一章 徘徊スル悪夢 後編
勢いで三話投稿したけど、なかなかキツイですね...
いちいち前書き長いと本編楽しめなくなりそうなんで、ここらで。(やはり前書きのネタがなかった)
もやにまかれた日向は、苦しそうにもがいている。
「何があったでござるか!?」
さっきまで自分の世界に入っていた雨音が、日向の声で我に帰ったらしい。とはいえ、何があったかはこっちが聞きたい位だ。かなでは、もがいている日向を呆然と見つめている。
「わ...わたしの、せい...なの...?」
これはまずい。さっきようやく取り戻した元気さを、一気に根こそぎ持っていかれた。挙げ句に自分を責めだしてしまった。このままではかなでが壊れかねない。
「しっかりするでござるよ!もし何かあったら、三人で乗り越えると言ったでござるよ!今こそ三人で乗り越えるべき時でござる!」
「雨音がかなでを激励してくれた。雨音ちゃんって、こういうときはしっかりしてるんだなぁ...。
「...そうだね。ここでしょぼくれてちゃダメだね!」
よし。かなでちゃんも戻ってきた。あとは日向くんがをどうやって助けるか...と日向に視線を向けると、日向を取り巻いていたもやが消えてきていた。
「日向くんっ!」
それを見るなりかなでが真っ先に日向の元へ走ってった。
「日向くん、大丈夫?」
うつむく日向にかなでが問いかけるが、返事がない。代わりにゆっくりと日向が顔をあげた。しかし、その瞳はどこか虚空を見ているようだった。そしてその瞳が、赤黒く染まった。とっさに雅は、かなでにタックルして、日向から離した。先ほど感じたとにかくヤバそうな気配が、今は日向から感じる。
「ん?」
雨音が怪訝そうな声をあげる。
「どうした?」
「さっき、日向くんの後ろに人影が見えた気がして...。」
人影...?なんて考えている暇もなく、次の瞬間には、日向が無言で襲いかかってきた。
が、雅にぶん投げられた。
「「えっ...?」」
二人が唖然としている。
「ええと...。なんか体が勝手に動いた。えへへ。」
「いやえへへじゃないよ!?さながら柔道の黒帯並感のキレイな背負い投げだったよ!?勝手に動いたで出来ることじゃないよあれ!」
「あはは...。」
そんなこと言われても本当に勝手に体が動いたんだから仕方ない。
「うぁ痛ってて...。」
先ほど投げられた日向がむくりと起き上がった。その瞳は元の黒目に戻っており、光も戻っていた。
「...何があったんだ?さっき二人を突き飛ばして...?」
「急に襲いかかってきたんだよ。」
雅が言うと。
「ぇ...マジ...?」
そう言って、かなでの方を見る。かなでは日向の方を見ながら、無言でふるふる震えていた。日向はかなでに向き直り。
「ごめん。怖い思いさせちまった...。折角仲良くなれたのに、本当にごめん。」
日向は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「...ううん、大丈夫。そんなことより、日向くんが無事でよかった...。」
その言葉に、日向は優しく微笑んだ。
「カップリングが確定したでござる...。くっ!見せつけてきやがって...。だが尊いから許す...ッ!!!」
あーらら。本調子に戻ったみたいね。無視無視。
「さっき襲ってきたあのもや...。学校の敷地外を覆ってる霧にそっくりだったな...。」
日向がボソッと呟く。
「霧?」
「ああ。窓の外、真っ暗だろ?あれ、実は暗い色の霧におおわれているからなんだ。この暗闇じゃわかりずらいんだけど、懐中電灯のライトを当てても前が見えねぇのは、それのせいだ。さっきのもや、あれによく似た色をしてた...。」
確かにあのもやは、窓の外に見える暗闇に似ている。それにあのもや、過去に一度見たことがある。この階に上がってきた時だ。日向と会話しているうちにいつの間にか消えていたが...。
「あ、そうだ。」
日向がおもむろにポケットを探る。その中から小袋を取りだし、かなでに差し出す。
「なぁ、もし妹を見つけたら、渡してやってくれないか?」
その小袋の中には、可愛い形のクッキーがたくさん入っていた。
「きっとあいつ、今頃腹空かせてると思うんだ。こんなのしか用意できなかったが、少しでも食べてほしくてよ。」
日向は、少し照れくさそうに語る。
「なんで自分で渡しに行かないの?」
かなでが不安そうに言う。
「いや、どうせならあのもやのこと、調べてみようと思ったんだ。あんたら、ここから出たいんだろ?さっき怖い思いさせちまったからな、すこしでも役に立ちたくてさ。」
それを聞いて、幾ばくか安心した様子のかなで。
「んじゃ、頼むよ。俺は俺で、色々調べ回ってくるから。何か分かったら、また会おう。」
そう言って、日向は走り去った。かなでは、日向が走り去った方をしばらく見つめていたが、さっとこちらに向き直り。
「よし、じゃあ、行こっか!」
笑顔で言った。
「ううっ...かなでちゃん健気...。」
うん...これは本当に健気...。
「?二人ともどうしたの?」
「いや。なんでもないでござるよ。」
すごい切り替え能力だね。雨音ちゃん。
「さて、ここからは本校舎に向かう感じでござるか?」
しっかりモードに切り替えた雨音が聞いてくる。
「うーん、確かにそうするべきかn「はいすとーっぷ!」」
雅の話を遮り、何者かの声がした。またも男性の声である。が、日向のものよりも少し明るめというか、高めの声だった。三人は辺りを見回すが、声の主は見当たらない。
「ああ、ごめん。今、魔法で声をそっちに流してるから、そこにはいないんだ。」
ん?魔法って言った?
「キミたちにはこれから、自分の所に来てもらいたいんだ。来てくれたら、おそらくキミたちにも有用な情報を授けようと思うんだが、どうだい?今は少しでも情報が欲しいだろう?」
正直、怪しいことこの上ないのだが...
「いくでござるよ!」
雨音は迷いなくそう言った。
「え!?そんな即答できる!?罠かもしれないのに!?」
かなでが驚きの声をあげる。雅も同感だったが、雨音は。
「罠でもなんでも、情報が欲しいというのは事実でござる。それに、魔法が使える男の子...!一目見ないと帰れないでござるよ!!」
ああ。後半のそれが7割くらい占めてるんだろうなぁ。
「そうかい!それはよかった。では、案内役をつけよう。」
すると、三人の目の前に、フヨフヨと火の玉が。
「そいつを追いかければ、自分のいる所にたどり着く。丁度光源にもなるだろう。じゃ、待っているよ。」
それきり声が聞こえなくなった。雨音が火の玉に興味津々といった様子で近づく。
「おお...本当に火の玉でござる...暖かいでござるよ...!」 やはり魔法ってのに興味があった感じかぁ...。でも確かに、魔法とかいうのが実在しているとは...。「これを追いかければいいんだよね?」
かなでが聞いてくる。
「そう言ってたけど、こいつ動かないね...。」
雅が言うや否や火の玉が動き出した。
「あ!?待つでござるよー!」
雨音が真っ先に火の玉を追っていった。二人も、そのあとに続いて歩き出す。
しかし雅は、後ろから人の気配を感じ、振り返る。すると、生気のない顔をした男性が立っていた。彼は、ヨレヨレのスーツ姿に、ボサボサの髪、くたびれた眼鏡をかけていた。彼と目が合うと、彼は気味の悪い笑みを作った。
「この先へ進むのはお勧めしないなぁ。キミらにはまだ、"仕事"が残っているんだからね。」
瞬間、雅の体に鳥肌が立った。このまま相対しているのは危険だと、体が告げている。
「フフフ...では。もう会わない事を期待しているよ...。」
そう言い残し、霞の如く消えてしまった。
続く...。