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妖界放浪記・長編  作者: 善童のぶ
一章 亡夜の妖術使い
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玖話 望む道を見つける

爆睡しました。昨日の分として投稿です。今日は予定があるので、投稿は控えさせて頂きます。明日は、オリジナル小説を投稿していきます!


完全オリジナル展開です。幸助が妖術を習得するためのストーリーとして書くため、若干、雪姫の思惑が危ういものとなります。これがどう解消されていくのか?

二度もやらかし、俺は雪姫に怒りを勝ったのではないかと怖かった。

しかし、俺があんな口を聞いたのに、雪姫は何事もなかったように振る舞う。

俺には不気味で仕方がなかった。

もしかしたら、俺の見ないところで愚痴を吐いているのではないかと思ってしまう程に。

ご飯食べている時、俺はそっと聞いてみることにした。

「怒って、ないか?」

「……どうして聞くの?」

「いやだって…」

あまりにも聞き辛い。無言の方がまだ良かった気がする。

雪姫が答える方が気不味い。俺が黙ってご飯食っていれば良かった。

「……そうね。あなたには思うところがある。どうして天邪鬼を解き放ち、危険なのに逃げようとしなかったのか。妖怪が人間を襲うのは当たり前、純妖は人との交流を拒もうとするのよ?それはあの狐の妖怪も同じだった…。すねこすりも一緒。妖怪に名を与えて…何がしたいの?」

淡々と俺がしでかした事を述べる雪姫は怖かった。

まあ、俺が否定するも何も全部やらかしてるからな。何も否定する権利なんかない。

「悪い…俺が変な事したばかりに」

「ううん、幸助だけを責めているのではない。あなたが人間であるから、私があなたを守らなければならない。生活の保障が出来るくらい楽をさせ、危害が襲ってこないようにしなければならない。私は妖怪…そしてあなたは人の子。強い者が弱い者を助けるのは常なの」

責任を感じているようだ。

その証拠に雪姫の箸は止まり、食べる意欲を示さず、表情が下に向いている。

こんな雪姫は初めて見た。というか、自分を責める自体はこれに限ったことではない。

最初に出会った時よりも自分を責めてる。

だが、俺は聞き捨てならない事に反応した。

「俺が…弱いだと⁉︎」

雪姫は俺を弱いと見ている。それが許せなかった。

「そう。あなたは人の子、故に、力無き存在。私が強くなければ守れない。私が愚かにも敵の罠に陥ることさえなければ危険に巻き込まずに済んだ。それだけ」

「いつまで言ってやがる⁉︎俺はあんたを助けただろうが!」

「違う…。幸助は偶々その剣の力を解放出来たに過ぎない。一度しか、それも…一度使ったら生気が枯渇したでしょ?」

雪姫は刀剣を指差す。

確かにそうだ。俺はこの刀剣の力を解放したのは一度きりだ。そして力を使った途端、俺は事切れるように倒れた。

俺は刀剣を鞘から抜き取ろうとしたら、もの凄い冷気が体を襲った。

原因あなに目を向けると、冷たい目で睨んでいた。

「幸助。食事中に触らない。食べてからにしなさい」

「はい……すいません」

マナーに厳しいのであった。




食事を終え、外で刀剣を引き抜いた。

俺が持つ刀身は青く、俺の紅い目とは相対的な輝きを放つ。

「その剣…私の刀よりは優れた物であるには違いない。だけど、人間が扱える物には危険な代償があると聞いてる。その剣もまた、幸助の生気を代償に力を使えたに過ぎない。その剣の仕組みを理解出来ず、自らの命を消耗する。それからは人間界の霊脈に通ずる力を感じる…」

「こんな剣にか?」

俺はつくづくこの刀剣の構造が分からねえ。

助けられたのだが、いまいちピンとこない。

「人が扱えるのは心具のみ。自らの意思に呼応し、持ち主である人間の願望器としての機能を果たす。言い過ぎね、強い意思ほど真価を発揮する方が幸助には分かりやすいかも知れない」

「無名も言ってたぜ?てか、この刀剣って心具なのか?」

「そう。人が扱うことが唯一許された心を映し、心を封じる聖剣。若しくは、今の時代だと欲を封じる魔剣とも呼ばれてる」

まさか雪姫の口から聖剣魔剣が出てくるとは思わなかった。思わずニヤけてしまう。

「へぇー?あんたがそんな厨二心擽る台詞吐くなんてな?」

「……凍る?」

刀をチラつかせて脅してくる。まったく、冗談が通じないぜ。

「悪いって…。でさ?その心具は俺が持ってるような武器のことだよな?この刀剣みたいに力を発揮する」

「そうね。あなたがその剣に魅入られた事で使える。でも、不思議ね」

「何が?」

雪姫が俺の刀剣に触る。

白い肌で刀身を素手で滑らせるように触る。

切れそうだと焦ったが、刃さえ気を付ければ問題なかった。

「この剣…刀のような鍔と鮫皮の持ち手なのに、刀身は西洋剣のようにまっすぐに伸びてる。でも、刀身が曲がらない剣の筈なのに両刃は日本刀のように鋭く恐ろしい……こんな剣初めて見た」

「これ、刀剣らしいぜ?刀と剣が融合した的な」

俺も雪姫と同じような感想だった。

単に使い易いので選んだが、改めて、刀剣の魅力に惹かれていた。

「そう……こんな綺麗な刃、400年生きてきたけど…それしか言葉が出ない。まるで、幸助の心を反射しているようで落ち着く…」

「何言ってんだ?」

「ユフフ、幸助がそれぐらい純粋って意味。これぐらい…他の皆んなが私を怖がらなければ……」

笑ったのかと思えば、雪姫の瞳が暗くなっている。人を助けて報われたことのない雪姫が哀しげに浮かべる表情が痛々しい。

理不尽が雪姫だけを襲っているようで、他人事と思えなかった。

なんでそんな暗い顔を見せるのか、俺は我慢出来なかった。

いや、見せて欲しくないんだ。

あの笑顔。あんたが俺が名を付けた時に見せたあの純粋な救われた笑顔が欲しいんだ!

悲しませたくない。だけど、俺がまた死にかけたら文句言うだろう。それで死ねば、雪姫は強く自分を責めてしまう。

それを防ぐ手段。剣の腕を上げるとかじゃ聞かない。俺を閉じ込めてでも守ろうとする奴だ、常識が通用するわけがない。

なら、俺が雪姫に乞うしかない。

「お願いだ!馬鹿な俺に妖術を使えるように修行させてくれ‼︎」

俺はいつの間に地面に頭を擦り付け、土下座をしていた。雪姫にせがむように。

無意識に身体が動いたとしか説明が思いつかない。


突然の奇行に、雪姫は声を冷たくして言う。

「どういう風の吹き回し?会話を遮断して…」

「分かってる!まずは聞いてくれねえか⁉︎」

「何を言って……話の入りが変ね」

「うっ…!それは言わないでくれ」

雪姫の言う通りである。

俺が変に話を遮ったせいで機嫌が悪い。目を合わせなくても分かる。

殺意はないが、明らかに俺を人を見る目をしていない。

「……そう。とりあえず話して頂戴。あなたが私に縋る理由を」

理性的に聞いてくれた。

俺は漸く頭を上げ、訳を話す。

「あんたに迷惑を掛けたくない……だけじゃない。雪の妖術がカッコよかったんだ」

「……?なんのつもり?」

不思議に俺を覗く雪姫。

「俺はあんたの妖怪としての魅力に惚れたんだ!雪女としての才覚が羨ましくなって教えて貰いたいんだ!助けてくれたお礼に、あんたを助けさせてくれ‼︎」

天邪鬼に助けられた礼と雪姫は思うに違いない。

「礼は要らない。あなたを助けたのは私の気紛れのようなもの。決して、礼を尽くされたいとは思っていない。天邪鬼については気にする必要もない」

「いいや!俺はあんたに救われた恩がありったけあるんだ!この恩を俺の身で返させてくれねえと気が済まねえんだ‼︎」

俺は意地でも強くなりたいと願った。いや違う、俺は雪姫に認められたいんだ。

ここで雪姫を言い負かせられなければ、俺の存在理由を失っちまう。

助けられた以上に、その哀しげな表情を曇らせたくはない。笑顔を見せる雪姫が見たいんだ!

「あなたは思い違いをしている。この前の影の男に勝てたから調子に乗っているに違いない。人の子は脆く、そして短命。大事にしたいなら危険を顧みず、私の家から出てこないで」

くっ…これでも駄目なのか。

俺は地面に頭を打ちつけた。

「調子こいてなんかない‼︎」

「っ⁉︎」

俺の怒声に雪姫が身を硬直させた。

「俺がそんな馬鹿で危険に踏み込むか!俺がやりたいこと知っても尚、あんたは俺を拒む。俺は雪姫、あんたに認められてぇんだ!誰にも信じられなかった時に戻りたくはねえ。だから頼む!俺に妖術を教えてくれ‼︎」

頭痛がする。額から生温かい液体が鼻を伝う。

そこまでしなければいけないのだが、流石に衝撃余さずにゴツンとやってしまった。

これ……絶対怒られるな。

「幸助、血が…」

違った。俺を心配してくれる反応だった。

気を変える事はせず、俺は顔を雪姫に向けた。

「それより、俺はあんたの妖術、凍結魔法みたいな力が、使えるか?」

「……」

雪姫は俺の顔を見ず、凄い苦しそうに目を背けた。口元を押さえ、何か申し訳なさそうな表情をしたのだった。




考える時間が欲しかった。

幸助という人間が口にした言葉に戸惑っていた。

己の弱さを痛感させられたと怒りに震える。

(私が弱いから?……ここまで、私が人の子に憐れまれているなんて……信じられない)

幸助の言葉を呑み込んだのではなく、幸助が自分の保護を受けても尚、何かに訴える姿勢をみせる彼の無知に疑問と怒りが混雑する。

人を何度も見殺しのように殺され、雪姫も精神的に限界を迎えていた。

運命とも言うべき呪いを受けた彼女は、幸助の言葉を信じ切れない。

(あの女によって、私は『雪女ユキオンナ』としての呪詛を受けた。決して祓えない呪いは私に作用するのではない。『雪女わたし』という妖怪に出会った者に、その呪いは作用する。今までの人の子全員……私と出会って死んだ。だから、この子も私の家に閉じ込め、永遠に保護すれば良いのだから)

鮮明に思い出される過去は、彼女には拒絶したくなるものだった。

助ける者全てが突然死を迎えた。それも、寿命ではなく他殺。

幸助を信じられない彼女は、まだ全てを打ち明けていない。信頼には程遠く、助けた一人にしか過ぎない。死なぬように幽閉し、寿命が尽きるまで亡夜に拘束するつもりであった。

事実、天邪鬼を解放したと聞いて、幸助の愚かさに怒りを覚えた。

しかし、閉ざされたような心が溶けていく。

(だけどこの子…私から妖術を学びたいなんて無謀ね。人間に妖術が扱える人の子は存在しないのに)

名を賜り、『雪姫あな』となった今、彼女の心に“変化”は起きた。

胸を圧迫する心臓の鼓動に耳を澄ませる。

(妖怪に心臓なんて関係ないのにね。こんなに苦しくて鼓動が速い。不思議な感覚……まるで、生きているような…)

伝承本来、『雪女ユキオンナ』は雪道の中で亡くなった女性が怨霊化した妖怪と知られ、女性の霊と雪の精霊が混合したような存在。心臓などなくとも、彼女なら生きる事が出来る。

妖怪にとっての臓物は身体機能の維持または肉体としての飾りに過ぎない。『雪女ユキオンナ』なら自然に肉体を変えられる為、不要である。

だが、人間としての肉体をしているのは、人間への愛情である。

肉体にあるであろう心臓が徐々に高鳴るのは、雪姫が松下幸助という一人の人間に興味を抱いたからである。

(それに、この子の願いを無碍にはしたくない。したくはないけど……)


だが、ここで問題がある。

人間が妖術を行使する事は不可能である。それを知るのは雪姫のみ。

この場で正直に伝えても構わない。そうする事で、幸助の想いを踏み躙ることなどでき、諦めが付いてくれる。

雪姫の一言で幸助の想いを左右する。

雪姫は薄笑いする。

「…頭を上げなさい。そして、汚した顔も拭きなさい」

「良いのか…?俺にあんたの妖術を……」

「勿論。あなたが私を頼ってくれる。それなら、私も答えないと」

自ら生成したタオルを渡し、幸助に良い返事をしようとする。

貰ったタオルの冷凍さに頭をやる幸助。

「っ…痛えな」

「当たり前。この床は私の妖力が漏れて張った氷床。畳じゃないから痛いに決まってる」

「てかよ…本当に雪姫の技と剣術教えてくれるんだろうな⁉︎」

疑うも、彼の表情は笑っていた。

こんな純粋に笑う人間を雪姫は知らなかった。

多少の罪悪感が突如襲う。

(でも…この子なら大丈夫。半年で諦め、私の力に縋るしかなくなるから……。人の子は私が助ける。閉じ込めても問題なく余生を謳歌させてみせる)

が、彼には諦めて貰うしかない。

彼にとって無意味になる筈であろう絶対不可能な条件を言い渡す。

「幸助。これから半年の期間で、私が持つ妖術を教えてあげます。その代わり、何一つ会得出来なければ、私の家から今後一切出る事を禁じる。もし、教えを乞わなければ、私の庇護の下で最低限の生活は許してあげましょう。それでも、あなたは教えを?」

後戻りが出来ない幸助には二択を与えた。

敢えて、幸助が後者を選ぶ筈だと雪姫は考える。

妖術を習得または会得するのは妖怪だけの特権。つまり、人である幸助には不可能。

この事実を素直に言えば諦めようとするだろうか?否、幸助なら諦めようとはしない。

だから秘匿し、自らの手元で飼い慣らせられる算段を巡らせる。

幸助の答えを知りたいのだ。自らが課した選択を握る彼の意志の強さを………。




予想はしていた。

「その条件ならやらせてくれるんだよな?だったらやるぜ、俺は。あんたに認められる人間にならせてくれ!」

それでも、幸助が雪姫を疑わずに確固たる意思を証明しようと真っ直ぐ言い切った。

あまりの自信に満ちた感情を向けられ、雪姫の罪悪感は更に重ねられる。

表情には見せないように冷徹を取り繕う。

「……分かった。あなたの努力が実ること、期待してる」

人間を騙す、本来の『雪女ユキオンナ』の伝承にも存在する。妖怪好きが自身を知るならば、嘘吐いているなど当然気付くであっただろう。

それが幸助を騙す形となり、彼の為に嘘を吐いた。若しくは、彼を最初から嵌めようと嘘を吐いたに違いない。

しかし、今の幸助に人を疑う疑心は霧すらないのであった。

この時の幸助が雪姫を疑わなかったのは、純粋に憧れていたからだ。

愚かにも、無謀にも、雪姫の嘘が幸助に希望を与えた。

こうして、幸助と雪姫の知られざる半年の期間が幕を開ける。

果たして、幸助に妖術は習得する事は可能なのだろうか?




俺はホッと安堵した。

あの雪姫が俺の気持ちに応えてくれると言ってくれた。

嬉しさでどうにかしちゃいそうだ。このまま、拳を天井を突き破れるんじゃないぐらいはしゃぎたい。

だが好きな妖怪の前だ。ダサい真似はしねえよ。

さ、明日から俺の才能を開花させてやる!

……って、俺はなんの才能持ってるんだろうな?俺にも分からねえよ。


次の日から、俺は雪姫から妖術を教えて貰った。

まず、俺が知るべきことは妖術についてだった。

「雪姫!俺に教えてくれ!」

我慢ならず、ソワソワする気持ちが顔に出てしまう。

「焦らない。とりあえず、妖術の前に妖怪について理解しないと意味がない。そもそも、妖怪が妖術を使用するには己を知らないといけない。自らの伝承が何なのか?それを理解に取り込めなければ妖術は一切使えない」

「伝承?もしかして、伝記とか物語の記された作品の中の自分か?」

「…?もう少し落ち着いたら?何が聞きたいのかが分からない。でも、一応は合ってる」

「わ、悪い…。俺が言いたいのは、妖怪固有の伝説がこの世界で再現されるって言いたかったんだ」

雪姫は表情を変えず、冷たく息を吐く。

「ますます分からない。……とりあえず、私の話を最後まで聞いて頂戴」

そう言うと、雪姫は俺に順序よく説明を始めた。

「『雪女ユキオンナ』。それが私に名付けられた妖怪の名。この世界に生まれる際、私は『雪女ユキオンナ』として生を授かった。人間界で『雪女わたし』が創作され、誰かに認知されたことで生まれたのよ。でも、それだけでは単なる名を知っているに過ぎない」

なるほど!分かり易い説明だな⁉︎

「妖怪が妖界に生まれるには、人がいる世界、つまり人間界で噂や伝承にならなければ生まれないって事だな?」

「そう。随分呑み込みが早いのね?」

「こういうファンタジー系の感じが好きなんでな。続けて話してくれよ!」

最も、こうして妖怪の雪姫と会話出来てるのが楽しくて仕方がない。

てかよ!俺が雪姫の妖術が使えるようになったら凄いんじゃね?

いやいやいかん!今は話を聞かないと。

俺が我慢出来ずにソワソワしてるが、雪姫は特に表情を変えなかった。まるで無視されているように説明に戻る。

「人間が生きる上で、人の子は災害や未知の怪異を恐れた。そして、怪異そのものに生命があると信じた人の子によって、怪異を伝承に記した。それが妖怪と認知され、妖界に生まれ堕ちた」

妖怪が妖界に生まれるには必ず条件がある。

「それっていつから始まったか知ってるのか?」

雪姫は首を横に振る。

「私は500年昔に生まれた妖怪。紀元前を跨ぐ知識は持っていない」

「そっか……じゃあ残念」

俺は落胆した。

「でも、妖怪という概念がなくとも、怪異や未知の恐怖で妖怪名を受けずに生まれる場合もある。多分、私も雪という概念があった時からいたかも知れない」

「っ⁉︎つまり、『雪女ユキオンナ』は妖怪名がない状態からでも生まれていたってわけか⁉︎」

「そうなるね」

となると、雪姫基雪女とは違う雪の妖怪がいたのかも知れない。

「ちょっと面白えな」

「そう?単なる概念だから、その時の記憶なんてない。最も、“災禍様”だったら記憶はあるかもだけど」

災禍様?そう言えば天邪鬼がそんな事を言っていたような……。

俺は一度頭に思い浮かべたが、別に今聞く事じゃないと頭の片隅へ押し込む。

「話を続ける。影の男は7日前に見たでしょ?」

「あぁ…アレは名前あったのか?」

「無い。けど、あの男は妖界で誰かに望まれて生まれた無名妖怪。力だけ与えられた不完全な妖怪ね。それとは違い、私のように名を人間界で賜った伝承妖怪は人間界で生まれた存在」

種類は違うが、ちょっとばかり魅力的な話だな。

無名妖怪と伝承妖怪か〜⁉︎あの人は間違いなく伝承妖怪だよな?

俺は浮かれながらも、好きな妖怪の事を妄想してみた。

会えれば良いんだけどな……。

「妖怪である私達は妖術が使える。だけど、この妖術を使うにはある程度認知された妖怪でなければ使えない」

「え?でも影の男は妖術使ってたぜ?」

俺の疑問に雪姫は淡々と答える。

「あの男は恐らく誰かに雇われた売人。だから、ある程度認知された妖怪と思っていい」

ん?ちょっと引っ掛かるぞ。

「なぁ…?それって、俺が狙われねえよな?」

「……その時は考える」

何だよ、その特に考えてなかった感じ。妖術を教えて貰うよりも気になるじゃん⁉︎

これ、報復ぐらいはありそうで怖えな……。

「それでいいのかよ?」

「私なら簡単に倒せる。たとえ幸助の命を狙ってきたとしても」

頼もしい限りだ。まぁ、今は雪姫に助けて貰うしかないのが癪だけどな。

この際、助けられた分を返せるように思い返しておくのもアリだな。

心の中でそう誓った。

「まぁいいや。早く続き聞きたいから話してくれねえか?」

「そうね。名の無い妖怪でも妖術は使える。だけど、あくまで創造された時の記憶や他者からの捉え方による。私のような『雪女ユキオンナ』だと、人間界にその名が存在する限り、簡単に妖術を習得する事ができる」

そう言うと、雪姫は俺に妖術を見せてくれた。

雪姫の体が宙に浮く。細身だから浮いているのではなく、吹雪に乗るように身を委ねている様だ。

俺を見下すように浮かび、少々冷めた冷気を吹かす。

だが、俺はそんな事を気にする余裕がなかった。

刺激された心が、雪姫の怪異の魅力に侵されてしまった。

「と、飛んだぁーーー‼︎」

「うるさい…」

「いやいやいや!あんた凄えよ‼︎てか綺麗過ぎるぜ‼︎なんだよ⁉︎浮くだけでも人間には出来ないぜ?いや〜俺も烏みたいに飛んでみたかったんだよ!あんた最高だよ‼︎」

満たされる俺の夢。それが目の前で叶えてくれる雪姫に、興奮が抑えられない。

天邪鬼を凍らせた妖術も、宙に浮く妖術も最高だ。

「こんなの、出来て当たり前ね。あなたもいずれは…」

「出来るんだな⁉︎ひゃあ〜!緊張してきたぁー‼︎」

「だから、うるさい…」

俺の興奮に対し、雪姫は冷めた態度だった。

早く妖術を覚え、妖怪人間にでもなって生きてやる。ま、冗談だけどな。

でも、夢は叶いそうだ。俺の才能次第では早まるかも知れねえ。

次々と妖術を振るう。雪姫は作業のように、退屈そうに技を披露する。

「そんな使って良いのか?」

俺は雪姫の警戒心のない妖力消費に口出しをする。

「大丈夫。今私が使う妖力は自然発生した自然妖力。それに、私は精霊と人間との伝承を併せ持った混妖だから、人の姿にも自然にも変えられるから、妖力の減少は控えられる」

雪姫が特別だけかも知れないが、自然の妖力を大量に取り込める妖怪の強さは格段に違うと分かる。

「やっぱ凄えよ‼︎雪姫、もっと見してくれないか⁉︎」

もうこうなったら、意地でも雪姫の全てが見たくなった。

俺がお願いすると、嫌々ながらも妖術を披露してくれた。

雪女ユキオンナ』としての十分過ぎる魅力はまだ続く。

多彩過ぎる妖術の数は数え切れず、分身術・凍結妖術・浮遊術・幻惑術・封印術・怪異の連続は、俺を更なる妖術への関心を高めたのだった。

しかし、雪姫が俺に妖術を見せてくれるなんて良く承諾してくれたもんだ。この町で妖術を使うとなれば危険があるそうだ。

影の男のように、俺達を襲う奴らがいたって可笑しくない。無防備にも程がある。

こんなに妖術を見せびらかすようにやって大丈夫かって?

そこの所は安全らしい。

雪姫が事前に妖術で幻術をかけ、俺達は猛吹雪の中にいる事になっている。吹雪が舞う場所に入ろうとする妖怪は誰もいないとか。それに、今いる場所は亡夜の端に位置する為、来る者はいないと言う。

だから思う存分、妖術を堪能することが出来た。

そして、いずれは雪姫の妖術を使い、オリジナルでも作ってやろうと誓った。




あれから6時間が経ったのだろう。俺は腕時計を確認する。

「ありゃ、かなり時間経っちまったな」

「これで全部。言っておくけど、封印術と奥義を見せたのはあなたが初めて。他人に漏らせば生命そのものを凍らせる」

「お、おう。それは理解した」

妖怪が他者に手の内を明かすことは絶対にない。伝承を知っている相手ならば、尚更明かしてはならない。手の内を明かすことは即ち弱点へと繋がってしまうからだ。

特に『雪女ユキオンナ』はほぼ皆んなが知ってる存在だ。全部漏れたらアウトってわけだ。

見たからには俺も覚悟する必要がある。

「本当に?此処で嘘を吐いてるなら…」

「大丈夫だ。俺があんたの妖術を明かすなんてしねえよ。だって命の恩人だし」

誤魔化すなどない。俺はそんな愚かさなど持っていない。

嘘で取り繕う事は一番嫌いだからな。

「そう……あなたは人に認められたいのね」

冷たく笑う雪姫。やはり、まだ安心はしていない顔をしている。

「そう言うなよな。あんたが俺に全部見せてくれたんだから、俺もあんたに俺の才能ってヤツを魅せてやるぜ!はぁぁっ‼︎」

俺は自信満々に歯を見せて笑い、右の手のひらを空へ向け、力を入れた。

「……」

雪姫は真剣な眼差しでジッと見ていた。

とりあえず気合いでなんとかなるだろう。そんな予感がして、更に右の手のひらが力む。

1分…。思いっきり力んだ。すると、

「あっ、痛っ…⁉︎」

突如、俺の右手に激痛が走った。

「……はぁ…。変な力の入れ方をして筋肉が攣ったのね。余程、刀剣に慣れない筋肉の使い方をしたから」

溜息を吐き、呆れた表情で俺の手を握る。

冷却で俺の手を冷やし、筋肉の攣りを解してくれた。

「悪い…武器って攣るんだな」

「慣れない武器を手に取る事は危険。あなたに授けられた恩人の刀剣、優れものだけど、扱いは難しいもの。人並みに鍛えている幸助でも筋肉を傷めるぐらいに扱い辛いのよ」

「漫画だったら直ぐに使ってる奴多いのに……」

「滑稽噺のこと?」

「なんだよそれ?」

俺は雪姫が言う滑稽噺について聞いた。首を傾げ、雪姫は面白くなさそうな顔をする。

「作り噺。そんな幻想を信じ込むなんて、今の人の子は楽観的なのねって言った」

鋭い雑言だ。正論に近いから俺は気不味くなる。

「うっ…漫画やアニメだとホント才能ばっかなんだ。羨ましくて俺にも出来るって思っちまうんだ……悪いかよ⁉︎」

もっと踏み躙る事を言うのかと思ったが、雪姫は首を横に振る。

「ううん。あなたは自分をしっかり見ている。だから分かる。幸助なら妖術も剣術も使えるんだと」

まだ笑みに本物の喜はないが、繕った笑みで精一杯励ましてくれているように見えた。

それだけで、俺は嬉しくて仕方がなかった。

「あんたに認められたいからな!頑張って一人前の妖術使いになってやる!」

「本当になれたら凄いわね。でも、人間が妖術を扱えることは……」

「よしゃあああっーーー‼︎気合い入れて頑張るぞぉ‼︎」

「……そうね。あなたなら出来るかも」

一度、雪姫が何か否定しそうだったが、俺の耳には入らなかった。

ただひたすら努力するしかないのなら、俺は早く頑張らなければならない。俺があの妖怪に出会い、結婚を申し込む為に。

その為なら、死ぬ気で妖術をものにしてやる‼︎

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