↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第二章 怨霊編~胎児よ、胎児、湖面はそこだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/273

第93話-2 美優vsメドゥーサ

第93話-2


 その声で、翔太の呼吸が少し戻った。

 視界がはっきりする。

 手の震えが止まり、足に力が入った。

 心の闇の渦に呑まれる寸前だった。

 荒い息を吐く。

 そうだ。

 また、あれだ。

 体が先に怯えて、頭が遅れて追いつくやつ。

 ……でも、戻れた。


 いつも美優は、そうだ。

 的確に自分のことを把握してくれる。

 そして救ってくれる。

 何か、手はあると教えてくれる。

 じゃあ、美優は何をしようとしているのか。


 それを確認しようとして、翔太は驚愕した。

 

 その美優が向かったのは、


 ──あろうことか、メドゥーサの真正面だった。


 メドゥーサは折られた肘をもう一方の手でゴキゴキと動かしている。

 そして──ハマった。折られていたのではない。関節が外れていただけだ。


「あ、あなた、鏡なんかで、私を、倒せる、と、思った?」


 そのメドゥーサへ向かって美優は走る。

 翔太の手を引いて。


「これだけ、囲まれているのに、往生際が、悪い、のね」

「そうかしら?」


 見ると、いつの間にかメドゥーサは、自分の石化も解いている。

 ちょっと目を離していた隙に。どうやって──?


(これは──呪いの解除、その手順……この化け物、隠し持っているわね)


 だが、その詮索は今じゃない。

 今は攻める時。

 美優はメドゥーサの目前でいきなり、低くしゃがんだ。

 そのまま体を軸に伸ばしきった左脚で回し蹴りを放つ。


 メドューサの脚を刈るつもりだ。


 しゃがんだのは視線を合わせないため。

 まぶたを上げる前に、攻撃を当てるため。


 そしてこの、美優の攻撃の速度は、メドゥーサを完全に上回っていた。

 メドゥーサも、さっきの手鏡を警戒し、簡単に二人を攻撃できないでいた、そこが隙だった。


 美優の回し蹴りは見事、メドゥーサの両脚を跳ね上げた。

 あの、怪物が。

 ギリシャ神話で知らぬ者はいないであろう、メドゥーサが。


 たった一人の、ただの人間の少女によって、弾き飛ばされる。


 それはまるで、神話が上書きされたような光景だった。


「今よ!」


 そして、美優は翔太を引いて、メドゥーサの横をすり抜ける。

 またしても、奇襲。

 戻ってくるはずがないと思ったところで、正面突破。

 だが、それにも理由がある。

 このメドゥーサの背後には、デルピュネーがいる。


 ──デルと合流さえすれば、また何か策があるはず。


 そう思っての、計算づくの正面突破だった。


 だが、敵は神話上の怪物だ。

 転ばされたメドゥーサ。

 その美しく長い髪。

 それが、


 髪が蛇に変わり、一匹が跳んだ。

 美優の肩を狙って、口を開く。


 速い。


 牙から滴る毒が地面を焦がす。

 まだ美優は気づいていない。

 蛇が大口を開け、美優の肩を噛もうとする。


 しかし。


「させない!」


 翔太の手が先に動いた。

 ぐしゃり、と蛇の首が潰れる。

 さっきまでの恐怖が、一瞬で反転した。

 美優を傷つけるものだけは、許せない。

 弱さが逆向きになる。

 守るための強さに変わる。


 その目には、再び、力が宿っている。


 美優も思わず、その場に止まった。

 

 翔太の手に血管状の光が走っていた。

 イーナリージア。

 魔術回路が燦然と輝いている。


 翔太の目がうすく光ったように見えた。


「翔太くん!」

「ごめん、また俺、どうかしてた」

「ううん、それより」

「分かってる。まずはここから……」

 

 だが、毒蛇の髪の群れは次々と伸びてくる。

 いつの間にかメドゥーサは、頭髪すべてが蛇となっていた。

 伝説上の姿を取り戻している。


 翔太の目がさらに力を帯びた。

「怒り」「憎悪」

 美優を傷つけようとしたことが、許せなかった。


「……飛ぶぞ」

「え?」

「掴まれ。落とさない」


 美優は、何のことか分からない。

 だが翔太に変化があったことは分かる。


「行くぞ!」


 イーナリージア全開。魔術回路がはち切れんばかりに脈打つ。

 翔太は呻いた。


 ──痛い……!


 神経が焼ける。魔術回路が痛覚そのものに巻き付いてくるような痛み、激痛。

 これがリスク。

 修行不足の自身のミス。


 ──それでも!


 冥船《メスケトト》の呼吸、夜の冥府を船で渡る太陽神ラーの力を取り入れるあの儀式。

 四拍吸い、十二拍で肺を凍らせ、六拍で吐く。

 その循環が、魔術回路の痛みを和らげてくれる。

 まだこの訓練を始めて間もない。だから真の力は1000分の1も発揮されない。

 だが──

 やる。

 やれる。

 耐えられる。

 行く!

 もう、


(美優に、助けられてばかりの自分じゃ、嫌だッ!)


 バンッ!


 踏み込みでアスファルトにヒビが走る。

 二人の体が、持ち上がった。

 いつの間にか、翔太は美優を抱き上げている。

 突然のことに美優は、翔太の体をがっしりと掴むしかなかった。


「え……わ……翔太くん、これ……」

「いいから、しっかり、しがみついてて!」


 変わった!

 さっきとは別人だ!

 その言葉に美優は翔太の首に腕を回した。


 まるで空を飛んでいるかのよう。

 その高さは十五メートルほど。


(これ……翔太くんの力……?)


 いつの間にか、これほどの力を操れるようになっていた。

 これには、美優も驚く。

 毎晩の修業の成果──それが、確実に、


(──出てる!)


 すかさず追う毒蛇も、とても届かないほどの高さ。


「速……い……?」


 メドゥーサもこれには驚く。

 さっきまで、翔太の美味しそうな恐怖がこの空間に満ちていた。

 それが、一気に掻き消えたのだ。


「ま、まだ、私の、邪眼、が……」


 そして、再びまぶたを開けようとするも。

 その頃には翔太と美優の背は、

 すでに、夜の闇の中へとかき消える。

 目で追えない。

 邪眼そのものが空を切る。

 メドゥーサは、そこで立ち尽くすしかなかった──


 ◆   ◆   ◆


 一方、下降に入る翔太と美優。

 夜空から林へ。林が結構な範囲で燃えている。


「な、何あれ?

「何か、何かがあったんだ!」


 背後を見ると、天使像が二人を追随している。

 矢の先から白い蒸気が尾を引く。

 だが矢の軌道は届かない。


 すでに林の木々直上に二人の姿はある。

 風がゴウゴウと鳴る。着地まで、あと数秒。

 林の中に入りさえすれば、この天使像からも、姿を隠せる!


 次の瞬間、二人は林へ突っ込んだ。

 

 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ!  


 翔太は体を丸め、必死で美優が傷つかないよう守る。  

 枝が、木々が。  


 バキバキッ! バキバキッ!  

 ザザザザザザ! バキッ、ザザザ――枝が肌を掠める。 


「きゃああああああああああああああ!」  


 この衝撃に叫ばずにいられない美優。  

 だが。  

 翔太は美優を抱えたまま、見事、無事に着地した。  

 なのに、聞き慣れない音。


 バリン!!!


 土を踏みしめたとは思えない、何かが割れる音。


(え……?)  


 ──土がガラス化している……!


 よほどの高熱でもなければ、こうはならない。

 周囲にも熱が残っていて、そこに立っているだけで、肌が痛い。

 周りの木は黒く炭になっていた。

 虫の声もない。


「な、何、この熱気……?」


 炭になった周囲の木々の内部から、まだ真っ赤な熱源が光っているのが分かる。


「美優、無事か?」


 美優は、翔太の腕から降りながら答える。


「さすがに着地の瞬間は、痛かったけど……体は、どこも痛めていないわ」

「良かった……」


 翔太は腕に特殊なイーナリージアを流し込み、それがクッションになるよう変化させていた。

 うまくコントロールできたようだ。


「何が……あったのかしら……」

「分からない。分からないが……」


 翔太と美優は、周囲を見渡す。

 デルピュネーはどこにいるのだろうか。

 そして、ペルセウスは……?


「デルの身にも何かあったのかもしれない……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。