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この世界に見つけるまで  作者: 黒野颯
リエリア・フォン・ラードゥス
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魔術

3つの強国と多くの小国がひしめくアラージュ大陸。

その中で最も歴史が古く、現在も残る国の中で最古の王国と言われるアサランシア王国。

新興国家と違い、古くからの歴史や伝統を今に引き継ぐその国に、彼女は生まれた。



古い血が今も脈々と受け継がれるせいか、他国では近年少なくなってきた魔力を持つ者も多いアサランシア。

それ故、国には宮廷魔術師の職が置かれ、今も魔術に関する研究や、それに付随する魔道具の開発も盛んだ。魔術師団として国内に発生する魔獣の討伐にも、騎士と共に参戦する。


だがそれでも時代の流れなのか、高等魔術を駆使できる程に魔力が強い者は年々減ってきていた。




そんな魔術師団の中で、彼女--リエリア・フォン・ラードゥスは異色と呼べる存在だ。



若干7歳で、その魔力の強さ故に宮廷魔術師団に引き取られ、高位魔術師の指名を受けた。高位魔術師は普段は王宮内に作られた研究院で、各々の特性を活かした研究を行う。

7歳という年齢ながら研究院に入ったリエリアは、入ってすぐに魔術式の改良を行ってみせた。


目の前で放たれた魔術を見て、一発で術式の中にある術式の無駄を指摘したのだ。



よほど魔力が高くない限り、術式を書かずに放たれた魔術の術式は見ることが出来ない。

少なくとも当時の魔術師団で同じことが出来るのは、総魔術師団長と研究師団長のみだった。


それを若干7歳の少女が軽々やってのけた。

彼女自身は記憶にないが、魔術師団の中では当時大きな騒ぎになったらしい。



だが当の本人は7歳。いくら力があっても大人をまとめていくことは出来ない。

本来であれば高位魔術師には2~3名の助手がつくが、年齢を考慮され当時から助手はつけられなかった。

それは現在に至るまで様々な理由で延長され、今も彼女の研究室は彼女一人しかいない。


稀代の魔術師と言われながら、魔獣討伐などの表に出ることもなく年齢的に役職にもつかない。

彼女と関わる魔術師もほぼいない。



そして別の理由も相まり、彼女は入団から10年が経った今も、異色なままだ。



◆◆◆◆◆◆◆




いつも通りの流れで研究院の中にある自分専用の研究室に入る。


昨日と全く同じ状態で置かれたままの紙と羽根ペン。

昨日は途中で呼び出しを受けたため、片付けもせずに立ち去ってしまったので、中は雑然としていた。

広げたままにしていたメモを一瞥し、床に腰を下ろした。


その足元には、チョークのような粉で書かれた文様が床いっぱいに描かれている。




古代魔術【ケヌリオ・オルトロス】

古代史の文献にしか残っていない魔術であり、その術式は長年失われていた。


それが見つかったのが2年前。

王国の南に位置するサーハス伯爵領にある火山の噴火で山肌の一部が崩れ、その奥から現れたのだ。



半年間は宮廷魔術師団の幹部の中で研究されていたが、誰一人としてその術式に書かれた文字さえ読み解くことが出来ず、最終的に術式を見ることに長けたリエリアの元へ舞い込んだ。


以来、毎日こうして一人、術式と向かい合っている。





魔術は、術式を元に発動する。

魔術とは別に魔法と呼ばれる、体内の魔力をそのまま使い何かの現象を引き起こす方法もあるが、これは一般的に魔道具を使用する際に使われる方法だ。

魔道具を使わず魔法を行使するためには、ごく繊細な魔力操作が必要となるため、現代では国内でも片手ほどの人数しか使うことが出来ない。



その点魔術は術式を知り、それを行使出来れば発動出来るため、使われるのは専らこちらである。


魔術を習得しようとするものはまず術式を習い、その術式に発動要件に見合った方法で魔力を流す。

それに成功すれば魔術は発動するのだが、毎回書くには術式はあまりに複雑で、あまりに効率が悪い。


だがそれも、幾度も術式での発動を繰り返す事で、術が体に馴染むようになると変わる。

馴染んでしまえば後は、術式を書かずとも発動出来るようになるのだ。ただし馴染むまでの回数は人それぞれで、1万回やっても馴染まぬものもいれば、1回で馴染んでしまう者もいる。



こればかりは、素質、魔力量、魔力の質、その他様々なものに左右されるため、やってみるしかないというのが実情だ。

ちなみにリエリアは、ほぼ全ての魔術を1度の発動で馴染ませてしまう。

これも彼女の異色さを際立たせている理由である。





だがそもそもの段階として、術式の意味と発動要件を知っていなければならないし、術式に見合った魔力を流せなければ発動しない。

魔力があっても量が少なかったり、質が悪ければ発動させることが出来ないのだ。





【ケヌリオ・オルトロス】は、未だその術式の意味も発動要件も分かっていない。というより、そもそもこの魔術が何に使われるものなのかも分からない。

これが分かったとしても、その後術式に見合う魔力を流せるものがいるかという問題もあるが。


何にせよ、まず前提をクリアしなければならない。








部屋に入ってから既に2時間以上座り込んだままだったリエリアが、息を吐いて立ち上がる。巨大な術式の端により、無言で手をかざした。


パタパタとローブがはためいて、ゆっくりとリエリアの掌に光が集まっていく。

その光に吸い込まれるように、文様の一部が浮き出してきたのを見てゆっくりと掌を返すと、光は緩やかに輝きを弱めて行った。


光が消えると、手には不思議なマークのようなものが3つ。




「闇、かな……こんな文字が多いな」



ポツリと呟くように言って、机に向かう。


掌の文様をじっと見つめてから、昨日のままになっていたメモに書き写していく。羽根ペンがかすれているが、書けない訳でもないし気にしない。

どうせまだ他の者が見てもわからない、自分のためだけのメモだ。



机の右端には、同じような用紙で書かれたメモが堆く積まれている。

術式の解明を命じられて以来、ずっと書き溜めているものだ。



「整合性が、取れない…共存、出来るもの…?」



誰に聞くわけでもなく、ポツリポツリと呟きながら何枚か前のメモを探る。


術式の書かれた文様の切れ目を探し、抜き出せる部分を抜き出し、意味を探り、書き写す。完全な集中の元でしか切れ目を見つけられず、見つけても簡単には引き剥がせない。

それでも術式の意味を知り、その術が何を引き起こすのかを知るためには、文様の象ったモノを知らなければならないのだ。辞める訳にも行かない。



だが1年以上それを繰り返して、彼女は徐々に混乱し始めていた。


初期に読み解いた文字の、対極ばかりが浮き出してきている。




「二重…?いや、もっと、かな……?」



術式を二重にし、絡ませることで同時発動させる。

たとえば有名な魔術では【エクスプロージョン】と呼ばれる魔術は、火と風の術式をそれぞれ書き、絡ませて1つの術式を構成する。

上級魔術の1つと呼ばれるため、術式は複雑でかつ発動要件も難解だ。


もしこれと同じような状態であれば、対極の術式を複数組み合わせていることも考えられる。



「でも、対極の術式は反発するし…絡ませるための術式も必要…」



メモを辿りながら、それに見合う文字がないかを探すが、今の所それは見当たらない。

もっとも、そもそもそれが見つかっていたら、現段階で既に複数術式だと気づいていただろうが。





再び机を離れ、床の文様の上に腰を下ろす。



「なかなか…応えてくれないね…」


この1年半、おそらく自分の一番近くにあるもの。

話しかけてくるわけではないが、自分が問いかけ、文様が答える。そんな問答を続けているような気になってくる。


助手もいない彼女にとって、この文様は今一番近くにいる相手なのだ。



表情一つ変えず、優しく文様をなぞる。

チョークで書かれているように見える文様だが、ただ手で触れただけでは変化はない。

これもまた、魔術で保護されているのである。



立ち上がり、文様が見渡せる位置に配置したソファへと腰をおろした。

もう頭に刻まれてしまったそれを眺める。


文様の中には術式に係る文字、発動要件に係る文字、魔術を示す図があるはずなのだが、そのどれもが文献にすら残らない文字のため、一見すると全てが謎の図に見えてしまのだ。

ちなみに彼女の前にこの文様を解明しようとした魔術師団の幹部たちは、どの部分が術式に係る文字なのかも判別することは出来なかった。



そういう意味では、彼女一人で解明はどんどん先へ進んでいると言える。







もう1度切れ目を探らなくてはいけない。


そう思って立ち上がったタイミングで、彼女はなにかに気づいたように入口の扉を見遣った。


お読みいただきありがとうございます。

魔術の説明がダラダラ続いて読みづらいですね。

かくいう自分も書いてて読みづらかったです。

魔術、難しい…。

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