プロローグ
初めての投稿です。
勢いで書き始めたので設定等途中で変更を加える可能性があります。
ご容赦ください。
笑い声がする。
はるか昔に消えてしまった人の声。
小さな手が、今しがた摘んだばかりの小花を差し出すと、差し出された相手が幸せそうに笑う。
青々と茂る芝生の香りも、寝転がるのに邪魔にならない程度に整えて植えられた花々の色も、飛び立つ鳥の羽音も、暖かな日差しさえも、こんなにもリアルなのに。
分かってる。これは夢だって。
分かってる。
◆◆◆◆◆◆◆
薄暗い部屋で、掛けていた布団をサッと払うと闇の中に一人の女性が浮かび上がった。
細い手足をぶかぶかの夜着に包んでいる。身長はそんなに高くない。
背中まで流れる髪はストレートで、締め切ったはずのカーテンからほんの少し漏れる光に反射する銀色。
あくび一つすることなく、表情は変わらない。
音もなく立ち上がると、流れるような動きで部屋の奥にあるクローゼットへ向かった。
バサッと音を立ててそれまで着ていた夜着を脱ぎ捨てると、クローゼットから取り出した制服とローブに袖を通す。
宮廷魔術師の中でも高位の魔術師であることを示す濃紺に金糸の刺繍。
歩いて10分もかからない職場に出向くのに、毎回ローブを羽織らなければならない理由は、正直分からない。
でも顔をすっぽりと隠してしまえるフードは便利だなと思い、ため息をついた。
クローゼットに入っているもう1つの制服は、顔を隠すなど言語道断とも言えるものだから。
今日はこちらの出番はない。
ほっとしたよう気もしたが、それが何故なのかは考えなかった。考えても無駄なのだ。
いつも通り、静かに扉を閉めてから、ふと脳裏に浮かんだのは夢の中で笑っていた人達。
そしてその顔に問いかける。
いつまで、探せばいいのだろうかと。