筋力カンスト女戦士のわたしの最強装備が、つるはし、ホッケーマスク、ウェディングドレスな件。〜勇者パーティー追放されたので、ちょっと魔王ソロ討伐してきますわね!ふふ、ダーリン。逃げようとしてももう遅いわ
「『みりあむ』、お前はもうクビだ!」
『ツイッタランド』の町の宿屋につくなり、勇者『しいたけ』はわたしに言いました。
「……!なぜです、勇者様?わたしに何かご不満でも?」
「当たり前だ!」
勇者様は叫び、それに同調する声が上がりました。
「そうよそうよ!」
わたしは勇者様の後ろにいる者たちを見ます。
『いかうに』 おんな 賢者 レベル65
スレンダーではありますがその胸は豊満です。
『つこよん』 おんな 遊び人 レベル81
ぼんきゅっぼーんです。
わたしはパーティの先頭に立つ戦士としてお役に立ってきた自負はあります。
そもそも戦闘の役に立つかどうかで言えば『つこよん』なんて戦闘中に転んだり歌って踊ったり、【えっちなぽーず】とってるだけじゃないの。
たまに敵の行動を打ち消すけど滅多にないし、というかこっちの行動も打ち消すし。
そしてもう一人見知らぬ者が……。
「勇者様、彼女は?」
「お前の代わりに入れる武闘家の『みゅう』だ」
「はい、『みりあむ』さんの代わりにパーティーに加入する事となった『みゅう』です」
『みゅう』 おんな 武闘家 レベル1
ロリ巨乳です。
「レベル1じゃありませんか!」
「誰だってレベル1の時はある!なに、しっかりとした装備をさせれば『ツイッタランド』付近なら安全だ。ほら『みゅう』、最高の防具だよ」
そう言って勇者様は鼻の下を伸ばしながら『みゅう』に『すごいビキニ』を渡しました。
確かに女性限定の最強防具の一つですけど!
『みゅう』は顔を赤らめて『ぶとうぎ』を脱ぎ、それを装備し始めました。
わたしは舌打ちします。
なんでレベル30前後が適正の『ツイッタランド』に戻ってきたかと思えばこういうことだったのね。
勇者様は臆病者でした。本来ならレベル60程度の4人パーティーであれば魔王を討伐するに十分であるはず、遊び人をいれてるにしてもレベル80もあれば十分勝算があるのに。
「勇者様、答えていただいてませんわ。わたしをクビにする理由をお答えください」
「お前……筋肉つきすぎて気持ち悪い、醜いんだよ!」
……なん……だと?
「お前の二の腕、俺の太ももくらいあるじゃねえか!」
「あなたの二の腕、わたしの腰回りよりも太いのよ!」
「そうよそうよ!」
わたしは呆然として膝をつきます。がしゃりと大きな音がたちました。
「そんな……勇者様が『ちからのきのみ』を食べ続けさせたからじゃないですか!」
『ちからのきのみ』は、食するとほんの僅かながら筋力を永続的に上げ続けることのできる木の実です。特定の魔物を倒すと稀にドロップするそれを、勇者様はわたしに食べさせ続けました。
高レベル戦士故に高い筋力をさらに上げ続けることによって、わたしの筋肉は人類の最高峰にまで達しています。
わたしは悲しみを堪え立ち上がりつつサイドトライセップスポーズ。
上腕三頭筋をアピールしつつ腕から肩のカットを見せつけます。キレてる!
「それをやめろ!」
わたしは肩を落とします。
「持ち物は全て置いていけと言いたいところだが、勇者がパーティーメンバーを素寒貧で追放させたというと外聞が悪いからな!装備品を1セットだけ持っていくことを許してやろう!」
「勇者様のご厚情に感謝なさいよね!」
「そうよそうよ!」
わたしはとぼとぼと隣の部屋に戻りました。いつも宿屋ではわたしの部屋と、『しいたけ』『いかうに』『つこよん』の部屋に分かれるのです。
ちっ、勇者め、お前なぞもう勇者様ではない、クズ勇者で十分よ。『しいたけ』じゃなくて『えのき』に改名すれば良いのに。
だいたい宿屋出る時に店主が「さくやは はげしく おたのしみでしたね」とか言ってくるのがムカつくのよね!わたしはなにもお楽しみしてねーっつーの!
ぼすぼすと罪なき枕を殴ります。
「……はぁ、追放されちゃったけど、どうしようかしら」
宿屋の鏡の前でサイドチェストのポージングを決めながら考えます。背中の筋肉から尻にかけてのS字ラインに悲しみの雰囲気が放射されているのを感じました。
武器防具一式だけでも、金にはなります。
例えば今のわたしたちにとっては決して強力な武器ではありませんが、黄金装備一式でも持ち帰って売れば、人生何度か遊んで暮らせる程度の金にはなるでしょう。
ちなみにさっきまでわたしが装備していた『りゅうおうのつるぎ』は店に持って行っても、「そんな きちょうな ものは かいとれません!」とか言われてしまうので困ったものですわ。
でもねぇ……。
このまま勇者パーティー追放されて、酒場でクダまいてても仕方ないのよね。勇者パーティーから追放されたという悪名がつくと他のパーティーにも入れてはもらえないでしょうし、結婚も厳しいと思うわ。
辺境スローライフからのハーレムざまぁも鉄板だけど、わたし農業とかちまちましたの苦手なのよね!
……それくらいなら、わたし一人でも冒険しちゃおうかしら。
サイドチェストをフロントダブルバイセップスに変えながら、高らかに叫びます。
「ステータスッ・オープンッ!」
名前:みりあむ 性別:女 職業:戦士 レベル80
そうび なし
ちから:255
すばやさ:58
たいりょく:210
かしこさ:64
うんのよさ:108
さいだいHP:972
さいだいMP:0
こうげきりょく:255
ぶつりぼうぎょりょく:210
まほうぼうぎょりょく:64
ちからはカンスト、つまり人類で最強の一角よ。HPだってまず負けないんだから。
さて、一人で戦うとなると何が問題になるのかしら。ひと昔の戦士であれば範囲殲滅力が足りないというところですけどね。コマンドが、
たたかう
ぼうぎょ
どうぐ
しかなかったのだもの。
でも最近は特技で範囲にも攻撃できますしねえ。【みだれぎり】とか。賢者の『いかうに』が、「MPも使わないくせに全体攻撃とかチートよ!」と難癖つけてきたのを思い出したわ。
ええと、そう言えば魔王城前の、『ナローダリア』の大洞窟に採掘スポットあるのよね。『ヒヒイロカネこうせき』が落ちるんだっけ。……あれ高く売れるのよね。
「これしかないわ!」
E:ガイアのつるはし
両手持ちの巨大なツルハシを選んだわ。攻撃力も斧系統では最強クラスの武器よ!
そもそもわたしが最初に装備していた武器は『こんぼう』だもの。剣よりも斧系武器の方が得意なんだから。
ええと、こうなると盾が持てないんだけど、わたし防御力は高いのよね。どちらかというと魔法に弱いから。
「……これかしら」
E:こうきのウェディングドレス
なんで女物専用防具がビキニの水着とかドレスで最強防具なのかしらね!
物理防御力だと流石に鎧でもっと硬いのあるんだけど、魔法防御ならこれが最高よ。歩行時のHP回復効果もあるし、【耐性:麻痺】もあるから一人旅には向いてるんじゃないかしら。
セット装備は、『こうきのベール』ですわね。
えーと、セット装備効果が、【耐性:魅了、混乱、狂乱】と。素晴らしい装備品だわよね……ん?
そのときわたしに天啓走る。
「ソロなら混乱系の耐性いらないじゃない!」
そう、間違えて殴る相手がいないですもの!
「となると……」
わたしは白い仮面を手にしました。『13にちのホッケーマスク』これを装備していると戦闘時、【狂乱状態となる】代わりに肉体が圧倒的な防御力を得られるようになる呪いの仮面ですわ。
そして【耐性:石化、即死】!むしろ一人旅ならこちらが必須ですわ!
わたしは両手でホッケーマスクを手に取ると、そっと顔に押し当てました。
E:13にちのホッケーマスク
でろりろりろりろでっでーでん。
呪われた気がするわ!
再びフロントダブルバイセップスのポーズを取って叫ぶ。
「ステータスッ・オープンッ!」
名前:みりあむ 性別:女 職業:戦士 レベル80
そうび
E:ガイアのつるはし
E:こうきのウェディングドレス
E:13にちのホッケーマスク(呪)
ちから:255
すばやさ:58
たいりょく:210
かしこさ:64
うんのよさ:108
さいだいHP:972
さいだいMP:0
こうげきりょく:465
ぶつりぼうぎょりょく:415
まほうぼうぎょりょく:184
たいせい:まひ、せきか、そくし
これは殺れる!
「シュコー……シュコー……」
「どうした、出ていく準備はでき……ひぃっ!」
「シュコー……シュコー……オセワニナリマシタ」
わたしは淑女らしく勇者『しいたけ』にカーテシーをして宿屋を出ました。
さあ、魔王領へ!
……そしておよそ一年。苦難の旅の果て、わたしはついに『ナローダリア』の洞窟を抜けました。
レベルも85まで上がりましたわ!
そして何度もアタックする度に『ヒヒイロカネこうせき』を掘っては換金して『あずかりじょ』に貯金していったので、ひと財産できましたの。金遣いの荒いパーティーメンバーも、カジノで金を減らすメンバーもいませんしね!
そして洞窟を抜けた先、さらに厳しい魔王領での戦いを経てついに『まおうじょう』ですわ。ですが巨大な城門の前には身の丈10mはあるであろう全身が石に覆われた竜が!
「ふはは、良く『まおうじょう』へ辿り着いたな勇し……誰?」
門番の邪石竜が言います。わたしも名乗りを上げましょう。
「わたしは戦士『みりあむ』、魔族を滅ぼすもノヨ!……シュコー……シュコー……コロス」
「ひいっ!?」
がつんがつんとガイアのつるはしで邪石竜の鱗を叩きます。
邪石竜は石化のブレスを吐きますが、効かないわ!【耐性:石化】あるもの!
そしてつるはしは石の体のモンスター特効!ダメージ倍!ひゃっほう好相性ですわ!死ね!
がつんがつん。
「グアァ、この俺を倒すとはなんという強きものよ。だが残念であったな、この門は魔王様かそれに匹敵する勇者の力でもなくては開くことは叶わんのだ」
倒したのにまだ割と元気そうな説明セリフですわね。
わたしはつるはしを構えます。
「ひいっ!……ふはは、ムダなことよ」
わたしは門の脇の壁を掘り始めました。
「えっ」
そもそもわたし、勇者『しいたけ』が持っていた、どんな扉でも開けられる『でんせつのカギ』はないので。
ちなみにこの道中の町やダンジョンにあった全ての鍵のかかった扉の横の壁に穴開けてきましたから。
がつんがつん。
城内へと入ったわたしは『まおうじょう』を穴だらけにしつつ、その中でも最も豪華であろう扉の脇の壁を崩します。
おお、謁見の間ですわね!
巨大な広間に鮮血の如き赤い絨毯が伸び、その脇には無数の上級魔族が並んでいます。最奥からは瘴気が吹き付けるよう。
「ものども、かかれ!」
「シュコー……シュコー……コロス……コロス……!」
わたしは無数の魔王軍の猛者達を掘削しながら奥へと進みました。
そうして全身を血に染めながらも最後の一体まで倒し、謁見の間の最奥、玉座の前に立ちます。
「ついにここまで辿り着いたか……」
玉座に座る魔王が立ち上がりました。
これが魔王!
なんという威圧感でしょうか。身の丈3m程と魔族にしては決して巨躯ではありませんが、その体から放たれる魔力たるや!
そして人類では到達し得ぬ筋力!そう、彼の二の腕はわたしの腰回りくらいの太さがあります。筋力カンストしたわたしよりたくましい!
彼は低く、よく通る声で話しかけてきました。
「勇者『しいたけ』よ、なにゆえ……誰?」
「わたしは戦士『みりあむ』」
「おお、勇者『しいたけ』のパーティーにおける美しき最強の女戦士と聞く。勇者達はどうしたのだ。というかなぜ呪われたホッケーマスクなのだ」
彼は重々しく頷きます。ねえ聞いた?美しいですって!美しいですって!
「いえ、パーティー追放されたのでソロですわ」
「えっ」
沈黙が広間を満たしました。
「戦士『みりあむ』よ、勇者の血をひきし者が、神器なくしては破れぬような仕掛けが道中何度もあった筈だが」
「隣の壁を壊してきましたわ」
「えっ」
再び沈黙が。
今度はわたしから声をかけます。
「あの、美しいって……」
「うむ、戦士『みりあむ』が美しいという話は部下からも良く聞く。そう言えば勇者『しいたけ』と他のメンバーの噂は最近聞かなくなったな?」
そりゃあわたし一人だけが先に進んでますから。
ちなみに魔王領に入る前の最後の町、『ラインシティ』での噂だと、勇者一行は乳繰り合って先に進まないのにキレた王様によって勇者の地位が剥奪されそうとか。
ざまぁですわね!
「わたしは醜いと言われて追放されたのですが……」
「お前のような筋肉の持ち主が醜く、あのような貧相な筋肉に胸だけ肥えたような体型が美しいのか?人間は良くわからんな」
おおっと、マッスルマッスル!思ったより魔族が筋力至上主義ですよ!
「だがいかに美しかろうともお前は我らが魔族の敵、死すべき定め。わが腕の中で息絶えよ!」
「それってプロポースですか!」
「えっ」
「えっ」
だって死ぬ時はわたしの腕の中ってめっちゃ情熱的では?
「待て『みりあむ』、汝は人族であり、我は魔族だ。結ばれることはない」
魔王様は慌てた声を出しました。ロミジュリですわ!きゃー!
「待て『みりあむ』。なぜテンションが上がっているのだ。【ちからため】も【ハッスルハッスル】もしておるまい」
「シュコー……シュコー……」
「に、【にげる】させてもらうぞ!」
魔王様は逃げ出した!しかし回り込んだ!
「待て『みりあむ』!我の方が明らかに素早いはずだ!」
「シュコー……ラストバトルカラハ……ニゲラレナイ……!」
「待て!落ち着け!……そうか。【リムーブカース】!」
カラァン。
『13にちのホッケーマスク』が外れ、真っ二つに割れて地に落ちました。
頬に涼しげな風を感じます。そして呪いに侵されていない澄んだ気持ちです。
実に一年半ぶりくらいに私の顔から仮面が外れたのです。
広くクリアな視界で魔王様を見ます。
わたしより、どんな戦士よりも逞しい筋肉、そして精悍な顔立ち。額には真紅の魔眼、雄々しく聳り立つ二本の角。
美しい……。そんな彼は頬を赤らめていました。
「くっ、失敗した。美しいのは筋肉だけではなく、顔もではないか」
小さく呟かれましたが、他に生けるもののいないこの広間に思いのほか大きく響きました。顔も美しいって!
「結婚しましょう」
「いやだから待て」
「好きです」
「ううっ、だから種族が……」
「愛してます!」
届けこの想い!
わたしにできる愛を示す手段!武器など不要!わたしはつるはしを投げ捨て、両の拳を握りしめ、叫びます。そう、モストマスキュラーのポーズで!
「愛してます!」
三角筋から僧帽筋・腕の太さをアピール!
「愛してます!」
叫びながら首の筋肉もアピール!モストマスキュラーの意味とはそう、最も筋肉!つまり全身全霊の最大限の筋肉を膨張させて吼える!
神によって織られたという『こうきのウェディングドレス』が、今まで幾度の攻撃にも魔術にも耐えてきた最高の防具がみちみちと音を立てます。
「愛してます!」
バリィ!
ついに『こうきのウェディングドレス』が内側から破れました。
そうび なし で叫びます。わたしはこの身一つで愛を示す!
ボロボロのドレスを引き剥がし、下着のみの姿で全身の筋肉をさらにパンプアップ!
「魔王様、愛してます!」
わなわなと顔を押さえ震えていた魔王様は、ついにその口を開きました。
「ナイスバルク!」
魔王様が!魔王様がわたしの筋肉をナイスと!
「愛してます!」
「デカい!他が見えない!」
わたししか見えないって!
「愛してます!」
「キレてるよ!」
筋肉の筋のひとつひとつまで見えてるって!
「愛してます!」
「どんどん迫ってくる!」
わたしは一歩も動いていません。でもそう、わたしの筋肉が、いや私という存在が魔王様の中で大きくなってるという称賛の言葉!
「愛してます!」
「俺もだよ!」
わたしは全力で魔王様に飛びつきました。魔王様は両腕を広げ、それを受け止めます。
ガキィン!
衝撃波が広間を走ります。
凄い!わたしが飛びついて身体が揺るぎもしない!
こうして、人間と魔族の戦いは終わった。
人間の妃を迎えることとなった魔王は半壊した魔王軍と魔王城を再建すると、夫妻で人類の主要国の王城を急襲。
つるはしで城壁を破壊して人類の王族の前に立ち、少しの魔王領の拡大と、勇者『しいたけ』の名を『えのき』に改名させることを条件に講和条約を結ばせた。
そして魔王領は人間との交易、農業などで豊かになっていき、王城では夜になると夫婦の寝室から「ナイスバルク!」という掛け声が響くようになったという。
ξ˚⊿˚)ξ <……なんだこれ。