるまで実力を付けようと思ったのだが、外がヤケに騒がしいな。

俺の町では騒ぎなんて起きない。妖怪達しかいないが、基本的に俺を襲う妖怪はいなかった。皆んな優しくて、特に狸の婆ちゃんが人間味があって心が安らぐ。狐の姉ちゃんもいたし、動物型の妖怪が多い印象だった。

今日は異様に騒がしい、悲鳴や怒声が入り混じった戦地に迷い込んだような……。

「こんな所でぐずぐずしてたら死んじまう‼︎とっとと出ねえと⁉︎」

俺は布団から飛び出て、身近にある無名から貰った刀剣と金銭を背負い、玄関を飛び出そうとする。

バァァァン‼︎

「イッつてぇっーーー‼︎扉ぐらい凍らせんなよ⁉︎」

勢いよくぶつかり、雪姫に向けて文句を言った。




亡夜は現在、妖都から出現した妖怪に襲われ、亡夜に住む妖怪が生きる為に闇夜を彷徨う。

幸い、幸助が気に掛けていた狸の老婆は他の町へ出掛けており、難を逃れていた。

しかし、他の妖怪は不運な事に、妖都から来た群勢に戸惑い、逃げる方向を見失ってしまう。

「ギャッハッハッハ‼︎低級妖怪めが⁉︎この町にいる人間を差し出せ‼︎さもなくば皆殺しだあああっ‼︎」

馬上から容赦なく武器で斬殺する。敵である妖怪達は、馬に騎乗し、妖都までの距離を短時間で走行し疲弊した彼らが休憩も取らず、鏖殺に興奮する。同胞である妖怪に対しても、もはや躊躇も慈悲もない。

人間がいる情報を既に持っており、幸助の存在の所在を聞き出すのが目的だ。情報を吐く者がいれば、幸助の命は危ない。

しかし、この町の妖怪は口を割らなかった。口を割ろうとする者は、誰一人いなかったのだ。

「さあ吐け。人間がいる場所を吐け‼︎」

「うっ……し、知らん!」

「じゃあ死ね」

容赦なく殺されようが、

「アタイは吐くものか!幾ら拷問されようがね‼︎」

「チッ!コイツもか」

身を刻まれようが、

「へへっ…人間?なんのことだ?」

「知らないふりしても無駄だ、さっさと吐け!」

「おいおい、この町に人間はいないぞ?手違いだろ?」

「コイツゥ⁉︎焼いても吐かないか⁉︎」

身が炙られようとも、誰も口が裂けても幸助の居場所を吐かなかった。

決して、幸助に情があるわけじゃない。他人であり、今回の渦中の人物を庇うなどという身を滅ぼす真似を率先しているわけでもない。

彼らは、自身が殺されると分かっていたからだ。情報を吐いたところで、自分が殺されないなんていう保障は一切ない。ならば、この町の唯一の住人である幸助を生かした方がいいと選択をしただけだ。

この町の妖怪の考えのとおり、襲ってきた妖怪達が皆殺しを絶対にやめない。滅ぼし、この町を領地か何らかの拠点にするつもりでいた。

町の住民は決して多くはない。名を持つ妖怪が『雪女ユキオンナ』だけだったこともあり、夜明けを迎えるまでに全滅するのも時間の問題だ。


そんな中、この町でも抵抗する妖怪がいる。この町を愛する住民であり、町を荒らす妖怪を討伐しようと奮闘をみせた。

「やれやれ……こんな荒らし者は坊やを躍起になって探してるやね。口を吐く者なんていないのに、ご苦労なこった」

着崩れしてしまった着物を身に、『狐火キツネビ』で応戦する彼女は、襲ってくる妖怪に対し優位に退けていた。

その彼女は、幸助と初めて出会った狐の妖怪だった。

狐の種族であり、『九尾狐キュウビキツネ』の末端の力を持つ彼女だからこそ、無名妖怪を相手に戦えている。それ以外の妖怪は戦闘能力は皆無であり、彼女でさえ、『雪女ユキオンナ』には足元すら及ばない。

「おい狐女。今、坊やと言ったな?やはり人間はいるんだな⁉︎」

「オホホホ!名のない妖怪が偉そうに。わっちを倒せたのなら吐いてやらんでもないさえ」

「小癪なぁ‼︎」

獣人型の妖怪は地を四足で駆ける。その速さは動物とは異なり、異様に速く無駄がない。

彼女の目にはその動きは手に取るように分かる。動きに合わせ、突進してくる妖怪を躱す。

「その程度かえ?ちっぽけ」

獣の伝承を持つ妖怪には、煽りがよく聞くと心得る。特に、女である彼女が煽れば、妖怪は激昂を抑えられない。

「黙れぇ‼︎メスがぁあっ‼︎」

動物本能が暴走したかのように、怒り狂い突進する。

(容易い。本当に動物は扱いが簡単さい)

狐火キツネビ』を器用に輪状に変化させ、拘束するように焼き尽くす。


彼女の伝承は、『妖狐の末裔 孤独な姫娘』。江戸時代の頃、『玉藻前タマモノマエ』の伝承の派生であった小さい伝承が一部の庶民に言い伝えられ、彼女が生まれた。『九尾狐キュウビキツネ』の派生が生まれた副産物と言っても過言ではない彼女は、人間という伝承から生まれた混妖として妖界へ堕ちた。

そして、彼女は純妖になったのち、人間を10人喰らった。程度の相手ならば取るに足らない。

しかし、所詮は名のない妖怪から生まれた偽物。名を持った本物には手も足も出ない。

「よぉ、よくもやってくれたじゃねえか?」

異様な気配を漂わせる妖怪が現れた途端、彼女の顔に余裕が消える。

「っ…笑えないヤツが現れおって……。随分、坊やが気に召すものなのかえ?」

名を持つ妖怪とそうでない妖怪では、明らかな戦闘能力の格差の壁が存在する。彼女は目の前の妖怪を見た瞬間、勝てないと判断した。手のひら返しすれば勝てるだなんていう発想は、天地がひっくり返っても出てこない。

「秋水様のご命令だ。人間の居場所を吐け。そうすれば、その力を買って生かしてやる」

「ふっ…そう言って、あんたら連中はわっちを生かすつもりはないだろ?」

死を覚悟しなければならないと、最期の嘲笑をみせる。

彼女の笑みを裏切るように笑ったのだろう、抑えることなく下品な大笑いをする。

「ガッハハハ‼︎そのとおりだ。お前の寿命程度なら伸ばしてやってもいいがな⁉︎」

「なら答えてあげるさかい。あんたらに話す事はない!」

「ならば自分の賢さを恨むんだな?」

彼女の首に向けて腕を伸ばす。その掌に触れた瞬間………。

「…ん?消えた?いや、誰だ?」

触れようとした彼女は目の前から消えていた。しかし、目では何処に行ったのかを見逃していなかった。

「ほう…人間が出張ってきたか。秋水様のご命令だ。連れ去る!」

まるで、機械のように命令を忠実にこなす人形のように、幸助を追う。

感知に引っ掛からず、容易に連れ去った何者かを見て、人間だと確信する。




「……え?あ、あんたはんは⁉︎」

「お世話になった礼だ。大丈夫か?」

危機一般、狐の姉ちゃんを助けられた。俺は重い金銭は既に家の中に置いて、刀剣のみでここまで来た。偶々、ここを通り掛かったので助けられて良かった。

「いや〜ん!いけず」

お色気を仕掛けられた。

「っ…そんな事より、雪姫は見なかったか?」

少し色気みたいな悪戯心をされたが、ギリギリ我慢して雪姫の居場所を聞く。狐の姉ちゃんはふてくしたようにプイッと顔を背ける。

「知らないさえ」

「あっそう。じゃあ探すか。このまま抱えるか走るかどうする?」

正直、このまま抱えて走るのはしんどい。とは言っても、この人を無碍に扱いたくねえんだ。

「じゃ、じゃあ…抱っこ」

「マジか……分かったよ。離すんじゃねえぞ?」

俺はそのまま走り続ける。

しかし、あの妖怪は何だったんだ?『天邪鬼アマノジャク』や雪姫とは違う名前ある妖怪だと思うけど、俺から見れば、不気味な妖怪だった。

声はまるっきり人間だった。妖怪と人間を識別するのは簡単じゃなさそうだし、普通の人が見たら人間だと間違えるに違いない。でも、人間にしてはロボットみたいな動きがあった。関節がなんかこう…複雑に動けない的な?

「なぁあんた。あの妖怪が何なのか分かったか?」

「分かるさえ。あの妖は名を持っている。しかも、元々“災禍様(さいかさま)”の域に居たさえ。どうしてあんな恐いお方がこの町に…」

「“災禍様(さいかさま)”って…天邪鬼も言っていたな。じゃあ、相当強えんだな?」

俺がそう聞くと、狐の姉ちゃんは難しい顔をする。

「無理さえ。あんたはんは勝てっこない。あの容姿は擬態さえ、本当はもっと恐ろしいや」

「擬態…接触、なんとなく分かった。あの妖怪、結構有名だよな?てか、そもそも妖怪の部類に入ってんのかよ……人形って」

恐らく、あの妖怪の手に触れちゃいけない。触れたらどうなるか、俺はその先を想像したくない。

アレは『人形ヒトガタ』か『人形ニンギョウ』で確定だ。

言われるまでもなく、あの妖怪の正体を見破れたのは大きい。そう分かれば、雪姫と合流するのを急いだほうが良さそうだ!




背後から俺を追う妖怪が集う。

「いたぞぉー‼︎人間があっちへ向かったぞ!」

呼び掛けるなり妖怪がこっちに来る。だが、足は俺の方が速い。

「姉ちゃん、俺にしっかり掴んでいてくれ‼︎全速力で逃げるからよ‼︎」

声を掛けるなり、俺は地面を強く踏み込み加速する。

雪姫の加護によって、身体能力が生きている時よりも上がっていた。人間離れしたように走れ、追い付かれそうな速さで走る妖怪であっても撒くことが出来る。

しかし、そう簡単に撒けるものではなかった。俺の前に、また奴が現れた。

「フッ、フフフフフ!逃げられるとでも?」

姿は男性ではなく、女性となっていた。声も合わせてなのか、凛々しさに様変わり。実によく出来た変装だ。

「参ったぜ。人形ニンギョウでも身体を変えられるのかよ?知らなきゃ気付かねえよ」

「ほう⁉︎ワタシの正体、ヨク…見破った、な?」

片言が目立つ。

「なんで俺を狙うんだよ?『人形ヒトガタ』さんよ」

俺は追加で妖怪の正体を暴露する。

カタカタと動いたかと思えば、いきなり着ている服を剥ぎ取り始めた。正体がバレて隠す気がなくなったのだろう。

その身体はまさに人形そのものだった。現代風の人形の模型とは違い、一昔前の関節部分が良く分かるデッサン人形のような肉付きだ。顔は女の顔のままで、顔以外は人形でしかない。

「オモシろい。明かされて、は致し方がナい。お前、ご命令で連れて行くゥ‼︎」

カタカタと鳴らし、もの凄い瞬発力で距離を詰めてくる。

俺は選択を迫られる。

「背後に妖怪の群れ、前に親玉、手前に姉ちゃんときたか……どうするか」

「なぁ⁉︎わっちを敵扱いするんさかえ⁉︎」

どうするか?このままでは振り切れねえし、妖怪の群れに突っ込むのも自殺行為だし。かと言って、親玉を相手に姉ちゃんを抱えては戦えねえよ。

それに、俺は妖怪を殺したくはねえんだ。

「考え事でしたら、わっちが雑魚を相手するかえ?」

「戦えるのか⁉︎」

「舐めたらあかんで。わっち、こう見えて純妖。そこらの雑魚に遅れは取りません」

俺の腕から軽く降りる姉ちゃん。背後に歩んでいく。

「でしたら、わっちを助けてくれた御恩。ここでお返しいたしますさかい‼︎」

語尾が気になるが、俺が助けた事を恩に感じてくれているのは素直に嬉しかった。

「頼んだ。こっちは俺がなんとかするからよ!」

「フッフッフ?人間如き…このワタシを前にして逃げ出さないとは?おバカ…ト言っておきましょう」

俺を舐めているとしか思えない発言。俺が人間だからと舐め下してる。

ここは強く出ねえと退いてくれねえだろうよ。

「てめぇこそ感謝しろよ!俺の妖術がみられるぜ⁉︎」

「クダラナイ……ご命令だ、人間を捕らえる‼︎」

刀剣を背中から引き抜き、俺は人形へ挑む。

妖怪相手に刃を向けなくてはならないのは、この際押し殺しておこう。




雪姫は『牛鬼ギュウキ』を相手に優勢を保っていた。

だが、突然の新たな妖怪の参上により、雪姫が窮地に立たされていたのだった。

「つまらない妖怪を相手に何を手間取っている牛鬼」

「みっともないです。それでも、元“災禍様(さいかさま)”に在られた者か⁉︎」

天から遣わされたような登場をするのは、どちらも“厄災やくさい”に名を連ねる『織姫オリヒメ』と『彦星ヒコボシ』だった。

「チッ!織姫に彦星が口を出してきたか…」

天より見下す二人のうち、織姫が雪姫に向かって先制を取る。

「みっともないです。純妖ではない雪女に時間を取られて、哀しくて哀れでございます!」

天より星を降らす。星を操り、広範囲上空より降り堕ちる。

「天に下されし下民に星よ跳ベ!『流星群シューティングスター』‼︎」

一振り指せば、その攻撃すべてが雪姫へ堕ちる。

星を操る伝承を残した妖怪。その力は“災禍様(さいかさま)”に匹敵し得る。

その攻撃すべてに必中が付与され、織姫が捉えた相手には百発百中で当たる。雪姫と言えども、この攻撃をすべて躱し切ることは不可能。

「この数…数千の星屑は厳しいわね」

自身の技量でのみで星屑を弾き、その場から動かずに留まる。躱すのではなく、降り落ちる星屑を往なす。

しかし、そんな事をすれば牛鬼が黙っているわけがない。

「貴様らっ⁉︎俺の邪魔ばかりしやがって…‼︎」

牛鬼は妖怪らしい残忍さを持ち合わせてはいない。人を喰らい、生気を取り込む事を生き甲斐とするが、武人としての誇りを持つ。割り込まれた事に腹を立て、雪姫と共に『流星群シューティングスター』を打ち落とす。

「知らないですよそんな誇り。人間を連れてくるのが今回与えられた責務。逆らうならば、この織姫が滅ぼしてあげますよ」

見下し、味方である牛鬼に鬱憤を吐く。事情があるのか、織姫の顔には余裕がなかった。

織姫と彦星には猶予に等しい特権が与えられていた。人間の命令に逆らえず、解放という条件に松下幸助の身柄を拘束する事を課された。

破る又は成し遂げられなければ、その人間によって殺される事を強要されている。それ故、織姫が口を悪くして牛鬼の武人としての誇りを貶す。

「おい牛鬼。その妖怪を庇うのならば、あの方に反逆をみなしたと報告する。今すぐ、雪女を始末しろ」

今度は彦星が牛鬼を威圧する。

牛鬼が彦星の命令に従うわけがないのは承知。追い討ちをかけるように妖術を行使する。

「流星群が降り落ちるお前らに避ける術はない。夜空に煌めく光の帯に溺れよ!『天の河(ミルキーウェイ)』」

空から降る『流星群シューティングスター』は継続中、更に数が増す。

「数を増やしたところで……コレは⁉︎」

それだけじゃない。弾いた星屑と逸れた星屑が激流を発生させ流れ出し、雪姫のみが川となった激流に押し流されていく。

抵抗しようにも、星屑に体の身動きが取れない。

「星が河となった伝承を元に作られた妖怪の力……確かに純妖だったら、この星屑の激流は凄いもの」

まるで感心するように冷静に二人の力を受ける雪姫。

流されていく雪姫を見て、牛鬼は遂に反旗を翻す。拳を上空に滞空する彦星へ向けて放つ。

「あぐぅっ⁉︎う、うぅ……自分が何をしようとしているのか分かっているのか⁉︎牛鬼ぃ‼︎」

怒声を放つ彦星の片腕を吹き飛ばし、完全に理性が吹き飛んだ牛鬼が暴れ出した。

「殺すぅっ‼︎殺してやるゥゥッ‼︎俺の邪魔ばかりしやがってぇ⁉︎人間も妖怪も死ねええっ‼︎」

それは計算外だった。牛鬼の精神は秋水という人間によって根本から壊されていた。彼を玩具として扱った結果、既に武人としての精神は崩壊していた。

辛うじて残っていた理性は、織姫と彦星の介入で完全に折れた。妖怪の本能が暴走し、敵味方問わずに襲い掛かる妖怪へと成り下がった。


コレが非常に厄介であった。妖怪が理性を手放した事で、牛鬼が本来の姿に変身する。


全身が獣の毛に覆われ、上半身が下半身に同化されていく。腕が足となり、顔が肥大化していく。

妖怪としての本領発揮をした牛鬼は、本物の妖怪として立ちはだかる。

織姫はこの状況に危機感を抱く。

(マズい‼︎理性の枷が外れた牛鬼が『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を解いた⁉︎精神崩壊がトリガーとなって‼︎)

敵に寝返るよりも厄介な事態となり、織姫と彦星は妖術を雪姫から牛鬼に標的を変える。

「生き恥を晒して妖怪を語るなケモノが!穿て!『流星群シューティングスター』‼︎」

「『天の河(ミルキーウェイ)』!」

星屑と大河が牛鬼に襲い掛かる。雪姫でも全てを抑えることが出来なかった妖術を前にして、牛鬼は怯むどころか上空へ攻撃をものとせずに跳躍する。

「マズい‼︎…彦星!」

「全力を出すぞ織姫‼︎」

もはや雪姫を気にしている余裕はない。自分達よりも妖力も伝承も根強い『牛鬼ギュウキ』を相手にするのならば、全力を惜しむ暇はない。

雪姫にとっては好転的な状況となる。

(この隙に幸助を助けないと……)

相手にすれば厄介な敵を牛鬼が引き受けている。雪姫は牛鬼に感謝し、その場を離脱する。

「待っていて。必ず……私が助けるから。幸助!」

守るべき者を最優先と考え、後ろを振り返らなかった。その背後で、牛鬼の咆哮が聞こえてくる。その咆哮が雪姫にとって、背中を押されている様な気分とさせる。

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