第九十一話 変身
しかしながら、僕はもっと知りたいことがある。何故こちらの世界に飛ばされてしまったのか、アストラルにおける僕の役割は他にも何かあるのではないか? 元の世界には戻れるのだろうか? それらの知りたい情報を得る為には、見聞を広げたいし僕自身がもっと強くなる必要がある。
この世界はとても残酷だ。力がなければ簡単に死んでしまう。既に短期間で2回ほど死んでいるだけに我ながら説得力のある発言だ。
『冒険の書』があるとはいえ、セーブ箇所には注意を払いたい。僕が絶対にやってはならないのが、どのセーブポイントから始めても死を免れない状況に陥ることだ。死を繰り返すことは精神的にもおかしくなるだろう。そうなった時がきっと僕のゲームオーバーになる。
ハープナに到着して竜の間に入るとヒト型のヴイーヴルが待っていた。相変わらず厳かな雰囲気の大きな広間である。最初はドラゴンの姿で会ったからそこまで広く感じなかったけどヒト型で会うには広すぎるよね。これ勇者を待ち構える魔王城最終ステージぐらいの広さじゃないかな。見たことないけどさ。
「みなさんお久し振りですね。ついにベリルが成体になったのですね」
「キュィ!」
得意顔でベリちゃんが返事をしている。そういえば、成体になっても今回は鳴き声は変わらなかったね。可愛らしいので構わないんだけどさ。
「それでヴイーヴルから見てベリちゃんはどうなのかな? アリエスからは問題無しって言われてるし、ステータスでも成体表示にはなってたからひとまず安心はしてるんだけどさ……」
「えぇ、問題ないですよ。ここから悪い方向へ成長することはないでしょう。このままホワイトドラゴンとして育っていくでしょう」
「よ、よかった……」
「うむ、ベリちゃんよかったな。あとは、今後のことについてか……」
今後のこと、クロエの言う通りだ。大事なのはこれからのことで、僕たちはまだ自由を勝ち取っていない。ヴイーヴルとアリエスのように基本的に街に居続けなければならないのか、それともドラゴンのいない街としてクロエとベリちゃんが自由に生活できるようになるのか。
「私の方からもリンカスターの領主にはベリルが何の問題もない善のドラゴンであることは手紙で伝えましょう。そうですね、あとはベリルを無碍に扱うことは同種の者として許すことは出来ないとの文言を入れておきましょうか。扱いに困るようならハープナで預かることも提案しておきます」
「そんなことはさせないよ」
「もちろんだ。ベリちゃんのことは、私達がしっかり守ってみせる」
「キュィ」
これから先の判断はリンカスターのベルナールさん。いや、おそらくだけどベルナールさんの具申を聞いた国王様の判断になるのだろう。ドラゴンとその対応を任された賢者のことを一領主で判断できるはずもない。
「なんだか寂しくなるわね。まぁ、すぐに遊びに行くんだけど」
「ハルト君、困ったことがあったら私を頼ってくださいね。普通の魔物相手なら負けませんから」
普通の魔物ならってのがローランドさんらしい。ローランドさんの強さはこの身をもって知っている。リンカスターに来た時にはいろいろと相談に乗ってもらおう。僕ももう少し強くなりたい。
「アリエスは舞の練習をやっておかないと不味いのではないか」
そういえば、アリエスの舞ってる姿とか見たことないぞ。サボっていたな。
「そうですね。どうやら練習をしていなかったようなので、しばらくは外出の許可を出せそうにありません」
「ちょっ、ヴイーヴル!」
「だったら、私達が遊びに来よう。ハープナは神殿の中しか見ていないのでな。次に来る時ははゆっくりと街を見てみたい」
「そうね。約束よクロエ」
「もちろんだ。ベリちゃんだってみんなに会いたくなるだろうからな」
「キューィ」
「あっ、そうだ! ヴイーヴルに聞きたいことがあったんだ。ベリちゃんのことなんだけど、成体になったってことはヴイーヴルのようにヒト型に変身とか出来るようになるのかな?」
「そうですね。私の場合は気づいたら変身出来るようになっていたので、よくはわからないのですが……ベリルは出来そうですか?」
「……キュィ」
「そうなのですか? 試したことは?」
「キュィ、キューィ」
「なるほど。ならば今ここで試してみたらどうですか?」
しばらく考えるような仕草をすると少し体を震わせるようにして魔力を高めているように見える。見た目にはトイレを踏んばっているかのように、可愛らしくお尻をフリフリさせている。
可愛らしいダンスだなぁと思いながら見ていたら、次の瞬間ベリちゃんの姿がヒト型へとチェンジしていた。そして驚いたことに言葉を発したのだった。
「パパぁー」
白髪碧目の幼女がブルーのふわっふわなドレスを着ている。トテトテとおぼつかない足どりで走ってくると躓いてそのまま僕に抱き着いてきた。
「ベリちゃん?」
「うん! やっとパパとお話できたの!」
「すごいね。ちゃんと変身できたんだね」
「やったことなかったんだけど、頑張ってみたらできたの!」
褒めて褒めてと言わんばかりに頭を擦りつけてくる。この仕草は確かにベリちゃんで間違いなさそうだ。ベリちゃん女の子だったのか。
「あっ、ママぁー」
隣にいるクロエにも突進していくと、その胸に飛び込んでいった。クロエの顔が見た目にもわかりやすくデレデレになっていた。
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