2.変わるということ。
「あ、あの……! どうして服屋に!?」
「俺のファッションセンスを試すためだ」
「なぜ、ファッションセンス……?」
俺はカイナと共に、女性服の店を訪れた。
連れてこられただけの彼女には申し訳ないが、これも人間の社会に溶け込むための訓練といったところ。ひとまず、この子を着飾らせればセンスは分かるだろう。
そう考え、手近な場所にあった小さなワンピースを手に取った。
「あ、あの。もしかして、ぼくに買ってくれるんですか?」
「――そうだな。せっかくだ、好きなものを選ぶといい」
「あ、ありがとうございます!!」
「ん、なぜ感謝する?」
そして、それをカイナに手渡す。
するとどういったわけか、少女は今にも泣き出しそうな笑顔で感謝の言葉を口にした。俺はその意味が分からずに、首を傾げてしまう。
物をもらう、ということがそこまで珍しいのか。
そう言えば昨夜、酒場の男はカイナを奴隷と呼んでいた。
「ふむ……。お前は、今までどうやって生きてきたんだ」
「え、ぼくですか……?」
「そうだ」
そのことに、少しながら興味を抱く。
人間の中にも奴隷制がある、というのは知っていた。
しかし、それを是正できない現状に、いったいどのような問題があるのか。俺は実際にその身分にある彼女から、話を聞いてみたいと思ったのだ。
「ぼくは、ずっと色々な冒険者の人の身の回りをお世話してきました。炊事に洗濯、掃除に――その他にも、色々なことがありました」
「………………」
カイナはそう言って、むき出しの肌――そこにある生傷を隠すように、腕を組んだ。目を伏せて寂し気、悲し気な表情を浮かべている。
おそらく、昨日のような出来事は頻繁にあったのだろう。
生き物というのは残酷だ。
自分より下だと判断した者には、容赦することがない。
それは、魔族にも人間にも見られる傾向。
「ならば、どうして昨夜は違ったんだ」
「え……?」
そんな事実に反吐が出そうになるのを堪え、俺はまた訊ねた。
昨日のことを。どうして――。
「カイナは、自分の意思を伝えるために立ち向かっていた。なぜだ?」
今までの関係を覆そうと、動いたのか。
服を選びながら、俺は視線を少女に投げかけた。
すると彼女は、少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながら答える。
「変わりたい。いや、変えたいって、思ったんです」――と。
それを聞いて、俺は手を止めた。
想定外の言葉だったからだ。
「変えたい、とは?」
「えっと、ぼく思ったんです! 自分も強くなれば、いつかきっと、ぼくみたいな目に遭う子供たちを救えるんじゃないか、って!!」
「ほう……?」
なるほど、そういうことか。
何かキッカケか分からないが、この少女の志は素晴らしい。だが――。
「へ、変ですよね……。ぼくみたいなのが、こんな……」
「あぁ、変だ。弱い者が牙を剥いても、何も変わらない」
「あはは……。やっぱり――」
「だが、弱いのであれば牙を研げばいい」
「――え?」
まだまだ、足りていない。
手段も、方法も、なにもかもが。だから――。
「弱いまま語るのは、たしかにおかしい。だが、これから強くなることを考え、その先に語るのならば誰も文句は言えない」
俺は、最後に選んだ服を手渡しながら。
カイナと視線を合わせるように、膝を折って語り掛けた。
「俺が、お前を鍛えよう。誰にも負けない戦士へと……」
「…………!」
少女は目を輝かせて、頭を下げて言う。
「ありがとうございます!!」――と。
こうして、俺とカイナはパーティーを組むことになった。
◆
余談だが、俺が選んだ服を見てカイナは言った。
「えっと……。アドさんのセンスも、その――少し変ですね」
「なに……!?」
どうやら、俺が人間の中に溶け込めるのはまだ先になりそうだ。




