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第九十三話 リンカスターへ戻ろう

 朝目覚めると隣には涎を垂らしたベリちゃんがクロエの首筋に頭をうずめて寝ていた。何ともいえない幸せな光景だなと思ってしまった。

 どうやらクロエも起きているようだったがベリちゃんを起こさないようにじっとしているらしい。


「おはよう、ハルト」


「うん、おはようクロエ。身動きがとれなそうだね。水とタオルを持ってくるよ」


「あぁ、すまないな。助かる」


 昨日教えてもらった庭にある井戸にいって水を汲みにいく。今朝は朝から気温が高いようだ。今日は暑くなりそうだな……。光を全身に浴びて深呼吸をしながら背を伸ばす。


 井戸は汲み上げ式になっており、手押しするタイプのものが設置されている。出てくる水はとても冷たくて顔を洗うと一気に覚醒していく。

 どうやら井戸を使っている音で神官さんが僕に気づいたようでタオルを持ってきてくれた。


「おはようございます。着替えは昨日洗濯したものを部屋の前に置いておきました。朝食の準備も整っておりますので準備ができましたらお越しください」


「あ、ありがとうございます」



 部屋に戻ると寝ているベリちゃんを抱っこしながらベッドに座っているクロエがいた。


「ハルトが部屋を出てから一度目を覚ましたのだがな、また寝てしまったのだ」


 ベリちゃん気持ち良さそうに二度寝されている。しょうがない、僕が預かろう。


「クロエ、ベリちゃんを預かるから準備しておいでよ。朝食の準備は出来てるって」


「このままでは確かに身仕度ができぬな。ではベリちゃんを頼む」


 ベリちゃんを抱っこすると、そのぬくもりで僕までまた寝てしまいそうになる。落ちないようにしっかりと掴んでくるので安心と言えば安心だ。魔法使いなら背中におんぶして戦うことも出来そうな気がする。


 それにしても寝相が悪かったのだろう。ベリちゃんの髪の毛が凄いことになっている。水で濡らしてあげてクロエに櫛を借りないとね。


 その後、戻ってきたクロエと濡れたタオルで髪を拭いながら櫛を通してあげる頃には、ようやく目を覚ましたようでまだ眠い目を擦りながら再び抱っこをせがんでくる。服を着替えさせてあげるとすぐにまた僕に抱きついてきた。可愛いな、おい。


「そろそろ、朝食の場所へ行こう。井戸でアリエスに会ったのだが、彼女ももうすぐしたら来るだろう」


「そうだね。ベリちゃんも食事の匂いで目を覚ますかな?」


「起きるとは思うが、そのまま寝ているようだったら果物を少し詰めてもらおうか」


 とまぁ、そんな心配をしていたのだが席に着くと元気に果物にかぶりつきながら手や口の周りをベトベトにしていた。


「うまぁー! うまぁーなの! とっても甘いの!」


 やはり柑橘系の果物は苦手なようだが、甘いものは大好きなようだ。朝食に干物の焼き魚も出されていたのだが見向きもしないので、ドラゴンの時の好物がそのまま反映されているのだろう。朝食は僕とクロエがベリちゃんの手や口を拭いたり、果物を剥いてあげたりと割と子育てが大変だ。ドラゴンの時は割かし自分でやっていた気もするのだが……。


「ベリルはヒト型にまだ慣れていないというのもありますが、おそらく二人に甘えているのですよ。時間が経てば少しは落ち着くでしょう」


「そういうものですか?」


「なんとなく意思疎通が取れていたとはいえ、今まで会話できるのが私しかいなかったのです。親と慕う二人とやっと会話が出来るようになり、とにかくいろいろ話がしたくてしょうがないのですよ。距離が近くなって嬉しくて甘えているのです」


 俯き気味に、少し恥ずかしそうに照れているベリちゃんがいるので図星なのだろう。横を見るとクロエと目が合ったが、しばらくは十分に甘えさせてあげてもいいかなと思った。おそらくクロエも同じ気持ちだろう。


「それでは僕たちはそろそろリンカスターへ向かおうと思います」


「何かあったらすぐに相談してくださいね。馬車の用意もできていますよ」


 ヴイーヴルが空の旅で送りましょうかと言われたので丁重にお断りしたところ、カイラルで使っていた時の馬車を餞別だといって頂けることになったのだ。まだ乗り合いの馬車も少ないのでとても助かる。リンカスターまでも結構な距離があるからね。


「私はしばらく神殿から出れなそうだから、ちゃんと遊びに来なさいよ。ベリちゃんに美味しい果物を大量に用意しておくわ」


「行くー!! アリエスに会いにすぐに戻ってくるの!」


「私もベリちゃんに早く会えることを楽しみにしているわ」


「ハルト君、道中は気をつけてくださいね。君たち三人ならどんな相手でも余程のことがない限り大丈夫だとは思いますが油断は禁物ですよ」


「はい、もちろんです。それではまた近いうちにお会いしましょう」


 神殿の入り口近くに停めてある馬車に乗り込むと僕は手綱を取り、リンカスターへと向けて馬車を動かした。リンカスターでは領主様へベリちゃんの報告をして、それからケオーラ商会のベネットを含めた三者間での商談の打ち合わせを予定している。少しでもよい話になるように馬車の中でクロエともじっくり話し合っておこう。どちらも僕たちの将来にかかわる大事な話し合いになるのだからね。

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