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道化師  作者: 夜行
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 道化師は数字に縛られる。




 それが道化師にとっての強みで弱みだ。道化師はそれぞれ1つの数字を持っている。俺は【5】の数字。そしてジョーカーは【8】の数字を持っている。そしてこの数字が小さければ小さいほど強いとされている。

 道化師は4つの能力がある。それはさきほど俺が最初に使った能力、具現化能力だ。

 これは五行を召喚、具現化できる能力だ。五行というのは元は陰陽師のものだが俺ら道化師も扱える。これがスペードのカードの能力。

 次の能力は肉体強化能力。これは肉体を強化し、爆発的な超人の様な動きが出来る様になる。これがクラブのカードの能力。

 次に回復の能力。これは傷を癒す力だが、戦闘中に使う事はほぼない。これがハートのカードの能力。

 そして最後が防壁能力。これはほとんど使う事はないに等しい。これがダイヤのカードの能力。

 なぜかというと使い勝手が非常に悪い。これは完全に守りの能力だ。戦闘において守りだけというのはありえない。攻撃できないと意味がない。だから主に使うのは具現化能力と肉体強化能力という訳になる。

 そして先程も言ったが道化師は数字に縛られる。道化師の能力の継続時間は5分だ。そして次の能力を使えるまでの時間は自分の持っている数字。簡単に言えば俺は1度能力を使ったら次に使えるのは5分後、ジョーカーは8の数字だから8分後ということになる。つまり能力発動時間は5分で、俺は能力が切れる時間、クールタイムが5分。切れればすぐに次の能力を使うことができる。一般的に道化師の強さは5以下なら次元が違うとまで言われている。

 5以下の数字を持つ道化師は能力が切れることなくエンドレスで使い続けることができる。しかも重複でも使える。これはかなり強い。

 ほぼ戦闘で使うことのない防壁能力や回復能力。これらを使いながら攻撃もできるとかまじでありえねー。勝てる気がしねーよ。

 絶対に4以下の数字の道化師とは会いたくないもんだ。

 あと1度カードを消費してしまうと、そのカードが復活して使えるようになるには1週間かかる。だから強いカードをそんなほいほい使ってられない。何も強いカードがなくなったときに攻められたら終わりだ。ある程度の戦闘があった場合、カードが復活するまでの1週間はおとなしくしておくのがベストだ。イコール断食……。なーえーるー。

 はーあ。なかった事にしてぇ。

 まぁ断食とか無理なんで、死んじゃうんで、こっそり静かに殺して喰うしかねーよな。

 ちなみに各々が持つ数字は変化する。どうやって変化をするかというと、人間を喰った数だ。人間を多く喰えば喰うほど、道化師は強くなる。反対に食わなければ死んでしまう。

 まったく燃費の悪い生物だとつくづく思う。いや、生物じゃないのかもしれない。ただの物の怪、ただの化け物だ。まぁそれはあくまで、この夢の世界の出来事なんだけどな。まったく変な夢だと思う。妙にリアルだし、時々こっちが現実世界なんじゃないかと思う。しかしそれは勘弁願いたいところだな。

 なんでかって? そりゃ人間を喰う化け物が本当の自分とか考えただけでも気持ち悪いだろうよ。

 俺だったら絶対に嫌だな。夢でよかったとつくづく思う。

 さぁジョーカーから逃げおおせたのはいいものの、さすがに次の狩りなんてできるわけもない。なんだかテンションが上がらないし、もうすぐ朝日が昇る。こんな夢の世界でも朝日が昇り、また1日が始まっていく。

「はぁ~あ。そろそろ起きるか。しかし、あの子供を全部喰えなかったのは残念だったなぁ。けっこう美味かったのに……。これも全部ジョーカーのせいだな。今度会ったらお仕置きしてやろう。ってか、なんで道化師の癖に人間の味方なんてしてやがんだ? まぁ忘れなかったらいつか聞いてみるか」

 俺はそう思いながら朝日に身体を焦がし、目を瞑った。

 そして目を開けると俺は、いや僕は現実世界に、自分の部屋のベッドに寝ていたのだった。









 ♠♣♥♦




 こんな生活を僕は毎日している。いつからしているかは覚えていない。これが僕にとっての日常だ。夢の世界でもこっちの世界でも起きっぱなし。これは毎日徹夜なのかなって思うけど、別に眠くはならない。だってあっちは夢で本当の僕は寝ているんだから。

 さぁ、今日も1日が始まる。学校へ行って、勉強して友達と馬鹿やって青春する。葉月ももちろんいる。充実していると実感出来ている。それでも嫌気が差す。そんな充実しているからこそ、ぶっ壊してやりたいと僕は思う。これは夢の中の僕の悪影響なのかもしれないな。同じことの繰り返しなんてつまらない。

 時々思うことがある。もし、夢の世界のピエロの能力をこの現実世界で使えたなら、僕は何をするだろう? きっとロクなことはしないと思う。でもハッキリしている事が1つある。それは――。

「人間を喰うかな」

 しかもその人間は決まっている。僕の可愛い彼女。誰よりも大好きな彼女。そんな大好きな彼女。

「どんな味がするんだろう」

 そういえば不思議と夢の世界で葉月と会ったことはない。1度くらい出演してくれてもいいのにな。そしたら真っ先に喰ってあげる。骨1本残さずに喰らい尽くしてあげる。

 そんな事を考えていると後ろから「わっ!」と言われた。僕の身体はビクリとすくんだ。

「ビ……ビックリしたぁ……。心臓止まるかと思ったよ、葉月」

 僕を脅かしたのは葉月だった。なんというタイミング。

「なぁあんかね、悪そうな事を考えている顔してたっぽいから、こっちの世界に引きずり戻してあげたの」

 そんな事を笑顔で言う。これは敵わないな、と思い僕は笑った。

「葉月には敵わないな」

「ありがたいお言葉で」

 葉月は騎士の様に手を胸に当てて僕にお辞儀をした。

 相変わらずノリがいい子だなと僕は思う。僕にはもったいない彼女だ。好きになればなるほどある感情が芽生えてくる。どうしようもないこの感情。

「本当……美味そうだな」

 僕は思わずボソリと呟いた。

「え? なに?」

「あぁ、いやいや、なんでもないよ」

 とっさに誤魔化す。

 でも実際、そうは思ってもそうはならない。当たり前た。僕は人間なんだから。

「ふぁーあ、あー、眠い」

 ような気がする。

「なに? 寝不足?」

 実際どうなんだろうか。いくら寝ても朝は眠いってやつだろう。

「朝弱いんだよね」

「誰でもそうです」

「あ、はい」

 ごもっともな意見を頂いた。

 それから特に会話もなく、てくてくと2人で歩いて登校する。せっかく一緒にいるのに会話をしないなどありえないと思うかもしれないが、これが不思議と心地よい。何も会話がなくても気まずいとは思わないし、何かを喋ろうとも思わない。お互いそれが嫌だとかそういうのもない。

 自然体。と言うのか。意思疎通が出来ているような気がして僕は意外と何も喋らない時が好きだったりする。

 ふと葉月はどんな顔をしているんだろうと思って顔を見たら目が半分閉じていた。とゆーか寝てない? 歩きながら寝るとか化け物かよ。

 あっ。

 このまま歩いて行ったら間違いなく葉月は電柱にその可愛い顔をぶつけるだろう。しかし起こすのも忍びない。とゆーか若干ぶつかる姿が見たい。きっと痛がる姿も可愛いはずだ。

 そんな事を思いながら歩いているとどんどん電柱が近づいてくる。そして――葉月は電柱をスッと避けた。

「…………」

 非常につまらん。とゆーか器用だなぁ。嬉しいような残念なようなとても微妙な気持ちになってしまった。

 その後も葉月は半分寝ながら登校した。もしかして葉月はイルカか何かなのかと若干本気で思ったりもした。イルカは右脳と左脳を半分ずつ眠らせて活動すると何かで聞いたことがある。

 葉月、水泳得意なのだろうか。

「そんじゃまたね~」

 僕たちはクラスが違うので下駄箱で別れた。ようやくお目覚めか? 教室までたどり着けるのか不安になってくるが小学生でもあるまいし……。いやいや、やっぱり心配だ。ちょっと見に行こう。

 僕は葉月のあとをすぐ追いかけた。

「あ、あれ?」

 どこ行った? すでに見失ってしまった。突然覚醒して走って行ったのだろうか。あぁ、それかトイレかもしれないな。さすがにトイレの中で寝たりはしないだろう……たぶん。

 僕は諦めて自分の教室に向かうしかなかった。

「おはろ」

「おう」

 とりあえず自分の席の近くのクラスメイトに挨拶をする。そんな仲がいいというわけでもないが一応ね。

 あ~というかすでに帰りたい。勉強なんてやる気も糞もない。特にこの学校が進学校というわけでもないし、そこまで勉強する気にはなれない。だって僕、普通科だし。ちなみに葉月は看護科。看護師を目指している。

 将来の目標が決まっているなんてすごいと素直に思う。ひきかえ僕はただ生きているだけ。ここで普通なら付き合っている彼女彼氏と同じ大学に行くだとかいう選択肢もあるだろうが、さすがに無理デス。医療なんてちんぷんかんぷんデス。

 だから僕は僕の道を自分で決めて進まないといけない。はたして見つかるのだろうか。

 そんな事を考えているとチャイムが鳴った。はーあ、1日が始まってしまう。

 よし、とりあえず寝よう。うん、それしかないよね。先生が教室に入ってきて出欠をとっていく。さすがに返事をしないと遅刻、もしくは欠席扱いになってしまうので、そこだけはしっかりとイケボで返事をしておいた。

 それが終わればお昼寝ならぬ、朝寝タイムの開始だ。

 不思議と仮眠するときはあの夢の世界には行かない。行こうと思ったら行けるけど、さすがに少しの時間で戻ってこれる気がしない。ジョーカーに見つかったら尚のこと帰れなくなってしまうしな。

 そして目を閉じて開けたら昼になっていた。

 夢は見ていない。本当に寝たのかと思うほど一瞬の出来事だった。お昼は購買に行って適当に何か買うか。本当は葉月と一緒に食べたいのだけど、向こうは向こうで付き合いがあるし邪魔しちゃいけない。

 さっさと適当に買って誰もいない場所を探す。

「おや? こんなところに誰も座ってないベンチが」

 誰もいないんだから先に座った者勝ちでしょ。

 僕はベンチの真ん中に腰をおろしてカレーパンを食べた。

「……まずくはない」

 きっとおいしい部類に入るのだろうが、なんというかあれだな。どうしても比べてしまう。そしてアレよりもうまいとは思えない。いやそもそも比べるのがおかしいってことはわかっているのだけど、どうしても、ね。

「人、食べたいなぁ」

 なーんてぼやいてみたり。

「え? なに食べたいの?」

「どわっ」

 なんということでしょう。いつからそこにいらっしゃったのですか葉月さん。

 ベンチの後ろから葉月はひょっこり顔を出していた。

「いや~ぼっちは寂しそうだなと思いましてね」

「ぼっち言うな」

「独りぼっちは寂しそうだと思いましてね?」

「言葉の暴力って知ってる?」

 葉月はくつくつと笑う。なんとか話しはごまかせたようだ。深く聞かれなくてよかった。

「友達とご飯食べてたんじゃないの?」

「まぁそうだけど、どっかの誰かさんが寂しそうな背中してたからね」

「……そんなに?」

「うん」

 と葉月は真面目に答えた。

 どうやら僕はとても可哀想な奴に見えるらしい。きっと陰口とか言われてるんだろうなぁ。

 そんな事を思ったらあることに気が付いた。じゃあ、そんな僕と付き合っている葉月は周りからどんな目で見られているんだろうか。そう思ったら急に自分が情けなく思えてきた。考えたくもないが、簡単に予想がつく。きっと葉月は周りからなんであんな奴と付き合っているのか何度も嫌な質問をされているはずだ。そしてその質問に心を痛めながら答えているはずだ。

 自分の為に自分を変えるなんてできない。でも大好きな人の為なら自分を変えられる。これが誰の言葉だったのか忘れたけど、いま不意に思い出した。

 ごめん、と謝るのは簡単だけど、きっとそれは言ってはいけない。気が付いてはいけない事なのだろう。口に出しては決していけない言葉なのだろう。優しさというものが存在するならここは何も言わずに黙っておく場面だ。

「葉月は弁当?」

「うん? うん、そうだね」

「自分で作ってるの?」

「まっさかー。皐月、アニメの見すぎじゃない? 高校生で自分で弁当作ってる女子なんてそうそういないよ」

 幻想は見事に打ち砕かれた。

「1人暮らしの女子高校生とかもいるかもしれないけど、まずいない」

 言い切りやがった。僕の純粋な気持ちを返せ。

「あんなのはファンタジーの世界だけです」

「ソーデスネ……」

 悲しいかな悲しいかな。世の中はそんなにオタクには優しくないようだ。別に僕がオタクというわけではないけども。夢を見たっていいじゃないかと声を核爆発の大きさぐらい叫びたい。先に僕の喉が爆発するだろうけど。

「で? 皐月はなに食べてるの?」

 そう言われて僕は食べかけのカレーパンを見せた。

「カレーパン好きなの?」

 どうなのだろうか。なんとなく手にとっただけだけど、結構頻繁に食べている気がする。つまり。

「うん、たぶん好きなんだろうね」

「たぶんか」

「たぶんだ」

 自分でもようわからん。

 それから他愛もない会話が続いた。基本、話を振るのはいつも葉月だ。そこから話が広がってくる。僕は自分からよく話す方じゃないからすごく助かっている。これは葉月の人間性にもよるのだろう。

 そんな楽しい会話をしていたら第三者からの声がした。

「葉月」

 声だけでイケメンだとわかるイケボだった。そこに立っていたのはうちの学校の生徒会長だった。

「怪鳥ですか」

「いや、なんだか字が違う気がするぞ。俺の名前にあるのは島であって鳥ではない」

 八島カイ。それが生徒会長の名前だ。うん、鳥にカイで怪鳥だな。誰が言い出したんだろ。無理矢理だけどうまいな。

「ちょっといいか? 話したいことがあるんだが」

「ダメです。いま忙しいから」

 まぁ嘘だね。まぁ僕にとっては嬉しい嘘か。

「すぐ終わる」

「生徒会には入りません。入る気もありません。話は以上です。お引き取りください」

 ものすごく冷たい。葉月は昔からこうだ。あたり前だけど興味がないことにはとことん冷たい。現代でいうツンデレか?

「いや、生徒会ではない。ここではなんだから場所を移したいんだ。少しでいい」

 あからさまに嫌な顔をする葉月。すっげー顔だなおい。顔が歪んでいるぞ? 光みたいに屈折してる屈折。

 葉月は本当に遠慮なく大きな溜息をついた。

「ごめん。皐月。ちょっと待ってて。1分でボコボコにして戻ってくるから」

「お、おう……」

 なんとも物騒な。しかも本気でやりそうで怖い。僕もついて行った方がいいんじゃないかと本気で心配になる。

 チッ。

 と、聞こえた気がした。とゆーか確実に聞こえた。葉月には見えないようにあからさまな視線と態度を向けてきた。

 あぁ、なんだそういう事か。僕がお邪魔な訳だ。

 葉月はモテる。だから僕が邪魔。きっとデートのお誘いなんだろうとなんとなく思った。僕の存在は知っているはずなのにな。それでも葉月を狙っている人は多いと聞く。風の噂で。そうなってくるとなんで僕なんかと付き合っているのか本当に不思議に思う。

 きっと僕はこの人にさぞかし恨まれているだろう。個人的に呼び出されたらどうしようか。なんて考えていたら葉月がもう戻ってきた。

 まさか本当にボコボコにしたのだろうか?

「はあーやだやだ。本当しつこいったらありゃしない」

 なんだかババ臭いこと言うなぁ。

「もう何回も断ってるのにさー、ネチネチと毎回同じこと繰り返し繰り返し。飽きないのなかね~」

「えっと、生徒会?」

 僕は恐る恐る聞いた。どっちの意味なのだろうかと思ったからだ。

「半分当たりで半分ハズレ」

 予想通り。生徒会はおそらく口実だろう。

「ほんっとねちっこい奴」

 どうやら葉月さんはかなりのご立腹だ。そうとうしつこいのだろう。ここで僕が一言いってくる、とかかっこいい事を言えたら1番いいのだろうけど、残念ながら僕にそんな勇気はない。

「ごめんね。嫌な思いさせちゃって」

「いや、葉月ってやっぱモテるんだなーと再確認した」

「どうにも性格が悪い人がよってくるらしく」

「どーもすいませんね」

 ただの皮肉だ。

 そんな事を言い合って笑った。それから葉月の愚痴はとどまることを知らずに、僕はただただ聞き専に徹することになる。

 これが僕の人間としての日常だ。悪くはないのかもしれない。けど、と思ってしまうのもまた事実だ。人間はどんな事にも満足なんてしない。いずれ慣れてしまってさらにエスカレートする。歯止めなんて言葉は存在しない。人間は醜い。僕も含めて。


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