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第九十四話 領主様への報告

 馬車はとてもスムーズに進ませることができ、途中で昼休憩をはさんで夕方になる頃には、久し振りにリンカスターを守る大きな壁が見えてきた。


「久し振りにリンカスターに戻ってきたのだな。ずっとこの街から出ることはないと思っていたから、どこか違う街へ行ってみたいと思っていたものだが、しばらく街を離れてみると寂しく思うものだな」


「クロエが育った街だし、孤児院のみんなもいるからね。故郷ってそんなもんだと思うよ」


 そういう僕だって何度も元居た場所に戻りたいと思っている。アストラルで出会った人達と別れるのはとても寂しいことだけど、元居た世界にも大事な人たちは多くいるんだ。


「ハルトは元の世界に戻れるようになったら、やはり戻ってしまうのだよな」


「それはやっぱりそうだね。僕の生きてきた世界はここではないし、待ってくれているかわからないけど家族や親友もいるからね」


「ベリちゃんも寂しがるぞ。きっと泣いてしまう」


「えっ、ベリルはパパのいく場所について行くの。ママも一緒だよ」


「わ、私も一緒なのか……。そ、その一応聞くが、それはそれで構わないのか?」


「僕はもちろん構わないのだけど、周りがどう思うかはちょっと心配かな。アストラルと違って文明の発達した世界だから、いろいろと嫌な思いをするかもしれないよ。あと、ベリちゃんがドラゴンだと判明したら大変なことになるのはどの世界でも一緒だろうね」


「ハルトは、そ、その、迷惑ではないのか?」


「全然。そもそも元に戻れるのかわからないけど、二人がその時に来てくれるというのなら僕は大歓迎だし、最大限助けになりたいと思ってるよ。クロエがこの世界で僕を助けてくれたようにね」


「助けてくれたのはお互い様だろう。私はニーズヘッグに殺されるところだったのだからな」


「じゃあベリルはパパとママとずっと一緒にいるね!」


「そうだね。ベリちゃんが嫌になるまでずーっと一緒だよ」


「ぶぅー。ベリル嫌にならないの!」


「そうだね。ごめんベリちゃん。ずっと一緒にいられるように領主様にしっかりお願いしないとね」


 馬車を門近くのケオーラ商会に預けると、そこでベネットと合流した。どうやらベネットはリンカスターでの勤務が正式に決まったようでとても喜んでいた。


「さっき、マリエールとも会ってきたんだけど、(かしこ)茶とリンカスタービールがすごいことになっているようだよ。領主様からも話があるだろうけど住み込み家付きの工場を建てるようですね」


「それで、街の周りに形成されていたスラム街が縮小していたのだな。既に動き始めているということだな」


「工場の建設工事に人手は必要だし、工場が出来たら生産ラインに人が必要になりますからね」


 領主様にはかなりの恩を売れていることは間違いない。あとはベリちゃんのことをしっかり交渉させてもらおう。


「ケオーラ商会と領主様との三者打ち合わせは僕たちの話し合いが終わってからだと思うから少し待っててもらうことになると思いますけどいいですか」


「はい、もちろんです。商会として出来ることや提案など、しっかり頭の中で整理しておきます」


 大きな広場を抜けて領主様のお屋敷を目指して歩いていくと、なんとなく街全体に活気が出ているように感じられた。広場では屋台で売られているボア肉料理はもちろん、リンカスタービールや賢茶も売られておりかなり盛況だった。もうすぐ夕食の時間帯になるのでもっと人が増えてくるのだろう。もう少ししたら干物も届くようになる。肉食中心だったリンカスターの食文化は一気に多様化していくだろう。


「お疲れ様です。お待ちしておりましたハルト様、賢者様、ベリル様、そしてベネット様」


 いつもの門番さんが入り口で出迎えてくれた。ベネットはしばらく控室で待機となるのでここからは別行動となる。僕たちは執事さんが応接室へと案内してくれた。領主様と会うのも久し振りだな。


「領主様、お連れいたしました」


「はい、どうぞ入ってください」


「ご無沙汰しております領主様。改めてご紹介いたします、こちらがホワイトドラゴンのベリルです。ベリちゃん、領主様にご挨拶は?」


「ベ、ベリルなの……」


 僕とクロエの後ろに隠れながら人見知りを発現しているベリちゃん。こういう所は小さい時からなかなか変わらないものなのかもしれない。


「その子がベリルですか!? ドラゴンはヒト型に姿を変えられるのですね……これは驚きました。よろしくお願いしますベリルちゃん」


「先にヴイーヴルから預かっております手紙をお渡しいたしますのでご覧ください」


「うん、そうだね。ハルト殿はホワイトドラゴンのベリルと言ったね。つまり無事に成体に成長できたということなのでしょう。どれどれ……」


 何度も手紙を繰り返し見返すようにして頷きながらじっくり理解を深めているように思える。領主としてかなり大事な局面であるはずなので当たり前と言えば当たり前だ。


「最初に僕からの提案を聞いてもらいたいと思う。もちろんすぐに返事を求めてはいないし、三人でじっくり考えてもらいたいと思う」

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