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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
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十一話 嘘と死の隣合わせ

雪姫が腹黒い女だと思うほど酷い対応。ですが、彼女なりの人間への想い方だと思えば多少は……。


あと一話投稿します!

幸助が眠りについたのを確認する。

「うん…寝ているわね。今日も行かないと……」

人間の肉体は睡眠を欲する。無名によって転生した彼でも、その肉体は人間であり、睡眠と食事は摂らなければいけない。その為、幸助は睡眠に堕ちる。

寝たと分かった雪姫は、そっと外へ通ずる扉に手を伸ばす。

「ごめんなさい。あなたを狙う妖怪を討伐してくるから、安心して寝ていなさい」

毎夜、雪姫は幸助の眠りの間に外へ出る。その理由は妖怪の討伐に出掛けるため。しかも、この家に向かってくる妖怪を退けるため、殺すために身を捨てるつもりで討伐しに行く。

幾ら『雪女ユキオンナ』が有名だからと、そう妖怪が襲ってくるわけではない。ただ命を捨てるでしかない。

だが、人間を食い殺すためだとなれば、彼らは馬鹿とも言えるほどの本能に従順に従う。幸助を殺したいがために命を賭けれるほど、彼らの脳は食欲を欲する。

その大半は無名の妖怪。当然、雪姫の足元に及ばない雑魚に等しい。


月の輝きのない新月の夜の下、暗き虚空の闇を駆ける白き喪服を纏う女。光はなく、シリウスの目は妖怪を強く睨み、狩猟者の眼光を光らす。


気配を殺し、足跡すら聞こえさせない暗殺者。唯一、雪風が吹き抜ける音が直前に聞こえるのみ。無名の妖怪はその音を聞いた直後、血すら凍り凍死する。

走った後に霜が。走り去った空には埃と血飛沫に紛れ舞うダイヤモンドダストが。死体には凍傷が。

雪姫という妖怪を相手にするとは即ち、死を被る結果となる。

血すら凍らせてしまう彼女の姿は、新月で光がないというのに美しかった……だが、

「あひゃあ〜⁉︎随分荒らしやってくれまいたな⁉︎」

独特な方言で惨状を見渡す妖怪。雪姫が起こした現場を見て意気揚々に死地へ足を着ける。

「よっと!……やぁやぁ雪女。派手にやっちゃったないな?気分はええか?」

まるで出会ったことのあるような相柄の挨拶を交える。気配を殺していた雪姫は、その声に対し反応し、無音で襲い掛かる。

僅かな空気を読み、咄嗟に身を捻り、最小限に攻撃を抑える。

「……」

「ふぅえ〜⁉︎もうちょい良い顔してくれよぉ?なーんか酷いや!」

妖怪は飄々と揶揄う。しかし、雪姫の攻撃を避けれる妖怪など限られてくる。それ程の実力者であるのは間違いない。

「何しに来た?」

畏怖を与えるように問う雪姫。

「理由かい?まあ〜ないでしょう。男を恨む理由だなんてぇ〜?」

妖怪は態度を変えず、小馬鹿にするような言い方でシラを切る。

「話さないなら、容赦しない」

会話するつもりがないと分かれば、雪姫のする事は討伐の一択。刀を構え、その首を刎ねるのみ。

妖怪は雪姫が本気だと分かり、抵抗を見せる。本性を露わにする。

「ヒ、イヒヒヒ!若い女房気取りの女は嫌いだね⁉︎お前さんを殺し、あの人間おとこは貰ってやるさえ‼︎」

「やっぱり……天邪鬼と言い、『山姥ヤマンバ』の老害はあの子を襲う癖があるのね」

「老害なんて失礼さねえ〜!それに、アタシが欲しいのは雪女の嫉妬の顔じゃないさい。あの男の恐怖が欲しいだね〜!」

正体を晒し、自らの欲望を口にする『山姥ヤマンバ』。わざわざ遠い山から降りてきて、若い人間である幸助を攫いにきた。

彼女は山の神と呼ばれた元人間の巫女の成れの果ての姿。その力は“厄災(やくさい)”に準じており、妖怪でありながら特殊な力が扱える。神に仕えし人間という肩書きを持って生まれた伝承妖怪。

しかし、相手とする雪姫も同じく元人間の女性。妖怪における名高い『雪女ユキオンナ』の名を持って生まれた怪異。誰もが知る出生は言うまでもない。

両者は幸助を巡り、新月の下で激しい交戦の火蓋を切った。

戦闘能力は、その妖怪が持つ伝承影響と怪異に与えられた能力が反映され、この世界における格の物差しが出来る。

そして、時代による知名度も影響として顕著に表れ、現代における妖怪の知名度でその強さが大きく左右される。


雪姫は空を飛ぶ。山姥は地を走る。両者は正々堂々と正面からぶつかり合う。

刀と双包丁が威力を相殺し、暗闇だというのに見えている様に動く。一挙一動に無駄はなく、隙があれば致命傷を狙う事に余念がない。

しかし、彼女達の伝承には上下が存在していた。

それが戦闘における有利となって、両者の反応に違いが表れる。

「あひゃあ〜⁉︎強くなってるさえ⁉︎」

山姥は雪姫の実力に驚く。伝承で聞いた以上の剣術の洗練さ、伝承以上の体得している力量の高さが予想を超えていた。

「口が動くほど余裕があるのね」

雪姫は山姥の動きが手に取るように把握してきた。

(動きが速いだけ。直線的で素直過ぎる。でも、そろそろね……)

強さだけは互角といったところだろう。それどころか、雪姫にはまだ余力を残っている。既に仕込みを終え、山姥に対する弱体化を見届ける。

一方、山姥は雪姫の攻撃の重さに手足の痙攣を起こし始めた。

全力を出したせいで、肉体的疲労が溜まり、妖力が乱れ始める。呼吸をする様に取り込める妖力が、何故か上手く取り込めなくなっていた。

「はぁ…はぁ…はぁ……オカシイぃ、可笑しい⁉︎アタシが負ける筈がないのに!……身体が重い‼︎」

よく見ると、山姥の手足の痙攣は気のせいではなかった。手足には霜が降り積もり、霜状の雪が山姥の肉体を刺す様に密着していた。粒子状で氷結した雪は溶けず、肉体を侵蝕する。

身体が重いのも、雪による肉体への負荷であり、身体機能に異常をきたしている。

山姥の肉体と妖力が乱れるのも、雪姫の妖術によるもの。

新月だから気付かなかったが、雪姫は冷気も感触も感じさせない程の吹雪を吹かせていた。

焦る山姥に、雪姫は空から見下ろす。

「あなたは終わり。私とあなたでは伝承が違う。『山姥ヤマンバ』、人間を襲う理由を最期に聞きたい。答えるならば、その命だけは助けてあげる」

それを見た山姥は恐怖の顔に歪める。

「こ、怖い…」

恐怖を口にする。それが、『雪女ユキオンナ』を見た者の言う台詞である。

雪女ユキオンナ』に出会った者は、体の内まで凍らされて殺される。冬の悪魔とも死神とも言える伝承により、彼女への恐怖が伝承の強化を増幅させる。

伝承は人間界、妖界のどちらの世界でも力は増幅する。雪姫が山姥に恐怖を与えると言う行為だけでも、雪姫は更なる恩恵を受ける。

「答える気がないのね。分かった……今すぐ楽にしてあげる」

雪姫が猛吹雪で山姥を包み込む。恐怖で動けなくなった山姥を拘束、凍結する事は容易い。

喋る暇を与えず、雪姫は無慈悲にその生命活動を停止させる。

「あなたは名のある妖怪。これ以上、日本妖怪の減少は避けたいの。数年は眠って貰う」

そんな彼女の目に、強い悲壮感が宿る。

「お願いだから、無意味に人を殺しにこないで……」

儚く、今にも泣き出してしまうほどの涙脆い表情を見せるが、その目に涙は浮かばない。

妖怪を殺した程度、彼女が涙することはない。

彼女が妖怪を殺すには、幸助に打ち明けた過去に引き摺られていた。

人間だと知り、多くの人間は妖怪に食い殺された。元人間であった『雪女ユキオンナ』は、その場面を嫌というほど見てきた。

人間は妖怪に食い殺されるのが宿命と言わんばかりに、『雪女ユキオンナ』と関わった人間は非業な死を遂げる。

告白しても尚、雪姫には不安が募るばかりで、幸助にすら打ち明けられない。

まさか、彼が好きと言った妖怪を夜な夜な殺し回っているとは、口が裂けても言えない。

そんな彼女は、知らぬ顔で騙している彼に嘘を教え込む。




妖術は人間には使用出来ない。これは例外がなく、妖怪としての伝承をそもそも持たない幸助には会得出来ないのであり、皆無だと雪姫は知っている。

「クッソォ‼︎なんかイケる気がしたんだけど…まだ無理か」

「そうね。力んでいても意味はないわ。あなたは力を放とうとする時、妙な意識があって邪魔してる。無心と一心を心掛けて」

「なんだよソレ⁉︎意味分かんねえよ!」

雪姫は真剣に教えているように演じているに過ぎない。適当に話を合わせ、幸助が何も出来ずに自分に頼る日々を待っている。

最初から学ばせるつもりはない。ただ見せるだけで、幸助の向上に繋げられるはずがない。儲けた期間の間に習得出来なければ、彼女は幸助を監禁する事を約束としている。

つまり、雪姫の約束は一方的なものなのである。

しかし、そんな雪姫が嘘を吐いているとは知らず……。そもそも、嘘だと言うのに気付いている素振りもない。

「分かんねえ言い方しやがって。雪姫が言いたいことは俺が出したい妖術以外を考えず、全力で行使する勢いがあればできるんだろ?」

彼の発言の意味が分からないのは、雪姫も同様だった。

「…意味が分からない」

「俺も分かんねえよ。要は集中しろなんだろ?」

「そうね」

幸助が真剣になるものだから、どうしても無理だと言えない。言えば離れてしまい、また同じ惨劇を繰り返す。

雪姫が幸助を離したくないのは、これまでの経験で人間を家に留めることがなかった。全員、彼女が『雪女ユキオンナ』と知ると逃げ出す。それが怖ろしくて言い出せなかった。

寂しいという感情に近い。孤独に生きてきた雪姫には、どんな人間でも居てくれれば良いのだ。

要するに、永遠に離れてくれなければ良いのだ。

(この子、やっぱり変な子ね。出来もしない妖術を必死に習得しようとして……騙しているとは言え、あまりに鈍感)

幸助は何も起こらない事を必死になって雪姫に付いていく。それが、雪姫の罪悪感を募らせる。

(悪いけど、あなたが妖術を使える日は来ない。そうやって、永遠に私の傍を離れられなければ良い。もう、何も出来なくても私が支えてあげるから。だからお願い……もう何もしないでちょうだい)

無駄と吐けば済む話。それでも、何処かで雪姫は言えずにいた。

幸助から感じる可能性が限りなくゼロなのだが、信じられない奇跡を起こすのではという期待はゼロではなかった。

それは異能だ。幸助は雪姫の妖術を使えるように特訓するうちに、異能の存在をすっかり忘れていた。雪姫は幸助の異能に期待を寄せていたのかも知れない。だから、口からは彼に嘘だとは言えずにいた。

「あなた、もう無理しないで。今日はもう疲れているのよ。体を壊してしまう」

雪姫の心配性に幸助は腹を立てる。

「仕方がねえだろ⁉︎後4ヶ月で使えなきゃ、俺は一生世話されちまうんだ!焦るんだよ⁉︎」

約束してから既に2ヶ月が経っている。まだ習得すら出来ない妖術の為に、疲労困憊で倒れるギリギリまで自分を追い込む幸助。日々、自分の体を痛めつけて体を張る幸助が哀れになってしまう。

「でも、まだ時間はある。もしかしたらやり方があなたに適していないだけかも知れない」

嘘の提案をする。

「っ…そうかもな。じゃあ教えてくれ!」

「今日はちゃんと休みなさい。体が保たない。明日、私がきちんと手解きするから」

無理だと言いたかった。もう諦めて欲しかった。雪姫はそう彼に伝えたかった。

幸助は諦めようとはしない。達成するまで根気よく粘る気でいる性格の持ち主。

その我慢が先に限界を迎えるのはどちらか。我慢比べが密かに行われる。




あれから3ヶ月。約束した半年の半分を切っていた。俺は焦りに焦る。

雪姫の教えが悪い。それを疑っていても時間がないから意味がない。

俺が妖術を使い熟せないのは、俺がそれに適した才能を持っていない事となる。

マジでふざけるなよ。俺は妖怪が好きなんだ!妖怪の持つ妖術を使う事が俺の希望だ‼︎

使えなきゃ監禁される。それを意識すると、どうしても集中が散漫する。

「くっ…クソォ……」

どうして才能がないのか?なんで俺には妖術が使えないんだ⁉︎俺は凡人として生きてきたからなのか?いや、少なくとも変人で生きてきた自覚はある。

妖怪好きを皆んなに自慢し、親にすら変な子と言われた始末だ。俺は普通じゃねえんだ。

普通の奴が妖術を使えるわけじゃない。妖怪のような変わり者が使えるのが妖術だ。俺は使えるんだ!絶対に‼︎

「もう休んでちょうだい幸助」

最近、俺の事を名前で呼んでくれる事が多くなった雪姫。本当に心配そうに凝視める目が、痛々しくて気が散ってしまう。俺を見下しているのではと思ってしまう。

「やるったらやる!俺には死ぬほどの努力が必要なんだよ⁉︎」

死んだ俺ができる事。唯一の限界を超えての特訓が出来る体を酷使することだ。死ぬかも知れない。俺はもう死んでいるから死なねえのかも知れない。そんな境界線にいるからこそ、無理をしてでも体を動かし続ける。

がむしゃらとは違う。本当に死ぬ気で使えるようにしないといけねえんだ‼︎

「だったら効率よくするしかない。幸助の体は普通の人より動けているのよ?それに見合った動きをすれば少しはいけるのかも」

「なぁ⁉︎…なんだと?」

俺が雪姫に褒められた⁉︎

「あなたはスポーツをしていたと言っていた。他の人より余計な動きはあるけれども、修正すれば妖術会得の可能性があるのかも知れない。剣を使っているから、その動きを剣に合わせた動きにすれば無駄は無くなるはず」

3ヶ月が経ち、漸くまともな段階に入った気がした。

これまでの教えは、ただ妖術を使えるようにする為に俺が勝手に頑張っていた。ちょくちょく助言はあったが、そんなに参考になるとは思えなかった。殆どが心配の一言ばっかりだった。

しかし、ここまで来て漸く、俺を評価してくれた。正直、嫌気が刺していた頃だったので、俺の精神力はかなりギリギリだった。

そこへ飴とも言える言葉を貰えた。

雪姫に俺の事を褒めて貰えた。それが3ヶ月の間を通じてのご褒美のような出来事だった。

このアドバイスが、俺の意欲に火を点けてくれた。

一旦、消えていた平常心を取り戻し、雪姫の言葉を信じた。

「スポーツと言っても、昔野球とソフトボールやってたぐらいだぜ?」

そう言うと、雪姫は真剣な表情で考え込む。

「物を振るのは共通するのね。多分、幸助はそのイメージが抜けていない。バットを振るう感じで剣を振るから、余計な体力と時間を無駄にしてると思う」

雪姫にしては分かり易い説明だ。

俺がスポーツしていたのは高校生までで、中学の頃にソフトボールを地区のチームで助っ人として駆り出されていた。野球は高校の途中までやってはいたが、練習の過酷さに嫌気が差し、一年生の4月の中旬に退部した。そこからは一切の運動部への所属はしていない。バットを振る感覚があるのは、高校の時まで追い込むように必死にやったの事が、体が自然と覚えていたからなのだろうな。

感覚を変えると言うのは難しい。現に俺は、剣がまともに扱えていなかったようだ。

「どうやって剣を振る動作に変えられるんだ?」

「相手を撲ると考えず、斬ると思い込みなさい。それだけで少しは良くなる」

「……それだけなのか?」

「想像が大事。そもそも、斬れる刃物を持って人を殴りたいと考えるの?」

「それもそうだな」

雪姫のアドバイスで、これで少しはマシになる。俺の不器用さを指摘してくれて、剣の扱いの間違いが理解出来た気がする。

確かに剣で人は殴らねえよな。武器にもそれぞれ得意不得意がある。

剣は斬る。銃は撃つ。槍は穿つ。その用途に見合った使い方をしなければならない。バットもそうだ、人を殴るんじゃなく、ボールを打つ道具だ。物を打つ道具で人なんか斬れる訳がない。

てか、バットで人は殴らねえだろ普通。

そもそも……こんな事で本当に妖術が使えるようになるのか?

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