七色の鱗 32
裕太は自分の中をたくさんの何かが駆け抜けていくのを感じる。それは裕太の中にわだかまっていたよどみを払い、散らかっていた裕太の感情を吹き流した。
裕太は白い光の中にいた。上も下もない、ただただどこまでも白いだけの空間だ。しかし裕太はもうそれを怖いとは思わなかった。もう裕太は自分が何をしたいか、そしてそのためにはどうすればいいかがわかっていた。
裕太は虚空に向かって手を伸ばした。そこにはただ白いだけの空があるばかりだ。しかし裕太はそこに手を伸ばしてそして何かをつかんだ。
「さあ、行こう」
裕太はそうつぶやくと。目を閉じて、願う。
そして裕太は彼の望む夢の中に立った。
そこはさっきとは真逆の真っ暗な闇の世界だった。何もない空間にただ自分だけがぽっかりと浮かぶ。裕太はもうその空間を見慣れていた。
裕太は思い出す。自分がその中にいたときのことを。
何も考える必要がなく。何も感じる必要がなく。何も思う必要がなく。そんな実も凍るような安寧に思いをはせる。
裕太は確かにそれを望んで、それを心地いいと感じていた。でも今は違う。
歩みを止めたものはきっとただ一人の休息に取り残される。裕太はそう知っていた。
裕太はその空間をゆっくりと進んでいく。いや進んでいくといってもこの真っ暗な空間ではそれを証明することはいできない。しかし裕太には自分が目的地に近づいていることがわかっていた。
真っ暗な空間で一人浮かんでいた。何もしたくない。何をすればいいかわからない。何もできない。ただ一人限りない空虚の中で眠り続ける。そんな時間だった。
しかし裕太はその空間から脱出した。
裕太の脳裏にある一人の少女とあの完璧すぎる光景が浮かぶ。
彼女は僕を引き上げた。ならば僕にいまできることは。
地平の彼方に小さな何かが姿をあらわす。
膝を抱えてうずくまって。まるで在りし日の自分を見ているようだ。
そして今。
松葉裕太は垣根和馬の前に立った。




