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この世界に見つけるまで  作者: 黒野颯
主人と玩具
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第一王子という人


「来たなリエリア」


美しく柔らかな黒髪。どちらかと言うと王妃に似た澄んだ美しさを持つ顔立ちだが、そこに宿るのは王妃の蒼とは違った、血のように赤い瞳。

何より、肉食獣のように獲物を狩ることに興奮しているかのような笑みが、淑やかな印象の王妃とは違った妖しさを醸し出している。

長くスラっとした手足、所作はさすが王族といえる流麗さのため、その妖しさは美しさを高める要素になっているが。


彼こそが、ルーザス・フォン・アサランシア。アサランシア王国第一王子であり、近衛騎士としてのリエリアの主だ。



「殿下、ご機嫌麗しゅう」


「遅い。待ちくたびれたぞ。俺を待たせるとは、随分と偉くなったもんだな」


ニィっと口角が上がったと思った瞬間、その手はリエリアの髪をぐっと掴んで引き寄せた。

体勢が崩れて倒れそうになるのを、すんでのところで堪える。



アサランシア王国の女性は、貴族から庶民に至るまで皆髪を伸ばすのが風習だ。

だが女騎士は長い髪では動きづらい。そのため任務中は皆一つに括ったり、纏めたりなどの工夫をしている。


近衛騎士となった初日、リエリアも同じようにした。一つにまとめ、制服で着任したのだ。

だがその瞬間主から放たれたのは『次にそうしてまとめてきたら、まとめたその部分からその髪斬り落としてくれる』という言葉だった。


自分としては斬り落としてもらってもなんの問題もない、と思っているが、同僚たちがそれはまずいと強く反対するため、仕方なく勤務中もリエリアの髪はまとめることもなく背中に流れているのだが。

こうなるとやはり邪魔だな、と心の片隅で思う。


強く引っ張られたおかげで、銀の髪は簡単にぶちぶちと抜けてしまう。


その音に驚いた他の近衛騎士や、ルーザス付きの執事が慌てたように「殿下っ!」と叫ぶが、ルーザス自身はその声を気にかける風でもなく抜け落ちた毛を見遣った。



「フン…貴様の精神のように脆弱だな。しかも手に纏わりついて気持ち悪いことこの上ない」


「申し訳ございません」


「直々に罰してやろう。中へ入れ」



楽しげな笑い声を上げて、ルーザスは自分の執務室の中へ戻っていく。

乱れた髪を手で梳きながら体勢を立て直すと、心配そうに自分を見る同僚たちにペコリと頭を下げて部屋へ入った。

その背を、やるせない思いで同僚の騎士たちや、侍女たちが見送る。




彼らも分かっているのだ。

こんなのは間違っている。止めなくてはいけない。




だが逆らえない。

第一王子として強権を振るい、国王陛下に対しても臆することのない彼は、気の優しい第二王子や年の離れた第三王子に継承権を譲ることは絶対にないだろう。

とすれば、いずれ彼がこの国の王となる。


ましてや自分たちの立場は第一王子の近衛騎士隊や専属侍女である。

彼に物申すことは、主への反逆と取られてしまうだろう。部下からの諫言など、彼は認めないのだから。



パタン、と音を立てて扉が閉まる。

この奥で起こることを想像して体が震える。怒りが体中を渦巻いていくのを感じた。

その怒りを自分たちの体の中に何とか収めようと、彼らは互いを見合ってため息を付くしかなかった。




◆◆◆◆◆◆◆



「3日ぶり、か?」


「2日、です。殿下」



部屋に入り、執務机に腰掛けたルーザスが振り向きながら言う。

習慣でその机の前に立ったリエリアが思わず訂正すると、フン?と呟きながらピクリと眉が上がった。


部屋の中にいるのは、ルーザス専属の執事と書記官、それに恐らく打ち合わせに来ていたのだろう事務官が3人。

リエリア以外の全員がその様子にビクリと肩を揺らした。

ルーザスの言に逆らうことが何を意味するのか知っているらしい。惨劇の予感に、手が震えて止まらない。



リエリア自身もしまったとは思ったが、口に出てしまったものは仕方ない。

どうせ罰は罰として受けねばならないのだ。



「そもそも主を放って、顔も見せぬとはいい度胸だな?」


「申し訳ございません、我が主」



笑みを隠した不遜な態度で言われ、いつものように謝罪を口にする。

右手は胸の前に当て、騎士の礼を取って言うが、それが認められないことも彼女自身分かっている。




そもそもこれは意味のない問いかけなのだ。


現在リエリアに下っている命令の最も優先順位が高いものは、国王陛下から直々に命じられた「古代魔術の解明」である。

いくらルーザスが第一王子といえど、その順位を覆すことは出来ない。



そのため王命が下った当時、本来であればリエリアは王命に集中するため、近衛騎士としての任を解かれるはずだった。

だがそれを知ったルーザスが、どのような手を使ったかは今も不明だが、彼女の解任を阻止した。

その上で「任務時間を減らしてでも近衛騎士を解任させない」という国王の言葉を引き出したのだ。




結果として彼女は以前にも増して任務に就く時間は短くなったが、現在でも宮廷魔術師と近衛騎士の二足のわらじを履いたままになっている。



だが実際に任務に就く時間は極端に減少した。

今回は2日ぶりだが、長いときは1週間以上護衛任務に就かないこともある。

それを考えれば2日は短いほうなのだが、ルーザスにとってはそんなことは何の意味もないのだろう。







ただ、彼女を罰する理由さえあればいいのだから。


DV王子発進。

最初にこの話を書きたいと思ったのは、この王子のせいでした。

いやこういうタイプが好きなわけでは決してないのですけど。


そしてやっぱり恋愛要素なく進む恋愛小説。

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