異世界を司っていた者
私の名前は七詩奈々子、普通の社会人である。
私の仕事はデバッガー。
ゲームのバグ取りとか動作チェックをする人である。
少し違うのはそれがゲームの世界でなく小説の世界だという事。
「小説家になろうよ!」は大手の小説投稿サイトだ。
その中でも一足お先にフルダイブ式の体験型小説を導入している。
文字通り小説の中に入る事ができ、VRなんか目じゃない没入感が体験できる。
しかしどう考えても未来過ぎるこの技術…どこから持ち込まれたのだろうか。
答えは未来でも異世界でもない、上位の世界からである。
かくいう私七詩奈々子もその上位の世界の存在だ。
上位下位と言うのは分かりやすく言えば本の読者と本の中の世界の関係である。
私の居た上位世界は当たり前の様にフルダイブ式の小説を楽しんでいる。
そこで一つの疑問が生まれた
「下位世界の存在が上位に上がってこないか?」という疑問である。
最近の小説では「異世界チート物」が流行っている。
要はやばい力を持った下位存在が小説の中とはいえ、わんさかいるという事だ。
上位の存在に気付いた、或いはそれをネタにした小説が上位の世界の枠組みを超えてこないか…
それは当然の疑問であり不安であった。
当然下位世界のマスコミやネット世論を操作、システム面でもセーフティを掛けている。
私の仕事もこれに含まれる。
誰もログインしてない状態の小説を監視し、チート者がやりすぎそうになったら止める。
それだけの仕事だ。
私は下位の世界で「異世界監視委員会」という非公開の小説を作り様々な小説を監視していた。
恋愛物から冒険物、スローライフから村人生活までありとあらゆるジャンルを…
しかし目論見は失敗。
委員会は突如発生したバグによって「チート異世界を見逃す」という方針に変えられてしまったのだ。
私はその「小説を書き替えるバグ」を取り除く為に「ナーロウ」というアバターでフルダイブし、
「バグに感染したやりすぎてるチート者」や「バグその物」を監視・退治・捕獲していった。
結果バグ本体は見つからないし「異世界監視委員会」は崩壊し打ち切りにする羽目になった。
「よし、バグを見つけた…!」
私はフルダイブ機器を取り付けると小説の世界にフルダイブした。
私に小説を楽しんでいる暇はない。
バグやバグ感染者を見つけ対処しなければならない。