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「やっぱ、何か、おかしいっすよ」
「けど、『地元』に送還させないと、向うの警察が台東区の3つの自警団全てに訴訟を起こすって言ってるんですよ」
俺の指摘に姐さんはそう答える。
俺達は「フカヒレ加工の職人さん達」を称する(本人達が、そう言ってる訳じゃないが)十数人のベトナム人(多分)と共に、民間のフェリーに乗り込んだ。
夜の7時頃に博多港を出発。
途中、門司と神戸……そして、「本物の首都圏」の中でも一〇年前の富士山の噴火による被害が(相対的に)少なかった千葉の銚子に寄港し、丸1日強かけて翌日の深夜に茨城の大洗に到着する。
なお、自称「右翼系政治団体」(実質はヤクザ)である神政会が実効支配している広島と、カルト政党「獅子の党」による一党独裁体制の元、「シン日本首都」を称して、半ば独立テロ国家と化している大阪は、当然ながら避ける航路となっている。
そして、大洗で「地元」の県警が「フカヒレ加工の職人さん達」を迎えに来る手筈になっていた。
「大体……身元の確認はどうやったんですか?」
「向こうの県警は我々を信用してないようで……名前その他の個人情報は教えてくれませんでした」
「まぁ……自警団の中には……ヤクザ紛いのも居ましたしね」
「お前が言うか」
久米からツッコミが入る。
「うるせえ、本物のヤクザ」
「ただし、全員に汎用タイプの個人識別ICタグが埋め込まれていて、それで確認を行ないました」
「疑い出しゃあ、キリがない状況ですか……」
「まぁ、確かに……」
「で、どうなんだ『教授』? あいつらの様子は……」
久米の野郎は、そう言って船内レストランの近くの席に居るベトナム人(多分)達の方に目を向ける。
奴の前には、一番高価い定食にステーキセット。だが、他のメンバーの約倍の量の飯を、一番早く喰い終っている。
一番多い量の飯を一番早く喰い終ってるだけじゃなくて……何故か、今回は、マナーも俺達の中では一番御上品だった。
「英語が出来る人と話した限りでは……何か……僕達の事をヤクザか何かだと思ってるみたいです」
ベトナム人(多分)達は、食事を注文してはいるが……あまり、食は進んでないようだった。テーブルに置かてれる料理が、さっきから少しも減っちゃいねえ。
「似たようなモノだ……待てよ……迎えに来る地元県警とやらはマトモなのか?」
「へっ?」
「富士の噴火で首都圏が滅んでから、各県警の質はピンキリになっちまった。そこの県警は……マトモなのか? 今時、ヤクザの方が良心的な県警なんて山程有るぜ」
「判りました。仙台沖の『豊島区』の自警団に情報の提供を依頼しておきます」
「そもそも……何か……引っ掛か……あっ……」
「どうした?」
「姐さん、中国本土・台湾・香港の全部でフカヒレの取引が違法化されたのに……どこにフカヒレを売る気だ……昼間にそう言ってましたよね……」
「あっ……」
「やっぱりか……」
「あの……どう云う事ですか?」
何故か、一番頭がいい筈の「教授」だけが……裏に有るかも知れないロクデモない事態を推察出来てないようだ。
「だから、中国本土・香港・台湾の全部で、フカヒレの取引が違法化されてるなら、あの『職人さん』達が元々働いてた業者は、どこにどう云うルートでフカヒレを売ってたんだ?」
「やれやれ……ところで……酒頼んでいい?」
「駄目です」
「いや、俺、高速治癒能力とやらの副作用か何かで……1時間で酔いが覚めるから」
「駄目です。我々もお役所仕事なんで、正式なルートで飲酒願いを提出して受理されるまでは、絶対に駄目です」
「やれやれ……じゃあ、デザートに丸天うどん」
「おい、『狼男』。まだ食う気か?」
「だから……御上品な食事は喰った気しねえんだよ」
何で、こんなのが、娑婆に居た時、俺達ん中で一番いいモノ喰ってたんだよ?




